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テレビは初めてですか

「こんな時って、人間界では感謝の気持ちを込めて、何か御馳走してくれたりするよね。あっ、そうだ。実技講習の間は、僕もここに住んじゃおかな」

 嫌がらせか。

 チスイウサギの丸焼きとデス・イン・ジ・アフタヌーンが目当てか。

 出て来るまで帰らない気か。


「これはどうも気が付きませんで、直ぐに宴の用意をいたしますので、今しばらくお待ちください」

 エポナさんがウサギをオーブンに放り込み、足で蓋を閉じる。

「先にカクテルをどうぞ」

 しずちゃんが急いで作ったデス・イン・ジ・アフタヌーンを、一口で飲み干す黄麒麟さん。

「おかわり、いつ飲んでも君のカクテルは美味しいねー。エポナさーん、慌てなくていいからねー。なんだか催促したみたいで気が引けるなー」

 あからさまに催促したろ。


 御馳走らしき食物を出されている黄麒麟さんは気づいていない。

 さっきからエポナさんが作っているのは、ウサギの丸焼き以外全部余り物の寄せ集めだ。

 正月料理の残り物なんかが混じっている。

 盛り付けが綺麗だからか、一見とても豪華なオードブルの様に仕上げてある。

「黄麒麟さん、この世界は地球とくっついてますよね」

 どうしても納得できない事が多すぎるこの世界。

 理解するのには、創造主に聞くのが一番手っ取り早い。

「くっついてるね」

「なのに、所在地は不明とか言ってますけど、どうしてですか」

「それはね。宇宙から見ると、この世界は見えないんだよ。地球だけが見えているんだ」

「へー、見えないんだ。地球にくっついているんだから、地球の科学をもっと取り入れようとは思わないの。けっこう不便な事あると思うの。例えばテレビとかネットとか」

「んー、魔法の使えない人間には科学が必要なんだろうけど、この世界というか、他の世界には当たり前に魔法があるからね。無理して科学を手に入れなくてもいいんだ。それに、科学は諸刃の剣。便利と裏腹に危険がつきものだろ。どこの世界もあまり推奨してないよ」

 話ながらチスイウサギのモモを、骨ごとバリバリかみ砕いている。

 科学の話もそうだけど、丈夫な歯と胃袋。

 んー、うらやましいような、残念な様な。


「ねえねえ、地球のカフェは黄麒麟さんのだよね。あそこからこっちの世界に電線を何本か引いても大丈夫かな」

「向こうとこっちの世界に穴を空ける事になるから難しいけど、常に穴と電線の隙間を塞いでいられるなら大丈夫だよ」

「隙間を塞ぐ魔法ってありますか」

「あるよ」

「教えてください」

「電線なんか引っ張って何する気」

「できてからのお楽しみ」

 この後、黄麒麟さんに連れて行ってもらい、カフェのアンテナとインターネットからケーブルを引いて、裏の空地にその先を埋めた。

 この埋めた電線の先を博物館の世界で取り出し、隙間をしっかり塞ぐ。

 このケーブルから出ている信号を、私のクローゼットに送る魔法をかければ、インターネットとテレビの開通。


「うっわ、面白いねテレビって」

 黄麒麟さんが感激している。

 地球の店でテレビ見てなかったのかなー。

「でしょう、もっと面白い番組も沢山ありますよ」

「へー、こっちの世界でもテレビ局作ろうかな」

 金持ってる奴の考えそうな事だ。

 私はとりあえず、ネットで地球の近況をとやってみた。

 でも、この世界に着た時から情報画像が動いていない。

 やはりインターネットは無理かなー。

 テレビを見ている黄麒麟さんは、カクテルを出されるとすぐに一気飲みしてしまう。

 酷く酔った風でもなく、楽しそうにしているので彼の事は心配しない。

 ただ、研修期間中に飲む分として、私が持ってきたお酒が底をつきそうな勢い。 

 ハラハラドキドキしてしまう。


「黄麒麟様、お好みのお酒が切れそうですが、いかがなされますか」

 私達が飲むだけならまだ在庫は十分だと思うけど、先を見越したしずちゃんが黄麒麟さんを抑制しようと試みているようだ。

「もうないの。ズボラ呼んでー」

 子供の無い物強請りみたいのが始まった。

「ズボラって、誰ですか」

 オーブンから七面鳥を取り出しているエポナさんに聞いてみる。

「館長の事ですわ。本当はズーボラさんなのですけど、黄麒麟様はああやって御呼びになりますの」

「まあまあ、夜中ですから。それにここは魔界の森ですから」

 しずちゃんがなだめる。

「でもねー、お酒がないと寂しいよね。やっぱ呼んじゃう」

 黄麒麟さんが立ち上がったかと思うと、大きな声で呪文を唱え始めた。

「我は願う。親愛なる同友ズーボラよ、この身を振るわしたる美酒を抱きて、今ここに舞い降りてまいられよ」

 言い終わると同時に、ズーボラさんが大きな酒樽を抱えて現れた。

「仰せのとおり、ラムの大樽を抱え馳せ参じましてございます」

 館長って、こんな事もやらされてたのか。

 ゴルフばっかりやっている御気楽極楽人生だと思ってたけど、それなりに裏では苦労してるのね。


「ズボラも一緒に飲もう、今日は無礼講。これから先の事も決めておきたいしさ」

 無礼講ってね。

 お前が一番無礼しているし、無礼講で無礼して会社首になった奴、何人も知ってる。

「ちょっと失礼いたしますわね」

 こう言うと、ボーガンを持ったエポナさんがサッササッサ外に出ていく。

「あれっ、エポナさん、ウサギ狩りに行ったのかな。僕も手伝っちゃおうかな。ズボラ君はここで下地つくっていてね」

「はい、かしこまりました」

 外は真っ暗なのに、何処でウサギを狩るんだろう。

 ちょっと興味あるけど、魔物がうじゃうじゃ居そうな森に出ていく気にはなれない。 

「あの二人できてんじゃないの」

 しずちゃんがズーボラさんに無理な質問をしてからかっている。

「夜中に魔界の森って、危険なんじゃないですか」

「大丈夫よ、黄麒麟様は不死身だから。殺しても死なないわ」

 しずちゃん言いたい放題。少し酔ってますか。


 外では先ほどから、右へ左へ閃光が走っている。

 時々、爆発の炎も立ち上ったりしちゃって。

 ボーガンでの狩りではなかったのか。

 まるで質素な花火大会のようになっている。

 恐ろしい速さで、下処理済みのチスイウサギを十羽ほどぶら下げて入って来たエポナさん。

 白い前掛けが血だらけになっている。

 唖然と見ているのは私だけ。

 他の二人は拍手喝采。

「御見苦しいでしょう。着替えてまいりますわね」

 エポナさんが二階に上がっていく。

「いっやー、まいったね。鳥のくせに夜目が効くんだね。ロック鳥の奴もチスイウサギ目当てでさー。もー、チスイウサギの奪い合い。ついでだからロック鳥も狩っちゃったよねー」

 こんな短時間で、鳥まで狩ったんかい。

 恐ろしい連中だ。

 敵にはしたくない。


「焼き鳥食べる? 食べるなら解体するけど。あっ、それから、チスイウサギいっぱい獲ったから、後で要る分だけ仕舞っておいて。残りはヘルへのお土産にするから」

「ヘルって、魔界の女王のヘルさんですか」

「そうそう。あっ、なっちゃんは一度会ってるんだよね。元々は地獄の支配者だったんだけどさ、僕がスカウトして、ここで魔界の女王やってもらってるのよ」

 ほー、それはそれは。

 あの人って、恐ろしい人だったのね。

「彼女の兄弟は皆チスイウサギが大好きでさ、お兄ちゃんのフェンリル君なんか一羽を一口だよ。驚いちゃうよね」

 いいえ、あなたも二・三口で骨ごとバリバリ食べてました。

 たいして驚きません。


 着替えを終えたエポナさんが二階から降りてくる。

「お待たせ。すぐに調理いたしますからね」

 せっせと料理に励むエポナさんに、ズーボラさんが声をかける。

「すいませんね。突然お邪魔したのに、こんなにおもてなしいただいて。ありがとう御座います」

 この人、少しは礼儀をわきまえている。




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