はい、魔法のお勉強しましょうね
「今日からは魔法学ですよ。これは実技とも深い関係があるので、しっかり覚えてくださいね」
「はーい」
「宇宙史でも出てきましたが、実体のない物質と実体のないエネルギー。ここでは便宜上、暗黒物質と暗黒エネルギーと表現します。実体がないという表現ですと、理解に苦しむようですから」
見透かされているようだ。何か嫌な気分。
「暗黒物質と暗黒エネルギーを総称して、私達は魔素と呼んでいます。文字どうり魔法の素ですね」
「先生、その二つをシャカシャカすると魔法になるんですか?」
「はい、正解。簡単に言うとそうなります。暗黒物質を暗黒エネルギーで変異させて、実体化するのが魔法です。ただし、誰でもこの魔法が使える訳ではありません。奈都姫さんは地球人ですから、魔法使いについてよくご存じでしょう」
「知っているのは、そんな人は居ないと言う事だけですけど」
「そうですね。地球に魔法使いはいません。ただ一人の例外を除くの但し書きがつきますけれども、何故だかわかりますか」
「ファンタジーだからでーす」
「違いましたね。正解は、魔力を持っていないからです」
「魔力?」
「はい。魔力がないと、魔素を操れないのです」
「へー」
「今日は特別に実技の予習と言う事で、簡単な魔法をお教えしますわね」
エポナさんが私に魔法を‥‥。
「先生! 私、魔力がない地球人なので、魔法は使えないです」
「先ほど私は、ただ一人の例外を除くと申し上げました。その例外が奈都姫様、貴方です」
はー? 私ってば、魔法の娘だったの‥‥信じないわよ。
まず、エポナさんが手本を見せてくれる。
「作る物や現象をイメージして、何でもいいですから唱えてください。何も言わなくてもいいのですが、気分が違ってきますので」
「気分ですか」
「ええ、魔法はメンタルと密接な関係にありますの。気分は大切ですわよ」
ワクワク、ワクワク。
どんな魔法を見せてくれるのか楽しみー。
クローゼットやガレージのような、とんでもアイテムを見てきている。
今更驚ける事があるだろうか。
「ファイヤーボーール‼」
出た、定番。
巨大な炎の球が、部屋の壁に当たって飛び散った。
危っぶねー。
「ねえー、なんだか面白そうな事してるわね」
しずちゃんが講習初日以来、二度目の教室入り。
「ちょっと魔法を披露していましたの」
「おー、魔法学の授業ねー」
「はい」
「では私も。ディープパープル!」
エポナさんと同じ火の玉が、やはり壁にぶち当たって飛び散った。
石造りの家で良かった。
本当に呪文は何でもいいのね。
では私も、手のひらを壁に向けて「ホイ」
一瞬で二人のより大きな五つの火球が、石の壁を破壊して破片がこちらまで飛んできた。
「危ないですね。人が周りに居る時は、何とか言ってからやってください」
二人がこちらを睨んでいる。
「ごめんなさい」
「ふっ、魔法学は終わりにしてよさそうですわね」
「そうですね。まさかここまでとは」
「学科はこのへんでもういいのでは有りません事」
「そうですね、閉じ込めて置きたくても、壁だけでなく結界まで破られてしまいましたから」
「えっ、しずちゃんの結界がこんな初級魔法で破られてしまったのですか」
「ええ、もう実技に入っても大丈夫でしょう」
こんな会話があったらしく、学科はこの日で終了した。
学科講習終了の証として、しずちゃんが指輪をくれた。
「これに質問すれば、今まで習った事、習ってない事、みーんな教えてくれるよ」
「魔法の呪文を唱えたり、魔法陣を描いたりする必要もありませんわよ」
試験も免除された。
学科講習。
必要なかった気がするのは、私だけだろうか。
学科講習が予定より十日も早く終わった。
長期休暇の始まりだ。
「休暇期間中の過ごし方だけど、実技の予習として初級から上級まで、できるだけ多くの魔法を伝授しようと考えていまーす」
しずちゃんが、大変よろしくない企画を提案してくれる。
せっかくの長期休暇が台無しだ。
「嫌でーす。お外で遊びたいです。それに、しずちゃんのお休みもなくなってしまいますよ」
「その点は問題なし。エポナさんと交代で教えるから。ムフフ」
なんて卑怯な連中なんだ。
「外で遊びたいとの御意見ですが、実技講習を全行程野外で行う事に決定しています。上の許可も取ってありますから、思う存分暴れまわれますよ」
別に暴れたいとは思っていないのよ。
陽の光を体いっぱいに浴びて、ピクニックとか、海水浴とか、サイクリングとか、キャンプとかやりたいの。
「各界の訓練施設を借りられるようにしたから、明日からは各界の施設内でのキャンプ生活ね」
しずちゃん、なかなか分っていらっしゃる。
褒めてつかわそう。
称賛の拍手をしていると、エポナさんが附け加える。
「キャンプではありますけれども、クローゼットやガレージの仕様は可能です。また、私が何時ものように奈都姫様の身の回りのお世話をさせていただきますので、不便は感じないかと」
ますますありがたい。
お気遣いに感謝であります。
翌日なのかこの日のうちにだったのか。
寝起きで外を見ると、奥深い森の中。
前には薄気味悪い洞窟がある。
ゲームでこんな場面を見た事がある。
アニメでも見た事がある。
「ダンジョン?‥‥」
「お目覚めですか。朝食の準備ができておりますので、外の景色を眺めながら皆で食べましょう」
エポナさんのサービスはいつものままだ。
しずちゃんもいつもと同じ。
ゴロゴロしながら部屋に入って来た。
「外の景色ですけど、此処って、何処」
「魔界の森」
エポナさんとしずちゃんが声を揃えて言う。
「ウサギさんとか鹿さんとか、リスさんとか小鳥さんがいて、綺麗なお花がいっぱい咲いている森ですか」
「魔界の森」
何度同じ質問をしても、返ってくる返事は同じだろう。
「どうして魔界から初めるんですか」
「違うわよ」
しずちゃんがちょっと嬉しい反論にでてくれるようだ。
「休暇期間中に魔法を覚えるにあたって、実際に対峙するであろう生物の特徴や弱点を、観察しながら訓練した方が分かりやすいでしょ。だからここなの」
違わないでしょ。
分かりやすくなくてもいいわ。
優しい返事を待っていた私が馬鹿だった。
「洞窟に入って行ったりしないですよね」
「当然。奈都姫さんにはまだ早い。それに、只で請け負う気もあーりません」
しずちゃんの言い草が、ちょっとだけ意味深に聞こえる。
入らないで観察。
ほっこり部屋の中で訓練なら問題なし。
外で安心して遊べないのは予定外だけど、命あっての物だねだよ。
暫く我慢するしかないね。
「あらあら、日中なのに珍しい。ウサギさんが出てきましたわ」
「えっ、ウサギ。見る見る」
フラフラしていて具合が悪そうだ。
「病気ですかね、助けられないんですか」
「絶対にダメー」
しずちゃんが薄情にもダメを協調する。
エポナさんが不思議そうにウサギを観察する。
「野兎病、ですかね」
「そう、広がってますね」
「洞窟の中だけならいいのですが」
二人が深刻な顔つきで話している。
「野兎病って、なんですか」
「ペストみたいなものですわ」
「奈都姫さんは、鑑定眼がないから分からないのね」
「とっても危険な病気ですわ。町まで広がらなければいいのですが」
「取りあず、この辺りに結界を張って閉じ込めるしかないですね」
物騒な話になってきた。
「奈都姫様には、取り急ぎ鑑定眼を覚えていただきましょう」
「そうね」




