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警察指導者にフェンリル?

「では皆様、よろしくお願いいたしまーす」

 エポナさんが逮捕劇開始の号令を出すと、リンちゃんがカット1と書かれたカチンコをパチンと鳴らす。

 記録映画でも作っているのか?


 要領は念獣の一斉捕獲と同じだけど、今回は関わっている連中の数が尋常じゃない。

 しっかりした警察組織がなかったこの国では、昔から軍も治安維持に関わってきていた。

 その頃からを含め、重要指名手配して獲り残している犯罪者の数は二千人超。

 これ等に加担した取り巻きまで入れると、優に一万人を超えてしまう。

 国の全人口から推し量るに、かなり治安が悪かったと言える数だ。

 今回逮捕しようとしているのは、国の存亡に関わる程の大罪を犯した連中で、既に最重要指名手配犯になっている。

 この族だけに絞っても、二百十三名が獲り漏れとなっている。


 犯罪者地図は潜伏位置を示しているものの、数が多過ぎて真っ赤な塊が何か所かに散らばっているだけ。

 今回逮捕すべき最重要指名手配犯の位置が特定できない。

「ティンクー、この地図って拡大できないのー」

 もっと詳細な地図がないと、何処を見ていいのか見当もつかない。

「やれるよー、ちょっと待っててねー」

 ヒュンと飛んで行って、寮の中から大きなシーツを持ってきた。

 この上に地図を乗せると、全体が拡大されてシーツいっぱいの地図に変わった。


「これで行けるかな」

「なんとかなりそうだわ。ありがとう」

 地図の方角を現状に合わせてから、現在位置に私が座る。

 赤い点の方に向いて千里眼と透視を使い、建物の中も含めた周囲を映し出す。

「居た、こいつ」

 ベルゼが、建物の中に隠れている最重要指名手配犯を指し示す。

「捕まえる連中の顔はぜーんぶ覚えているんだよ。誤認逮捕はありえないねー」と言うのを信じて、モイラが素早く結界に閉じ込める。

 急発進したティンクが警察隊に知らせると、最重要指名手配犯逮捕の報告がベルゼに届く。


 こんな作業をひたすら繰り返し続けていると、エポナさんの分身が、逮捕したばかりの最重要指名手配犯を囲った結界を運んできた。

 私達だけでは、今日中にやりきれないと判断したようだ。

 王城から官僚と魔導士の髭爺さんを呼んで、重要指名手配犯に間違いないか首実験を始めた。

 二重チェックで確定した者を、地獄送りの結界へと移動する。

 この間にルシファーは、逮捕しつくした地域の警察隊を軍へ復帰させている。

 庭ではエポナさんの分身が宴会の準備をしてるし、あっちこっちにエポナさんが出没している。

 本体がどれだか分からなくなってきた。


 エポナさんの応援があって、王城から官僚と髭爺さんも手伝いに来てくれた。

 おかげで、夕刻には二百十三名の最重要指名手配犯全てを逮捕し終えた。

 警察隊を解散して軍の管轄下へ戻せば、ルシファーとベルゼの仕事は完了する。

 慰労会の宴が始まる頃に、二人は無事引き継ぎを終えて寮に帰ってきた。

 明日になればモイラと私達は、麒麟界の博物館に帰る予定だ。

 手伝ってくれた官僚と髭爺さんも一緒に、慰労会は送別会へと変わっていった。

 思い返せば、随分と長い出張になったものだ。


「モノラ様がな、今回やりました警察組織を、これからも続けていきたいとおっしゃいましてな。わしらにはあまり縁のない取り組みみですので、どうしたものか思案してますのじゃが。誰か指導してくださる方はおりませんかのー」

 髭爺さんが、去ってしまう私達からの助成なしに、これからこの国を自立させようとしているモノラの苦労を語り始めた。

 長くなりそうだから手っ取り早く、地獄の番人をベルゼに呼び出してもらった。


「じっちゃん、こいつが地獄の番人じゃい。自分のマブダチで蝿騎士団の三銃士と言われていた姉ちゃんだから、何でも教わればいいっす」

 呼ばれて飛び出てジャカジャカやってるのは、地獄の番人に似つかわしくないイケ女。

 髭爺さんの鼻の下が、普段の三倍に伸びている。

「わし、これから一日に二回ばかり指導してもらいに行っていいかの」

「よろしくてよ、地獄をたっぷり味合わせてさしあげますわ」

 それ違うから、髭爺さん死んじゃうから。


「腐乱死ーぬ、囚人はどうしてるかなー」

 ベルゼが髭爺さんへの紹介もそこそこに、地獄送りにした囚人の様子をフランシーヌに尋ねている。

 それにしてもフランシーヌとは、ますます地獄の番人のイメージと離れていく。

「皆さん元気に苦しんでいますわよ。随分と甚振り甲斐のない方々を送ってくださいましたわねえ。私への嫌がらせですか?」

 ひがみ根性も、ここまでくると表彰ものだな。

「まだ未決囚なんだからー、拷問とかやったらダメッだっての。生かしておいてよ」

 普段なら刺しちゃえ切っちゃえ殺っちまえなんて平気で言ってるくせに、随分と良い悪魔ぶってるじゃないのベルゼ君。


「どうせ判決は串刺しか首切り・股裂きとか火炙りか狼の餌かなんかなのに、気遣ってあげる必要なんかありませんよ。今のうちに残虐刑に慣れ親しんでおいた方が、本人の為ではないでしょうか」

 顔に似合わず、しっかり地獄の番人してる。

「それもそうだなー。ルシファー様ならどうするっすか?」

 分からない事があったら何でも上司に振る。

 見上げたもんだよ屋根屋のふんどし、見下げたもんだよ地獄のベルゼ。

「僕だったら生かさず殺さず、絞れるだけ絞ってミイラみたいにしてから放置かなー。静かになって良いだろ」

 魔王様も悪ですなー。


 髭爺さんが官僚達と相談を始めた。

 フランシーヌの過激発言に、チビリバビリブーしてしまったようだ。

 このままでは警察の組織改革についての指導はもとより、地獄に送った囚人の身柄引き取りにも行かない。

「ベルゼー、貴方には悪魔じゃない知り合いは居ないの? フランシーヌに警察の指導は無理だよ」

 長い事生きているんだから、一人や二人の真人間を知っていてもよさそうなものだ。

「どういった現象かは解明出来てないんすけど、自分と出会う殆どの人間は極普通の堅気なんすよ。初対面の時に自分を見てビビッてくれて、それから仲良くなって、しばらくしてから悪魔に変身するんすよねー」

 それって、お前の影響大なんじゃねえ。


 このままでは、この国の先行きが不安だ。

 どこかに良い人材は居ないものか、探しあぐねいていると「私が手頃な方をご紹介できましてよ」エポナさんが希望の光を発してくれた。

「少々お待ちいただければ、ここに御呼びいたしますが、いかがいたしましょうか」

 官僚と髭爺さんに聞いている。

「よろしく御願いしますじゃ」

 全員して首を縦に激しくフリフリしている。


「ヨルムンガンド様、わたくしラビットホース・エポナがカイクノロス王国・私立異世界博物館職員寮で催されている宴にご招待いたしたく、ご連絡いたします。よろしかったらおいでくださいませんでしょうか」

 念話をスピーカーにして誰かをこの場に招待したけど「おおー、久しいのー」現れたのはフェンリル。

 久しくないわ。

「あら、フェンリル様も御一緒でしたか」

 エポナさんは、フェンリルが出てきても驚かない。

「愚弟は魔界のヘルに土産を置いたらば、すぐにこちらへ来るそうだ。今しばらく待たれよ。して、今日の宴の理由は何であるかの」

「私達の送別会ですわ」

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