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沖縄は雲が多いですが、晴れ間が出るでしょう。九州南部は断続的に雨が降りそうです。九州北部と中国、四国、近畿から東北は大体晴れますが、太平洋側では雨の降る所がありそうです。北海道は雲が多く、雨や雷雨の所があるでしょう。最高気温はきのうと同じか高く、平年より高くなりそうです。あすもお花見日和の所が多いですが、関東や東海は空模様の変化にご注意ください。


正午ごろから断続的に降り続いた雨はやがて雷雨になり、下校の時間帯には豪雨になるでしょう。Aさんは傘を持参し忘れたため、雨に打たれながら帰宅することになりそうです。生徒は自分の持ってきた傘を使用するか、友人の傘に入れてもらうことになるでしょうが、そういう友達もいなくなったことを割り切っているAさんは素直に雨の中を走って帰ることを選択するでしょう。彼女の気分はきのうと同じか更に暗く、平静を失っているようです。ですが、学校の玄関で靴を履き替え、外に出ることをしばらく躊躇していたところへ、Bさんが「…入れてあげよっか」と話しかけてくれます。

「…いいの?」「うん、いいよ。友達でしょ」「…ありがとう」

Bさんの傘は比較的小さかったため、二人をその傘の中に入れるためには体を寄せ合いながら歩くことになるでしょう。Aさんはその時に自分がBさんの至近距離にいることに悦びと苦しみを感じるでしょう。そしてしばらく沈黙した後、会話はいつもの通りBさんの方から始めることになりそうです。

「…ごめんね」「…何が?」「いや、なんか酷いことばっかり言っちゃって。なんかさ、知ってると思うんだけどさ、私ってあの小説とか読むの結構好きで、そういう時には評価が割と厳しめになるというか、たとえ自分の友達が書いたものであっても容赦なくこう…指摘したくなるというか、それでさ、この前はAさんにキツいことばっかり言っちゃって、それで傷つけちゃって、本当に申し訳ないなって今は思ってるんだけど、ごめんね」「別に気にしてないけど。むしろ自分の思ったままのことを言ってくれて嬉しかった」「でもAさんってさ、ただでさえ今はなんか一部の人たちから馬鹿にされちゃってるのにさ、そこで更に批判したら追い討ちみたいになっちゃうかなって…Aさんがさ、あの時にああいうこと言ったのもきっと精神的に辛かったからだろうし」「そう、むしろ謝るのは私の方だから。あの時は色々と辛かったからAさんに当たっちゃって変なことばっかり言って、ずっと謝りたかったんだけど、ごめん」「謝らなくていいよ、Aさんの気持ちは十分分かるから。私も辛い時はなんか人に当たりたくなっちゃったりするし、そうだよね、当たっただけなんだよね」「うん」「…私さ、あの…ううん、なんでもない」「何?」「いや、あの…なんというか…言葉にはしづらいけど…短絡的に言うなら、短絡的って表現合ってるか分からないけど、私はさ、私は…Aさんに嫌われたくなかったんだよね」「…別に嫌ってなんかないけど」「なんか、あの…私さ、そういう風に見えないかもしれないけど、自分のことがさ、あの…あんまり好きじゃないんだよね。だからあの…ずっとAさんみたいになりたいと思ってたというか、だから…あの…嫌われたくなかったんだよね、なんて言ったらいいか分からないけど、ごめん、なんか、いい言葉が思いつかないけど」「…」「とにかくあの…ずっと憧れてたし友達だと思ってたから、なんかさ、私がああいうこと言ったせいで嫌われちゃったかなって思って…そう思ってずっと辛かった」「嫌ってなんかないよ。私は今でも友達だと思ってるし、ずっとどうにかして仲直りしたくて苦しかった。そっちはどう思ってるか分からないけど」「私も友達だと思ってるよ、Aさんのこと、友達っていうかなんというか…あの…明瞭に言えないけど、でも大切な人だから力になってあげたいと思ってた。小学生の頃からずっと知り合いでさ、あの、Aさんと一番仲がいいのは私だと思ってたから、だから私が何を思っていてもAさんには伝わらないっていうか、Aさんにとっては私も否定する対象になってるみたいで、そういう風になって…辛かった」「そっか、ありがとう。それだけでも十分嬉しい」「…本当はさ、ああいうこと言ったのってさ、小説読むのが好きとかそれだけの理由じゃなかったんだよね。それももちろんあるけど、なんというか…あの…ううん、やっぱりやめとく」「言っていいよ、何言われても受け入れるから」「じゃあ言うけど…あの、Aさんに憧れてるって私が言った時にさ、Aさん自身は嘘だと思ったのかもしれないけどさ、でもあれは本心で、本当に小学生の頃からずっと憧れてたし…ちょっと性格が面倒なところもあるけどクールだし頭も良くてカッコいいなって、でもAさんみたいにはなれないと思ってたし、言い方は悪いけどちょっと、嫉妬、みたいなのもあったし、そんな人だったから、ある意味というか、あの、許せなかったんだよね。私が今まで憧れてた人がさ、自分を卑下して…才能のある人が自分を卑下するのが、ずっと憧れてきたのにそういう私の気持ちも知らないでさ、ああいうこと言ってるのが、それが許せなかった。自己中だよね、私、そんな理由で傷つけちゃって」「全然自己中じゃないしむしろ嬉しいよ。私は…そういう風に思われてただけで嬉しい」「…とにかくAさんはさ、自分で思ってるより何倍もすごいんだよ。それは私が一番分かってる、あの学校でAさんのことを一番分かってるのは私だから。保証するよ、だからもっと自分に自信を持って」「でも…自信なんか持てない。そんなに大した人間じゃないのは、自分のことは自分が一番分かるから。でもBさんがそう言ってくれるなら、そう言ってくれるだけで私は私の存在意義を認められる、だって…だって私は…私も…」Aさんは立ち止まります。「私も…ずっと…ずっとBさんに憧れてたから」「…そうだったの?」「うん。Bさんが私に憧れてたのと同じように、私もBさんみたいになりたいと思ってて、でもそうはなれないと思ってた」「そっか…嬉しいな、そんな風に思ってくれて。でも私こそそんなに大した人間じゃないんだよ。優等生って言われるけどそんなに優等生でもないし、実は性格もちょっと悪いし、スポーツだって全然できないんだよ」「知ってる、それくらい…その上で憧れてたんだから」「じゃあ…じゃあさ、逆にどこに憧れてたの?」「それは…答えになってるか分からないけど…Bさんの全て」「全て?」「ダメなところも良いところも全部、あなたという人自体が憧れだった。私には決してなれない存在、それでいて一番親しくて、なんというか…言葉にしづらいけど」「…私そのものを見ててくれたんだね、Aさんは」「…まあそうかな」「そっか、それが一番嬉しい」

二人はまた歩き出し、やがてAさんの居住するマンションの前についてそろそろ別れることになるでしょう。「もうちょっと話そうよ、マンションの中のさ、屋根のあるところとかで」「いいよ」「…こうして話すとさ、Aさんも私と同じ人間だったんだなって…当たり前だけどさ、そう思える」「そう、それで私に幻滅しちゃった?」「しないよそんなこと、なんというか…Aさんともっと仲良くなりたいなって、よくあるさ、表層上の関係性で関わってるようなあれじゃない、本当の友達になれたらいいなって、そんな風に思う」「そう、私もそんな関係になりたいけど…でも私はBさんの中でずっと憧れの人であり続けたかったから、今はもうそんなこと無理だろうしそこがちょっと残念かも」「でもさ、ただの憧れじゃなくてお互いを理解し合えた方がさ、もっと仲良くなれるんじゃないかなって、そう思うよ、私は。私はAさんともっと仲良くなりたいし」「ありがとう、そう言ってくれて。もし私の存在意義がなくなって世界の全ての人から敵視されてゴミのように扱われたとしても、Aさんがずっと友達でいてくれるなら私は生きていられる気がする。あなたさえいてくれればどんな責め苦だって耐えられる」「ちょっと、大袈裟だよ、Aさんがそんな状況に置かれるわけないじゃん。だってAさんは自分が思ってるより何倍もすごいんだから」「そうだね、そう思っていたい、私は」「まあ私はずっとAさんの味方だから。何があっても守ってあげるよ。だからAさんも辛いことがあったらいつでも相談して、私にできることだったらなんでもする」「…分かった。ありがとう」「よろしく」「…あのさ」「何?」「あの…Bさんも、なんか嫌なこととかあったら、相談して…くれるかな、私に」「もちろん、私も自分一人じゃどうしようもないこととか嫌なこととかあったらいつでも相談するよ」「ありがとう」「その時はよろしく。あっ、ヤバい、4時じゃんもう」「ああ、Bさん塾あるんだっけ、もうすぐ」「うん。本当はもっと話したいけどサボるわけにもいかないしそろそろ帰るね」「やっぱり優等生だね、そういうとこ」「まあ流石にサボると怒られるからね、私家が貧乏だからさ、その中で捻出した金を使って塾とか習い事に行かせてやってるんだから絶対サボるなって親にきつく言われちゃってるんだよ」「そっか、そうだったよね。それじゃ仕方ないかな」「ごめんね、本当に」「別にいいよ」「ごめん、また明日、学校でね」「さよなら」Aさんは歩いて行くBさんの姿が見えなくなるまで彼女を見送り、それからやっと家へ入るでしょう。次第にずっと雨の中で傘もささずに歩いてきたように思える自分の心にBさんが傘を差し出してくれたことを、心の中でずっと反芻し続けるでしょう。

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