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十九

長いのか短いのかわからないような眠りの後に目が覚める。そこは病院のベッドの上、結局私は自分の生き死にすら自分で決定づけることはできなかった。

しばらくして両親と兄が来て、私の目覚めたことを喜んでくれる。

「良かった、目が覚めて良かった、心配したのよ」「…ごめんなさい、悲しませてごめんなさい、私のせいで悲しませて、勝手に命を絶とうとしてごめんなさい、…どうして助かったの」「お兄ちゃんがね、あなたの飛び降りた後にすぐ救急車を呼んでくれて、それであなたも打ち所がそこまで悪くなかったみたいで、命は助かったのよ」「…でも右足が動かしづらい、それに動くと体が痛い」「それでも生きてただけ、生きてただけで良かった、私は、娘が死ぬと思ったら本当に苦しかった」「ごめんなさい、もうあんなことしないから、許して」

それから三人は立ち去ったが、私はBさんがどうしているか、そのことだけが気がかりだった。あの人は、あの人は何時間経っても来てくれない。ずっとあの人が来るのを待っていた。

それから色んな人と会った、病院の先生や看護師の人や色んな人へ、でもBさんは来てくれない。待って待って待ち侘びた頃、もう二度と会えないんじゃないかと思った頃、病室のドアを開けて見慣れた顔が入ってきた。

「…どうも」「…C君」「…俺はあんまり来たくなかったんですけど、Bさんが絶対行ってあげろって言うんで、来ました」「…Bさんはいつ来るの?」「…それは知りません」「そう」「…」「…ごめんね、あなたもきっと辛いのに、ごめん、私は、あなたのことは恨んでない、あなたは何も悪くないから」「…俺のせいでああいうことしたんですか?」「違う、私には…もっと別の理由があった。言えないけど、でも私は、あなたのことはもう好きでも嫌いでもなかった、ただ嫉妬してただけで、だからあなたは何も悪くない」「…どうでもよかったんですか、俺のことは」「別にどうでも良くはないけど、でも恋愛的な感情は全くなかった、それは申し訳ないけど事実として認めるしかない」「…だったらなんであんな思わせぶりな発言ばっかりしたんですか、俺のことを弄んでたんですか、俺が過大妄想してただけなんですか」「…私の行動が思わせぶりに見えてたなら謝る、確かに今思い返してみるとそう受け取られそうなことも言ってたけど、でも偶然、それは偶然」「…」「ごめんなさい、あなたもきっと辛いのに、こんなところまで会いに来させて、会いになんて来たくなかっただろうけどこんなことまで聞かせて、ごめんなさい、辛いよね、ごめん、私だったらそんな状況に置かれたら絶対に辛いのに、あなたの気持ちをずっと考えられなくて」「…俺はどうすればいいんですか」「私を恨むなら恨んでもいいから、だからあなたはあなたを大切にしてあげてほしい、あなたはきっと素晴らしい人間だから、だから自分を大切にしてあげてほしい」「…無理ですよ」「あなたの気持ちも私はわかるけど、でも、だからこそ私を信じて、あなたは何も悪くないから。それは信じて」「…はい」「ありがとう、分かってくれて、ごめんなさい」「…俺はもう帰りますよ、これ以上会話しても何も意味ないでしょうし」「ごめんなさい、ごめんね、あなたには悪いことしたと思ってる、ごめんなさい、許さなくていいから、恨んでもいいから」「…恨めないですよ、恨めるわけないじゃないですか」「そうだね、そうだよね、ごめんなさい、分かってあげられなくて、ごめん」

やがてCくんは去っていった。

それからしばらく、私は何もせずに過ごす。もうかつての私ではないような気持ちになってくる、身勝手だけれど一度死ねたことによって別の自分になって蘇ったみたいに、かつての自分を客観的に見ることができる。

思えば随分色んな人に迷惑をかけて、色んな人を傷つけて、誰のことも信じてあげられなくて、私はBさんのことすらBさんとして信じてあげられなかった。それが悔しい、でもこれからは、あなたのことを信じてあげたい、どうすれば信じられるのかわからないけど、信じたい、どうにかして信じてあげたい。

それからどれくらい経ったかわからない頃、やっとBさんが、あなたが病室のドアを開けて、私の部屋に入ってきた。私は…どんな顔であなたに会えばいいかわからなかった。それなのにあなたは、私のベッドに近づいてきて、この手を取ってくれる。


「Aさん、やっと起きたんだ」「…来てくれたんだ、あなたは来てくれないかと思ってた」「なんで、友達でしょ、来るに決まってるじゃん、それでさ、でも生きてて良かったよ、あなたは死にたかったかもしれないけどさ、でもあなた以外はみんなあなたの生きてることを望んでた」「…そう、私はもう死にたいとは思えない、もうそういう感情が通り過ぎて、何も感じられない、ただ生きてることがあんなに嫌だったのに、今は幸せに思える」「…あれからさ、Aさんが意識を失ってからさ、どれくらい経ったか、分かる?」「…どれくらい?」「大体2週間くらい」「…そう」「それでさ、ねえ、私の気持ち、分かる?」「…」「私ね、あなたのことが大切とかさ、それ以前にさ、自分がさ、死のうとしてる人を助けてあげられなかったとか、救いになってあげられなかったとか、それでさ、私がどれくらい苦しんだか、分かる?」「…ごめん」「私だけじゃないよ、あなたの家族とか、C君とか、みんなさ、辛かったんだよ、ねえ、分かる?」「…うん」「あなたの気持ちなんてさ、あのね、どうでもいいから」「…」「あなたが辛かろうが辛くなかろうが関係ない、あなたは死ねない、あなたに自分の命を絶つ権利なんてないんだよ」「…」「あなたが何を思っていようがね、それは関係なくて、生きる以外に道なんてないから。諦めて、もう、諦めようね、知ってるでしょ、あなたは人間の屑なんだよ、選択権なんてないんだよ、生きる価値はないけど死ぬ価値もないんだよ、自分で自分の人生なんて決められないんだよ」「…どうしてそんな酷いこと言うの」「もう私に何も求めないで、私はさ、きっとあなたを忘れる。いずれ私は忘れるから。あなたがね、それをさ、嫌だと思ったとしても私は忘れる。私はあなたなんかのこといつか忘れるから」「…やめて、そんな風に言われたら、私は苦しい」「苦しくていいんだよ、苦しんでよ。私はね、苦しかったんだから、だからあなたも苦しまないと、勝手に自分で悟って死を選択してこの世からいなくなる権利なんてないってさ、自覚しないと、あなたに自由なんてないって自覚しないと」「…やめて、もうわかったから、ごめんなさい、やめて」「やめないよ。あなたはこの世界に存在しちゃいけないんだ。あなたがいるせいでみんな不幸になる、あなたの存在そのものが、ね、知ってたでしょ、それは仕方ないんだよ、そういう人なんだから、あなたはそういう敗者としての役回りを背負って生きてるんだから、高望みしないで、自分に才能があるなんて思い上がらないで、優等生のふりしないで、いつも自分の必要とされてないってことを強く感じながら生きて」「…やめて、もうやめて」「だってさ、これがあなたの望んでたことなんでしょ、私と本当に心から通じ合いたかったんでしょ、これが私。ねえ、知ってるよね、私はさ、あなたと同じだと思ってたんだったら、知ってたはずだよね、私の本性をさ、本当の私を」「…やめて」「なんで受け入れないの、あなたが望んでたことなんだよ、ほら、受け入れなよ、あなたに存在意義なんてないけどさ、私はあなたを認めてあげるから、あなたは私のためだけに生きるんだよ、ねえ、そうしようよ、本当にもう小説なんか書かないでさ、あんなクソみたいなもんしか作れないのに思い上がってないでさ、私のためだけに生きなよ」「…違う、私は…私はこんなこと求めてない、私は、あなたは、あなたはそんな人じゃない」「どうしてそう思うの?私のことなんか信じてくれなかった癖にさ、どうして友達面してそんな薄っぺらい言葉が言えるの、結局さ、嫌われたかったんでしょ、私にさ、だったら、こうやって嫌ってあげてるんだからさ、受け入れなよ、ほら、嫌ってあげてるんだよ、否定してあげてるんだよ、感謝してよ、感謝しなさいよ」「…私は…」「そう、そうやってもっと苦しんで、あなたの罪は一生かかってもさ、償えないんだから、苦しんで、私があんなに気にかけてあげてたのにそれを裏切った時点でさ、あなたにもう救いなんてないからさ、もう私もさ、やめるよ、あんなこと言うの。あなたを甘やかすのはやめる」「…甘やかしてほしい、私は、そんなふうに言われるくらいなら現実逃避して甘やかされ続けるのがマシ」「選択権ないって言ったよね、もう友達なんかじゃないんだよ、あなたは、私がいなきゃ生きていけないんでしょ、だったらどんな私でも受け入れなよ、ほら、私はさ、私の思い通りに思ったことそのまま言うから、望んでたんでしょ、こういうことを」「…ごめんなさい、謝るから、だからお願いだから前のあなたに戻って」「私の言ってることがさ、わからないわけ、私はあなたの友達じゃない。馴れ馴れしくしないで」「やめて、そんなこと言われたら生きていけない」「“生きていけない“かぁ、生きていけない、生きていけるんじゃないの?別に精神的にどれほど参ったって自殺しないかぎり人は生きていけるからさ、生きていけるんじゃないの?生きていけないじゃなくてさ、嫌だって言いなよ、生死に全ての責任を押し付けるんじゃなくて自分が不快だからやめてくださいって言いなよ、変な大義名分作って逃げないで」「…じゃあそうするから、お願いだからやめて」「…選択権ないんだよ、何度も言ってるよね、あなたに選択権なんてないから。でも安心して、私はずっとあなたのそばにいてあげるよ、ずっとそばにいてあげるからさ、ずっとあなたのものでいてあげるからさ、だから安心して」「…私のせいで、私のせいでこんなことになったの?」「そうだよ、私がこういう風に思ったのはあなたのせいだからね、紛れもなく、あなたが悪いんだよ、私を信じてくれなかったから悪いんだよ、私を裏切ったから、だからその罰っていうか、報いなんだよ、あなたはね、もう一線を超えたんだよ、いつまでも自分を他人が許してくれると思わないで、甘えないで」「…謝るから、なんでもするから、私が悪かったから、だから昔みたいに戻ってほしい、お願いだから、私の話を聞いて、お願いだから」「嫌だよ、あなたの言葉になんてさ、耳を傾けないからね、あなたはずっと私の言いなりになるしかないんだよ、だってそういう人なんでしょ、自分でそう言ってたでしょ、だったらそうしなよ、どうして私と対等でいられると思ってるの」「…やめてもう…もう喋らないで、もうお願いだから喋らないで、やめて、喋らないで」「だからさ、私に頼めることなんて何もないってさ、さっきからそう言ってるのにさ、分からないの?あなたは…」「もう黙って、もういいから。もういい、もう私は、私はもう、もういいから、だからもう、私に触らないで、離れて、私に話しかけないで、私の近くに寄らないで、その顔を見せないで、もう分かった。もう分かったから、謝るから、悪かったから、だからお願いだから私の前に姿を現さないで、あなたはバイロンなんかじゃない、私のバイロンなんて気取ったこと言わないから、黙って、離れて、出ていって、ここから出て行って」「…そんな風に言わないでよ、私は」「出ていってって言ってるのに、私は、私はあなたのものなんかじゃない、私は私、あなたなんて知ったことじゃない、ごめんなさい、こんなこと言って、でも私は、私はあなたが、私は、もう会いたくない」「そうだよ、それでいいんだよ、私のことなんか忘れなよ、それだよ、やっとそう思ってくれたんだね。嬉しいよ。そう言ってくれてさ、私なんかいなくたって生きていけるってさ、思ってくれて嬉しい。それを一番望んでたんだよ、私は、やっと分かってくれたんだね」「…でもやっぱり、私は…あなたが必要だから」「…そっかあ、諦めてくれないんだ、迷惑だけどさ、そういう風に言われるの、私そういう趣味ないんだよね、だから迷惑だよ、そんなこと言われるの、迷惑。普通に迷惑」「だったら出ていってよ、ここから、私なんかになんで会いにきたの、出ていって」「それは、…あなたが大切だったからだよ」「でも私はあなたを大切だと思えない。今のあなたを大切だと思えない、私はあなたが嫌い、今のあなたは、嫌い、こんな人にあそこまで入れ込んでた自分が馬鹿みたい、嫌い、私はあなたが嫌い、大切だなんて思えない」「…それでいいよ、それを望んでるんだ、私は、それでさ、それでいいから」「そんなわけないでしょ、嘘つかないで、あなたは、あなたは私を必要としてる」「へえ、割と自己肯定感上がったじゃん、自殺して自己肯定感上がる人ってあんまり見たことないな、あなたのことが必要、かぁ、冗談じゃないよね、どうでもいいよ。結局あなたに死んでほしくないとは思ってたけどさ、必要だなんて思ったことない」「そう、それならそれでいい。私はそれを望んでる、私は私になんの興味も示してくれないあなたのことを愛してる」「キモいって言ってるじゃん、そういうの、キモいからさ、やめてよ、愛してるとかさ、気持ち悪いよ、気色悪いから、やめて」「どうしてそんなこと言うの、私は、私はあなたをこんなに思ってるのに」「うん、そうだね、ごめんね、こんなこと言って、ごめん、でもさ、もう何も望まないでよ、私なんかに、もう何も望まないで」「望んでなんかない。最初から私はあなたを見下していた、あなたに望んでるものなんて何もない」「そっか、見下してたんだ、ずっと?自分がさ、私の方があなたより格下だとでも言いたいわけ?侮辱だね、すごい侮辱、あなたが私より上だなんてあり得るわけがないのにさ、こんな人に迷惑ばっかりかけて自殺図って失敗してるような人、私より優れてるわけないのに、思い上がってるじゃん、いいよね、自分が人より上だと思うのって、楽しいよね、それ」「…もうやめて、こんな会話、辛いだけだから、やめて、お願いだから、本心で頼んでるから、やめて、もう、体が痛い、眩暈がしてくる、痛い」「大丈夫、無理しないで、ごめんね、私のせいで、ごめんね、ごめん、あんなこと思ってないよ、あなたのことは大切だよ、ごめんね、信じて、ごめん」「…もう昔みたいには戻れないの?」「戻れないよ、だってもう一線超えちゃってるしさ、もう無理だよ、無理だから。諦めよう。私はあなたを嫌いになるからさ、だからあなたも私を嫌いになってよ、そうすることがさ、本当の幸せになるから」「…分かった、私はあなたを嫌いになる、それがあなたの望んだことなら」「うん、そうだね、私ももうあなたを友達だなんて思わない、大切だなんて思わない、死んだって生きてたって何も思わない、もう見捨てるよ、いい加減に、そうしよう、そうするしかないよ、だって、だからこれが最後だよ、Aさん、私はね、あなたのことが大切だった、でももうこれからはそう思わない。もう二度と話しかけてあげない、あなたが休み時間に一人で本読んでようが雨の中に傘忘れて立ち尽くしてようが嫉妬しようが私には関係ない。もう関係ない」「ありがとう。私ももうあなたに何も求めない。もうあなたを、愛さない、愛情も友情も抱かない。私はあなたが大好きだった、今までありがとう、さよなら」「うん、じゃあね、もう会いに来ないよ、また学校で会おうね、リハビリとか頑張ってね、私はずっと待ってるから、あなたがまた元気になってくれること、ずっと願ってるから、じゃあね、私はあなたが嫌い、さよなら」「さよなら、早く出ていって、早く、出ていって、泣きそうになるから、辛くなるから、早く出ていって、もう私はこんな会話耐えられない」「うん、言われなくたって出ていく。また元気になってね、約束だよ」「約束する。私はずっとあなたのこと忘れない」「うん、私も忘れないよ、さよなら。また会おうね、待ってるよ、今度斜陽もさ、読んでみようかなって思ってるんだ、読んだら感想聞かせてあげるね、さよなら」「うん、絶対また元気になってみせる、もう自殺なんてしない、私は私として生きてみせる、さよなら、ごめんなさい、今まで迷惑かけて、ごめんなさい」「うん、もういいよ。もう許すよ、全部、さよなら、そろそろ行かなきゃ、またね」「じゃあ」

これから自分の人生がどうなっていくのかなんて全くわからなかった。ただ一つ言えることは、もうあなたとは以前のような関係には決して戻れないこと、あなたともう友達ではいられないこと。そして私はいつまでもあなたを忘れられない、あなたのことを忘れられない、でも今なら、忘れられたフリくらいはできる気がする、私は、私はあなたのことを、やっと信じてあげられたから。だから二度とあなたが話しかけてくれなかったとしても、私は生きていられる。私はずっとあなたを忘れない。あなたもきっと私を忘れない。それが分かっただけで、もう十分満足だから、また学校で会うのが楽しみになる。私を嫌いになってくれて、本当に嬉しかった。あなたに嫌われることで私は生きていける、辛いけど、でも生きていたいと思えるから、あなたは、私のバイロン、最愛の人、コラージュでできた偶像、結局、私は人間でしか、あなたも、私も、結局ただの人間としてしかいられなかった。

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