十二
日記さんへ
もうすぐ修学旅行当日です。私は京都や奈良の建造物が好きなので修学旅行に行くのは楽しみです。
今日は兄に「八つ橋買ってきてね」と言われました。兄はなぜか八つ橋がとても好きで、兄の修学旅行帰りの時には八つ橋を20箱以上も持って帰ってきたので食べるのに苦労した思い出があります。私も八つ橋は嫌いではないので、流石に大量には買いませんがある程度は買ってあげようと思います。
兄は修学旅行の時には写真係を任されていて、そこで彼いわくには色々と芸術性を重視した写真を撮ったのだそうです。大仏を斜め前から撮って後光が差しているように見える写真にしたり、全然有名でもなんでもないようなその辺にあるものまで撮りまくったりしたのだそうで、兄自身はそれで周りの生徒から注目を集められたと自慢していますが、私は他の班員にとってそういう行動は割と迷惑だったのではないかという感想しか出ません。
兄は様々なことに手を出し、そしてその全てにおいて成功しています。それは素直に凄いと思い、私は何をやっても下手の横好きとでも言えばいいような具合のものしかできないので、多才な兄のことが少し羨ましいです。私はまた年が近いということもあってずっと兄妹で比較されてきたので、彼に対して少しコンプレックスのようなものも抱いています。だから兄に「お前も写真係になって俺みたいに構図とかに注意して写真撮れば友達増えるよ」とか揶揄われてもあえて写真係になることを拒否し、Bさんに「Aさんさ、写真係やる?」と言われても断って別の班員に担当させました、兄と同じことはやりたくなかったからです。兄と同じ道を進んでも勝てないと分かりきっているからです。
兄は樋口一葉をなぜか嫌っていて特にたけくらべを否定しているのですが、でも私はたけくらべが好きだったので以前書いた小説もたけくらべをモチーフとしたものにしました。これは必ずしも兄に対して張り合ったというだけのことではありませんが、でも兄にはできないような方面で私は才能をアピールしたかったのです。結局その試みは失敗し、私はバカにされてしまったのですが。
兄は長男としてはかなり神経質な性格で、私によく似ていると思います。でも私より優れているのです。私は私に似ている人には無条件で嫉妬します、そして場合によっては憧れます。それはBさんにも言えることで、彼女と話すうちBさんと私は必ずしも同じではないけれどしかし根本的な面でよく似ていると思うようになりました。でもBさんは私より明らかに優れていて、だからこそ私はあの人を尊敬しているんだと思います。
でもBさんは最近C君とよく話しています。別にそれがダメだとは思いませんしBさんを独占したいなどとも一切思っていません、誰にでも優しく接するのはBさんのいいところだと思いますが、それでも最近はあまりにも多いようです。ことによると私よりC君と話す回数の方が次第に多くなってきているようなんです。そんなことまでいちいち気にしている自分が気持ち悪いと思うこともありますがでも、でもなぜか辛いんです。他の人だったらどうとも思いませんがその相手がC君であることが辛いんです。どうしてなのか自分でも分かりません。今までBさんが誰と話そうが相手が男子であろうが女子であろうが良かったのにその相手がC君となると途端に苦しくなります。しかもC君と話している時の方が私よりも多いことがさらに辛いんです、どうしてそこまでC君を重視しているのか分かりません。彼とは少しだけ言葉を交わした程度ですが大した人間というわけでもなく、性格もそんなに良さそうじゃないし頭はまあそれなりにいいんだろうけど人一倍冷笑家で言葉に少なからず棘があります。特にBさんを相手取って話すとなると一際言葉の棘が多くなることもあるようです。私は知っています。この手の人は自分の大切な人の前だと殊更にぞんざいな口調になることを、なぜなら私自身がまさにそれであるから。私はBさんと話す時に自分がよく刺々しくなることを知っています、それはBさんを愛していることを気取られたくなくてそうなってしまうんです。C君ももしかするとそうなのかもしれないと思うと辛くなって、そう思うたびに変に想像を逞しゅうしている自分のことが気色悪くなる、ただ私とC君を比較してみた時にどうしてもC君の方があの人に好かれやすい性質を持っているように思えて、また実際にもそういうふうになってきているようで苦しいんです。この程度のことでこんなことを考えているようではどうしようもないでしょう。でもC君は男子です。私は性別で人を区別するのが嫌いなのですがでも私以外にはそうではない人がいることも知っていて、一般的に恋愛は男女間で行われていることも理解しています。私が補正をかけているのかもしれませんが、Bさんの見た目は確かに可愛くて、そして性格も表面上はいいようです。そんなに垢抜けた見た目ってほどでもないけどでも本気で御洒落すれば本当に可愛くなるだろうと思うくらいで、私は少し羨ましくなります。C君が私みたいに性別をあまり重視しない人でもない限り、彼の恋愛対象は女の子です。またBさんにおいても同じことが言えます。そう考えると怖いんです。別に私のこの感情は恋愛なんかじゃないんですが、でもBさんが誰かと付き合って誰かのものになるということを考えるだけで恐ろしくなるんです。あの人が幸せなら私はそれでいいと思っているのに。
多分考えすぎだと思いますし私もそう感じる時もありますが、でもあの二人の仲良さげに喋っているところを見るとどうしてもそういうのが頭をよぎります。一部の男子がBさんとC君を見て「あいつら無駄に仲良いけどデキてんじゃないの」とかいう陰口を叩いてたのを聞いてさらにそういう感情が強まりました。もしかすると私の知らないところで本当にもう恋愛に発展しているのかもしれないとさえ思い詰めてはふと病的なほどに執着している自分に呆れて馬鹿だと思い、それでもあの人に対する感情は本物なんです。だからなぜかはわからないけどこんなに苦しいんです。
私と二人は同じ班なので修学旅行では二人と一緒に歩くことになります。予定ではなんとかとかいう縁結びの神社にも立ち寄るそうですが、これは私でもBさんでもないもう一人の女子による発案です。私は縁結びなんてそんなに興味ありませんがBさんはどうなんでしょうか。だから神社についたあたりで誰にも聞かれないようにそれとなく聞いてみようかと思います。私にそんな技量があるのか分かりませんがでもBさんの気持ちは知っておきたいから、少しでもその断片でも知ることができたら安堵でも諦めもできるから。
C君はどこか私に似ていると思います。どこが似ているのかよく分かりません、でも似ています。そうでなければきっとここまで考えることはなかったでしょうから。そして私は自分と似ていてそれでいて自分より優れている人には無条件で嫉妬します。




