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⑴1周1500mの池のまわりを、中学校2年生のさとる君と2歳年上のお兄さんは同じ地点から同時に出発して、それぞれ一定の速さで走ることにした。2人が反対方向に走ったところ、5分後に初めて出会った。2人が同じ方向に走ったところ、30分後にさとるさんがお兄さんに追いついた。さとるさんとお兄さんの走る速さをそれぞれ求めなさい。


⑵上の問題を、中学校2年生のAさんが解いた。その日は数学の小テストが行われていて、いつも期末テストや中間テストでは5教科中4教科で90点台ばかり取っていたAさんは、数学だけがとても苦手だった。Aさんは数学では60点台や50点台を取っていて、中学校1年生のときに一度だけ27点を取った。

27点を取ったとき、Aさんは下校の時間がくると時速60キロの速さでAさんの家へ走って帰り、部屋の中で泣いた。Aさんはお母さんに130㎐の声で叱られ、2歳年上のお兄さんに憐憫の目で見られた。塾の先生には「Aさんは他の教科が得意なのに、どうして数学だけできないのかな。」と言われた。クラスメートにはどうしても27点を取ったことを知られたくなかったので黙っていた。後ろの席のまさこさんに何点を取ったか聞かれても答えなかった。

Aさんは数学がさらに嫌いになった。Aさんは数学の問題を見るのも嫌だった。しかしクラスメートはAさんの数学が苦手なことを知らないので、8人に1人はAさんに勉強のしかたを教わりにきた。クラスメートが教わりにくるたび、Aさんは心の中でやめた方がいいと思った。しかし口には出さなかった。


⑶5分後にAさんは問題の答えがあまり分からなかったので、次の問題を解くことにした。しかしAさんは次の問題も解けなかった。3分後、さらに次の問題を解くことにしたAさんは、問題の中に動く点Pがあることを見た。Aさんは動く点Pに憎しみを抱いていた。その問題も飛ばした。次の問題ではまちがえた式を並べて計算して答えを出し、実際はまちがえているのに解けたつもりになった。そんなことばかりを繰り返して、20分後、チャイムが鳴ってテストを解く時間は終わった。解答用紙が後ろの席の人によって回収されていくとき、Aさんはせめて50点台が取れていればいいと思った。


⑷Aさんは友達が少なかったので、休憩時間にはいつも本を読んでいた。2週間前からは『新ハムレット』を読んでいた。Aさんは新ハムレットが好きではなかった。そのため、もうすぐ別の本を読もうと考えていた。2分後、AさんのクラスメートのBさんが、Aさんに声をかけた。

「数学のテストの最後の問題さ、解けた?」「解けてない」「あれ難しかったよね、私も一応なんかいろいろ書いてみたけどよくわかんなかった」「そう」Bさんは、Aさんの読んでいる本を見た。「今度は何読んでるの?新ハムレット?ああ、太宰治のやつね」「うん」「どう?面白い?」「個人的にあまり好みではない」「すごい当たり障りのない評価下してんじゃん、えっ、どういうところでそう思った?」「内容もまあ好みじゃないけどまず太宰治が新ハムレットが叩かれてることに対して“この作品は戦時中に我々を苦しめた大人について描いていて〜”とか言って自己弁護してんのが気に食わないんだよね」「作品そのものというより外的要因が大きいんだ、そう、私新ハムレットは読んだことないけどハムレットはさ、最初の方だけちょっと読んだんだよね、あまりにも長すぎて諦めたけど」「ハムレットは読んだことない」「あれは多分面白いよ、内容よく覚えてないけど記憶の中だと確か面白かったから今度読んでみれば」「わかった」

Aさんは性格が明るくはなかったので、いつも続けづらい会話ばかりしていた。Bさんは話すことにつまって2秒間黙り、ふと「Aさんって髪綺麗じゃない?」と言った。「…別に綺麗ではないでしょ」「いや私より綺麗だから綺麗だよ、これちゃんと褒められてるのか分かんないけど、まあ綺麗だから。なんか意外とさ、Aさんってさ、そういう髪とか気使うタイプ?」「別に特に何もやってないけど」「何もやってなくてそれはちょっと尊敬する、ほら、私なんて髪質すごい悪いからさ、めちゃくちゃ色々とやってるんだけど全然改善しないんだよね、私の髪見ればわかると思うけど」「確かに質悪そうだね」「確かに悪そうって…そこはさ、もっとさ、こう…“いやいやBちゃんも髪綺麗だよ〜!”みたいなの言うところなんだよ〜」「そういうの私得意じゃないから」「うんまあ知ってるけどね、それはね、うん、でもほらそういうね、お互いにさ、あるんだよ、こう、基本的にね、傷を舐め合うんだよ、こういう、美容絡みとかそういう会話は」

「でもあの手の会話よくやってる女子って表向き穏便でも裏でお互いの悪口言ってるんでしょ」「うんまあ女子は大体そんなもんだからね、みんな裏表割とあるから、その点Aさんはマジで裏表ないけど裏表なさすぎるのも逆に問題だと思う」「裏表ないんじゃなくて裏しかないから。そのせいか知らないけど中学入ってから友達全然できないし、まあ別に欲しいわけでもないけど」「Aさんってなんか小学校の頃はめちゃくちゃ性格明るかったけど高学年あたりから急速に陰キャ化進行したよね、何がAさんの中で起こったのあれ」「中二病に罹患したとかでしょ」「中二病ね…中二病というよりどちらかといえば冷笑の方が近いんじゃないのAさんの場合」「言うね」「まあね…でもこういう突っ込んだ会話できる友達っていた方がいいでしょ、表向き平穏な感じじゃない関係性も大事だよ」「そうかな…別に私はあんまり突っ込んだ会話したくないけど」「いやもっとさ、自分の心を開け放とうよ、もっと、そうすれば友達増えるよ」「友達欲しいとも思わないから、というかむしろ相手がBさんだから自分をコーティングしたところで意味ないと思ってるだけだし」「まあ私は小学校の頃からずっとAさんと一緒だったし、逆に私以外に同じ小学校出身の人って誰もいないからねここ」「そう、小さい頃から知り合いだから、もう弱み握られちゃってるから、今更意味ない」「Aさんの過去を知るのは私だけだからねこの学校で、2年生の時の運動会であまりにも徒競走が嫌だったからっていう理由で突然逃走してたこととか4年生の学芸会でやたら名演してたこととか、Aさんの輝かしいかつての記録は私しか知らないからね」「あれもう黒歴史だからあんまり話題に出さないでほしい」「学芸会の写真見るたび爆笑してるからね私、何だっけ、『本当の宝物は』とかなんとかいう劇でしょ、あのイクサマニア連邦が出てくるやつ」「懐かしいねイクサマニア連邦、爆弾持ってきて審査員からめちゃくちゃ批判された人たち」「そうそれ、私あのイクサマニア連邦とかアセミドロ共和国とか名前が直接的すぎて好きなんだよね」「うん、確かに懐かしいよあれは」その時、チャイムが鳴った。「あっヤバい、席着かなきゃ、じゃあまた後で」「うん、さよなら」


⑸BさんはAさんに裏表がないと思っていたが、Aさんにも裏表があった。AさんはBさんに表向き冷たく接していたが、裏ではBさんを女神のように思っていた。Aさんは擦れた中学2年生だったので、気を許せる人はBさんしかいなかった。Bさんは全ての点においてAさんより優れていて、数学が得意だった。AさんはBさんと話すたび、強い憧れと羨望と言葉にならない感情を抱いた。しかしBさんはAさんより優れていて友達もたくさんいたので、Bさんがいずれ自分から離れていくのではないかと思ったAさんはそれを強く恐れ、また一方ではそれを望んだ。

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