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常識とは……

 


「「起きろー! リーン!!!」」

「ぐぉっはぁ!」



 なんだ! 何が起きた!!! めっちゃ苦しい!


 俺はもがきながら上半身を起こそうとするが、何かが腹に乗っていて重くて無理だった。

 辛うじて動かせた頭を起こして腹を見ると、そこにいたのは昨日の夕食の席で会ったプティ君の双子のお兄ちゃんズで、三男のシャルル君と四男のサロモン君だった。



「起きろ! リン! 朝の仕事に行くぞ!」

「行くぞ!」

「え! もうそんな時間!? 俺寝過ごした!?」



 昨日の夕食の席で、まだ当分この地にお世話になるという事で少しでもお礼になれば、と簡単な仕事から手伝わさせていただくということになったのだが。そのお仕事というのが主に、ドゥース様達のお子様達がやっているというお仕事の手伝いを任されることになったのだ。


 パルフェット様から子供達の仕事は朝早いと聞いていたのに、昨日はいつ寝たのかも覚えていない俺は寝過ごしてしまったとめちゃくちゃ焦った。



「おはようリンタロウ。まだ仕事の時間には余裕があるから大丈夫」



 そう言って、ベッドの端に腰かけていたのはイケメンだった。



「ほんと? ……焦ったぁ」

「リンはお寝坊さんだな」

「お寝坊さんだな」



 メインで話す三男のシャルル君に、その言葉を復唱する四男サロモン君という特徴的な話し方の二人。

 君達ね、驚いたじゃん。

 ていうか俺、ベッドの上でぶっ倒れた覚えはあるけど中に入った覚えはないのに、しっかりと掛け布団を掛けて寝てる。

 ちゃっかり寝ぼけながら入ったのか?



「ちなみにこの二人をけしかけたのは俺」

「お前かよ!」

「リン、カリカリすんな。牛乳飲むか?」

「飲むか?」



 このイケメン、しれっと自分の罪を吐き出しやがった。

 純粋な子供二人をけしかけるとは何事か。

 

 牛乳、今はいいよ。

 ありがとう二人とも。


 腹の上にいる二人の頭を撫でて、起こしに来てくれたお礼を言う。

 すると二人は気持ちよさそうに、ゴロゴロとまるで猫みたいにすり寄ってくるではないか。


 …………可愛いかよ。



「はいはいリンタロウ。デレデレしないで、支度しないと仕事に間に合わないよ」

「で、デレデレしてない!」

「支度するぞリン! 着替え持ってきた! これに着替えろ」

「着替えろー」



 俺の腹の上から降りた双子お兄ちゃんズは、そう言って手に持っていたつなぎを渡してきた。

 ありがたい! というかこういう服ってこの世界にもあるんだな。

 日本でよく見るような作業着だ。



「着替え、俺が手伝おうか?」


「結構だ! 自分で着替えられるわ!」

「早く着替えろよー。置いていくぞ?」

「置いてくぞー」

「ちょ、待って。置いていかないで」



 いらない事ばかり口にするイケメンを部屋から追い出し、俺は急いで着替えて双子お兄ちゃんズに連れられて屋敷の外に出た。


 屋敷の外はめちゃくちゃ広い牧草地になっていて、俺はその広さに感動した。

 早朝ということも相まって少し肌寒いが、その寒さも気にならないくらいの感動だ。


 すげー壮観。

 


「リンこれを持つんだ」

「持つんだ」

「え、なにこれ」



 シャルル君から手渡されたのは俺の拳より大きくて四角形で、取っ手がついてるのでそこを持ってさらに謎の物を観察する。

 取っ手がついていない片側が大きく開いて空洞になっており、中を覗くと中心から棒がぶら下がっている。


 あれ、この構造って…………。



「牛を集めるベルだ!」



 あ、やっぱりベルなのか。

 見慣れたベルの形じゃないけど振ってみるとカコンカコンと、ちょっと振ってみただけなのに結構大きな音が鳴る。


 おぉー、これは遠くまで聞こえそうだ。



「これを振りながらルールルルルルって言うんだぞ。そうしたら牛が集まってくる!」

「集まってくるー」

「え、ちょっと待って。その掛け声ってキタキツネ呼ぶ掛け声じゃあ……?」

「何言ってるんだ? キツネはそんな掛け声で集まるわけないだろ」

「集まるわけないだろー」



 うそー…………。

 なんかちょっと俺が知ってる知識と違う。

 でも、その掛け声はキタキツネ呼ぶ奴だろ? 俺より前に来た異世界人が間違った知識でも教えたのだろうか。

 それともこの世界独自にできた掛け声でたまたま俺が知ってる知識と呼び方が一緒だったとか???


 まあ、そんなの考えても仕事にならないので、ちょっと脇に置いといて。


 双子お兄ちゃんズに連れられて、牧草地の奥に進んでいく。

 この広大な牧草地に散らばっている牛を呼び集めて、獣舎で栄養価の高い飼料を与えるらしい。

 牛達はもちろん牧草地の草も食べるが、一日に朝と夕にきちんと栄養の考えられた飼料を他の家畜達と一緒に与えるとのこと。

 子供たちの仕事はそんな家畜達の餌やりが主な仕事だという。



「あ! 牛がいたぞ! リン! 牛を呼ぶんだ!」

「呼ぶんだー」

「え、あれが牛なの!?」



 目の前にいる双子お兄ちゃんズが言う牛は、俺が知ってる白黒の牛じゃなかった。

 まず、毛が……めちゃくちゃ長くて全部白い!

 その毛の長さは遠目だが軽く三十センチ以上はあるだろうし、耳は大きく垂れていて、角は太く大きくて立派である。

 前の世界で体毛が多少長い牛もいたことは知っていたが、これは俺の知っている牛とはかけ離れていた。


 こ、これがこの世界での牛なのかぁ。



「早くしないと俺たちの朝食に間に合わないぞ!」

「間に合わないぞー」



 そう言うと、双子お兄ちゃんズはそれぞれ持っている鞄からベルを取り出して、ルールルルルルと掛け声をかけて大きくベルを鳴らす。

 すると、牛たちはゆっくりと反応して動き出したではないか!



「ほら! リンも! ルールルルルル!」

「お、おぉ…………る、ルールルルルル」



 戸惑いながらも三人で手分けして牛を集めて獣舎へ誘導していった。

 広大な土地の隅々に散らばっている牛を集めるのは大変らしいが、俺達より先に年上組のドゥース様や次男のベルトラン君、あとイケメンが飛竜に乗って牧草地の端から牛を集めてくれているらしく。飛竜に乗れない俺達は、近場の牛たちを集めるのが仕事とのこと。


 それよりも聞きましたか?


 飛竜ですって!


 思わず口調が迷子になってしまうほど、その単語を聞いてテンションが上がる。

 ファンタジーのお話でその名称を聞いたことある人は多くいるだろう。

 俺は今日もしかしたら(ドラゴン)を見られるかもしれないのだ!

 ちょっとわくわくする。


 土地の中にいくつかある獣舎の中で一番大きな獣舎に牛たちを続々と入れていき、双子お兄ちゃんズと手分けして餌を運んでは牛に与えてとバタバタと動いていると、外から大きな翼がはためく音がした。



「父上達帰ってきた!」

「帰ってきた!」



 双子お兄ちゃんズと一緒に外の様子を見に行くと、そこにいたのは…………。



「あれが飛竜! すげぇ」

「リン! 飛竜を別の獣舎に連れてくぞ!」

「連れてくぞ!」



 大きな体躯の飛竜には鞍がついており、双子お兄ちゃんズはそれぞれドゥース様とベルトラン君の手綱を持っていた。

 俺はイケメンの飛竜を移動させるらしい。

 近くで見る飛竜はとてもカッコ良かった。

 ちょっと男の子供心をくすぐられる感じだ。


「俺、(ドラゴン)を見れてちょっと感動してる」

「「「「「え?」」」」」」

「…………ん?」



 飛竜の顎を撫でていたイケメンから手綱を受け取ると、素直な感想を言ったのだが。その場にいた俺以外の全員が疑問符を投げかけてきた。                   

 どういうこと? なんで皆してお前何言ってんのって顔で俺を見るの。



「リン、何言ってるんだ。飛竜は(ドラゴン)じゃないぞ」

「トカゲだぞ」



 双子お兄ちゃんズが俺を引いた眼で見てくる。

 ていうかサロモン君、復唱以外の言葉もちゃんと喋るのね。



「どういうこと!? だって飛竜って呼んでるじゃないか」


「まあ、飛竜と呼ばれてるけど。こいつはトカゲに翼が生えていて空を飛べるくらいで、竜ドラゴンみたいに火を吹けるわけでもないし魔力も持っていない。この世界に(ドラゴン)と呼ばれる存在は創世記を話した時に五匹しか出てこなかっただろう? その五匹しかこの世界には(ドラゴン)は存在しないんだ。飛竜の名前の由来は(ドラゴン)の縮小版に見えるからそう呼ばれてるだけ」

「なんだと……じゃあトカゲだから尻尾が切れたら再生されるとか……?」

「まだ子供の頃は再生されるね」



 イケメンの説明では、子供の飛竜は身を守るために尻尾が切れるようになっているが、大人の飛竜になると尻尾は切れないらしい。


 なんだか俺の世界の知識とちょっとずつずれている所が多々ある。

 飛竜を移動させて餌を与えた後も、もう一つある獣舎で鶏に餌を与えたが鶏が俺の知ってる鶏じゃなかった。


 なんと鶏のオスの見た目が完全に鷲で、その鷲に鶏冠と肉髭がついていたのだ。

 メスは普通の鶏だったけど。


 こちらの世界での基本情報になるがカリファデュラ神の子ではない、魔力を持たない生物には基本的には雌雄があるらしい。

 この世界は俺が知ってるファンタジーとも、ちょっと違うところがある世界だった。


 あと、最後に。



「じゃあ、あそこでお座りしているのは犬ではなく猫とでもいうのか」



 俺は前の世界でいうグレートベキニーズに似た犬らしき生物を指さして言った。

 あの生物は放牧されている牛を探して追い回す役目があるらしい。

 思いっきり役割も犬だが、疑り深くなっている俺は胡乱な目で言ってみたのだが。



「リン、何言ってるんだ。あれは犬だ」

「犬だ」

「犬だね」

「犬ですね」

「リンタロウ。あれは犬であってるよ」



 犬だった!!!!!!!


 分からん! この世界の常識!

 俺は思わず膝をついて項垂れた。


 双子お兄ちゃんズに猫なわけないだろ。

 と少し馬鹿にされて、それを双子お兄ちゃんズの頭を小突いて止めさせるベルトラン君。

 ドゥース様も俺が無知なのをカバーしようと双子お兄ちゃんズを叱るが、そのフォローにちょっと涙でそう。

 イケメンは笑いをこらえようと必死だった。

 お前、マジで覚えてろよ。













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