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これから


 時は過ぎて今は夜。

 部屋に戻った俺はベッドにポフリと倒れこみ、目覚めてからこれまでの出来事を振り返る。


 パルフェット様とプティ君に風呂に入れてもらってからもいろいろあった…………。















 可愛いセット二人に風呂に入れてもらって、しかも髪まで乾かしてもらってしまった。

 お風呂場で試しに水を出そうとしたが、やっぱり俺には出せずパルフェット様とプティ君が蛇口を捻ると水が出た。

 不思議だ。さすがファンタジー。


 あまりお風呂場で魔力とか魔法の実感は水が出なかっただけなので湧かなかったが、感動したのがパルフェット様が髪を乾かしてくれた時だ。

 そこで初めて俺は魔法らしい魔法というものを目にしたのだ。

 なんと、髪を乾かす時にパルフェット様が『風よ』と唱え俺の髪に向かって手をかざすと温風が出たのだ!

 思わず『おぉ!』と声が出た。

 パルフェット様が言うには簡単な基礎魔法らしいので俺もすぐ使えるようになるとのこと。

 慣れれば詠唱無しでも魔法は使えるらしく、今回は俺の為に分かりやすく詠唱して魔法を披露してくださったそうだ。










「さっぱりしたか?」



 部屋をノックし、そう言って部屋に入ってきたのは超絶イケメンだ。



「うん。いいお湯だった」

「そうか。よかった」



 イケメンが部屋に入ってくると、入れ替わりでパルフェット様とプティ君は夕飯の支度があるらしく、夕飯ができあがったら呼びに来ると言って部屋を出て行った。

 どうやら執事さんが一人いらっしゃるそうなのだが、今はその方が一人で準備しているそうで仕上げるために手伝いに行くという。

 パルフェット様は領主の妻である仕事が無い時は、家事などを率先してやるそうで。

 その影響で、この屋敷には使用人は執事さん一人いるだけで済ませているそうだ。

 

 去ってしまう前にもちろん二人にお礼を言ったが、部屋を出て行く際のプティ君がまた可愛かった。

 ばいばいと手を振ってくれたのだ。

 それはもうデレデレと手を振り返しましたとも。はい。



「リンタロウは可愛いものが好きなんだな」

「んー?そりゃあ……可愛いは正義だろ」



 あまり好き嫌いにこだわりはない方だと思っているが、皆可愛いのは好きだろ?



「それもそうだな。さて、風呂で癒されたところさっそくで申し訳ないが、リンタロウの今後について夕飯前に話しておこうと思う」



 あー、確かに。

 俺ってこれからどうすればいいかさっぱりだな。

 たった一人で異世界に来たわけだし。



「わかった。でも、さっきみたいに話長いか?」

「はは!今度はなるべく簡単にするよ」



 そう言うとイケメンは本当に簡単に説明してくれた。


 どうやら、こちらの世界で異世界人は向こうの世界の知識やアイディアを次々に出してくれるからとても大事にされるらしい。

 今までに異世界人は何人も来ているのでその保護方法なども確立されていて、異世界人のその後の身分や生活をある程度は保証してくれるし、やりたいことをさせてくれるそうだ。




 ちなみに異世界人がこちらに来る際は、場所などバラバラで。

 カリファデュラ神の前もってのお告げによって、大体の出現場所や時期などはすぐに分かるという。

 保護に行く者には基準があるらしく、異世界人に説明する必要な知識。その他、保護に向かう者の武力、魔力など力をもっている人物が保護に向かうらしい。

 だいたいは身分の高い者、国の王族関係の騎士や魔法士などの人物があたるが、基準に合えば場合によっては上級冒険者なども保護するそうだ。


 イケメンは上級冒険者だという。


 そして、その保護した人物がそのまま異世界人の後見人になる。

 ……ということは、このイケメンが俺の後見人なのか。



「なるほど。お前の役目と任務ってそういうことか」

「そう、そういうこと。まずはリンタロウの身分証を発行しなきゃいけない。それがないと、これから生活するうえで不便だからな」

「そっか。じゃあ、身分証ってのはすぐに発行できるのか?」

「いや、君が出現したのはこの近くの山奥だったんだが、この地では身分証は発行できない。発行できる場所は決まっていて、この近くだと都心部に行けば国の役所や冒険者ギルド、教会などで発行できる。この地にも教会はあるが、小さいから身分証まで発行できない」

「へぇー、身分証発行できる所っていろいろあるんだな」



 国の役所は分かるけど、冒険者ギルドと教会って、さすがファンタジー。



「最初は教会だけで発行していたんだが、異世界人は割とあちこちに来るし、こちらに来たら国に仕えたり冒険者になる者が多くてな。必要に応じて発行できる場所は増えた」

「ほうほう」

「ちなみにここから都心部まで、いろんな移動方法を使っても最速で一週間はかかる」

「え゛!!」



 まじで!?どんだけ遠いんだよ!



「ここに来るもの苦労したよ。今回俺が保護者に選ばれたのも、ここが遠方かつ、なかなかの旅路を歩まないといけなかったから、それなりの冒険経験者のほうが都合が良かったからなんだ」

「それって……俺、冒険経験とかないけど、都心部に向かうの大丈夫なわけ?」



 こいつって上級冒険者なんだろ?

 そんな上級冒険者がなかなかの旅路って言うくらいだから、人より運動神経がいい方とはいえこんな一般人の俺じゃあ旅なんて無理なんじゃねーの。



「まあ、すぐには向かえないな。俺の力でリンタロウを守るから絶対大丈夫! と言えなくもないんだが」



 あ、こいつ今さらっと俺強い発言してない?



「リンタロウはここに来て間もないし、こちらの常識などの知識もない。急ぐ旅でもないからリンタロウがここの生活方法に慣れて、最低限必要な知識や魔法とかを教えてから出発しようと思ってるから、約二週間くらいはここに滞在する予定だ」



 おぉ、いろいろと教えてもらえるのはありがたい。

 特に魔法!

 ちょっと楽しみ。



「それに…………」

「ん?」



 イケメンはさり気なく俺に距離を詰めると、さらりと俺の髪を撫でとても優しい瞳で見つめてくる。


 …………なんだよ、無駄に顔がいいな。



「君がこちらに来てやりたいことを見つけるためには時間が必要だろう。ゆっくりと、今後の人生どう歩んでいきたいか考えるといい。

 君は本来あるべき人生を歩めなかったんだ。それくらいの権利はある」

「…………今後の、人生」



 俺はこれまでの人生、やりたい事も見つけられず、ただ孤立して時を流して生きてきた。

 急に、選択肢を広げられても何をどうしたいかなんて考え付くはずもない。



 俺って……ほんと、何もないよな…………。

 急に気持ちが暗くなる。


 暗い気持ちに、心が冷えていく感覚は慣れているはずなのに。今日出会ったパルフェット様とプティ君が与えてくれた優しさのせいか、その冷えていく感覚が鋭く感じ、チクチクと痛む。



「リンタロウ」



 ふと、目の前に影が迫ったと思ったら自分の頬に暖かく柔らかい何かが触れた。



「ぇ……」

「……そんなに不安な顔をしなくても大丈夫だ。俺がいるだろう? お前がどんなに不安や恐怖を感じても、それを全て助け守れる力を持っている。頼ってくれ」



 そう言うとイケメンはとても自然な動作でその秀麗な顔を寄せて、俺の頭に口付けをした。

 さっきの頬の暖かいものはこのイケメンの唇だったことに今気づく。



「なっ! なにすんだよ!」



 顔が熱い。

 こんなイケメンの顔が近いことも恥ずかしいのに、こいつ、俺にキスした!


 距離をとろうと腕を振り回すが、上級冒険者だというイケメンにもちろん当たるはずもなく、俺の腕は空振るだけだ。



「リンタロウは威勢がいい方が可愛いよ」

「誰が可愛いだ!!!」



 一発、そのイケメンの面でもひっぱたいてやろうと思って手を振り上げるが、簡単に掴まれて笑われる。

 もう片方の手も使うがもちろん掴まれてしまい、挙句の果てには笑いながらちょっと遊ばれた。


 ムカツク!!!


 次は足でも出してやろうかと力を入れようとしたが、コンコンと扉をノックしてプティ君が入ってきたので、俺の足が上がる事はなかった。



「…………ぇと、ごはん、たべよう?」

「だそうだ、リンタロウ。夕飯にしよう」

「お前、後で覚えてろよ」

「覚えてたらな」



 くっそう!

 めっちゃいい顔でイケメンは先に出て行き、俺はプティ君と一緒に夕飯に向かうことに。

 夕飯に向かう際に。プティ君が俺の手を引いてくれたのが癒しだった。











 その後の夕飯の席では、パルフェット様の旦那様でここの領主様であるドゥース様とプティ君の兄弟君達にお会いした。

 一番上のお兄さんは今都心部の学校に通っており、寮生活をしているらしいので会えなかったが。それぞれ自己紹介やら、俺は今回お世話になってる件などなどご挨拶とお礼を言うことができた。


 ドゥース様とプティ君の兄弟君達は濃いブラウンの髪にライムグリーンの瞳を持った落ち着く外見の方々だった。


 まあ、落ち着く外見ってどういうことだよ。って話だと思うけど。言い方悪くなるけど、日本でいう平均よりちょっと良い中の上的なお顔立ちだったのと。ドゥース様の爽やかで快活な性格がクラスに一人はいる爽やか運動部員みたいな雰囲気で、プティ君の兄弟君達も一般的な中学生、小学生みたいな雰囲気で馴染み深かったので落ち着くという表現に至ったのだ。


 今まで超絶イケメンの人外的な容姿と、パルフェット様とプティ君の異常な可愛さしか目にしていなかったからこの世界には美しい者しかいないのかとちょっと怖く思っていたので、心の隅で安心したのは内緒にしておこう。






 大勢で賑やかに食べる食事はとても美味しかった。

 執事のセリューさんが今まで眠りっぱなしだった俺のためにと、皆とは別に食べやすいものを作って心配りしてくれたり、初めましての俺のことを食卓にいた全員が暖かく迎え入れてたくさん話しかけてくれたんだ。

 とても気さくで本当に優しい人達だ。


 こんな賑やかな経験はしたことがなかったので、実はかなり戸惑ったが。そんな俺の様子を感じ取り気を使ってくださったパルフェット様が、ほどよく質問攻めから解放してくれたり、合いの手を入れてくれたりしてくださったので居心地は悪くないどころか、とても良かったと思う。

 これも初めての感覚だった。






 食卓の話の中で、この領地が農業で成り立っていることを聞いた。

 主に畜産農業を行っているとのこと。

 耕種農業も行っているがこちらは主に自分たちの食料確保や動物たちの飼料のために行われているらしい。


 なんと、領主様であるドゥース様達自ら動物たちを世話して育てているという。

 だからちょっと日焼けして健康的だったのか。


 パルフェット様は肌が白くて力仕事なんてできそうにないなと思ったら、やっぱりほぼ外の仕事はしないらしい。

 代わりにパルフェット様は皆が外で働いている間、書類仕事系はすべて行っているそう。

 最初はパルフェット様も力仕事をしようとしたらしいけど、結婚する際にドゥース様が『俺の可愛いパルフェットに力仕事なんてさせられない!』と言い、やらせてくれない事になったそうだ。


 愛されてるなあ、パルフェット様。


 そしてどうやらここに滞在する間、イケメンは皆様へ協力のお礼にと農作業の手伝いと冒険者の経験と力を活かして近隣の警備をするらしい。

 というか俺が眠っている間からしてるらしい。

 明日からはそれに加えて俺の教育もするという。


 イケメン忙しいな。



「あの、それなら俺もここにタダで滞在させていただくのも忍びないので、イケメン……えほん! じゃなくて、えーっと、ゼン? さん……? が俺の教育にあたる以外の時間は何かお仕事とかお手伝いさせてください」



『普通にゼンでいいのに』とクスクス笑ってるイケメンは無視だ無視。



 ドゥース様やパルフェット様は、来たばかりで病み上がりだし無理しなくていいと言ってくださったが。これ以上優しさに甘えるのは違う気がして俺は折れなかったので、明日から簡単な仕事から手伝わさせていただくことになった。


 皆で食事を終えて、パルフェット様は明日から仕事を手伝いながらいろいろと学んでいく予定の俺を気遣って早めに部屋で休めるよう取り計らってくれたのでご厚意に感謝をしっつありがたく甘えることに。











 こうして話は冒頭に戻るのだが、今日一日だけで今までの人生の中で一番と言っていいほど濃い時間を過ごしたような気がする。


 多すぎる初めての経験ばかりで疲れてしまった俺は、ベッドに倒れこんだ状態のままいつの間にか意識を飛ばしてしまっていた。











 *********











 ガチャ……。



「ふむ、こんなことだろうと思った」



 凛太郎の眠る部屋に入ってきたのは、月明かりが差し込む薄暗い部屋の中でも輝いて見えるような美しい顔をしたゼンであった。


 ゼンは着の身着のままで、ベッドの中にきちんと入らず眠ってしまった凛太郎の傍に寄り、彼を起こさぬように抱えて温かいベッドの中へと丁寧に寝かせた。



「おやすみ。良い夢を」



 優しいとろりとした声でゼンは凛太郎に囁き、眠る凛太郎のすっと通った鼻に口付けを送ると静かに部屋を去って行ったのだった。













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