可愛い人は肝っ玉母さん
あー……情報過多で頭がぽやぽやする。
上手くまとまらない。
「…………おーい、リンタロウ? 大丈夫か」
「ちょっと……追いつけない」
「ははは、まあそうなるな」
『一気に話してしまった』と、イケメンは長い脚を組みなおしてクスクスと笑っている。
ほんと、こいつってなんでも様になるんだなあ。
ついついその仕草を目で追ってしまうほど。
俺は遠慮なくジロジロと見ていたのだが、イケメンの視線がふいに俺に向いたことでバチっと合った目を俺は思わず逸らしてしまった。
何やってんだ俺。
「…………初めに戻るけど、そもそもなんであんた日本語なの。助けてくれた時は変な言葉だったじゃん」
「あぁ、それはだな。最初リンタロウが聞こえていた変な言葉ってやつは、本来の俺たちの世界の言葉だよ。君は前の世界の言葉が脳に馴染んでしまっているだろ? そのままだと不便だから俺が君の脳に魔力を注いで君の馴染みのある言葉、それに聞こえるように変えたんだよ」
「まりょく…………」
「ついでに、不自由がないように君が話す言葉や文字とかも基本的にはこちらの世界の言語に自然となるように変更しておいた」
なんと、魔力とな。
便利すぎるだろ。
さすがファンタジー。
魔力ということは魔法があるという事だろうか。
ちょっと見たい。
――――コンコン。
「せっかくお話が進んでいるとこ申し訳ないけど。お邪魔してもいいかな」
扉を控えめにノックし入室してきたのは、先ほどの可愛い人と天使ちゃんのセットであった。
イケメンと二人きりであった部屋に、その可愛いセットが入室してきたことで部屋の雰囲気が一気に華やかな癒し空間になる。
おぉ、可愛いセットのマイナスイオン的な癒しパワーが半端ない。
「あぁ、パルフェット様。どうぞ、ご遠慮なさらないでください」
「ありがとうゼン君。実は彼のためにお風呂を沸かしてきたんだ。お湯が冷えないうちにゆっくりと入ってもらおうかなと思って。お話も大事だし進めたいところだろうけど、彼も病み上がりだから今はその辺にしたらどうかな?」
可愛いセットとイケメンが俺の目の前で話をしている光景は、それはそれはもう眼福です。
なんだ。
俺は異世界に来たのではなく天国に来てしまったのか。
と、勘違いしてしまうほどのとてつもない光景だ。
今生に悔いなし。
…………なんちって。
「――――ンタ……君。リンタロウ君?」
「…………っは! はい!」
しまった。
つい、目の前の天上の光景に浸り、精神がどこかに飛んでしまっていた。
「ゼン君から聞いたけど貴方、リンタロウ君っていうんだねぇ。自己紹介が遅くなってごめんね、私の名前はパルフェット。この地を治める領主の妻をしているよ」
おっと! これまた新たな情報が!
この可愛い人は領主様の妻だという。
妻って、この人男だよな……?
少し前のイケメンの話では、この世界には男しかいないって言ってたからこの人が男なのは確かだろうけど。妻という単語が出るくらいだからこの世界では、男同士で結婚して夫婦になることができるのか。
前の世界でも同性婚はない話ではなかったけど、日本ではあまり馴染みのなかったものだった。
「そして、この子は私の五番目の息子のプティ。リンタロウ君って名前ちょっと言いにくいからリン君でもいいかなぁ?」
「あ、はい! 俺のことはどうぞお好きに呼んでください」
というよりか、天使ちゃんは可愛い人の息子なの!? 男の子なの!? どうやって産んだの!?
多い情報量に再び精神がどこかへ飛びかけたが、俺はパルフェット様に礼儀を尽くしていないことに気が付いたので慌てて精神を引き戻した。
とてもかわいい見た目に騙されてはいけない! 領主の妻ということは、俺より身分の高い方なんじゃないか!
「あの! 領主様の奥方様……この呼び方合っているんでしょうか。とにかく、身分の高い方にお世話していただいた上に、知らなかったとはいえ良いとは言えない態度で接してしまい申し訳ございませんでした。あまり作法などは存じ上げないためご不快な思いをおかけして……」
「いやいやいや! ぜーんぜん気にしないで! 私のことは気軽に名前で呼んで。私たちは一応この領地を収める立場にいるけど、堅苦しいのが嫌いでね。もっと楽に接してくれて大丈夫だから」
「でも…………」
楽に接してと言われても、それはやってもいいものなのだろうか?
そういう上流階級の作法も知らなければ、この世界の常識も知らない俺は、そういう行動が正しいのか判断できず、素直に頷くことができなかった。
何事も初めが肝心というし…………。
「俺、この世界に来たばっかりで常識無いから……」
「もう! そんなこと言う子はほっぺぷにぷにの刑にしちゃうんだから!」
「ぅおっ! ぷふ!」
可愛い人は俺の頬を暖かい掌で包むともにもに、ぷにぷにと揉みくちゃにしてきた。
人にこんな風に触れられたことがない俺は、戸惑い固まる。
「ぁ、ぁにょ。おきゅがひゃひゃま」
「パルフェット!」
「……おきゅ」
「パ・ル・フェ・ッ・ト」
どうやら俺が改心するまでこのほっぺぷにぷにの刑は継続らしい。
怒った顔も可愛い奥方様、いや、パルフェット様。
「ぱ、ぱるふぇっと様…………」
「ふむ、まぁ、よろしいでしょう」
「ふふ。さすがはパルフェット様」
むぱむん! と最後に一揉みしてパルフェット様は俺の頬から掌を離した。
そんな俺達の様子を、傍で見ていたイケメンはクスクスと楽しそうに笑って拍手している。他人事のように。
…………まあ、他人事なんだが。
「さあ! お風呂にしよう! 案内するよ。ついておいで」
「行っておいでリンタロウ。話はまだ続きもあるけど、また今度にしよう」
「さあさあ、行くよー」
パルフェット様は俺の手を優しく引き寄せ部屋の外へと促し、イケメンは部屋の外へと向かう俺に手を振り暖かく見送った。
もちろん天使ちゃんは俺たちと一緒だ。
ちょっと話の続きも気になるところだったが、頭が混乱してて一度落ち着いて整理もしたい気持ちもあったので、俺は素直に従うことにした。
「さあ! ここが我が家自慢の大風呂だよ」
「おぉ……広い。大きい」
連れてこられた風呂場は大きく広かった。
シャワーと蛇口のセットが二つあって、湯船も五、六人は余裕で入れる大きさだ。
というより、日本でいう温泉施設を縮小したイメージそのままだ。
見た目の設備が前の世界と変わりないことにちょっと驚いてる。
「うちは風呂好きが多くてね、お風呂にはこだわっているんだ」
「いいですね。俺も風呂好きです」
「いいよね、お風呂! じゃあ、入ろうか」
「あ、はい。では、すみませんがお風呂いただきます」
「うん! じゃあ、服脱いでねー、中で待ってるから」
「はい…………って、え?」
「え?」
え、今中で待ってるって言った?
「中で待ってるって……俺、一人で入るんですよね?」
「え? でもリン君、まだゼン君に魔力の使い方教えてもらってないでしょ?」
「魔力の使い方? は教えてもらってないというか。俺って、魔力持ってるんですか?」
「あれ? 私たちがカリファデュラ神の子供であるということは聞いた?」
「あ、それは聞きました」
「基本的にカリファデュラ神の子である私たちは皆魔力を持っているんだよ。もちろん、そのカリファデュラ神の子であるリン君も持っているはずだよ?」
へえ! 俺って魔力を持っているのか!
ということは、火を出したり何か浮かせたり色々できるのかな。
生まれてこの方、魔力とか感じたことはないと思うんだが、生まれつき魔力ってやつを持ってたから気づかなかったのか?
思わず手をわきわきと握ったり開いたり身体を見渡したりしてみるけど、何も変わらずいつもの俺だ。
「で、魔力の使い方教えてもらってないんでしょ? ――――お風呂、魔力使わないと水、でないよ?」
「え゛っ!」
なんですと!!!!
「湯船のお湯は私が入れたからきちんと温かいし溜まっているけど、シャワーとか使おうと思っても魔力使えないからお湯どころか水すらでないから不便でしょう? だから、お風呂入るの手伝うよ」
とても純粋な笑顔でそういうパルフェット様。
確かにシャワーが使えないのは困るけど……湯船のお湯を使えばどうにかなるのでは?
パルフェット様には大変お世話になっているみたいだし、これ以上お世話になるのも申し訳ない。
それに何といっても、いい歳した俺が裸でこんなに可愛い人にお風呂のお世話になるのは恥ずかしい…………!
「あの、パルフェット様。俺、湯船のお湯使って一人で入ります。恥ずかしいので…………」
「えぇー? でもプティはやる気満々だよ?」
『ほら』とパルフェット様が指さすその先には、可愛い可愛い天使ちゃんのプティ君が。
彼はすでに、スポンジを泡立てて右手に持っているそれを『ん!』と突き出してパルフェット様の言うとおりやる気満々で立っていた。
なんと可愛いことか!
天使ちゃんが俺が来るのを待っているじゃないか!
「断れるの? あれ」
「ぅぐ……そ、それは」
「無理だよね! じゃあ、諦めて、服脱ごうか!」
「ぇ゛っ! いや! あ、あの……」
ちょっ! ちょっとまってぇぇええええええええ!
そのふわふわと可愛らしい見た目と反してパルフェット様は力強いというか、肝っ玉があるというか、流石は子持ちというか…………。
はい、逆らえませんでした……。