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雨宿りのつもりが

 








 同行者が増えたことで、やはり十日の予定だった俺達の旅路は少し伸びた。

 しかし、いまのところ怪我もなく順調に進めていると言えるだろう。


 驚いたのが、少年。ヨルの博識さだった。

 ヨルの持っている知識は全て育ての親であるお爺様に教えてもらったとは言っていたが、薬草やその他植物などに関する知識が半端じゃなかった。

 ゼンでさえ、食べられないと思っていた植物が、下処理をきちんとすれば食べれるという事を今回の旅で初めて知ったと言っていたくらい。

 その代わりと言っては何だが、ヨルは本当に魔法が使えないみたいで。

 かと言って、魔力を全く持ってないというわけではないらしいので、特殊なピアス型の魔力制御装置のおかげで生活に必要な魔道具とかは扱えるみたいだが。

 その制御装置がないと、ちょっと前の俺みたいにモノを破壊するか、全く扱えないかのどちらかになってしまうのだそうだ。


 話は戻って、今ではゼンも俺も、ヨルにいろいろと植物など、特に薬草に関する知識を教えてもらっている。

 パルフェット様に治癒魔法を教えてもらったとはいえ、俺の魔法はまだまだ全然使いこなせていないので治せる範囲にも限りがある。

 そんな時に薬草の知識はとても活用できるので、教えてもらって損はない。


 今も、休憩しながらヨルに薬草に関していろいろと教えてもらっている所だった。



「この草は乾燥させて炒ってお茶にすると喉に良いんだ。風邪の予防にもなる。味はあまり美味しいとは言えないからビーンの蜜や砂糖を入れて飲むとすっきりと飲めるようになるぞ」

「なるほど」

「うがい薬みたいに使っても効果はあるのか?」

「うがいだけで済ませても効果は十分にある。けれど、しっかり飲んだ方が、胃腸の調子を整えてくれる効果もあるからお茶として飲むのが一番効率はいいな」

「ほうほう」



 俺はこの旅で必需品になったメモ帳に、今教えてもらった内容をメモをする。

 こういう時、絵を描くのも得意でよかった。

 薬草の絵を簡単に描いた後、ヨルが教えてくれる知識を書き込んでいく。



「ん…………、ひと雨振りそうだな」



 ちょうどメモを書き終わった時に、ゼンがそう言うので空の様子を見て見ると、確かに雲行きが良くなさそう。



「どうする? ゼン。このままテントを張って雨宿りするか?」

「いや、あと一時間も歩けば少し大きな村ががある。それまでは雨も降らないと思うから、今のうちに移動して、今回はそこで宿を取ろう」

「おぉ! 村があるのか! それなら早く移動しなきゃだな!」

「そこは温泉が有名だ。ゆっくりと休めるだろう」

「温泉! 俺入った事ないんだ!」



 村に温泉がある事を聞いて、一番村へ行くことに乗り気なヨルは、そそくさと旅支度を整えて準備万端で行く準備を完了している。

 そんなヨルの様子に微笑ましくなった俺は、カリスタに栄養補給と水分補給も兼ねて果物をあげて、村への旅路の準備を済ませた。



「よし、皆準備はできているようだな。じゃあ、あともうひと頑張り、雨が降る前に村へと向かおうか」

「おー!!」

「はーい」

「ギャオウ!」



 そこからの移動は、少し早歩きで移動したり。移動しにくい場所はカリスタに頑張ってもらって、俺とヨルは一人でカリスタに乗れないので二人ずつ二往復してもらったりなどして移動した。


 そして、村までもう一息、といったその時。



「しまった。降って来たな」



 雨がぽつりぽつりと降り出し、空からは雷の唸り声が聞こえてきてしまった。



「もう目の前だから急ごう」



 ゼンの言葉に頷いた俺達は、ローブのフードを被って雨よけをしながら、目的の村まで走った。

 視界に見えている村の入り口には、何やら人が二人立っているのが見える。

 見た所そこそこ大きな村だが、入口に番人がいるほど厳重に村の出入りを監視しているのだろうか。

 そして、雨に濡れながらようやく、村への入り口へとたどり着き、村の中へと入れてもらえないかと番人をしている人に話をしたのだが。



「すまない。今、村の中に人を入れるわけにはいかないんだ」

「え、どうして?」

「今、村の中で謎の病が流行っている。今は都心部の衛生兵達が来るのを待っている状態なんだ」

「もう間もなく来るかと思うんだが、この雨だ。もしかしたら到着はもう少し遅れるかもしれないな」



 何気なく理由を聞き返したが、そう簡単に村の中へと入れてもらえない理由があった。

 しかし、この雨だ。

 今からテントを開いて、雨をしのんでもいいが。村の周りはかなり拓けた大地で、普通にテントを開いただけではこれからもっと雨が強くなりそうな雰囲気の空の下だと、さすがに雨除けか何かなければテントが飛んでしまう。

 俺達が使っているテントは、リッシュ領にいた時にキャンプで使ったのと同じ魔法のボックスの中に入っているタイプのテントで、中が普通に暮らせるくらい設備が整っているとはいえ、表はテントに変わりはないわけで。

 さすがに、何か対策をしなければ強い嵐が来てしまったら、テントは飛んでしまう。



「どうする? ゼン。今からテント張れそうな場所をさがすか?」

「うーん。探している間に嵐になるだろうな…………」

「俺達もできるなら村の中で休んでほしいんだが、今はそれができる状況じゃなくてな」

「村に入れてあげれなくてすまない」


「……………………俺が診ようか? 俺は薬学の知識もあるが医学の知識もある。都心部の衛生兵が来るまでに何か力になれるかもしれない」


「えっ??」


 

 村の入り口についてから、何故か黙り込んでいたヨルが突然喋ったかと思ったら、その内容は自身が村で流行っている病を診ようか。という内容だった。



「しかし、村の医師でも原因不明でいまだ治せていない病だ。申し出は嬉しいが君のような若者が診て治るとはとても思えない」

「そうか。ちょっと邪魔するぞ」

「あっ! ちょっと! ヨル! 何入ってんだよ! 戻ってこい!」



 なんと、ヨルは村の番人の言葉を全く聞いてない様子で、俺の静止も聞かずに村の中へと入っていってしまった。

 慌てて村の番人さんと俺とでヨルを捕まえようとするが、スルスルと何かに導かれているかのように突き進むヨルを捕まえることは、雨の中という視界不良の中ではなかなか困難で。


 ヨルは、一つの建物を見つけると、その建物の扉を遠慮なく開け放った。



「ここか」

「ちょっ、ヨル! 勝手に入ったら…………、これは」



 ヨルが入った建物は、病院だったらしく。中は入り口付近から患者らしき人がたくさん溢れており、看護師らしき人が駆け回って手に負えていない様子だった。



「ひどいな。こんな状況だったとは」

「君達、これ以上はダメだ。関係のない君達まで感染してしまう!」



 冷静に状況を判断するゼンの言葉の後に、追いついてきた村の入口の番人だった人達が俺達がそれ以上進まないように行く手を阻むように盾になる。

 その隙間から見える患者らしき人達は、身体のどこかに必ず赤紫色の爛れたような模様が出来ており、熱や痛み、かゆみを訴える声がそこかしこから聞こえてきて。

 看護師の人達が、防護服らしき服を着て対応しているから、感染力の強い病気なのかもしれない。



「ちょっと、どいてくれ」

「君! これ以上は本当にダメだ! 君も感染してしまう!」

「ヨル! 止せ! 戻ってこい!」



 さすがの俺も、これ以上は本当にダメだと思い、ヨルを止めに入るが。ヨルは俺や番人の人の静止など全く聞かずに自分のバックから、簡易の防護服らしきモノと手袋を取り出して一番近くにいた患者を診始めた。



「熱はそこそこあるな。脈拍も少し早い。この火傷のような症状。あんた、喋れるか。いつからこの火傷のような症状が出た」

「ぅ…………、俺の弟が、同じ症状が出て。病院に連れて行った後から俺にも…………」

「ふむ。症状がでたのは見た所最近か」

「あぁ……、症状が出始めて、ここに来て二日目だ」

「なるほど」



 ヨルはてきぱきと患者の様子を診終わると、周りを見渡し、一人の看護師に声をかけた。



「そこのあんた! この病が出始めた最初の人物はどこにいる!?」

「ぇっ、あ、あなたどなたですか??」

「そんなことよりも! 最初の患者は何処だ!?」

「ぁ、あのこっちです!」

「リンタロウ! ゼン! お前達も手伝ってくれ! 急がないと死人が出る!」

「えぇ!?」

「わかった」



 ヨルは俺とゼンを呼ぶと、まだ持っていたらしい防護服と手袋を俺達にも渡して、視線で付いてくるように訴えてきたので防護服などを着ながらついて行くしかなかった。

 戸惑う看護師の案内について行くヨル。その後ろに同じく戸惑いながらついて行く俺。そして、どこまでも冷静なゼンとその一番最後の後ろを如何したモノかと逡巡しついてくる村の番人の人達。

 さすがに、ヨルから死人が出るといった言葉が出たのが番人の人達を迷わせる事になったのだろう。


 そして、病院の一番奥の部屋へとたどり着いて中に入ると。

 その部屋の中はたくさんのベッドがあり、病院の入り口付近にいた人達よりも明らかに症状が酷かった。

 患者の火傷の様な痣は全身を覆いつくすように広がっており、呼吸も浅く、何より患者の多くは子供ばかりだ。

 俺はヨルが言った言葉が嘘ではない事に、背中をつうっと流れる冷や汗で感じ取る。



「だ、誰だね! 君達は! ここに入っちゃいかん!」



 おそらく、この病院の医師であろう人物が、部屋で患者を診ていたのだろう手を止めて、突然入ってきた俺達に静止をかけた。



「一番最初の患者はその子か」



 ヨルは確信をもって、たった今医師が診ていた患者に近づくとその子供を触診し始めた。

 最初の患者というだけあって、その子供は顔の右半分まで爛れてしまっており、全身も素肌が見えなくなってしまっているほど包帯に巻かれて、症状が周りの誰よりも酷い事が分かる。



「な、なんなんだね。君達は…………」

「驚かせてしまい申し訳ない。しかし、悪いようにはしませんのでどうかお許しを」



 患者の様子を診ているヨルの代わりに、ゼンが戸惑ってしまっている医師に対してそう言った。

 ヨルとゼン以外、俺も含めて多くの人間が何が何だか分からないこの状況。

 逆にそれが良かったのか、ヨルの診断はすぐに済んだ。



「これは魔草()()()()の毒にやられている」

()()()()?」

「馬鹿な、あの魔草はこんな平野ではなく、高い山に咲くとされる花だ。この村でその毒にやられるわけが…………」

「でも、この症状は確かにサシニアの毒の症状だ。この子供、早く対処しないともたないぞ」

「し、しかし、サシニアの花は知っているが、治療法までは…………」

「やはり、都心部の衛生兵を待つしかないのか」



 どうやらここの村の医師では、ヨルが言うサシニアという花の毒の対処はできないみたいだ。

 医師の言葉に、村の人間に絶望の表情が垣間見えたその時。



「俺が治す。このメモに書かれている薬草くらいこの辺の森の中でも取れるだろう? 大量に必要だ。あと、メモの横に描いた絵の特徴の花には絶対触れるな。見た目綺麗な花だがそれがサシニアの花だ。もしかしたら去年から今年にかけて何か理由があって山から種が降りて来て根付いてしまったのかもしれない」

「ぇ、あ……、その」

「早くしろ! 子供を死なせたいのか!?」

「わ、わかった!」



 ヨルは番人だった人達に、早くしろとメモを叩き渡して催促をし、それを受けた番人の人達は大慌てで外へと飛び出していった。

 そして、まだ戸惑っている様子の医師達には。



「ここには聖水はないのか? この病院にいる患者全員分だと相当の数が必要だが」

「聖水はあるにはある。しかし、患者全員分となると…………」

「それなら治癒魔法を使える奴は? 今から聖水を精製していけばどうにかなるだろ」

「それなら私が精製できるが、患者全員分はさすがに魔力がもたない」

「そうか、なら、リンタロウ」

「へ、俺?」



 完全に自分が呼ばれると思っていなくて、魔草やら聖水やら、でたよファンタジー。と油断していた俺は、ヨルに突然名前を呼ばれて驚いた。

 話はきちんと聞いていたので、呼ばれた理由はなんとなく分かるが、俺の治癒魔法なんてまだまだ拙い魔法だし、治癒魔法は教えてもらったが聖水の作り方までは分からない。

 もちろん、俺の治癒魔法の拙さは一緒に旅をしていて見せた事があるヨルも知っているはずだが。



「リンタロウ、お前が聖水を作るんだ」

「ぃ、いや、待て。ヨル、お前も知っているだろう? 俺の治癒魔法のできはこの前見せた通り、簡単な擦り傷を治す程度ならできるが、聖水を作るだなんてやったことも教えてもらった事もない」

「でも、リンタロウの魔力の多さならきっとできる」



『大量の聖水が』とそう言うヨルの真剣な表情を見てしまうと、これ以上できないとは言い切れない。

 旅の途中で、ゼンが笑い話として出した俺の破壊神と呼ばれた魔力の多さの話をしたのをヨルは覚えてたんだな。



「ん~~っ! …………わかった。やってみる。けど、失敗しても文句は言わせないからな!」

「そこは破壊神発動しなくていいからな!」

「誰が破壊神か! …………そうならないように頑張る」

「はははっ! ありがとう! リンタロウ!」



 聖水の作り方は、ここの医師の人が教えてくれるらしいので、俺はこうして初めての聖水を大量精製することになったのだ。


 いろいろと不安があるが、ここに居る皆や、尽力を尽くそうとしているヨル達の為だ。

 皆、待ってろよ。

 

 

 


 


 

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