どうすんの?
「ゼン、これは?」
「それは大丈夫。食べられる」
俺がリッシュ領を出てから、今日で三日目になる昼前。
旅は今のところ順調に進み、俺とゼンは、森の中で今日の昼飯の食料調達をしていた。
ある程度日持ちする食料は持っているが、これも勉強の一つということで、森の中でゼンが食べれる食材をいろいろと教えてくれる。
まぁ、マジックバッグに入れとけば、その時点で保存魔法で腐ったりはしないというファンタジーな便利道具があるから食糧には困ってないんだが。いつ食料が底をついてもいいように果物やキノコなど、食べれる食材を少しでも追加で集めておく必要はある。
カリスタは、こういう飯時になったら自分で狩りに行くのでそこまで食糧の心配はしてないが。俺達が何か食べてると、デザートに果物などを食べたがるのでその分はなるべく追加で補充しとかなければ、あの子は結構食べるから。
旅は、ずっとカリスタに乗って移動するのかと思ったらそうではなく。
カリスタが俺達二人を乗せて一度に移動できるのは約二時間ほど。
そりゃあ、あの子も生き物だから体力の限界があるし、そんなカリスタが疲れすぎないように半日に二時間だけカリスタに乗っている。
特に、険しい道のりや、人じゃ乗り越えられない場所など、そういう時にカリスタにはお世話になっている。
その他は、少し休んだら歩いている俺達を追いかけて飛んできては休んで、とそれを繰り返している。
でも、どうやって俺達の居場所が分かるか気になるだろ?
なんか、ゼンに聞いたらカリスタとゼンは魔法で主従契約を施しているらしく、それで居場所がお互い分かるようだ。
たまに人の飛竜を盗む奴もいるみたいだし、防犯などにもなるとの事。
「なぁ、ゼン」
「しっ、リンタロウ……静かに」
急に俺の言葉を遮ったと思ったら、どこかを向いて耳を澄ませている様子のゼン。
俺もそれに倣って耳を澄ませてみるが、風の音や木々のざわめきが聞こえるだけでよく分からない。
「…………リンタロウ、ここに居てくれ。森の奥がどうやら騒がしい、様子を見てくる」
「え、俺、何も聞こえなかったけど」
「ふっ、耳も良いものでね」
ゼンはそう言うと、もう一度念を押して俺にこの場にいるようにと言い、物凄いスピードでどこかへ向かって言った。
「…………はや」
この場で待てとは言われたものの、突然放置されてこの場を動くなと言われたら何もすることが無くて逆に困る。
どうしたものかと、ひとりその場で摘める木苺などを摘んで暇をつぶそうかしたその時。
「ん? …………なんか、騒がしい?」
ゼンが言っていた通り、何やら騒がしいというか、何かが暴れているというか、走っているというか。
それに交じって悲鳴のような声が聞こえる気がする。
…………もしかしなくても、音、近づいて来てるよな?
「え、なんか近づいて来る!?」
ゼンにはこの場に居ろって言われたけど、どうする!?
逃げる!? それとも近くを通り過ぎるのに賭けるか!?
「――――ぅぁぁぁぁああああああああ!」
バサァッ!!!!!
凄い音が近づいているのを分かりつつ、どう行動したものかと考えていた矢先、近くの茂みから誰かが飛び出してきた!
「えぇ!? 何!?」
しかもその誰かは、俺の手を握って走るスピードを落とさずにそのまま走り出すじゃないか!
「はぁああ!?」
何が何だかわからず、引っ張られている手をそのまま俺も走りだし、凄い音で近づいて来る何かから逃げる俺ともう一人。
普通に魔力を使わずに走っているだけなので、凄い音で近づいて来る何かとの距離はどんどんと詰まっていっていて。
バキィッ!!! という激しい音を出しながら木をへし折って出てきた凄い音の何かの正体に俺は目を見開いた。
「なんじゃこいつぅぅぅううううううううう!!!!!!!!」
凄い音を出して俺達? というか、元はおそらく俺の手を引っ張っている奴を追いかけていたであろう何かは、豚なのか猪なのかサイなのかよくわからないでかい動物であった。
「何あれ!?」
「山猪だよ! 知らないの!?」
「知るか! そもそもお前も誰だよ!?」
そんなこと話している場合じゃねぇ!! このままじゃ追いつかれる!!
俺は全身に魔力を巡らせ、身体強化をし、仕方なく俺の手を引っ張っている奴の事を担ぎ上げて思いっきり逃げ出した。
担ぐ相手が俺より小さいから良かったけれども、この状態で逃げ続ける事なんて無理だぞ!
「おい! あんた! 自分の魔力で身体強化して走れないのか!? それともさっきのが最大限!?」
「あはは! 俺、魔力操作苦手でそういうの一切できないんだよなぁ」
「はぁあああ!? どうやって生活してんだよ!」
「そこはー、便利な魔道具を爺様から貰ってるから生活道具はどうにか使えるんだ!」
マジかよ! ずっとこいつ抱えたまま走るのなんて無理!
ていうか、こいつ担がれてるだけだから急に明るく話し出しやがった!!
「あ、追いつかれそうだぞ! 頑張れ!」
「お前が言うな!!」
なんだこいつ!? その辺に捨て置くぞ!!!
「ぉぉおおお助けぇええええええええ!!!!」
「俺の台詞だよ!!!」
それ今一番言いたいのは俺!!
…………はっ! そうだ! こういう時こそ!
ピィイイイイイイイイイイ!!!!
「ゼェェェェエエエンンン!!! なんでもいいから助けろ!!!」
まさか、こんなところでリッシュ家の子供達に貰った笛を使うことになるなんて思いもしなかったよ!!
笛を吹いてどれくらいでゼンが来てくれるかなんて分からないけど、それまで逃げるしかない!
後ろをチラリとみると三頭の山猪という動物が追いかけて来ている。
ていうかあれが猪!? 豚みたいな見た目だけど猪みたいに牙があってサイみたいに顔に角生えてるんだぞ!?
あと、でかさが規格外!!!
「はぁ! はぁ! まじで! やばいって!!」
「えぇ!? 頑張ってくれ! じゃないと俺が危ない!」
「うるせぇ! さっきまで自分で走って逃げれてたなら自分で逃げろ!!!」
こうやってぎゃあぎゃあ、こいつと言い合っても仕方がないし、無駄に体力使う!
ゼンー! まだかぁ!?
さすがにプティ君の時とは違って、俺と歳が近そうな奴を抱えて走り続けるのは体力の消費量が全然違う!
「ぶひぃいいいいいい!!!!」
「えぇ!? めっちゃ怒ってるじゃん!? くっそぉおおお! いい加減助けに来いよ! ゼェエエエン!!!!」
「はいはい」
どっすぅううううううんんんん!!!!!!
物凄い音と一緒に、三頭もいた山猪達は俺達を追いかける事を止めた。
というよりか、仕留められた。ゼンによって。
「ぜぇ、はぁ、ぜぇ、はぁ。おま、遅いんだよ、助けに来るの」
「リンタロウがいつ助けを呼んでくれるかと思ってな。試してみた」
「試すな!! 死ぬかと思ったわ!!」
「というより、いつ拾ったんだ? その子」
「拾ってないわ! 巻き込まれたんだ!!」
俺はずっと抱えていた謎の人物をようやくおろし、初めてまともに顔を見た。
………………一瞬、女の子かと思ったけど、こいつも男なんだよな?
まるで、前の世界でのアイドルのような可愛らしい顔立ちの少年? は、俺からおりると身体についていた葉っぱやらなんやらをパンパンとはたき落とし、星がちりばめられているかのようにキラキラとした、まるで夕暮れ時のような不思議な色合いのぱっちりとした瞳をこちらに真っすぐと向ける。
夜空のような群青色の髪がおさげになっているのも、女の子の様に見える理由の一つかもしれない。
「そこのお前! 助けてくれたこと感謝する! この未来の英雄王である俺の側近にしてやってもいいぞ!」
「………………遠慮します」
「俺も、右に同じで。俺はリンタロウのなんでね」
「何!? 英雄王だぞ!? まだなってないけど、未来の英雄王になる男だぞ!!」
この世界って顔が良いと個性強いのか…………?
そういうファンタジー設定なわけ?
いや、どちらかというと普通の雰囲気を出していたドゥース様も、ぶっ飛んでるとこあったな。
あと、双子。
プティ君、君はそのまま素直に育ってくれ。どうかパルフェット様と双子の影響受けませんように。
遅いと思うけど……。
ベルトラン君、君だけが頼りだ。
あと、ゼン。俺はお前を所有した覚えはないぞ。
どちらかというと、今は俺が世話になってるていうか。
いやいや、今はそんな事考えている暇じゃ無いんだった。
ていうか、この山猪達、どうすんの……。
あと、いまだに未来の英雄王のどうのこうの言っているこの子。英雄王ってそもそも何それ。
……………………どうすんの、この状況。
いつの間にか、少年は英雄王とやらがどんなに凄い存在なのかを語りだしちゃったし。
ゼンはゼンで、俺の事放置で山猪達の所に行っちゃったし。
本当、どうすんの。これ……………………。




