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目覚め


 あははは!


 わーい! こっちにおーいでー!


 まてー!!!


 きゃはははは!










 ………………こどものこえ?

 いったいどこから……。


 遠くから子供の声が聞こえてくる。

 とても楽しく遊ぶ子供の声。

 俺は子供が遊ぶようなところにいたっけ? と気怠い頭で思い返してみると、ゆっくりと思いだした最後の記憶は森の中で超絶イケメンに湖で溺れかけた所を助けられたという記憶だ。


 そうだよ。

 俺はあの鬱蒼とした森の中にいたはずで、子供がきゃっきゃした声を上げて遊べるような場所にいなかったはずなのだ。


 どういう事か確認しなくては。


 その考えに行き着いた俺は、自分の状況を確認しようと閉じていたらしい瞼をゆっくりと開く。

 すると、チカッと瞳に入ってきた光が眩しくてもう一度目を閉じそうになるが、掌で目の周りを覆い光を軽減しつつ、瞼を震わせながら開くとそこに見えたのは見覚えのない天井だった。








 …………………………何処だ。 ここは。


 どうやら俺はベッドの上に横たわっているらしい。

 深く沈み込んでいる身体から感じる肌触りのいいシーツに、フカフカの枕とベッドの感触がとても気持ちが良く、うっかりもう一度瞼を閉じてしまいそうだ……。


 …………っじゃない!

 何処だここは!


 がばり! と身体を起こして見渡すと、俺がいるのはそこそこ広い西洋風のデザインの部屋で。

 横たわっているベッドのすぐ近くには天井近くから床までの大きな窓があり、そこから燦々と明るい日差しが部屋の中を照らしている。

 そしてそこから、聞こえてくる子供たちの楽しそうな声。

 先ほどから聞こえていた声はこれだったのか。


 次に俺は自分のことを確認してみると、最後の記憶にある自分の服装ではないパジャマに着替えさせられていた。


 ぇ、誰が着替えさせたんだろう。


 正直、誰かわからない人物に着替えさせられたという事実に少し恐怖が湧く。


 思わず、着替え以外何か変なことをされてやいないか、と青ざめながら自分の身体を隈なく見ていくが。縛られてもいないし怪我もしてないみたいだし、体調も不調どころかぐっすりと眠っていたからか、とてつもなく快調っぽい。


 一応不審な点は見当たらなかったので、大丈夫ではないのだろうか……。

 誰かこの状況を説明してくれ。








 ――――ガチャ



「…………ん? おやおや! 良かった! お目覚めのようだねぇ」



 状況説明を欲した瞬間、タイミング良く部屋の扉が開き誰かが入ってきた。

 はっとして扉の方を見ると、そこから見えた人の姿に再びはっとした。

 というより、ぎょっとしたといった方が正しいか。


 なんと、姿を見せた人物の髪がピンクだったのだ。

 そう、ピンクである。

 大事なことなのでもう一度言おう。


 ()()()だ。


 ど派手なピンクではなく、桜の花弁のような白っぽい淡いピンクなのだが、日本人というよりは人間には染めたり鬘でない限りありえないその色に二度見どころか三度見、四度見くらいしても足りない。

 そして、こちらを見てくる瞳は美味しそうなレモンイエローのキャンディーのよう。


 他にもいくつかぎょっとした理由があるのだが、まずはその容貌だ。

 柔らかい大きな垂れ目に慎ましいピンク色の唇。

 卵型の小さなフェイスはとてつもなく可愛くて、守ってあげたくなる雰囲気である。

 ゆったりとウェーブした長い髪を項近くで大きなリボンで一つに結んでいるのも可愛さにつながっている。

 俺はその人物の顔を見た瞬間、見たことがない可愛らしい女性だと思った。


 だが、そうではなかった。


 次にぎょっとしたもう一つ理由。




 声が……男性の声だったのだ。




 その声は男性にしては高い方だとは思うが、明らかに女性と言い張るには無理がある。

 それに、その女性かと思ったその人は、腕を握ったら簡単に折れてしまいそうなくらい女性に近い細身だが。良く見ると女性にしては身長が高いし、何よりあれだ。 失礼なことだとは分かっているが、女性にあるはずの胸がない。


 嘘だろ…………、こんな可愛い人が男なのか?


 これは所謂、女装コスプレというやつなのだろうか?

 目の前の人物を不躾にもじっくり観察してみても、カツラにしてはつなぎ目が見えないし、瞳もカラコンの不自然な色ではないような……。


 驚愕し、考え込んで一言も話さない俺に、その辺の女性より女性らしい顔立ちの、おそらく男性である人物が可憐に首をこてんと傾げる様子も様になっていて可愛らしい。



「んーと、気分はどうだい? 君がここにきてもう四日目になる。君は今までずっと眠っていたんだよ」

「ぇ゛! っ……! けほ! けほっ!」

「っ! 大丈夫かい? 何日も眠っていたんだ。喉も乾いてしまってるだろうし、無理して話さなくていいよ。今、水を持ってこさせるから。プティ、お水を持ってきてくれるかい? あと、ゼン君を呼んできて」



 開けていた部屋の扉をそのままに、可愛い人は咳き込む俺に駆け寄ると背中をさすってくれた。


 何このデジャブ。

 そういえば俺、湖から助けてくれた超絶イケメンにも同じようにさすってもらったっけ。


 可愛い人は俺の背をさすりながら、開けたままの扉の方向を見て、誰かに水を持ってくるように頼んでおり。

 その言葉と可愛い人の視線につられて俺は開いている扉を見ると…………。




 っぐはぁ!!!

 なんだあの生き物は!




 視線の先の扉に身体を半分隠してそこにいたのは、今俺の背をさすってくれている可愛い人のミニチュア版。

 というか、むしろ子供らしいふくふくとしたほっぺやサイズ感、横にいる可愛い人と違った短いウェーブのボブヘアのおかげで可愛さが増し増しの天使がそこにいた!


 なんという破壊力!

 俺のライフはゼロだ!


 なんてふざけた台詞を心の中で叫んでいると、目の前の天使は『ん!』と頷き、とたとたと目の前から走り去っていった。

『少し、待っててね』 と言いながら、優しい視線と笑みを向けてくる可愛い人にもノックアウト寸前だ。

 おそらく二人は家族なんだろう。

 がっつりと、二人が見た目で血縁関係がありありなのだと解るが。

 なんというか、無意識のこの可愛さで人を殺しにかかってくる感じもこの二人が血縁関係であるという確信を突いてくる。



「そうそう。君がここに来たときは全身ずぶ濡れで、しかも高熱が出ている状態だったから私が着替えさせたんだ。勝手にごめんね? 君の服は洗濯して部屋のタンスの中に今はしまってあるよ」



 ぇ、俺そんな状態だったの?

 親切心で着替えさせてくれたのに、さっき勝手に着替えさせられたと恐怖した考えが恥ずかしくなった。

 ここは、きちんと感謝を示さねば。



「ぁ゛、りがとぅ、っけほ」

「あぁ、無理してしゃべらなくてもいいよ。喋りにくいでしょう? きっと高熱の影響もあるのかも。熱が下がったのも昨日の夕方のことだからね、無理しちゃいけない」



 言葉で返事を返せない代わりに、首を縦に振り肯定する。


 というより、俺は三日も高熱が出てたのか。


 超絶イケメンに助けられた後の出来事の記憶を、よく思い返してみると。

 そういえばあの後は、超絶イケメンの謎の言語に理解ができず訝しがっていた所を頭を鷲掴みにされ、頭といわず全身に激痛が走り気絶したのだった。




 そもそも、あの理解できない言語は何だったのか?




「汗もたくさん出ていたし、気持ちが悪いかな? と思ってお湯で君を拭いてあげようと準備して来たんだけど。…………君も起きたことだし体調が大丈夫そうだったら、身体を拭くより綺麗さっぱり! お風呂に入った方がすっきりするかな?」


「っ!」



 おぉ! 風呂!

 あちこちベタベタするし、普段体臭はしないほうだが臭いも気になる。

 俺はありがたい申し出に何回も頷いて、お風呂をいただくことにした。



「ふふっ。じゃあ、お湯を沸かして溜めてくるからちょっと待っててね」



 そう言うと可愛い人は部屋から出ていった。

 とても優しい人だ。

 …………こんなに人に優しく接してもらったのはいつぶりだろうか。


 それにしても、可愛い人が発していた言語は日本語だった。

 でも、明らかに彼の見た目は日本人ではないし、日本特有の文化であったコスプレでもない。

 近くで見たからはっきりと分かる。


 日本人離れした彼の髪や目の色は本物。

 きちんと髪は頭皮から生えてたし、何なら眉毛や睫毛まで綺麗な桜の花弁のようなピンクだった。


 では、なぜ彼が日本語を話しているのか。

 なんかいまいち腑に落ちないことが多い。

 突然知らない場所の湖に落ちたり、変な言語で話す超絶イケメンに会ったり、世界中どこを探してもいないであろう髪色をした人がいたり…………。









 ………………………………ははっ、いや、まさか。

 …………んなバカな。


 一瞬頭をよぎった考え。

 信じたくはない。

 信じたくないが、いろいろと考えを巡らせてもその考えしか行き着かない事実に恐怖してくる。


 思わず頭を抱えた時、扉からコンコンと小さなノック音が聞こえるとガチャリと控えめに扉が開いた。

 そこからひょこりと顔を出したのは、先ほどの天使ちゃんだ。



「ぁの、お兄さん。お水…………どうぞ」

「ぁりがと」



 先ほどより声が出るようになっている気がするがやはりまだイガイガと発声がしずらい。

 水の入ったコップをおずおずと差し出してくれる天使ちゃんにまたノックアウトされそうだと思いながら、水を受け取りごくごくと中身を一気に飲み干した。



「ぷはぁ! すぅはー……生き返った。ありがとう」

「ど、どういたしまして……コップ、ください」

「いいの? 本当にありがとう」



 可愛い天使ちゃんにお世話してもらって感謝しないわけがなく、素直に心からのお礼を言ったのだが。

 天使ちゃんは顔を赤くしてコップを受け取るとペコリと勢いよくお辞儀をして、まるで子ウサギが怯えて逃げるかのように部屋から出て行こうとする。


 あぁ、可愛い天使ちゃんが行ってしまう。


 そう思って名残惜しく行き先を目で追うと、部屋の出入り口にあの超絶イケメンがいるではないか!!!



「ぁっ! あんた!」



 突然の大きな俺の声に可愛い天使ちゃんは肩をビクつかせてさらに走る勢いを増して、部屋を完全に出て行ってしまった。


 あぁ、天使ちゃん! 驚かせてごめんね。



「……………………おはよう。その様子を見ると目覚めは快調のようだな」

「ぇ…………え! あぁああ、あ、あんた! 日本語!?」



 超絶イケメンは、俺のどもって驚く様子がどこかツボに入ったのかクスクスと笑っている。

 イケメンは笑い方もイケメンだ。


 って、笑い事じゃないからな!!!!

 説明! 求む!!


 なんだよ! イケメンは態度も余裕で癪に触るな。

 驚いたりすると誰だってどもるだろ。

 記憶の中のイケメンは初め変な言葉を発してたのに、再び会ったら流暢な日本語を話してるなんて……!

 どういうことだよ。

 わけわかんないだろ!


 目の前の余裕綽々なイケメンに睨みを利かせ、先程の自分が発した声より大きめの声でイケメンを問いただすのであった。


 決して照れ隠しとかそういうんじゃないからなぁ!









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