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超絶イケメン

 空が、夜の静けさを名残惜しそうにしているところに、その隅から夜を優しく変える太陽が姿を現し始める早朝。

 山奥の大きな湖畔は濃い霧で覆われており、そのすぐ近くの木の上には湖畔を静かに見つめる一人の影があった。

 放射冷却で冷える空気に影の人物は、ふぅ、と息を漏らしながら湖畔に目を逸らさずに見つめ続けている。


 もうすぐ太陽が空の隅から三分の一ほど見えてくるかと思われたその時、冷えていた空気がより一層キンッっと冷たさを増し空気が震えた。






「――――――っ」











 湖畔の中心に近い部分の空中。

 まるで雷雲を凝縮したような、人の拳ほどの渦が大きな音と共に現れる。

 渦は徐々に大きさを増していき最後に一際大きな音を立てると、渦の中からずるりと人影が落ちてきた。





「ぅ、ふぁ!?」






 どっぼん!












 *********











 世界がぐるりと大きく回ったと思った次の瞬間には、俺の身体は浮遊感を感じ、冷たい水の中に叩き付けられていた。

 上も下も左右さえ分からない水の中、俺は空気を求めて水面に上がろうともがく。

 だが、思いのほかこの水の中は深いのと、身体にまとわりつく服が邪魔をしてるらしく、なかなか水面へと上がる事ができない。


 くそ! 息が持たない!


 突然水の中に入ったので、ただでさえ呼吸に余裕が無かったのに、がぽりと口から更に空気が漏れ出る。

 もうだめかと思ったその矢先、もがきながら無意識に上へと伸ばしていた手を、力強く誰かに掴まれて引き上げられた。



「――――っヒュ! げほ! ごほ!」



 誰かに水面へ引き上げられた俺は、肺から無くなってしまっていた空気を取り戻すように息を吸い込むが、咳き込んでしまい呼吸がままならない。

 そんな俺を力強く水の中から引き上げてくれたであろう誰かは、激しく咳き込んだままの俺をこれまた力強く支えると水の中を泳ぎ、陸地らしき所まで引き上げてくれた。



「げほっこほっ! ……はぁ、はぁ」



 無事に水の中から助けてもらったけれど、水から引き上げられてから咳が落ち着かない俺の背中を、助けてくれた人物は優しく叩きさすってくれて。

 そうしてもらっているうちに、だんだんと呼吸が楽になってきて、ようやく周りを見る余裕ができた俺はまだ息苦しさを感じながらもそろっと辺りを見渡してみた。


 後ろを向くと大きな湖。

 俺はここに落ちたのか。

 そしてその周りは鬱蒼とした森が広がっていた。


 ……おかしい。

 俺はさっきまで、ジャングルはジャングルでも、コンクリートジャングルのど真ん中の大学にいたはず。

 なんだここは。

 どういう状況で、正反対の森林の中にいるというのだ。


 混乱していく思考の中、いまだに俺の背を優しくさすってくれる人物に目を向けると、その人物は優しい手の持ち主に相応しい眼差しで俺のことを見ていた。





 ……………………いやいや、なんだこのイケメン。





 思わず、まじまじと見入ってしまうほどの絶世のイケメン。

 暖かく優しい太陽のような黄金の金髪に、まるでアメシストのように美しく輝く瞳。

 陶器のようにつるりとした肌にすっと通った鼻は高く、薄くもなく厚くもない唇は優しく弧を描いていた。

 イケメンが着ている服がノースリーブなので、しっかりと鍛えられている腕がまる見えだし。

 それにつられて見てみた上半身は、水に濡れて服が身体に張り付いているのでその形がはっきりと見え、逞しい腕に相応しい美しく鍛えられた逆三角形であるのが解る。


 そして、何よりその男の後ろで上っている眩しい太陽が、男をさらに神々しく魅せるように演出していた。




 負けた。


 生まれてこの方、自分は美形に入る部類であると思っていたがそれは間違いで、これからはその傲慢な考えを改めようと思うくらい目の前にいる男は超絶イケメンであった。

 肩にかかるかかからないかくらいの髪を、ハーフアップにしているその男の結ばれていない前髪から滴る水が、まるでその男を飾る宝石に見えるくらいに様になっている。

 まさに水も滴るいい男とはこういう男のことをいうのだ。


 色気が半端じゃない。


 普段の俺なら、先程まで学校前にいた時には日差しは真上にあった昼であったはずなのに、神々しく昇る日差しが朝日であるという時間の異変にもいち早く気づくはず。

 しかし、それに気づけないほどの衝撃を俺は目の前の人物から受けていた。

 


「っ*ΑΓΔΦ・とケΟβ?」

「へっ?」

「っ*ΑΓΔΦ・とケΟβ? ΣァルΔγ」

「…………ぇ、何?」



 そんな超絶イケメンの口からこぼれた声音は、それはそれは男の俺でも一度聞けば惚れてしまうような、とろりとしたイケメンボイスであった。

 だが、その男が発したおそらく言語と思われるものに理解が追い付かず、惚れそうと思った俺の考えは一瞬で消え去った。

 一応、俺は二か国語以上話せるマルチリンガルなのだが、この男が話した言語は全くもって理解できなかった。


 え、むしろどうやってんのその発音。


 男は『へ?』と聞き返した俺に同じ言語らしきものと、プラスアルファを加えて再び声をかけてきたが理解できん。

 俺の目がよっぽど訝しがっていたのであろう。

 男は困ったように笑いながら、水にぬれたせいで顔に張り付いていた前髪を少し鬱陶し気にはらい、空を見て少し考えこんだ末に俺の頭にその大きな手のひらをのせた。



「*ΘΠ」

「????」



 次に発した言葉は一番短い。

 言葉は理解できないが、その声音と表情、雰囲気からどうやら謝られてる?? と、俺は漠然と思い男の様子を窺う。

 すると男は俺の頭の上にのせていた手に、というよりかは指にぐっと力を入れて頭を掴むように力を加えた。

 思わず咄嗟に逃げようかと思ったが、力強く掴まれており、軽くかわそうと身を引いたくらいではびくともせず。

 優し気な表情から一変して真剣な表情に変化した男が次に発した言葉はもう言葉として理解できず、音としか理解ができななかった。



「――――――!!」

「……っづぁ!!!!!!」



 男が発した音を聞いた一、二秒後。

 頭に激痛が走った。

 むしろ、頭といわず全身を突き抜けるような痛みだ。


 俺は自分の身に何が起こったか解らず、視界がぼやけ身体が傾く。

 意識が飛ぶ直前、霞む視界の中見えた男はまた優しい表情に戻っているように見えた。

 そして倒れこむ俺を優しく支えてくれているようで、そこまでは意識を保てたので状況を把握できたが、限界が来た俺の目の前は暗くなっていく。

 視界は暗くなったが意識が完全に飛びきる前の俺の耳に聞こえたのは、男のとろりとした優しい声で。






「おかえり……」






 そう日本語が聞こえた気がした。











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