13.辟易するルーファスとアリシアの提案
ランチタイム、いつものようにアリシアとケイシー、ジャニスの三人で食堂へ向かっていると、その入口にルーファスの従者が待っていた。
「アリシア様、殿下が別室でお待ちでございます」
その言葉にアリシアは驚いた。朝、彼と別れたときはなにも言っていなかったからだ。
しかし、人目のあるこの場でそれを口にすることはできない。ユーリェがなんの勝算もなくこの学園に編入したとは思えない。つまり、彼女の信者はすでにこの学園に入り込んでおり、アリシアの一挙手一投足を監視しているかもしれないのだ。ルーファスと意思疎通の取れていないところをユーリェに見せるわけにはいかない。
「わかりました、参りますわ」
アリシアは何事もなかったかのようにそれを受け入れ、友人のふたりには、
「では、午後の講義で会いましょう」
と言って、こっそり片目をつぶってみせた。
そのウィンクになにかあると得心したふたりは、さも当然のように、
「わかりました、ではあとで」
と言い、アリシアを見送った。
従者に案内された部屋にはすでに食事が並べられており、ルーファスは訪れたアリシアを歓迎した。
「よかった、来てくれて」
アリシアはルーファスに促されるままに席に座り、従者は扉を閉め、部屋から出て行った。サーブが済んでいるこの状態なら、給仕は必要なく、部屋にはメイドもいない。
だからだろうか、ルーファスは大きくため息をついている。アリシアの前でもこんな風に疲れを見せるとは、なにがあったのだろう。
「ずいぶん疲れているようですが、なにかございましたか?」
アリシアの問いにルーファスは再度大きなため息をつき、
「どうもこうもないよ」
と、心底うんざりだという声色で言った。
「休み時間の度にユーリェ皇女が教室に現れるんだ。もううんざりだよ、悪いけど君を利用させてもらった」
「利用って?」
「今日のランチはシアと取る約束をしている、と言って断ったんだ」
「それは」
ルーファスの言葉にアリシアは困った顔で黙った。
「良案でないのは分かってるさ、でもしつこくて」
ルーファスは、もう何度目かわからないため息をついている。彼をここまで辟易させるとは、ユーリェが一筋縄ではいかない相手であることが伺える。
アリシアは言葉を選びながら発言をした。
「一度、ユーリェ皇女と面会の機会を作られてはいかがでしょうか。きっと、想いを伝えたいのだと思いますわ」
その言葉に、案の定、ルーファスは険しい顔になる。
「シアはわたしが告白をされても平気なの?」
「平気ではないわ。でもエゼル様に恋するユーリェ皇女の気持ちは、わからないではないわ」
「ふぅん」
ルーファスは手を伸ばし、アリシアのそれを掴み逃げられないようにすると、首をかしげた。
「何故、彼女の気持ちがわかるの?」
「分かっているくせに、聞かないで」
「分からない。全然、分からないなぁ」
ルーファスはもう片方の手をアリシアの顎に添え、上を向かせると、
「教えて」
と艶のある瞳でアリシアを見つめ、そうさせられたアリシアは顔を赤らめ、彼から目を反らしつつも正直に答えた。
「わたくしも、エゼル様に恋をしているから、わかるの」
「いいね、素直なシアは好きだよ」
アリシアの答えに満足したルーファスは、ご褒美だと言わんばかりに彼女に深い口づけを与え、アリシアも素直にそれを受け止めた。
ゆっくりとアリシアを味わい、また、自身を味わわせたルーファスは、黒い笑みで微笑むと宣言した。
「わかった、婚約者殿の意見を採用しよう」
ルーファスの言葉にアリシアは安堵すると同時に、悲しくもなった。
ユーリェがどこまで本気の恋をしているかはわからないが、このままやみくもにルーファスを追いかけ続けていては、彼女の醜聞になりかねない。だから落ち着いて話をできる環境を提供すべきだと考えたのだ。しかし、それは同時に彼女がルーファスに告白する場となるわけで、愛する男性が他の令嬢から告白を受けるなど、アリシアにとっては面白くないに決まっている。
複雑な顔を見せるアリシアにルーファスはくすりと笑って言う。
「心配しないで、君も同席してもらうから」
「え゛?」
どこの世界に恋人同伴で恋敵との面会をする人間がいるというのか。
あまりの提案にアリシアは言葉を失うが、対するルーファスはぺらぺらと理由を述べている。
「わたしは愛するひとには秘密を持ちたくないんだ。ちょっとしたことでもそれが後々、大きな亀裂にならないとは言い切れないだろう?」
「それはそうかもしれませんが」
ルーファスと話ができるとユーリェを喜ばせておいて、実はアリシアが同席します、というオチを作りたいのか、彼はこれほどに悪趣味な人物だったのか。
彼に心を奪われてしまった今となってはもう遅いのだが、判断を誤ったかと焦るアリシアにルーファスは微笑んだ。
「大丈夫。同席と言っても彼女には分からないようにするから」
そう言って片目をつぶってみせたルーファスは、ひどく悪い顔をしていた。
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