12.ライバルの奮闘
「おはよう、シア」
「おはようございます、エゼル様」
あれから再び、ルーファスと共に登校をしていた。
「あの日、従者の方がこの馬車にわたしを乗せていくと言い張った理由がわかりましたわ」
アリシアがフリエールの紋がついた馬車から降りることで、ルーファスの正式な婚約者が誰であるか、知らしめる必要があったのだろう。
もし、アリシアがノーマン公爵家の馬車で登校していたら、ユーリェは間違いなくそこをついてきたはずだ。
それをさせたくなかったルーファスは、何が何でもアリシアをこの馬車で登校させるよう、厳命していたに違いない。
「ユーリェ皇女が本気でわたしを手に入れたいなら、邪魔になるのはシアだ。君に攻撃をすることはわかっていた。わたしはその場に間に合いそうもなかったから、せめて盾になるものはないかと画策した結果だよ」
ルーファスの気遣いにアリシアの心は温かくなり、自然に笑みがこぼれた。
「ありがとうございます、エゼル様」
アリシアの微笑みにルーファスも微笑んで、必ず守るから、と囁き、口づけを交わした。
ある日、アリシアがランチへ向かおうとすると顔見知りの令嬢たちが話しかけてきた。
「アリシア様、今日はわたくしたちとご一緒しませんか?」
「ありがとうございます、でもジャニス様とケイシーを待たせては悪いもの」
アリシアはそう言って講義室を出ようとするが、その日に限って令嬢たちはしつこく誘った。
「そうおっしゃらずにまいりましょう?」
「ジャニス様とケイシーさんはわたくしが呼んでまいりますから」
ひとりの令嬢が食堂へと行ってしまい、アリシアは仕方なく他の令嬢たちとランチを共にすることにした。
公爵令嬢であるアリシアと親しくしたい生徒は多い。しかし派閥を嫌っているアリシアはジャニスとケイシーという親友以外とは必要以上に親しくしないように気を付けていた。
しかし、今日は親友以外とのランチが正解だったのである。
ジャニスとケイシーは思いのほか早くアリシアたちと合流し、アリシアをランチに誘った令嬢たちに礼を言った。
「アリシア様をお守りくださり、ありがとうございます」
「いいえ、わたくしたちも驚いてしまって。咄嗟の行動しかできず、申し訳ございません」
アリシアにはその会話の意味が分からず、首をかしげた。
「あなたたちはいったい何の話をなさっているの?」
アリシアの疑問に一同は顔を見合わせていたが、そのうちのひとりが発言した。
「実際に見ていただいたほうがよろしいわ」
「それは」
反論しかけたジャニスをケイシーが首を振って止めた。
「百聞は一見に如かず、でしょ?」
「こちらです、ここからなら見えます」
管理等の三階、あまり生徒が立ち寄らないエリアにアリシアたちの姿はあった。
ひとりの令嬢が指さしたほうを見ると、食堂の中二階に作られた特別席で、ルーファスとユーリェがランチを共にしている姿が見えた。
本当はライナスとその婚約者も同席していたのだが、ふたりは見えない位置に座っており、ルーファスとユーリェのふたりきりにしか見えない。
「数日前からルーファス殿下とユーリェ皇女は昼食を共にしていらっしゃるそうです」
「ライナス殿下たちもご同席なさっているそうですが、生徒から見えるのはおふたりだけで、それが噂になっています」
学内にはいくつかの食堂が整備されているが、ここは今日、ジャニスとケイシーと来る予定だった場所で、何も知らないアリシアが来ていたら、とんだ醜聞をふりまくところであった。
それはアリシアに揺さぶりをかけたいユーリェの狙い通りなのかもしれないが、彼女にとってもあまりいい結果は得られないように思う。
それでなくてもルーファスという男性をかけて、ユーリェとアリシアが火花を散らしている、と社交界では面白おかしく語られ始めているのだ。
ユーリェは皇族であるため、警護の関係から、その辺の生徒と食事を共にすることはできない。
彼女が相席を望むなら、王族であるライナスやルーファスが応えるしかなく、ユーリェはそこをついたのだろう。
にこやかに微笑むふたりの関係は良好に見え、アリシアは内心で気落ちしつつも、それを表に見せることもなく、
「気を遣わせてしまってごめんなさいね。わたくしは気にしないから、あなた達もお気になさらないで」
と、彼らと同じく、にこやかな微笑みを見せて言ったのであった。
それからあともユーリェはルーファスへの接近を試みているようで、図書館で並んで課題に取り組んでいた、とか、学園の庭園をふたりで歩いていた、とか、そんな噂は絶えなかった。
しかし、朝と夕方は必ずアリシアとルーファスは共に登下校をしており、ユーリェがいくらアピールしたところで、それだけは変わらない習慣であった。
「ランチのとき、ユーリェ皇女から一緒に下校したいと言われたよ」
ルーファスは馬車の中でアリシアに零した。彼がこんな風に心の内を吐露することは珍しく、余程、堪えているように見えた。
「ライナスが警備を理由に断ってくれたが、シアとの時間をこれ以上奪われるのは耐えられないよ」
ルーファスはそう言ってアリシアを抱き寄せ、その髪に顔をうずめている。
「もういっそのこと、四六時中、シアと一緒にいたい。そうしたら皇女だって近づいてこないだろう?」
ルーファスはそう言っているが、彼女はたぶん、アリシアがいてもいなくても、ルーファスへのアピールは止めないだろうと思った。
婚約者のアリシアの目の前でルーファスに言い寄るなど、チェズニの皇女にさせてはならない行為だ。
それでなくても行き過ぎた彼女の行動には、高位貴族ほど眉を寄せている。今はまだ明確に声になっていないものの、このままでは諦めないユーリェも、諦めさせないルーファスも、沈黙をしているアリシアも、全員が批判を浴びることとなるだろう。
ユーリェにもそれくらいはわかっていて、だから彼女は焦っているのだ。短期決戦でルーファスをいち早く自分のものにする予定だったのに、思った以上に彼が強情で、未だにルーファスはアリシアを婚約者として大切に扱っている。
ここまでルーファスに言い寄っておいて諦めるなど、大国チェズニの皇女としてできることではなく、彼女も引くに引けないのだろう。
アリシアはルーファスの頭を撫で、彼をいたわりながらも、どうすれば一番良い結果が得られるのか、考えていた。
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