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火星霧の荒野とカウボーイ 『ミゲルと夢の霧町外伝』 掌編。

※の一部は編集用。編集がおわったら消します。

 未来の火星、その火星で近頃異変が起きた。といっても郊外でのことで、ほとんどの火星人はそのことをきにしなかった。その出来事があった少し前、移住者の中でこんな噂話が流行っていた。

 『ねえねえ、知ってる?人間の苦痛を和らげるアプリをエルゲが開発したらしい』

 『そのアプリにアクセスすると、無償でエルゲの能力を使い予言予知、テレパシー、テレキネシスによって僕らを手助けするらしい』

 事実、その話は意外な形で現れる。


 火星人類の中で絶大な能力を持ちながら影にひっそりと生きる、超能力者集団(種族ともいわれる)エルゲ。彼らの頭の中、認識の奥底に強く深く刻まれたふたつの像がある、神像だ。それは、対立する自我の象徴。角ばった頬、太くつり上がる“へ”の字型の眉、目元と小鼻に深く斜めに刻まれた(しわ)、スラリ細長い頬にアゴに白いひげ、目の下には深いクマ、口元に呪文を吐き出したような彫りが刻まれる年老いた男。彼は天秤のように両腕を水平に広げる男賢人像だ。彼に向きい、艶のある肌と生き生きと青い光る目をもつ若く張りのある女性、透明感のある丸い輪郭と華奢な体に、クセを帯びたショート、優しげな顔に、憂いをを含むさがり眉、両掌で手に取る水晶を覆い、吊り上がる頬でニコリと優しく微笑(ほほえ)む美麗な女神像。記憶と判断の象徴である老賢人ロダと、感情と衝動の象徴である若き超能力の女神ロイルだ。火星の超能力者集団エルゲはいつも、TSの中にその二つの像をみる。彼らの信仰と教訓のためにその象徴はある。


 〈※TS、トランススペース、トランススペースアーツ。火星に移住した人類の中に存在する超能力者団体エルゲの中に無意識につくられる仮想世界、および彼らの扱うちから“アーツ”。テレパシー(口や体を使わず、頭の中で考えるだけで他者と話しをしたり聞き取ったりできる能力)と、テレキネシス(体を使わず、あるものを動かす能力)を合わせた能力でつくられた世界をトランススペースという。互いの頭脳間に機械の介入を必要としない独立したリアルな感覚と記憶を共有する仮想現実、情報ネットワークを保有する〉


 


 宇宙空間の衛星から火星を展望すると、火星にある人々の住処、六つの巨大コロニーの明かりがぼんやりと見える、火星はずいぶん昔のある時代から、地球とは別の発展を進み始めた。地球で地球環境の崩壊と人口爆発の解決が問題となっていた数百年前の時代、その頃すでに樹立していた地球統一政府によって解決策として考えられたのが、人類の次の故郷となりえる惑星の開発計画だった。計画のほとんどはエネルギーや資源の観点からこの時点の地球には困難が想定され、実際にいくつかの計画は頓挫した。しかしその途上、火星開拓の先遣隊が霧の満ちたあるコロニーで火星での植物の栽培を通じておきた、その植物の異変(突然変異)と、小規模な連続爆発事故から(※後にアブノーマルバーストと呼ばれる現象)、偶然に特別な花が誕生した。その植物は、資源とエネルギーの問題を多く解決した。(太陽花(ヘリオアントス))と呼ばれるその奇妙な植物には噂が絶えず、しにがみが付いて回るとか、放射線を出すとか、都市伝説めいたものも含め多くうまれた。ただ、今の今まで何の問題もなく火星の資源として、あまりにリスクのない形で太陽光を生かし生きながら多量の熱を発し続け、寿命の終わりに原理は謎だが微量に重力を発生させるそれらは、開発に都合がよく使われ、貴重な資源、そして奇妙な植物として火星の大事な象徴となっている。


 第二のシンボルは、ある人工知能衛星につながれた宇宙空間と火星地表をつなぐ軌道エレベーターの先にある人口衛星だ。デウスエクスマキナは火星のシンボルでありその火星をスペースコロニーの外からてらす惑星型人工衛星。母親が子供を抱くように火星を模したモジュールを抱きかかえた姿をした人工衛星だ。当初から小規模なコロニーを統制し、今もなお火星統治に必要な情報の計算と政治のほとんどを司り、火星に入る太陽光を調整する役割をも担う。一方、火星が発展した以後も 地球は変わらず資本主義上で大量生産と大量消費の中で社会経済活動を発展させていたが、火星は地球とは違い、国民の最低限の暮らしは機械と※BI(ベーシックインカム)により管理され、労働は主に文化芸術に注力し、独自の貨幣をもち社会経済活動もそれに関するものがほとんどで、文化や芸術をもとに栄えて進歩した、それもこれも、デウスエクスマキナの計算通りにコロニー内の区画ごとの人口を制御しつづけた結果でもあった。


(※ベーシックインカム、この作品上でのベーシックインカムは人が暮らし生活するための最低限の資源、食料、住居、衣服等を国によって用意されているシステムという概念で扱う)


 立場の違いから火星は100年前。地球と火星の代理戦争ともいわれる内戦をおえる。勝利したのは火星の権力者や貴族がが影で支援する南側だった。その時南側が北側の征服地に置き、その後も残された“旗印”が“ダッカンチュウ”という奇妙にところどころがかけた縦方向に白黒模様が反復される電柱だった。英雄とよばれる人々が導いた文化の定着と戦後の復興をへて、それ以降、芸術や文化を軸とする社会とデウスが管理する社会民主主義的独自の支配体制を維持している。芸術的才能のない人間にも最低限の生活が保障されていて、過酷で退屈な労働のほとんどはロボットに任された。その点ではまさに楽園と呼べる星となっている。


 ある惑星を地球と似た環境に変えるテラフォーミング。これからそう遠くない未来に、地球の人間たちが移り住むことができるほど快適な環境に改造された第一の惑星が火星だ。火星のもう一つの特徴はコロニー内に満ちる霧にある。霧は、サイボーグであり、ナノマシンと人工芝を融合させた人工生物だ。(NEM ※nano environment module)という。


 火星の誰かがどこかで孤独な夢を見ていた。夢である彼の記憶は、忙しい都市の生活から逃亡をする場面から映し出される、あれくれ物の男が好き放題都市で暴れる、彼はそこに居場所を見出せないようだ、果てに荒廃した郊外をみつけたのだった。やがて、男は荒れくれ者たちがいずれたどりつくだろうさらに荒廃した荒野にたどり着き、やがて男はそこに住み着くことになる。男はそこで赤いカウボーイ衣装を自分のシンボルとした。いずれ自分の、暴君のような自分の暴力を止めるものが現れることに期待して。場面は変わり、男は何かに追われているようだった。荒廃した都市の残骸の合間をぬって走っていく赤い恰好の男、その男を追いかけてくる霧がある、彼は夢のなかにさまよう、そして時折呼吸をととのえたちどまり、火星の呼吸を吸い込むのだ。この場所には地平線以外何もない、荒野の男は果てのない闘争から逃げる夢を必ず見るのだろうか。しかし、青髪の何者かをみつけてはっとする。彼、もしくは彼女を戦いから遠ざけなければ、それはおいておいても彼にとっては逃げ続けること、過去からの逃亡、それ自体が戦いだった。戦わないことそれ自体が。

 『いずれ彼女にも危険が迫る、私の過去のせいだろう』

(エルゲにはいいつたえがある、あらゆるものに長所があると、あらゆるものに何かしらの才能があると、だとすれば私はその才能の扱いを間違えつづけていたのかもしれない、あの過去のせいで)

そんな回想で夢は終わる。

 

 南コロニー辺境とある荒野と砂漠地帯の境目にて。 

 『ギィ、ガシャ、ギイィ、キュルルル、キィ』

 法外に改造されたレムレース(アンドロイド)たちが、自律してまるでゾンビのように、荒野をさまよっている。戦争の残骸か、戦闘の残骸か、人間の死骸ともいうべきさいぼーぐ体の機械の亡骸が

あちらこちらにちらばっている。そのうち一体が奇妙に暴れまわり、野生のカラスをおって動きだした。そして捉えると、カラスを攻撃しはじめたのだった。


 『ギイギィ』


 といいつつ、カラスをじっくりとみつめている。それを口元まで運んだところで、彼か彼女に静かな丸の反射光が当たった。


 【ズドン!!】


 すさまじい爆音とともに、アンドロイドは姿勢をとらぬままに前へ崩れ落ちた。花も咲かない荒野に、アンドロイドは足元からくずれ散っていった。あとには花も散らず、草木も芽生えず、むなしくもその場所にはただ砂埃だけが舞い散るだけだった。続いて土をふむ重い物音、ザク、ザク、ザク、と太くいくらか分厚いシューズの音がする。しばらくするとその音の主、男らしきものの影があらわれ、広いツバをもつ帽子の影があらわれる。

 『またはぐれの野良(ノラ)レムレースか。この死骸はモグラたちにつきつけなければな』

 時代遅れのカウボーイ。全身ほぼ赤につつんだ服装をした男と、もう一人、彼にてをひかれる青髪の少女だった。

 『覚えておけ、ナリス、あの話をしっているだろう“泥船のオゾス”乗組員たちが資源が枯渇した宇宙船に取り残されて互いを疑いあい、つぶしあったという先遣隊の伝説』

 『知ってるわ』

 『人が人を助けようとしない限り、不運な人間から排除される、資源があろうがなかろうが、まあこのアンドロイドは、少し不運だったな、お前は時を待ち、幸福と不幸を共有できる仲間をつくることだ、そうすれば人を呪うこともなければ、人を恨むこともなかろう』

 『うん』


 時を同じくして、同じ荒野の離れた場所で、顔の真っ赤でツノのはえた、まさしく(オニ)の形相を持つ人間が一人の青緑の異質な亜人に襲われた。首をしめられ、古い廃屋の壁にたたきつけられた。お互いのつのと爪は鋭くとがれており、壁も地面もその痕跡を深く開いた穴からにおわせていた。

 『この荒野で一番強い人間を教えろ、俺はそれに用がある、力を持て余すクズを地獄に突き落とし、俺のうらみは晴れるだろう』

 『か、カウボーイだ、子供連れの』

 青緑の亜人は、首をひねる、体から蒸気をだしていて、あごのラインにエラのようなものがついている。

 『子供づれ?ばかな、この荒野は殺し合いの荒野のはずだ』

 『やつだけは特別だ、王者になった人間だから、だれもが一目おいている』

 『卑怯な』

 『は?』

 そうして首元をさらにつよくしめ、鬼の亜人が気絶するとやっとその手を放し、青緑の亜人は夕闇のそらにむけて、雄たけびをあげた。その声に気づいたカラスたちが、恐る恐るとびたち、そらを黒くそめたのだった。

 


 ※亜人(亜人とは、火星におきた謎の地表発光現象アブノーマルバーストとよばれる奇妙な光と突如としておきた天変地異を現象と関連して誕生ものとされる、薔薇が突然変異した花、太陽花(ヘリオアントス)の影響を身体に宿し、それぞれに特異な器官の発達、身体的特徴の発達、はある特定の動植物の特徴を受け継いだ人間として突出した能力を持つ人々の事、アブノーマルバーストという現象がもとで、地球人は火星を開拓するエネルギーの発見をしたとされている)

 



 数時間後、別の場所、砂漠地帯の下水道のふたらしきものが外側からたたかれる。それが何かのあいるらしく、内側から開いた。のぞいたのは、長い吻をもつガスマスクの男だった。その地下から、

また別の似た容姿の男たちがのぞいているようだった。

 『ん?赤の旦那、それにお嬢ちゃんも』

 旦那、そう呼ばれた男は、真っ赤な帽子にスカーフにみにまとい、カウボーイ風の身なりをしている。もう一人虹色のニットの少女がその男にてをひかれている。

 『だんなあまたですかい、それに、もうその銃はつかわないんじゃなかったか?』

 彼のお気に入りらしい、灰色のライフル銃だ。

 『近頃何か妙な胸騒ぎがしてな』

 『デトさんよ、いくらあんたが伝説の男とはいえ、嬢ちゃん、こんなところにつれてきていいのかい?』

 少女の手は、いつもひとをみると震えている、目線をあわせようとしない。モグラの中でも、どうもみなしごらしいという噂がある。

 『彼女は、“夢の放浪者”、初めて会う前、俺の夢にでてきた、その能力も優れているし、子供と若者にはチャンスを与えねえと、こんな場所でも生き残らなきゃならないが、大人になるまで俺が守り育て、生き残るチャンスを渡す』

 『?』

 少女は疑問とともに人差し指で口をおさえた。

 『それにしても野良は許可をとってからですよ、許可なしでの狩りはこの『闘争者の荒野』では禁止で、おまんまくいあげですよ。生きていけねえよ。』

 『エルゲの戦略を真似してるんだ、“代償と代替”彼女が生きていくために、時折稼ぎも必要でさ』

モグラと呼ばれた男は、ながい鼻先、口吻のある鼻のモールドの刻まれたガスマスクをかぶっている。もぐらは顎を大げさにうごかし、彼をいいくるめるようにして扉をとじるしぐさをした。

 『かしですよ、かし、まあ、今回ばかりは代金をはらいますが』

 ガタン。そそくさとやりとりをおえると、マンホールのふたをとじる。カウボーイの手にはデウス紙幣が握られ、少女はそれをじっくりとみていた。



 荒れ果て半分砂漠化した土地にたち込める奇妙な砂埃。家屋は古びたものや、風景ににつかわしくない装飾や建築法はまだ現代風に見える建物の残骸。人が済まなくなってひとたびで荒廃しつくしたのだろうか?砂埃はあたり一片にたちこめる。その砂埃はこの都市以外ではこのような形、形式をもたない。本来は霧であり、まるで砂埃に見えるような渇きと荒廃の色をもたない。それはここでだけ奇妙ないびつに乾いた姿をもち、砂埃の形をしているが、この火星一般の都市では本来の姿を見せている。本来の姿は純粋な霧の姿をしていて星の表面をおおっている。それは、この惑星では必要不可欠な人口の霧。(超自然ナノマシン)だ。星をまるごと人間が住むにふさわしい形にするべく、火星の環境を地球に近づけるための英知。酸素濃度、有害物質の除去をつかさどる。惑星を人間が住める環境に変化させる地球化(テラフォーミング)するために開発された、植物(藻類)を模倣する生物と小さなナノマシンと共生する人工生物だ。

 火星の人類が居住する小さなコロニーの一角に惑星開拓期に使われた今ではさびれ荒廃したた砂漠と化した都市の残骸があった。荒廃した都市と郊外。荒れて打ち捨てられた生活の軌跡と、崩壊し機能を失った都市基盤、崩れ崩壊するビルやシンボリックな像や高層ビル。そんなコロニーの片隅、それを内包する砂漠地帯。その荒野に、いつかの母星のあるちの開拓期の強い男たち、あるものは『軍人』を模してその時代の兵器を扱い手入れを欠かさず。またあるものは『サムライ』武者鎧を着て日本刀を使い甲冑を着ている。あるものは『カウボーイ』ガンマンとして早打ちの達人。思い思いのまるでコスプレイヤーのような人々が、しかし真剣にその技術や身なりにふさわしいロマンある身分を求め、時代時代のモチーフをもとに母星へのあこがれを込め、思い思いに決闘をし、(死)だけを(生)の共有の財産とするものたちが、そしてそのために死にすべく集っているらしい。


 地球の中世西洋を模した区画。城壁が周囲を囲むが、都市の残骸はまだそこかしこにある。時折その区画がとぎれると現代の軍の基地や塹壕のような区画。城壁を覆うあらゆる都市の残骸、むきだしの都市の骨。ガラクタや武具や兵器が散乱され、兵器までも砂塵とともにいりまじり半分地下へうまる荒野。ある場所は砂漠地帯だ。ここへ来るものは、あらゆる理由をもとに現代という世を捨てた人々だった。世はすでに生に限りはなく退屈と意味の喪失だけが人類を支配している。働かずとも、労働力はロボットで代替され、人々は日々の意味のみをさがす偏屈な人形となり果てた。そのように嘆き、悲しむものたちがこうよばれるその『闘争者の荒野』に来る。


 そういう区画と区画の間には、身分を区切るように暗い霧が立ち込めている。この霧を超えたら、人間としての扱いが変わることを理解して人々はここを往来を決める。


 ある老人が、機械霧(超自然ナノマシン)の砂ぼこりをかきわけ、サイボーグ化された左目を持っている。その老人は荒野を一人で歩いていき、それなりに賑わう砂まみれの町へ立ち寄った。そのコロニーの片隅、闘争者の荒野では、一番にぎわう西部劇チックなバーがそこにある。ウェスタンドアをガチンと揺らして、老人はまずその先導する杖で入口をくぐった。

 『やーこんちにちは』

 まず老人がにこやかに口を開く。

 『こんにちは』

 『やー、ロイム』

 『ロームの爺さん、元気かあ!』 

 汗臭い男たちと兵器や人口筋肉や機械音、またはオイルのむせかえる匂い。いつもの風景だ。バーの中へ中へと入る。行き交うどの人々の目も暗く濁っている。100年を超えた寿命は意味を失い、覇気を失い、人間と人間との関係も失いつつある。いわゆる労働が不要になり、人間が不要になったのは、それが『人造の(デウスエクスマキナ)』のせいによるものだという。

 

 どこもそんな目をした人間であふれている。それはこの荒野に限ったことではない。やらなくてもいい仕事、つまり芸術に秀でた人間たちは都市を好み、稼ぎをえたり名誉を得たりして満足を得るが、そうでない人々がこのように落ちぶれるのも無理はない。人々は各々にそのように荒れ果てた町と、滅びゆく星で生きている。


 彼は吟遊詩人のようなことをして稼ぎを得ている。数時間ほど前、ひと話をして路上で稼ぎをしていたその老人は疲れてかびたような喉をアルコールでうるおそうと試みる。しかし彼は、すぐに尿意を催し、その後トイレにいって大の方をあけて準備をしたところで、数分の居眠りについた。

――思い出すのは、今朝の小話だ。

『ここは、ここは、霧の火星の、闘争者たちの荒野だ、命知らずのものたちよ、私の話を聞いていかないか、ある達人の話なんだ』


 滅びた都市の立ち並ぶ商店や街角大パノラマパネルの前。流行は、銃撃決闘。しかし彼らの肉体改造はその生命力を倍の倍に引き伸ばした。たとえ早打ちの血統をしようが、簡単には死にはしない。

だからあちこちで血統は起こる。理由はなんでもござれ、気に食わない態度だ、やれ不倫だ浮気だ、やれ、友情のごたごたや、盗みや侮辱や。


 荒野人A  『ほんの少し前まで、この2番地区に名物の、早打ちで100戦錬磨の大男がいた』

 荒野人B  『ローム、何年前だっけ?詳しくおしえてくれ、お前はいつも』

 荒野人C  『がははは』


  ローム  『私にとっちゃ、数十年前さえ、少し前だから……いや、いいんだ、創作物はすべて、生活の余裕からうまれるんだ、抽象的な情報さえ、私の味さ』


 語り手は例の片目が機械の老人だった。襤褸衣をまとい杖をつく、顔のみえないフードを被る。杖を掲げていう。

『ここでは法は決闘だけだ、生きることに飽いたものたちが集い、競い合う、彼は競争の外に何を見出したというのだろう、もし彼を再び見るものがいれば、彼にそれを問うてほしい』

 おとこはわざと嘘をついた。ほかにも生きるすべと糧はある。地球からの脱走者を捕まえる……賞金稼ぎという手段が……。それからも何年もたった、老人はついにその場所から、姿を消した。誰もがその姿が消えたのと同時に。彼も年だから、そう噂をしていた。

 『その男はな』

 そうかたりかけたところで、群衆と男は、ある忘れ去られようとしている“ある男”の話を思い出すのだ。百戦錬磨で負け知らず、しかし今は闘争の荒野から逃げたともうわさされるある大男の記憶。彼の言葉はそれほど巧みではないものの、ただ人の心をつかみ、過去を思い返すのには十分であった。


 【またあるところでは同時期に、黒い霧から、人が霧を超えたという情報がでまわる。『人造の神』の『使い』レムレースエクスマキナ(アンドロイド)を改造して、人々はその暮らしを守っている。彼らの一部は古びて廃棄されたスクラップ寸前のそれらをくみたて自らを『荒野の機械モグラ』を語っている。モグラというのは、火星一般の情報やの事だ。つまりスクラップから組み立てたその機械(アンドロイド)を、彼らは黒い霧の監視役に据えている。そのセンサーに、その夜、あるものが引っ掛かった。】


 監視役A(また人がわたってきたなあ)


 監視役B(ああ、命知らずだ)


 数日たち、その新入りの決闘者が三人の手練れを倒したという話が広がる。それはこの荒野に一筋の光、もしくは暗闇の兆しを残していった。

 『外のものは、加減をしらぬ、一人本当に死んでしまった』

 『粉々のスクラップにしちまったらしい』


 その老人と群衆はその間の幾日もそうして集まり口々に思い出話や各々の話に花を咲かせると、やはりある程度の盛況さを、かの老人は手に入れることができた。しかしやがれ、異邦人の放浪者の噂がひろまると、人々は口々に恐怖をくちにした。

 『亜人らしい』

 『それも容赦ない、何かにとりつかれたような』

 『亜人といえば、エルゲとの関係を噂されている、エルゲは予言と超能力を使う人々だ、変わりものどうし、うまがあうのかもしれないな、そのツノの亜人は見境なく人を襲うから、俺たちもきをつけなきゃ』

 亜人というのは人の部位の一部がいように発達し、まるでファンタジーの異人種のように、各々にまったく違った能力と欠点を備えた人間のことだ。彼らは生まれ持ってその姿形をもつことも、生まれたあと、ある年齢になると突然その能力と容姿を手に入れることもあった。




 【数か月ほど前、とあるコロニーに住むとある、ある少女が火星の(※)亜人に関するある夢をみた】

 ※(亜人とは、火星におきた謎の地表発光現象アブノーマルバーストとよばれる奇妙な光と突如としておきた天変地異を現象と関連して誕生もの、太陽花(ヘリオアントス)の影響とその“タネ”によくにた模様を身体に宿し、それぞれに特異な器官の発達し、それぞれ特定の秀でた能力をもち、またはある特定の動植物の特徴を受け継いだ人間として突出した能力を持つ人々の事)

 

 昼間動物たちと放牧地に戯れ踊る牧童の少女のファンシーな夢の中、動物たちとの戯れの時間は、いつともなく訪れ、いつまでもそれが続くと思われたがしかし、それは上空の曇りそらとともに一転する。青い空と、静かな平原。牧童が杖をふるい、動物たちの列を整えているらしかった。

 『あれは?』

 ふわふわとした雲を目で大っいながらゆったりと、山の中腹をあるいていた牧童は杖を低くおろし、天を仰いだ。天から糸がふってくる。

 『つかめ!!』

 『けれど』

 『役目を思い出せ、エルゲたるもの、自身の不完全さを疑え』

 『エルゲ……たるもの、自身の不完全さを疑え』

 知らず知らずに復唱していた、ふとその声の主に覚えがあるような気がして、少女は思い切ってその糸をつかむ動作をした。つかまなければいけない気がした。そうしなければこの夢が永遠にさめなくなるような気がした。それは朝、だれにでも必ずやってくる朝に、何者かに用事をせかされ、責任感から目のまえが明るくなっていくような感覚だった。


 見ていた夢とあたり一面一瞬に景色がかわり、煙の中のように白くにごる視界が生まれでおぼろげな描写の景色の中にぼんやりとした世界がみえた。その瞬間、夢の主を痛みが襲う。神経の流れをみるような、微弱な信号を見るような映像が現れ、次に宇宙の暗闇が連想する暗闇をみる。一つの世界にたどり着いたのだ。濃い暗闇が一面を覆う世界。内側を薄暗闇が覆い、真ん中に球体の光るものがある。暗闇の外側から複数の無数の糸が、薄暗闇の外部から少したるみをもち中央へつながっている、ある明るい中心部の景色、あるモノに糸は収束している。その夢の主のとある少女の意識は、暗闇から出る大量の糸の中から一つの糸を選び近づき、まるでインターネットや電話線が情報を伝えるときのように情報の一つとなり糸とひとつに同化する。巻き上げられた糸が世界を作るのを感じた。その糸に編み込まれてできた中央部が見えてくる。明るく照らされた中央部が見え、中央それは球体でひとつの惑星、星の形をしているものがある。といってもまるでミニチュアサイズで、小さな国ほどの大きさはあるのだろうが、その形状はところどころがとてつもなく高くせりあがっている。あるいは平坦であったりへこんだりしていて、星というには凹凸がはげしい、凸は山であったり神殿のような建造物であったりだ。神殿は二つがより高く居座っていて、あらゆるその頂上には球状に糸がつむがれ、雲のようにもみえるものが球体を覆っている。地平にも糸はあり、それは電柱と電線を思わせる。平たんな場所には複雑な彫刻をほどこされたように壁を構えた背の低い建物が密集する。頂上の白い繭をとりかこむ人々と迷宮迷路のような建物の密集と、それと各々の山や神殿をとりかこむようにつくられた神殿と城壁のような景色。それから霧。そう、その靄は霧で現実世界にもリンクする。それはごくごく自然な火星の風景。『霧の満ちた世界』だ。霧は火星の象徴だ。星の周りには張り巡らされた透明のシールドが張られている。透明であるのにそれがシールドであると思わせるのは、透明な空間の中に呪文と呪術のものらしき図形がうかびあがるからだ、少女の意識は、その全貌を確認すると、自分の意識もまた乗り越えようとした。糸をつたい、シールドの部分に接触しようとする、シールドは接触するとたちまち半透明の姿をあらわにし、まるでラップのように少女を半分拒絶して、光を放った。光を放つと同時に結界の呪文が姿を現す。遠目に見えたよりはるかに多くの黒い呪文も混じっていた。

 『結界だ』

  (迷いと苦痛をもつものにしか、この結界はくぐれない)

 『ミゲル……上層結界だ、通るとき、痛むよ』(どこからか別の声)

 『ううううう!!!いたいい、どうして“自分の世界”なのに』

 少女はそうしてまるで大気圏を突入する人工投下物のようにゆっくりと星に落ちていく様子だったが、そうして透明のしかし、ふれたとき奇怪な古代文字が浮かぶ結界にふれるたびに彼女の影は不可思議にも分裂したり、本体とは別の動きをしたりして、自律して動く影だった。まるで別々にその結界の苦痛に耐えているかのようだった。

 


 少女の直ぐ傍で声がしたが、光るたまになり、結界をこえると霧につつまれ姿は消失した。次の瞬間いつのまにか城壁のそばに立っている。糸の一つをつたって少女はその景色の中央、一つの城のそばにたどりついたのだった。

 『ふう、ついた“星の箱庭”』

 ふわり、と浮かんで彼女は胸をなでおろし、どうじに両手足を着地したあとの反動で体を地面に沈ませた。彼女のまわりを霧がとりかむ。感覚がマヒしたようなふわふたとした世界で、事実痛みや苦しみなどはその世界では麻痺していた。少女は記憶をさかのぼる。

(この場所は私の星の箱庭、時折彼ら火星人のために使う。いえ、“星の演者”の人々が夢を整理するための場所。エルゲの魂が人間たちの夢と融合してできたこの世とあの世の境目、『火星人の意識』の滞留する場所)

ただ、城壁のそとにも、城壁のうちにもそこかしこに水たまりがあり、水たまりの底は、火星の都市を反対に描写している。まるでそれは、火星を裏返しにしたような不思議な場所だけが広がるのだった。城内には白い人影がまばらにうごめいているのだった。

 ウゴゴ。ウゴゴ。ゴゴウ。

 どよめく城壁の外側。城壁の外がわに目をやると、うごめく影たちの姿が見て取れた。それは城壁の下部にまとう糸から何とこちらにわたってきているようだ。黒い輪郭の鬼、怪物、異形のそれらは、表でいう丸形のドローンのようなものにおいはらわれて、側面の暗闇からきてはまた下の暗闇に去っていく。ただ一部の例外を残して。ぽつりと少女はどういう意味か、真意不明の言葉をつぶやく。

 『万ノ才華(ヨロズノサイカ)※(あらゆるものや魂に固有のこの世界で必要とされる才能があるというエルゲの言い伝え)とはいっても、今はだれもかれも呪うばかり、祭りは増える一方ね、このプライベートな『夢』に人々を招待しなくていい日がいずれ来るかしら』


 その場所は、神殿のようなの建造物とそれを囲う城と城壁があり、城と城壁の間、その城壁の内側に渦巻く迷路状の建造物がある。その城壁の内側をなぞりつつ、一人の少女があるいていく。少女の影はひとつではなかった。不自然にも二つにわかれる。単なる光の具合というわけではなく一人でに自律して動いているような奇妙な影が、少女の影によりそうように付き添う。少女は、古代とても古い、西洋の文化のものらしき衣服ものにみをつつんでいる。

 『いくわ、城壁アパートの中、そして『救難船』へ』

 ひとしきりあるいたあと、退屈したように、ふうと吐息をついて目的を決めた足取りで歩き始める。そして少女はある一室の扉をたたき、外壁の内部の横一列にたちならぶドアのひとつへをたたいて、カギを入れ、まわす、カチャンと音がすると、ぱたりと戸を開けその中へ入りとをしめた。


 バタン。

 部屋に入るとそこに人気がなく生活感もなく、穏やかな静寂に包まれる。ひとつひとつの扉の間隔は白くそれほど広くはないが、城壁は少しずつ、ひとつひとつの部屋になっているらしい。シンプルで家具はほぼなく、ただパイプの椅子と白い机と、二つの隅、骨の人体模型のようなつるされた人形。天秤に、宝箱がおかれている。それぞれをつなぐ薄い文様と文字も白く浮き上がっている。影は少女のものとしてはおかしい影が、心臓部が白くくりぬかれたような光を放ち、いまだ少女に付き従う。一つの部屋のその奥に、区画にくぎられた庭のような空間が広がっている。しばらくすると少女は何ともなしに少女の影にいしきをむけながら、ガラス張りの光がさしこむ部屋の外へと目をやった。その時だった。

 『あなたの生み出した新しい亜人が、何かをしているようよ、ミゲル』

 部屋の壁から、いや、影から声が聞こえる、驚くことに影は再び言葉を放った。自律する影は意思をもち、言葉を放つ能力をもつらしい。それもミゲルと呼ばれた彼女とは別人格の。

 『私は影を生んだだけよ、それに魂を与えたのは、エルゲと寓話の祭りを選んだ人々、あの依頼者、それが良いものであれ悪いものであれ私たちは、火星の人々の非日常、寓話動物化を応援しなければいけない、それによって心を回復させるか、それとも人を呪うのか、その選択は各々にまかされる』

 少女は別段その異様な影の姿に驚く事なく対応する。しかし夢のなかとはいえど奇妙な光景である。本来であれば自問自答と大差がない。部屋の主ミゲルという少女は、やがて部屋の中央にむかい、ポンとおいてある(というより今出現したかのような)簡素なデスクとパイプ椅子にこしかけて、せもたれで背とて手を伸ばしアクビをした。

 『別にいいけれど、だって私は影のオウム、ただのあなたの反復行為のひとつからうまれたものよ、あなたの偏執が形をつくったもの、私はあなたのつくった幻想、脅迫観念、あなたも火星の誰もかも呪いからにげられないから』

 (そう、私がエルゲの力に目覚めたころ、ノームと私ミゲルが夢を通じて戦い、ノームの影はふたつにわかれ、ひとつは鳥の形とりミゲルの影につきまとう、もうひとつは、人型になりノームにつきそっている、ノームとはミゲルの中学校の部活の担当教師でミゲルを嫌っている)

 『箱庭の星、救いのない者たちの夢と宗教と文化、火星が発展する契機となった、新しい資源『太陽花(ヘリオアントス)』の発見とアブノーマルバースト以来、繭の中の夢見るもの“デウスの意識”は停止と再起動を繰り返している』

 少女は上を見上げる。天井はガラス張りになっていて、天空遥か彼方にそびえる山々や神殿、そのてっぺんに居座る雲のような繭を見上げたのだった。

 『繭で眠るのはデウスエクスマキナ?それとも……まるで影のオウム、ノーム・エゲルあなたみたいよ、人が眠るときに起きていて人が起きるときに眠っている、上手な役割分担ね』

 オウムは答えを返す、ただしオウム返しではなくむしろ皮肉が込められる。

 『あなたはそのくちぶりじゃあなたと私が運命共同体だと、あなたはいよいよ認めてくれるの?』

 少女が見上げた先には、あら巨大な衛星のような繭が、ふよふよと上空を漂っていた。それは空全体を覆う。ただそれだけではなく、暗がりに対して一定の影響を及ぼす、光っているのだ。まるでそれは深夜の街灯のようで、それがまるで現実の太陽や月のように、この景色を覆う光の正体だったのだ。その光にあてられたのか少女がぽつりつぶやく。

 『さあね、あの神像がしっているのかも』

 神像いわれた先に、吹き抜けの天井があり、顎で指示された場所にはひときわ大きな二つの神殿。その頂点に構える二つの神の彫像がどっしりと構えたたずんでいるのだった。


 しばらくたち、少女は部屋の隅に家具らしきものを寄せ集めていった。ひとつは人体模型のような骨、ひとつは宝箱、ひとつは、天秤。

 『躯は影の魂の結晶、魂が揺れ動くとき彼も揺れ動く意思をもつ、天秤にのせられた水晶は記憶をたどり、いま優先すべき課題の重さをはかる、宝はパンドラの箱、【影の魂】から『鍵』を生み出す、この部屋自体が魂の繭、エルゲを触媒として人間はここで“忘れた記憶”を取り戻す、私はエルゲ夢みるものの案内人、エルゲのデウスの盟約、その役目は人間の隠れた優れた能力を呼び覚ますこと』

 



 ある人影が別の部屋でうごめく、いまのいままで、横たわり膝を抱え横向きにうずくまっていた影。彼は少女とはまったく別の夢をみていて、それはコンピューターにつないだ自分が宇宙船のパイロットになり永久の時を駆け巡るという夢だった。だがその夢が覚めた、まだ、夢のなかだったのだが。


 (ここは、どこだ?俺は……)

 一人の名前を忘れた男が、同じ星の夢の中にたどりついた。ショートヘアに前髪は額の中央にぴょろりとでていて、その部分だけ色が違う紫。どういうわけだか、この夢は誰かの夢と誰かの夢の交わる性質のものらしい。はじめのうち、白い部屋の中をさまよっていたが、そこをでて、次は迷宮の中に、夢遊病のようにただ壁伝いに走り周り廻っていただけだったが、やがて、呼吸と心拍がみだれ、背中をどっさりと迷路の壁にもたれかけ、へたりこんだ。その瞬間だった。

 『あっ』

 迷路に思念が伝播する。どこかの誰かがその様子に気づいたようだった。その壁をつたい、伝播した情報が、その壁を通して別の場所へ。さきほど壁際にひっそりと寄り添っていたミゲルの手のひらだった。手のひらで、ミゲルは情報を感知した。ミゲルは目を覚まし、この夢に来た目的『祭の案内』を実行しようとしていた。

 『エルゲの特権ね、少し前のものよ、彼はここにきた、残留思念をみたわ』

 (といっても、それは3時間ほど前のものだ)

 丁度3時間ほど前、一人の男が、上空の繭の一つからめざめ目覚め、ゆっくりと落下し、そこから種が芽吹き、花が咲き、実がなり、実から彼はうまれた。

 【やっぱり同じ夢をみて、またこの場所へきたのね、夢の箱庭へ】

 彼の目覚めは孤独だった。産み落とされた次には静かで小さな部屋の中で目覚めたのだ。その場所には家具類は何もなく、ガラクタ置き場のようにいろんなものが散らばっている。コンピューターの部品、ドライバー、工具類、難しそうな書類。そのどれもが見覚えがあるようでないようなものばかりだ。その部屋の一面はガラス張りで、庭へとつながっているようだ。入口はなく、ただ(自然ゆたかな庭)だけがそこにある。その奥にももう一段ガラス張りの奥があるようだったがここにきた当初は気にならなかった。一度、その煩雑さに頭を抱えてその部屋から脱出したが、もう一度男はその部屋に戻ることを決意した。


 その部屋の中、男が寝間着姿でうずくまっている。

 『俺は誰だ、ここはどこだ、カオスネットの中なのか?(※五感に作用する次世代のインターネット)俺はどんな人間だったかおもいだせない』

 その愚鈍な思考こそが自分らしいものだったかもしれないと自嘲的に男は鼻で笑い、こしをおこして、ガラス張りと反対の白い部屋のドアのとってにてをかけた。その瞬間、扉は外側からひらかれた。

 『やあ』

 そこへあらわれのは少女ではなく、奇妙な、顔の上半分を半仮面で覆った人物だった。といってもそれをすぐはずした。貴族のような、しかしキツネをもしたような半仮面。それをすっと胸元に隠すと彼の真の顔が明らかになる。顔の半分が仮面で覆われたように機械化された男(その構造はまるで腕時計の中身のように複雑だ)暗がりからひとりの男。彼は彼の眼窩の影に、光を放つ青色の目をもち、しかし影のようにその姿は普通より薄ぺらい。男は唐突に部屋に入り部屋の主へ話かける。

『やあ、“ここへくるのは二度目だね”僕の名を思い出せるか』

『何のことだ?お前はいったい、それにその奇妙な姿、なぜそんなに体が薄いのか?まるで絵や絵画のようだ、それに……いったいここはどこだ?俺は誰だ?現実離れしている、カオスネットの中だろうか?』

『ここは夢のなかだ、しかしただの夢じゃない、エルゲからあふれ出した夢、エルゲのインスピテーションのもと。明晰夢であり予知夢の中でもある、今は君も記憶をうしなっているが、ここにくると毎度、少しずつ思い出すよ』

 といいかけたとき現れた男は真横真左をむいてとっさに腰をかがめて、両手をひろげた後、主を部屋に押し戻した。

『まて、でてくるな、部屋へかくれていろ』

半機械の男がそういうと、すぐそばで奇声が発せられる。

『ギュウアアア』

廊下の左端から黒い影が半機械の男へ近寄っていく様子が目の端にきた、すぐそばまでくると、その影は人型になり、半機械のおとこにおおいかぶさろうと掌は爪をたて両腕を広げるうえにかかげる。

『!?』

瞬間パァーンっと破裂音が響き、黒い影がうろたえ、逃げていくのがみえた。


 『何、なんなんだ?そういえばあの黒い影、いや白い影も、この部屋の外で多く見た気がするが』


 一方そのころ、初めの夢の主、少女は別の場所、神殿を模した塔のひとつにいた。整然と厳かに鎮座する老人たち、謁見の間とみみえる、彼ら玉座におかれたような椅子と机を前に、椅子に腰かけ王の間に案内されたような、肩をすぼめるミゲル。

『ただいま、呼び出しに応じ参上しました、我は暗がりの案山子、エルゲの一人“ミゲル”』

彼女は軍人のようにしっかりとした姿勢で片ひざをおり片膝を立て、立てた膝に手を置いて、おごそかに対応している。王の間の住人の一人が口を開く。

『エルゲのミゲル、次の仕事はお前の番だ、お前に迷う人……星くらいどもの祭りの案内人を命じる』

『お前にもそろそろ一人前の働きをしてもらわなければならない』

返事をする少女は深くお辞儀をしてかがみこむ。

『盟約により、迷い子の魂を案内します』

彼女が出ていくのを見送ったのは、卓へ整列する先ほどの男同様に体の薄っぺらい、どこかで見たような感じのある、6つの影だった。

 



 『悪夢から君を救う約束をした、救済プログラムは起動した、夢の賢人もそれを承諾している』

一方、目を覚ました男とかけつけた薄っぺらい影の男は話をつづけている。


『君は不運に取りつかれた。コロニーは、紛争の起きない人口に抑制された人間たちが集まりを作る、だが紛争の種はのこった、コロニー同士の接触により、グループが横に横断するときだ、紛争の起こらない人口の制御をあるグループが越えていくことだ、それはエルゲの暴走によってままおこる』

『戦後の人口制限が紛争を減らすためだと噂には聞いたことがある話だが……』

 目覚めた男は鈍い頭で理解できない話をされて困惑をしている。

『君はその“横断”の中心、混乱の悪夢の中いる、我われの目的は君をもとの日常に戻すことだ、君がエルゲに苦しめられうしなった心、魂と意欲をもとに戻す』

 くちをついてでた疑問をドーザーは抑えなかった。

 『どうして、ど、どうして僕だけが助けられるのです、そのエルゲの関係者に』

 『人々は、火星に生きる人々は、自分たちの感情や価値観や感覚が人と同じだと思っている、それは錯覚にすぎない、あらゆる人間が同じ条件のもとに生まれてはいない、それを補完するのが“別の能力”たとえばそれはエルゲであり例えばそれは亜人としての能力、もしくは人間としての個性だ、それも“デウスの加護”つまり火星人のすべては機械によって生存を保証されている、尊厳も権利も機械が判断する、だが個性は、機械によって整理された形で図ることができない部分がある、すべての火星の個性は、機械でなく人間が他者を、もとい、エルゲが他者を尊重することで、許されている』

 眠たい目を部屋の主、おとこはこする。


 『君はすでに俺たちにあっている、“救済アプリ”はすでに起動しており、その過程に僕らはいる、代償はささげられたし、俺たちは君の不安の解決方法をみつけた、それは【強力な敵】をうち倒すこと、きっと君と【荒野の英雄】とのコンタクトによってすべては思い出されるだろう、この夢はファーストコンタクトで満たされなかった君の記憶の隙間を補うためのものだ』

 【あんたは預言者か何かなのか?エルゲなのか?】

 『俺はエルゲじゃないさ』

 男と影のような男はは困惑したままでファースト・コンテクトの続きを演じていた。もっとも男によるとこれがファーストコンタクトではないというような雰囲気と言動をかもしだしているのだが、やけになれなれしいし。

 『泥船のオゾスという物語を知っているだろう?オゾスと同様に火星には、無用な恨みや意味のない悪意、闘争ばかり、それに苦しんだもの、そういうものにこの世界の扉は開かれる、火星人にとってオゾスとは、事故にあい資源と時間が枯渇して、余裕のなくなった船内で、才能や芸術の余裕を忘れた人々が、先遣隊が船の中で殺し合いをしたという“泥船のオゾス”から連想される悲劇、それに似た悲劇に、君は意味のない犠牲になった、そうした、君のような犠牲(スケープゴート)になった人間を救うために我々の夢はここにある』

(うーん、一方的にまくしたてられるこの状況、何か既視感がある)

 くちをついて男のはソレを口にした。するとまた状況は悪化する。男の前に現れた男はこちらの事など意に介していないようだ。男は唐突に右手を取り出し、その男の手のひらから影があらわれ、映像が映し出された。その映像は自分とその男がすでにあっていたという言葉通りの記録であり、監視カメラの映像のようにみえた。俯瞰で自分たちが会話している映像だった、だがところどころ砂嵐がかかり、それはまるで、記憶をたどるとき明確な情報が取り出せないのと同じようにダブって感じられ、鮮明な記録とはいえなかった。


 『記憶の間違いや反復、夢と現実と記憶違いを思い出せ、君の部屋の“宝の鍵”夢か現実かわからないあいまいな記憶、現実で我々の影をとらえると、この夢をみた記憶の扉は開かれ、君は、“救済プログラム”を起動し、祭りを起こすだろう』


 男はこの男をみながら、ふと一瞬頭をよぎる記憶があった、説明される内容は、どこか心当たりがあるようなないような。ただ、この場所、真っ白な世界と白と、迷路と、星型の場所。覚えがあるきがした。なんども反復してみた夢のような、それにもまして目の前の、顔の半分が機械のようなこの男、どこかで見た感じがする、何かなつかしさを覚える顔つき。言葉は頭にはいってこない。何よりわざとらしいしまどろっこしい、寝起きではよくわからない話だった。話はよくわからなかったので、話半分にきいている。


 男は手のひらをさらにのばし黒い影をその手のひらから吐き出して、徐々に向かいの男の顔を覆っていた。

 『私はイル・エルゲマン、この場所は“箱庭の星”』


 男は得意げに足取りを、廊下をいったりきたりして、背後の迷路をまるで巨大な黒板を使う教師のようにとらえているのかめぶりてぶりで説明している。不思議な夢だ。もしくは、不思議なカオスネットのプログラムだ。ただひたすらにそう思うと同時に、自身に関する記憶がほとんど思い出せないことから起こる不安や奇妙さが身にまとわりついて、ぼんやりとした頭を刺激するのだった。

 (いつか、どこかできいたことがある、この男、あらゆる火星の電脳薬(バーチャルドラッグ)に精通するという、都市伝説にあるイル・エルゲマン、すべての人間の夢に現れるというあの男(無表情な顔をした男だろうか)あのモンタージュが目に浮かぶ、つりあがる目に、薄い眉、深いくま、濃いひげ堀の深くやわらかい輪郭と笑みとえくぼ、彼がエルゲとの関係があるというものが都市伝説の内容だった)それよりはもうすこし少々のあごひげをたくわえた好青年。そして、顔半分が機械。


  『ぐう、この顔はどこかで見た気が、何かの……契約、“エルゲの救済アプリ”俺がアクセスした?頭が、割れそうだ』

 ガンガンと中から叩くような頭の痛み。神殿の外側、その場にうずくまる寝間着姿の青い角の男、自分がだれかも思い出せない。

 『あの部屋、俺の部屋に……似ている?なにか、おれはなにか、だれだったか』

 しかし、少しずつその断片が脳裏をよぎる、現実での、たわいもない出来事や、生活の記憶。この夢か幻想かもわからないものに入り込む前、自分はひょろひょろの学生のような見た目をしていた気がする。

 『それから、それから、俺は誰かと、友人で、だれかと、恋人で、俺は、俺のなはド……ザ』

 頭を掻きむしり、自分にひもづいた記憶をたどる。まるで意図にからめとられたこの星のように、悩ましく苦しい記憶を、しかしわずかに勝る好奇心で紐解いていく。自分は、自分は、現実の世界でどういう人間だったか。

 『おれは、おれは、どういう人生を歩んでいたのか』

 ぼんやりと夢のなかで、意識が過去のものと現在のものがだぶっているのを感じた。頭の中に強烈な、生存の危機を感じるような苦痛が走る。少しずつ、昔の記憶がもどってきた。それはデジャブが古い記憶を呼び起こし、ここがどこで自分が誰かわからなくなるように足元が、浮足だつ感覚だった。

 昔から機械いじりやpcいじりがとくいで、反面人付き合いが得意ではなく、しかし機械に対しては昔から言語を覚え、数学もそのために人一倍勉強し、それを生かし、高校卒業後、社会人になってから個人で学習し、IT関連の資格をいくつとり、やがてエンジニアとしての知識にに詳しくなった後、やっとのおもいで試行錯誤で手に職をつけIT技術者として地道に働いていた。この界隈はどこもブラックと噂され決して幸福とはいえないほどではあるが、企業に酷使されつつも平凡で退屈な社会生活をおくっていたはず。支えもあった、だれかのささえ、だれだっただろう?今は、ここはどこだ?時代は。そこで気が付いた。これは明晰夢。火星における明晰夢にはいくらか言い伝えがある。もしかして、この明晰夢も同じ、『いう通りにしなければ日常に支障がおきる』という噂通りのものだったのだろうか?いやそれよりも自分には鬱屈した毎日の、どこか逃げ切れないような不満や苦痛があったはずだが、いまではそれはすっかり忘れ去られたように楽になっている。それはなぜなのだろう。


 『思い出せ、君は忘れた夢を思い出すのだ、この夢はエルゲから見た君、君の記憶、その貯蔵庫なのだから、君が忘れた“夢”を思い出すとき、この夢から出る解決策が見つかる』

 矢継ぎ早に、男が言葉をつづける。頭痛を止めるまでもなく、苦しみをいやすのでもなく、それをむしろ推奨するように。

 『何かないのか、最近感じた苦痛や、感じた喜び、大きな変化が君のそばでおこったはずだ!それは何だった?自分の言葉で……』

 『自分は最近恋人とわかれ、その悲しみが忘れられず、そして……何かがおこり、耐えきれなくなり』

 『そうだ!!』

 発狂したように、イル・エルゲマンとなのる人物がまくしたてた。、まるで苦痛とともに記憶がよみがえることを知っているかのように。


 『現在の火星は亡骸の上になりたっている、人間は神に近づけず、変わりに機械がそれに近づく。

脳の中には死後の世界や、機械が管理する世界ではそのバグかも知れないが、機械の超越的力と、原始的な環境の再生が人間に進化を促した』

 影の彼は彼の部屋の隅を指さした、見覚えのあるコンピューターが、宝箱の中にしまわれている。そのかたわらに天秤が置いてあるのがみえた、そのひとつに、水晶玉、見覚えのある女性が移っている、そのひとつの水晶玉は曇り、天秤の比重は見覚えのある女性へ傾いている。

 『天秤にかけ、君はひとつをえらんだ』

 『ここはいったいどこなんだ、何の夢なんだ?いったい?カオスネットの中か?ラノベにある異世界転生ものだろうか?』

 『現実に、この夢は存在する、、こう考えたことはないか“君の存在した今までの世界”こそが生まれ変わりのの準備をしている世界,この世界こそがまやかしであると。この神殿の外側、城壁の外側には、回廊がある、その迷路は輪廻の回廊と呼ばれている』

 そういえば初めに目覚めたこの部屋の中に、庭があり、その外に大きな繭があったような……。そちらにめをむけるとたしかにそれはあり、奇妙な、まるで絵具をひっくり返したような色で光をはなちながら、木々の間にはさまり、巨大すぎて幹につきまとうように引っ付いていた。


 『どうして、俺の夢を案内するのか?』

 『私がイル・エルゲマンだからだ、私は都市伝説の通り、君の夢を案内する役目を負うもっとも古き存在』

 (ん?)

 この決まり文句に男は覚えがあった。それも現実で、この仮想現実ではなく現実で、それにふれた記憶があった。

 【こいつがイルエルゲマン、本当に?そうだ、この都市伝説にも覚えがある、エルゲによって不幸になった人間を、人の夢にまよいこみ助ける存在がいるという】

 【俺の夢を救う?】


 『そうだ、“人の夢を救う”人々の好奇心と探求心、芸術のインスピレーションは、数値で理解することが難しい、デウスには理解できないのだ、デウスは断片で世界を圧縮してデータとして理解する、エルゲが“演劇”で世界を圧縮して理解するように』


 足音がして、男はイルエルゲマンから顔をそむけた。しかし、すぐに彼に目を向け、こういった。

 『俺の名はドーザー、思い出した、俺がこの“夢”を開く違法プログラムにアクセスした、そして俺はいまこの夢をみている、俺は何を忘れた?』


 そのころミゲルは影と一緒に迷路をかきわけて、彼らのもとへかけつけようとしていた。タッタッタッタ。子気味いい足音が配線や水道管ばかりの廊下に響く。廊下に背中半分をだしている影の男はそれに気づき、少し不機嫌な顔になった。

 『担当分野はエルゲと影の“賢者”と相談だな』

 そこへかれらの気づきに気づいてすぐにたちよったのか、それを遮る意図を感じるタイミングで一人の少女が彼らの間にわってはいって、走りやみ、ひざにてをつき、深く深呼吸をした。まだ走っていた影響で呼吸はひどく乱れていた。

 『はあ、はあ、こんにちは』

 そこへ、例の少女がかけつける。霧に包まれた少女だ。例の男“イルエルゲマン”の肩をつかんで息切れの続く上半身をおこした。かわいらしいえくぼと広い口、口角をめいっぱいうえにあげて、つぶらな瞳と整ったつややかな鼻とそばかす、綺麗な顔立ちでこちらをみている。

 『誰だ?』

 『ねえ、あなたはもう忘れたかもしれない、けれどこの夢をみるのは、あなた、二度目なのよ、私は自己紹介をしたわ、私はミゲル』

 その傍らから彼女の影が自律して、別の言葉を放つ、夢であるから違和感はなかった。

 『ねえ『エルゲの『影の力』使ってみたい?』』

 影の言葉には答えなく定位と感じた、失礼だとはおもったが少女のことはまったく思い出せず、首をふった。しかしすぐに彼女のくちもとに既視感を感じた。

 『そうだ、確か……君は僕の『夢』をかなえてくれるといった、僕が僕の恨んでいる人を許すといったとき、君と出会うのは二度目だ、僕は、生きる意欲を失ってこの夢を、エルゲの影のまじないを、そうだ、そうだったんだ、僕がまじないをしたから“夢”がひらいた?.

まじないをしたから、噂されている“エルゲの救済アプリ”にアクセスできた、ハックは成功していた?』

 『 さあね、そもそも、私がそうしむけたのかも、私が言葉や行動を放つまで、私の思考はあなたにわからない、いくら私がエルゲでも』

『???』

『エルゲのお得意のレトリックね』

 意味がわからない。ドーザーは頭を抱えた。この狂気の少女はドーザーの手を引いた。

『部屋で話ましょう、時間はある、夢のなかに時間はとっても遅く流れるの、私はいつ、人を生かす創作ができるのかしら』



 自分以外がいやに落ち着いているので、それが夢だとわかっていても、なんだか急に冷や汗をかき、あわてて、いてもたってもいられず、なぜだかドーザーはドアを開けて外にでた。

 『くそう、こんな夢、いつ覚めるんだ!』

 それには答えず、少女とイル・エルゲマンは仁王立ちして。エルゲマンがわざとらしく儀礼だったおじぎをする。左手は襟に、右手は空に。三人がならんでドアのそとにたつ。

 『これからは、彼女が君の夢の担当者だ、私は、時々少し賢人に用事があるので離席することがある』

 『了解したわ、イル・エルゲマン、祭りのために私の部屋に案内しましょう、彼と私とそこで記憶を取り戻すまで一緒にすごすわ』

 いつコスチュームを変えたのか?淑女のフォーマルなスーツに身を包み、案内をするといわれた少女は赤いネクタイを首元で整えて、片目を閉じておちゃらけて見せた。

 『彼女は、エルゲですか』

 『そうだ』

 『そうよ』

 ドーザーは信じられなかったエルゲが、自分たちの見方だということが。エルゲは、戦争でほとんどその人間一人ひとりが兵器のように扱われたと、歴史で習ったあのエルゲだ。それが自分の夢のなかにはいってきたという事実、この夢がもし現実に見ている夢だとすれば、とんでもないことだった。そうやって手を引かれた。


手を引かれて外へでる、瞬間彼はへたり込んだ。何がおきたのかわからなかった、走馬灯のようにかつての記憶がよぎった。


【ふと目が覚めそうになる、だれもが一度はそんな夢をみたことがあるだろうか?何度も目覚めようとするが目が覚めない、眠っている自覚があるのに見ている、いわゆる明晰夢というものだが、それでも何度も体をおこそうとするが、目覚めたとおもったらまた夢の中、というようなループする明晰夢だ、男、ドーザーもその状態にあった】


『おきちゃだめよ、戻ってこれなくなる、魂がふたつにわかれるわ』

エコーのかかったこえがし、うすぼんやりと明るい視界のおくで、もやがかかった白い景色の中央で手を引かれる感覚があった。聞き覚えのある声、あれは、ミゲルの声だ。



 ぼんやりする意識に白い視野がもどってくる、廊下がみえて、ドーザーは、自分の目線でミゲルに手を引っ張られている自分の姿をみた。

※『何をぼんやりしているの?“現実(リアル)に引っ張られるわよ”こっちへ早く……私の部屋へ案内するわ、そこでやることがあるの、あなたの部屋を再現して、他者の夢とのつながりを探すわ』

 『何です?どこへ?何を急ぐんです?エルゲの……ミゲルさん』

 ドーザーはそこで初めて少女を名前でよんだ。

 『この夢であなたは何度も何度も目覚めようとし、それに失敗しつづける、この意識の反復から逃れるには、あなたがあなたの重要な過去を理解する必要がある、それには私の助けがいる、それと“私の部屋”の魔力の助けが、半端に目覚めると、あなたの魂の一部はここに置き去りに……』

ドーザーは少女の美しさにすこしドキドキしながらも、いわれるがままに、夢の流れのままに従っていた。 

 『ほかの人の夢のなかからあなたの夢のカギを取り出す、きっとそこで一度目の夢を思い出せる』


 少女はドーザーを案内するといって、彼の手を握った。そして走るように促すと、うしろをふりむいてわらった。その世界、二人は古今東西の中世や古代を思わせた装飾や柱のある城や迷路の間を、城壁にそって移動する。

『あなたが繭から生まれて初めてたどり着いたいまの部屋、あれはあなたの夢の“結界”安全地帯、見えない糸でその部屋とあなたはつながれている。部屋に重要あなたのみっつの宝があり、あれがあなたの夢を“デウスの絵画”から目覚めさせるための装置、デウスの見せるこの夢のことね、ただ、この夢は共有されたものだから、部屋のそとにでると夢は混線する、でもそとにでなければ、あなたはあなたに関係する記憶をあなたの視点でしかみることができない、これから私についてきて、私たちは他者の夢に接触する』

 いくつかの部屋をかすかにドアを開けてのぞきみてはそう説明する。とおりすぎる迷路や城壁のすぐそばには白いかげや黒い影の人影がたたずんでいて、会話をするでもなく、ただときたま奇妙な聞いたことのない言語を口走っていた。

(あれは、人なのか?僕らと同じように同じような夢をみている?)

『影と目を合わせないで、白い影をみたでしょう、黒い影ばかりじゃなくて、白い影はエルゲの夢に干渉することを許された火星人たちの、魂の破片。白い影たちは、祭りを(許し)でおえたもの、この夢にとらわれた人は記憶を自分の夢に持ち帰り、芸術活動や創作にいかしている。黒い影は(影食らい)白い影は星食いではなく、“星見(ホシミ)”たちと呼ばれているのよ』


ここでドーザーに疑問が生じる。息が切れてもそれは気にも留めなかった。

『この夢とカオスネットとの違いは、そもそもこれは本当に夢だろうか?』

『ここは、現代のネットと同じように、発展したメタバース、五感を電気信号にかえて仮想現実ネットワークにつなげるだけじゃない、人の夢や人の意識に直接つながれる、TSの深い領域にできた仮想世界なのよ』

  案内されるうちも、汚れ一つない神殿のような建物と迷路ばかりの景観。そして真っ白な情景ばかりだった。

『どうして、前の部屋じゃいけなかったんです?』

『私が手伝うため、あなたがここをでられる、つまり夢が覚めるまで、私たちは時間を無視して、あなたにとって重要な記憶を探り出す。明晰夢より明確に、明瞭に、あなたはあなたのここへきた記憶と取引の記憶を取り戻さなければ、同じ夢にとらわれる、あの部屋に居座りつづける限り、刺激を与えないかぎり、あなたは目覚めることさえない』

『ふーん、ずいぶんコッタ設定ですね』



 しばらく息を切らせて二人は走り切った。城壁の切れ間のギリギリの特異な場所にその部屋のドアはあって、彼女はそこで足をとめた。

『さあ、ついたわ、私の部屋よ、私はいま、簡素なものだけど』

少しまって、そういわれた男は少女の翻しすんとのばしたてひらのの後ろ、背後にたたされた。少女は逆の手をつかって人差し指をくるりとまわす。

『ディミト・マキナ、ディミト・マキナ』

何度も彼女はそのセリフを復唱する。

『あなたの世界を再現するわ、まずはさっきのあなたの部屋、“部屋”エルゲの部屋は、来訪者に合わせて姿を変えるの、庭は、私のプライベートの記憶における大事なものがあるのだけど、部屋には本来何もない、あるように見せるのよ、どうせ夢のなかだから、再現は簡単』

 コンコン、そういいながらたたた扉、さっきの部屋変わりのない、城壁に突如としてあらわれる扉のようだった。コンコン、たたいた後にエルゲの女は入り、男の自分を案内する。中は、驚くことにさっきの部屋そっくりだった。そしてただたんに扉だけが、内側に紋章と呪文のようなものがかきこまれ、花柄の装飾がわくを覆ったような特殊な図形が彫られていたのだった。紋章は部屋をあける瞬間に形をゆがめ、少女が扉をあける瞬間に部屋の内部は光輝いていた。その時にどうやら部屋の模様をかえたようだった。

 『光学迷彩みたいだ』

 ―目を通した先に今々つくりあげられたような、光を放ちながら光から解き放たれ、輪郭を明らかにしていく、先ほどの自室までと同じ風景がそこにあった。(これは、俺の実家だろうか?思い出せない、古い記憶に思える)懐かしい木々と、なつかしさを覚える簡素な室内、DVDラックに、パソコンに関連の雑誌。誰かから与えられた簡素な白いパイプのデスク。


 その部屋の中央に実家には見覚えのないものがあった。いや、自分にこの世界で与えられた部屋には存在していた。(城壁アパート)と少女が名づけるものの中に。あれは人形と、天秤と、宝箱。ドーザーは入口の扉を前にして右側の隅が気に入り、そこに位置をうつした。それからというものここで、ドーザーはなんども、夢のなかでありつつも寝起きを繰り返すことになる。

『まずはここであなたの記憶と、あなたに関係する者たちの記憶をさぐる、その作用で魔力をためる、必ず“強い思い”が見つかるはず、私たちエルゲは“強い思い”を魔力の根源にしている』


 少女は外をみる、外といっても庭しかない。ドーザーの生家が再現された庭だ。

 『あなたはすでにループする現実の中にいる、起きようとしても起きられない、夢だとわかっているけど目覚めない夢のなかに、アプリに接触したから』

 『なんです?』

 少女との会話では、唐突に向こうがアクションを起こすことがあり、そのたびに夢から出口の糸口を探そうとドーザーはもがいた。

 『あなたは不幸な目にあった、ただの不幸ではなく、あなたの経験はすでに、人間にとって(はじめての経験)デウスの運命予想の外にある不運、エルゲはデウスとの盟約によりあなたを救う』

 少女は部屋の中央を指さす。 

 『あなたの苦痛をやわらげるものが“繭の3宝、エルゲドール、宝、天秤”人々の夢それぞれにそれは予め備蓄されていて、火星の人々ががデウスが予測する運命の路線からはぐれたとき、その身代わりになって苦痛を和らげる、そしてあなたが祭りによって運命に戻されるのを手伝う、ドールはあなたの分身、宝は記憶を収める箱、天秤は、両端に水晶をもち、私たちが現実や他者の夢を見せ、あなたに選択を迫る、重要な記憶ひとつをあなたに問いかけ続ける、そうして鍵は見つかる、過去から現在へつながる、あなたがこの因果に迷い込んだ鍵が』

 『この夢が覚めた時の、あなたたちの最終的な目的は何ですか?、それにどうしてこんなに親切にするのです?私はのアプリにアクセス、もといハッキングをしただけなのに』

 『あなたのハッキングもエルゲは把握していた、そうでなくともあなたはアプリにアクセスする権利があった、こちらから動くよりあなたが速かっただけですべては初めから仕組まれたこと、もう一つの質問の答えはは、“シンクロと修正”人々の間には常に勘違いが存在する、その勘違いは“英雄”がしたように、いかようにも演劇にして誤解をとくことができる、誤解をとけば、観客同士に折衝案ができあがる、エルゲもまじえて“現実を祭りにすることができる”、これまでもずっと、これからも私たちエルゲは力を持て余している、その、持て余した力を使い“合意をえた演劇”によって人々の苦痛を肩代わりする、それが私たちの生存とあなたたち人間の両方の存続戦略だとエルゲは長老とともにひとつの答えをを出した、もっとも、その小規模な祭りの最終的な目的はもっとも悪い祭りである、“オゾスの祭り化”への抵抗、我々エルゲはオゾスの予言に抵抗するために存在している』

 『でも、あなたたちは預言によって未来を知っているのでは?テレパシーやテレキネシスだけではなくあなたたちは預言もこなせると、第三の力をもつという話しじゃないですか』

 『私たちの中には“怪物”がいるの、どんなことも遠くからみて、孤独に寂しく、すべてをあざ笑ってしまえるような冷酷な力が、私たちはそれを戦争中にしった、それは脈々と受け継がれていて……本当の目的は、そうね、私たちが“大人になること”なのかもしれない、知っていることに向き合って、それでも少しの変化をもたらすことかも、でも、建前上私たちは、泥船のオゾスへの抵抗を信条としているわね、あの間違った寓話への、そう、私たちはあれよりも面白い話をつくりたい、もっとも、聞かせたい相手は、私たち自身なのかも』

 そういうと、少女は腰を下ろしてわらってみせた。少女の頭の中には全く別の世界、別の現実が存在していた。少女は別のコロニーで、授業中の中学生の自分の姿を俯瞰でみている。そしてその少女がひとつのタスク“ドーザーとの会話”をこなしている傍らで別のタスクをこなしている。記憶をさかのぼっているのだ。少女はプライベートスペースの中でフードをかぶりカタカタとパソコンをたたいている、別のパソコンの前にすわりそのタスクを探る。記憶をさかのぼっているのだ。

 “記憶が開きそうだわ、あの扉、あの白黒のトンネルが”

 少女には人助けと同様に、マルチタスクで進行するもうひとつの記憶、少女は記憶の中に怪物をとじこめていた。怪物は三角形の結界の中にとじこめられていて、正方形の形をしている。

 『エサをくれ、もっといい餌を、人間としての生活は退屈だ』

 そういって、話す怪物には、目がなく耳と鼻と口しかなかった。

 『私は外に飛び出る、私は紛争の間にとびでる、私の中の怪物はあらゆる紛争が私の孤独、私のウソ、私の狂気には勝てないとしっているから』

 どこからかうす暗く冷酷で、そして甲高いうめき声のような声がひびく、よくみるとそれは薄暗いその室内、壁の萌えない暗黒の中で、天井につるされた明かりしかないその室内で、目の前の怪物が声を発しているのだ。 

 『案山子、案内人、お前はエルゲ、いくつもの可能性と予言と平行する世界を頭の中に蓄えた怪物、お前こそが怪物だ、いつまでも私を閉じ込めておけると思うな、お前の冷酷さは誰よりもしっている、お前は今しがた危篤になった親族のベッドのそばで同じようによりそう事をしない、そしてお前は、彼や彼女を同じ方法で弔ってやることさえもしない』

 『けれどわかるわ、怪物よ、私たちは失敗さえも人に教えられる、案山子だ、そこにたっていれば人々は同じ失敗をしない、世の中には往々にして反対の感情がもとめられることがある、あの天秤の向こう側が必要なときがある、あんたがそのうす気味悪い結界の中で、外の世界を望むように、私の中の異常さが、正常な私をもとめている』

 『お前の存在はバグだ、お前と私がいれかわっても、だれも気づきはしない』

 『エルゲには二つの人格が宿ることが往々にしてある、そうだ、私は怪物だ、でもまだお前じゃない、人々だってあんなに、星食いや星見を生む“バグを抱えている”そうだ、黙れ!!容姿の醜い怪物め!!』

 そういって少女はタスクをとじた。

 『泥船のオゾスか』

 『簡単にいえば、今行われている祭りが気に食わないから、私たちが介入するの、あなた、ここにくるまでに黒い影をみたでしょう、あれは恨みをもった魂。あれがさらに進化すると……ほとんどそれはエルゲの力によっておこるのだけど、イヨカイに代わる、それは、人々が憎しみを自己目的化したときに暴走する、それがほとんど、あなたやアプリに接触した人々の不幸の原因になってる、“影の祭り”あの怪物たちが暴走し現実に現れる、、だから私たちは逆にあの怪物たちを破壊する』

 聞き覚えのあるワードがでてきたのでドーザーが聞き返す。

『イヨカイ?ヨウカイではなくて?』

『ほとんど同じもの、でもデウスの影によって生み出されたものだから少し違う、火星の影には魂がやどる、あれはそうね、人間の魂のかけらと、我々エルゲの呪文が生み出した怪物、エルゲの力は影から生まれるから』

 少女はきなしかにやりと気味の悪いほほえみを浮かべた気がした。 壇上にあがる役者のように、ことこまかにその詳細をかたった。 

 『オゾスの伝説、もしあれが本当だとすれば、あれはユーモアを失ったことから起きた悲劇、私たちとデウスは盟約を交わした、オゾスの悲劇が大規模で起きる前に、私たちとデウスが防ぐ、増えすぎた人口が、大規模な戦争や紛争とつながらないように』

 少女は悲しい表情をみせる。椅子にすわって、彼にもそれをすすめた。椅子は二人分、いつの間にか用意されていた。

 『先遣隊のほとんどは、訳ありの人間、リスクを持った人間、つまりほとんどは、立場の弱い人間だった、この世界がもっと生きやすい前提があるのならオゾスの悲劇は起こらなかった』

“みあげて”ミゲルが突然ジェスチャーをする、天井を見上げるとガラス張りで上空がみえる、その上から、なにかもやもやしたものがふってくる。

『あれは、糸?巨象の間からおりてくる』

『あなたの夢もこうしてこの世界とつながったのよ、あの巨象の間の意識をたどって』

二つの虚像の間から糸ががふってくる。それがガラスをつきぬけて、部屋の中央、三つの宝の間にに固まりをつくった。繭だった。

『なんだろうこれは、まあ、もうこの不思議な夢には驚きはないけれど、繭?』

『あなたのドールに『魂』を宿すもの、デウスとエルゲがあなたの存在に『魂』を認めた証拠』

 なぜかその時まで気が付かなかったがエルゲの少女の部屋の壁には、絵画が並べられていた、その絵画のひとつひとつには覚えがあった。それは自分の記憶だった。幼少期、幼馴染、恋人、見ているだけで、何か沸いてくる感情があった。それから繭をながめた。ながめているとそれがまるで自分の一部のようにかんじられてくる、その苦しみが自分につたわり、楽しみや喜びが自分のものにかんじられるようだった。

 『なぜ、ここにこんなものが』

 少女はいつのまにか庭にでて、キャンパスをとりだし絵をかいていたよいうだった。見渡すと現実の自分の記憶の、ところどころ、生家の区画があり、今住んでいるアパートの区画があったりした。時々それはゆがんで姿を変えたが、それらは魔法が不安定な状態になるからだとミゲルが説明をしてくれた。


 ここで少女は天秤のまえにたち、天秤の両端にかけられた水晶の内部をのぞくくように、アゴでドーザーに要求する。

『少し、エルゲの力の説明をするわね、エルゲは演劇の形で現実を記憶している、抜き取られた情報には誤差が生じる、演劇は現実の地続きの記憶に直さなければいけない、そうしなければ“シーン”と“シーン”の間になにがあったかをエルゲは“思い出す”ことができない、その誤差について読み取るには人間の力が必要になる、ヒューマンの力が、エルゲでもデミヒューマンでもなくね』


水晶の中に記号がでてきた。デウスエクスマキナを示す横に倒れた砂時計、エルゲをしめす“約束の案山子”のシンボル、そして第三者と書かれた人型の記号(つまりこれはドーザーをさす記号だろう)第三者が、エルゲの手助けをし、エルゲは、第三者の手助けをすると矢印が双方にひかれた。

『はあ、なんとなくわかります』

『エルゲの力は影を通して使われるわ、今は見ることができないけれど、ソースツリーの内部には影が走り分解される縦の回廊がある、螺旋階段のようになっているのよ、その螺旋の回廊にこうした記録が保存されていて、その螺旋の記憶をつかってエルゲは、“何をすれば魔法的な出来事が起こるのか”を理解する』

『でも、力を使うなら自由につかえばいいじゃないですか、人間の力をかりずとも』

『それがだめなのよ』

スーツの襟元にてをのばし少女はシャツの首元からあるペンダントをひっぱりだした。

『“約束のかかし”人間に対し約束をし、その責任をエルゲはまっとうする、その形でしか金輪際力を使わない』

“戦後の誓い”エルゲが人間の仲間として受け入れられるために、デウスエクスマキナ、賢人、エルゲの中に結ばれた誓約だ。様々な哲学者がいうように、人が人に応える約束の中に人間性は宿る。裏切りによって人間性を失い、暴走した過去をもつエルゲという種族は、戦後、それを自分たちの人間に対する制約としたのだった。


『なぜ、影なのです?』

『火星の謎や不思議、神はすべて、デウスの作りだす光と影の中からうまれた、火星の開拓の時期多くの人間が幻影や幻想をみたが、すべてはデウスのつくりだした、人工的な光と影の中でうまれたのよ、それだけじゃない、人間は機械を頼りに生きている、アンドロイドがほとんどのシステムの問題や困難を肩代わりして、便利な世界をつくっているから、人間は全能感をえた、その全能感という幻想を埋め合わせるように、私たちの特殊な能力が目覚めた、人の全能感を否定すること、それもエルゲの宿命』

 この夢がデウスの作り出したものなら、あるいはカオスネットがデウスによって作り出されたものならば、半分電脳化端末を身体に埋め込んだ火星人が夢見る現実が半分仮想現実であっても違和感

はない。そもそも火星人の夢が、デウスによって火星人の夢はすでに支配されているかもしれない。そんな風にドーザーは思いを巡らせていた。


『こちらにきて、この両端の水晶を見てごらん』

『これは、何かの映像?』

『今の私たちの部屋を左右両端から移したもの、デモンストレーションにすぎないわ、ただここに時々、あなたの夢を映して、あなたはそこからピンとくるものをえらび、天秤をゆらす、天秤がゆれれば揺れるほど、“魔力”は、宝に蓄積されていき……』

少女が指さす方向をなぞると、床に呪文のようなものと太い線がひかれ、太い線がみっつのたからをそれぞれ相互に干渉するように交差する線がひかれていた。

 『ドールの原動力となる』

 次に少女は、部屋の中央を指さし一つ一つを手に取り、その作用を説明する。にこやかに、そして、礼儀正しく、丁寧なふるまいを交えて、まるで何かの販売店の店員のように説明を続けるのだった。

『これからあなたには、日常的に記憶をとりもどしたり、捨てたりする作業を繰り返させる』

 そうして少女は布団とベッドと仕切りを部屋の、庭の側にみっつ設置していった。

『思い出したい記憶があれば私に尋ねて、ドールをもとに人の記憶に接触する特訓もする、疲れたら眠る、恨みや、その逆、感謝を伝えたい人間がいるなら、それをたどることもするわ、とにかくこの夢から目覚めるためになんでもするわ』

その後、少女はその日は眠れとドーザーにいって少女自身は絵をかいていた。

 (あなたはもう一つの自分の能力を探すべきよ)

 (どういうことです)

 (あなたは、ひとつの能力や個性は、一度他者に否定された、あなたが自身を取り戻すにはもう一つの能力をつくり尊厳を取り戻すことだ)

 その時自分にそれができるとはドーザーは思わなかった。

 『大丈夫、俯瞰でみると、人間はすべて同じ存在だから、エルゲの能力を使い、人の夢を“横断”すればわかるようになる』

 

 次の日、少女にまた新しいことをおそわった。ここで時間の流れは奇妙で、一日の単位が日によって情報によって様変わりしていた。曜日感覚などなかった、なぜならそれは夢のなかだから。


 『起きたら記憶にない夢、でも何か思い出せそうな夢ってあるでしょう?あれこそが、火星におきる色々なバグの正体、たとえばエルゲだったり、亜人だったり、開拓期の幻覚だったり』

 その日はサブワールド構想というものについて説明をうけた。

 『その昔、デウスエクスマキナは人間を学習するときにエルゲに協力をもとめた、実際は、それは賢人会を市民局を介してのものだったが、エルゲの担当は“世界を演劇のデータと化として人間社会を観察する”それをデウスに報告すること、一方デウスは“絵画”として人間を理解した。それぞれの担当は“世界をドラマとして理解し、人と人との関係、その価値を理解すること”と、“世界をそれぞれの個人に宿る個性にこそ意味があるとして理解、分析すること”それらは人間を抽象的に理解するために必要だった、抽象性は、火星人類の生命力である芸術を理解するのに必要な概念よ』


 『そしてそのサブワールド構想は、人々と人々の争いを最小限にとどめるために利用されてきた、100年前の『英雄たち』もサブワールド構想の一環だった、人々が現実だけではなく仮想現実にも居場所を求めることができるようになれば、“同じ価値観の元で人と比べあう必要がなくなる”火星人は“サブワールド構想”の“残骸”を見る、目が覚めると忘れてしまうが何度も見る夢。

開拓初期、それが“バグ”を生んだので“この夢”が“バグ”を解決するために作られた。

“バグ”とは“幻覚”だった。開拓初期、だれもがエルゲのように予言や予知の幻覚を見た。』

 ドーザーが悪夢から覚めるためには、“絵画”“演劇”として圧縮された自身と世界のデータから、“自分にとって大事な予知や予見”を取り出し、自身の“地続きの現実”を取り戻す必要があ

る。エルゲによって生まれた悪夢はそのエルゲの分身、ドッペルゲンガー、影になることで、解決する。それが祭りの主な目的。サブワールドはカオスネット、エンジェルカラーと紐づけられて、電脳空間の一つとして実装される予定だった。今は表向き、存在しないことにされているがエルゲが、同胞の“罪”を払うために扱っている。“鬼化”したエルゲを“浄化”するために“救済アプリ”と“サブワールド構想”の残骸が使われる。


 『じゃああの怪物は、影や光の人影は?』

 『イヨカイウイルスに侵されたコンピュータープログラム、ウイルス、デウスが獲得したのは人工知能だけれど、人類は無理やりその知能に首輪をかけた、その首輪で防ぎきれなかったのがウイルス、開拓期もこのごろ都市伝説や霊現象も、もちろん“いろんなパターン”があるけれど、“エンジェルカラー”とサブワールド構想の影響をうけ、コンピューターウイルスの影響をうけた事件もある、“あなたの件みたいに”あなた、あなたが嫌な事に巻き込まれる前、変な噂がなかった?

“亡霊が付きまとっている”とか。


『そういえば。“元ハッカーでハッカー時代に少女のエンジェルカラーをハッキングして殺した”なんていう噂がたち、そのあと亡霊がつきまとっているとか不吉とかで、社内で扱いが悪くなっていき。それで社内恋愛だった恋人との関係も悪くなっていった。

『誰かの強い感情さえあれば、エルゲは“TS”を使える。

TSには、隠されている第三の能力がある。原理は不明だけど、エンジェルカラーに干渉し、そのウイルスと同調する、するとウイルスは複製され、亡霊は自律して動きだす、“目的”を果たすまでずっと。自律する“幻想”を生んだエルゲと、あなたに強い感情を持つものが、あなたの周りの不自然な不幸を生み出した。』

そんな説明をその日はうけて、不可解にも思いつつどうせ夢だろうという事で眠りについた。




その次の日、ふかふかとしたリクライニグチェアに座らされ、ドーザーは後頭部のすぐした、首元をにあるエンジェルカラーに、機器の配線らしきものをつなげられた。その配線は、彼女らのいうみっつの宝につなげられていた。

 (私たち人間の欲望には全員偏執の怪物がついてまわり私たちの行動を狂わせる)

 (怪物?)

 (そう、怪物、その性質を利用して影の中に潜む怪物となって、あなたはドールに接触する、ドールに接触して、怪物を制御する)

 (それに何の意味が?)

 水晶の中をみせられる。

 (これによってあなたは、夢をみたまま現実に接触できるようになるわ)

 (それじゃまるでトランススペースだ)

 少女は横顔で、きづいたかというようにうれしそうにえくぼをつくる

 (そうよ、わたし の力をかりてあなたは現実に干渉するのよ、あなたは私たちが式紙を使って何かをするように、ドールを行使する力、テレキネシスと、夢のなかという条件つきだけれど現実に人の気持ちに干渉する力をえる、今日からここはそのコックピットね)


 あなたのかなわなかった夢を“半分”かなえることができる。あなたがエルゲになりきるという嘘をつくことでね(嘘がなければ、地続きの演劇である現実、そこに配置された役者としての私たちの立場は変えることができない)

その日はそれで訓練を終了した。


1記憶 (現実に干渉すれば半分)

 気持ちのコントロール。想像力によってあなたに起きた悲劇をわりきる。あなたっとともにまず、あなたの過去へとぶわ。


学生時代。(いかに余計な場所でてをぬくか、それによって集中力を必要な場所へ注ぎ込んだ、それが、いずれ全体への好奇心とかわる、それがドーザーの永久機関だった)





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↓※星みやほしくいとのトラブルをこの日常に挟み込む。例えば、ホシミは、不要な情報を吐き出し続ける影。

ホシクイは、必要な情報を食い荒らそうとする影。

デウスが人間を絵画のような形でとらえているということを、実際の画面として理解できる必要がある。たとえば、自分の記憶の中の、印象的なシーン、走馬灯のようなものを、デウスの代理人であるレムレースが描いているとか、城壁の壁に、毎日それがアップロードされていく。


レムレースが、ドーザーが語り掛けるたびに同じ言葉を口にする。まるでカオスネットやゲームのnpcみたいに。


『こんにちは、これはデウスの決めた“運命”の一部です』

ドーザー反応

“本当におかしな夢に、迷い込んだのか?俺の首の端末(エンジェルカラー)はどうなってる?”


父と母の幻影(ホシミ)

お前はすきなことを一つだけ強みにして生きていけばいいんだよ。


※これらの情景をシンプルにおっていると時間がたりなくなるし尺が長くなりすぎる、要点を抜き出して三日くらいにまとめる。



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 その後案内されたミゲルの部屋の中で、ドールと言われるものの説明をうけていた。

『ほとんどアンドロイドみたいなものよ、たまに受け答えをすることがあるわ』


『あ、何か返せる?あ、あ』

 ドールはロボットのよう体をうごかす、くちもとは人形のように両端にたての線が入っていて可動部になっている。

『ア、アア、ア、目は覚めましたか?目が覚めたらあなたの記憶から、レムレースの記憶から、“名画”を探し、恨みか救済を選ぶのです』

本当だ、すごい。ドーザーは驚いた。

『現実世界ではレムレースとかかわりのあるものだから』

(現実世界では?)

『そのうち、彼とシンクロするようになるわ、あなたが彼をコントロールするのよ、庭をあるけるようになったら、あなたはもう、他者の夢に潜入する能力を手にしているでしょうね』

“当面の目標はこいつをコントロールすること?そういうことだろうか?”


そんなことを話しながら二人は部屋の中を散策していた。

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“祭りについて詳しくおしえてほしい”

そういったのは何日かそこでミゲルとすごしつつ、ドーザーの過去について二人で振り返っていたある一日のことだった。そうね、そろそろ説明を始めるときね、そういって、少女は、普段着からスーツに着替えtあ。


『火星の影の祭りは、三つの存在がいる、リーダー・扇動者、スケープゴート、服従者』

あるグループのリーダーにまず、影のエルゲが接触する。少女は黒板をどこからかひきだし、そこに説明をかいていく。


ステージ1奇跡と取り込み

 信頼関係の薄い人々の中に、影のエルゲが紛れ込む。そしてリーダーに組織の中に“敵”を作るようにと指南する。グループにリーダーの背後に潜むエルゲの力によって奇跡の力があるようにみせる。やがて、リーダーが魔力をもち、そのための原理が“敵”への正義の実行だと知らしめる、リーダーのカリスマ性に惹かれ、初めはいやいや“敵”を攻撃していたグループも、リーダーへの恐れからリーダーが間違っていても周囲は従うようになる、やがて、いじめのような構造ができ、暗黙の了解で“スケープゴート”を選び自分たちの欠点や改善点はすべてスケープゴートにおしつけるようになる。

そうして文脈はできる、暗黙の生贄。エルゲはそうして犠牲者に集められた『負のエネルギー』を利用して自分の魔力をためる。


2グループの周囲からの隔離、カースト化、扇動者かリーダーに、仮想敵に選ばれた時点で、服従者たちのスケープゴートに対する扱いはきまっている。波風を絶たせないために、お前は、俺たちの欠点、俺たちの問題点をすべて、自分のせいだと思い込めという要求が来る。扇動者と扇動されるものが問題の本質を棚に上げるためだけにだれかが犠牲になる。つまりリーダーと服従者と最下層のスケープゴートという階層が組織の中に醸成される。



3欺瞞、嘘さえ信じるように。問題や失敗が起こるとすべてスケープゴートのせいだと、服従者が思い込み始める。本当はわずかな信頼関係しかないことを他人のせいにしているだけなのに、他人のせいで信頼関係が醸成されないという、逆説的なロジックの中で同じ演劇を繰り返してる』


その話が終わったあと、庭に出たいといったが断わられた。


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頭痛に見舞われるときもあった、それは唐突に訪れて記憶を呼び戻す。

【“荒野に……暴君がいる”】

ドーザー、彼の中にディスエルゲマンと言葉を交わした記憶が徐々に呼び戻されていく。


少女は時々絵を描いた。それはきまってほとんど庭にでてだ。透明なガラスの向こうに少女の姿をみる。ここでは食事も睡眠もほとんど必要なかったが、儀式的におこなっていて、かれが睡眠をとり目を覚ますと必ず少女は庭にいた。絵をかいていないときはくるくると円を描いて庭の巨木を中心にして散歩をしていた。


少女はいつも絵を描いた。心当たりのあることしか、夢にも現実にも表れない。そんな口癖と一緒に絵を描いた。夢のなかとはいえ、夢をみる、夢は無限にループする白昼夢のようなものだった。だが夢を見ている自覚もあるのだから、明晰夢でもあった。夢の中で他者の視点をみることがあった。たとえばそれは時々ミゲルの目線だった、その夢に交わってエルゲの記憶が混線した。

少女の幼きころ、同じ言葉を母に聞かされているだった。

『私たちは“案山子”案内人、人間が迷うときいつも手助けをしなければいけないよ』

時に戦時中の何者かの記憶がまじった。

“エルゲは古くから同族同士で記憶を共有しているというが本当だったか”

悪名高き、恒久孤独局の姿もあった、エプロンをした秘密警察だ、戦時中に火星人を分断した。

北政府の部門である


イルエルゲマンは別の場所にいた、迷路のような通路を内側に二つくぐった先に、教会のそばに少し高い丘があって、その場所に彼の【ラボ】があった。長方形の一階の土台に正方形の二階が重なっている簡単な形のラボだ、そのそとに透明の結界があり、建物の周囲を一メートル四方をかこっている。一回にはところどころに窓はついているが、二階には窓はない。二階は開かずの間のように厳重な扉が用意されていて、入口の左側の階段の下にその厳重な扉があった。とてもじゃないが、その内側に何があるかは聞くことができなかった。

 『やあ、きたか、何か相談があればいつでもきてもいいといったが君はなかなか遠慮がちだね』

 『ちょっと聞きたいことがあって、あなたと少女の関係について』

 『……どういう意味だい?』

 少し勘違いをされたような、困りが尾をしたイルエルゲマンに、白衣をきたいつもと違う彼に、その時ドーザーはとまどいつつ、空気をかえようと粘った。


 『そういう事ではなく……あなたは都市伝説上の存在、ディスマンという地球の都市伝説をもとにうまれたいわば『副産物』なぜあなたは少女の夢に、エルゲの夢に現れているのです?』

 『まあ、ここは君たち人にとっては夢をみなければ来られない場所だからね、だからといって少女もそうではない、彼女が絵をかくときほとんど彼女の意識は現実にある、マルチタスクで仕事をしているのだよ、エルゲは火星政府との契約によって芸術ではなく生活にかかわるボランティアやデウスの複製機械AIレムレースなどの手助けをしているからね、今君がいる世界は、彼女がマルチタスクで描いた世界でしかない、これらは裏の仕事だ、僕もまた似たようなものだ、彼女らにすら本当の僕の居場所はおしえてない』

 『!?』

 『これ、カオスネットのヘッドギアの改造版だ』

 すっと、イルエルゲマンは唐突にひとつの機械を彼にてわたす、目を覆うゴーグルと頭の微量な電気信号をよみとるためのヘルメット型構造だ。

 『今度これで、君の夢とエルゲの少女の意識をつなげる、そうすると、徐々に君はエルゲの意識とつながりあの“ドール”を動かせるようになる』

 【は、はあ】

 話には聞いていたがまさか、市販のヘッドギアを改造したものになるとは、といってもこれは夢のなかだ、いったい物理的にこれがどういう意味をもつアイテムなのかドーザーは検討もつかなかった。

 『簡単にいえばね、僕らは、僕らの共生関係はほとんどデウスエクスマキナをもとにつなげられたものなんだ、きみはどのくらい彼女と仲良くなったんだい?』

そういわれてドーザーは自分の記憶をたどる。


ある時、いつもの流れで、天秤の端の水晶を覗くようにいわれた。“あなたの中にある荒野の怪物への敵意”の根源を探すとミゲルはいっていた。映像が水面のようにゆれて、その中に自分の見覚えのある光景が映し出される

(これは)

水晶にうつったものドーザーは、かつて、学生時代の若いころ、中学から高校の間、違法なハッカーとして名前をはせていた。その時の愛称は“黒鬼面”その時代に、デト“荒野の王者”とのかかわりがあったのだと、エルゲの少女ミゲルは語る。



そのときのドーザーは自分の能力が限りなく伸びていく気がして機械いじりも、あらゆる機会言語の学習もとても楽しく、ハッキングさえも日々のルーティンとしていた。その中で、彼はあるコロニーの郊外と地下との小競り合い、小さな紛争の情報をみた。そういったもののほとんどは、レムレースエクスマキナによってすぐに鎮圧される。だがその紛争は、1っ週間2週間と続いていていまだに収まっていない様子だった。

『よし、これにきめた』

ハッキングに成功した彼は、そのことで満足していた。戦場のレムレースをすべて停止させることによって、戦場の転機をつくる、それだけが目的だった。


次に少女は別の場所―レムレースと小競り合いをしている地下組織?らしきものの方を水晶に移した。

『あっ』

そこにみおぼえのある男ーというより男の象徴があった。

―“赤のカウボーイハット”-

やつは“地底人”だったのか。

“アンダーグラウンドの地底人”といえば、火星に深く根を張る問題だ。芸術的才能がない人間は、火星においては地位が低い。必要最低限の暮らしはできるがもちろん豪華な暮らしはできない。そうした人々が、地下に逃れ、そうして地下にコロニーが集まり、やがてそれが何世代も繰り返され、巨大な“地底コロニー”を形づくった。生まれながらの不公平を抱える彼らのなかにはもちろんデウスや、火星の貴族や地上民に対する敵対心をもつものが生まれてくるのも不自然ではなかった。


“俺が地底からやつを逃がした、そういうことだったのか?”


※クライ、そいつも、エルゲのそいつも!!“偽の敵”をつくった。みんな逃げたいんだ、過去から、俺には何もなかったんだ、俺の過去には、お前みたいな暴力しか能のない人間を生かしてしまった過去しかな!!


 記憶はここまで、ラボではその程度に仲良くなったのだと、ドーザーがイルエルゲマンに説明をしていた。

 『エルゲも僕と同じで謎がおおいんだ、『影』から彼らの力は生まれるといっただろう?彼女らの頭は人間の理解をこえたマルチタスクと脳の半分ずつを休めた―鳥のような―システムで動いている、彼女らは文字通り、眠りや夜、影の中から自分たちの力を引き出す、まるでそれは秘密が多ければ多いほど、力を増すようなものだ』

『ふーん、じゃあ、すべては話さないってことですね、いや、そんなことはどうでもいいんですけど』

 ディスエルゲマンはくすりとわらったので、なんだかどうでもよくなり、彼はその場をあとにしようとした。

 『ちょっとまちたまえ、少し話があるんだ』

 『何です?』

 『我々火星人には、哲学的にある枷が付いている、つまちベーシックインカム、生存の代償という観念、生存が保証されているからこそ、尊厳や自由は拘束されている』

 『きいたことはありますが、つまり機械によって生かされているから機械に拘束されているというような説ですよね』

 いいづらそうに、エルゲマンは後頭部をかいた。

 『嘘、嘘だけがデウスエクスマキナの用意した運命に穴をあける、だがデウスはそんなことを、別にとがめはしない、君はデウスの定めた運命のあらに気づき、そのことによって“運命の外側”にでるだろう、だが何があろうと、自分を見失わないでくれ』


外に出る、ドーザーはカーブする下り坂の車道を歩く。

 【そういえば以前、黒い影とあの男、イルエルゲマンと出会ったときに黒い影とエルゲマンが戦っているのをちらりとみたな】

 そう思い返していると、ドーザーは後ろから声をかけられる、

 『なあ君』

 聞き覚えのある声、というより先ほどまで会話をしていたエルゲマンの声だ、そして、ふりかえると一回の窓を開けて、うえに開閉する形の窓に手をかけたまま、イルエルゲマンがこちらに話しかけていた。

 『なあ、今日は一人できたのかい?お守りは持ってるかい?』

 『もってますけど』

 ドーザーは首元から約束の案山子のペンダントをだした。少女からもらったものだ。

 『危ない!!』


 そういっているエルゲマンは慌てた様子で窓を閉じた。

彼の視線のあったほうを探し、前をみると、坂の下から黒い影にまとわれた人間がこちらにせまっていた。全力疾走の様子だった。


 『何ッ!?』

 『ずざっ』

 目の前の影は上空にとびあがり彼の上からのしかかろうとしていた。ドーザーはそれをよけようとしたが上空で奇妙に影は位置を降りる修正し、彼の真上からかぶさろうとした。その時だった。

 「チュウウンッ」

 まるでレーザーのような音が飛び散ると、イルエルゲマンの開いて伸ばした掌の中央から閃光が走った。

 とびちった黒い残像が、自分に多いかぶさる、その瞬間ドーザーはある映像をみた。

 

 『くそ、夢魔どもが……』

 『夢魔?』

 『あれ?くわしく彼女からきいていないのかい?』

 『何がですか?』

 そこで始めてドーザーは彼から詳細な彼らの正体をきいたのだった。

 黒い影と白い影は、かつてこの箱庭の星を、ミゲルの『TSの夢』を訪れたものたちの記憶、ありとあらゆる願いや願望のかけら、それをデウスエクスマキナが“現像”したもの。それはそれぞれに願いをもっていて、大小さまざまな目的を自律的にかなえようとするボットになっている。 


 そうして助けられた後やっと彼とドーザーは分かれた。ドーザーは、黒いものが覆いかぶさってきたときのある映像を思い出していた。


 『ほしい、ほしい、あの人が欲しい』

 あれは見ず知らずの女性の、ある男への執着の怨念。その残像だった。自分もいずれ、ここから出るときにそんな“怨念”を残すのだろうかとその時不安になった。だとすれば、自分は何を残すのだろう。

ー----

ある時、イルエルゲマンの用意した件のヘッドギアをみにつけ、天秤の前にたたされた。背中はイルエルゲマンがささえており、水晶をゆびさしてミゲルがいった。

『左側は自分の夢、右側は自分の夢』

いまから夢と夢を接続する、あなたが不幸な目にあった理由をたどる。そう説明される。イルエルゲマンがその話を引き取ってこういう。

『この箱庭の星の回廊は、脳のように複雑な形をしている、エルゲの脳内を模倣する形になっている、ここではいろいろな記憶が別の記憶とつながっていて、“知識が知識と結びついている”この装置を使い、その知識とシンクロし、君は、ドールを扱うことができるようになる、ドールは夢のなかの君のアバターだ、このイニシエーションを超え、君は思うように人の夢に接触したりできるようになる』


水晶にフードを被る小汚いエルゲの姿が映る。エルゲとわかったのは、彼女が公園で砂をてをつかわずに宙にうかしてぼーっとしていたからだ。やがてそれは人型を形づくるのだった。

場面はかわり、少女の記憶を左官もボル、荒野の英雄が野生のアンドロイドを破壊した、そこで助けられたのが彼女だった。

『あなたの願いは何?』

『この少女を守ること』

そこで何らかの契約が交わされた、その後、そのエルゲが、彼、ドーザーの周囲と接触し、そこでつかわれた魔力の源を補完するために、扇動を行い、悪い祭りをおこした。


『憎め、憎め、それが私たちの力になる、“ドブのエルゲの”』


彼女は、ミゲルが説明したように、正規の仕事、エルゲの正規の仕事であるボランティアを拒絶し、単独で生き、人の恨みを遂行することで、トランススペースアーツの力の源を得ているようだった。

その力で犯罪をしたりする様子も、みてしまった。エルゲは法律により力の行使を制限されてはいるが、自分の身を守る武力としては、一定の範囲内の“力”の行使を許容されている。


その後、ドーザーは何度かその【特訓】をうけた。(夢見の技)とミゲルたちはいっていたが。


2度目の接続。

『天秤の上で記憶を選択する、今度は、あなたの幼少期、それとも、あなたが恨むものの幼少期』

『恨むもの……』

ドーザーは上司の顔を思い浮かべ、嫌気がさし天秤の左の水晶に浮かぶ自分の記憶を選んだ。そのときエルゲの少女ミゲルから、宝の天秤の上に、振り子があることを教えられる。

(天秤はあなたが選ぶことのできる記憶を示すが、振り子は、あなたの気持ちが揺れ続ける事を示す)

しばらくしてドーザーはエルゲの少女に肩を支えられ、そこからじわじわと温かさが伝わってくるのを感じた。そのまま眠り、しばらくすると、白黒のトンネルが視界を覆う。その向こうに、忘れられた記憶があった。

(この記憶は)

この記憶は、機械いじりをしている自分、だれにいわれずともどういう仕組みで動くのかに興味があった。人間よりわかりやすい。優しかった父は突如恋人をつくり蒸発した。そこから家庭環境が悪化し母はヒステリーを起こすようになり、しかし機械の執事に支えられなんとか、正常さを保っていた。父は肉体を改造していた。それによって尋常ではない腕力を手に入れそれを仕事にいかしていた。車の整備士だった。


ただ、それに加えてもう一つの記憶をみた。

弱弱しい地球に住む少年、体が弱く生まれつきの病で肺がよわくサイボーグ化、初期の研究、実験をうけた。そんな少年の記憶。その正体が、あの例の自分がなぜかとても嫌う。その理由は今はわからなかいが、ただ嫌いなあの荒野の自由なカウボーイサイボーグの遠い、古い記憶だと悟った。


その記憶を覗いたあと、微妙に、宝のひとつ、骸骨が痛みと感覚を手に入れつつあるようなそんな錯覚があった。


3回目の接続。

学生時代。

戦場での過去。


4度目。

頂点となった。

上司や仲間から、優しすぎるから利用された。





――――


時折、エルゲであるミゲルが、水晶をもとにいろんな夢を見せてくれたが、夢のなかでも夢をみて、そういうときにこそ、ミゲルがいうには“本当のこと”を思い出せたり、『他者の夢』に干渉できる可能性があるという。


“シンクロ”的に他者と同じ時間に同じ夢をみるのだという。


ある時、部長の夢をみた。


影、フラッシュバック。

あいつは俺より能力があるのに、なぜ出世してないんだ。

恐ろしい、恐ろしい、早いうちにつぶさなければ。


“かつてハッカーだった過去があるよ”

お前は?影?

お前は、おれか!?


※夢はうんざりするほど延々と続けられたが、ドーザーは、現実の自分は、どこかで寝ている、だが目を覚ますと、砂埃が見えるような景色が見えるだけで目のほかには何もうごかせず、また夢へ戻る。夢が夢だとわかっていても、何か外部的な原因で、目を覚ますことができないのだ、事実現実の世界では、もう三日も寝続けていた。


ある時、部屋の中央にあるその繭へ沈みこみ、中を覗いだことがある。そのとき傍に、ミゲルはおらず、変わりにディスエルゲマンがあの印象的な顔でこちらをのぞき込んでいる。

『何か黒いものが』

『どんな感じがする?』

よくみるとそれは、いつかディスエルゲマンが掌の中でおこした影のように、渦をまいていた。その渦をみようとするたび、ドーザーは胸の奥がしめつけられるような、背中に寒気がはしるような感覚に襲われる

『何か陰気で、悪い感じがします、悪いものですか?』

『トラウマの渦だ、君やエルゲや亜人がいつも、自分自身の部屋、この夢のなかで、心の傷を避けるように才能を伸ばしている、エルゲと亜人は過去の傷を心の中に抱え続け、トラウマと全く別の才能を伸ばすことによって生活をしていくことを選んだものたちだ』

『俺やエルゲ?俺は別に……』

その時ドーザーは、目を覚ますたびに自分の手のひらの間に異常に発達した、何かがあることを思い出そうとしたがだが、はっきりとは思い出せなかった。

(何か、水かきのような……)


 次に目を覚ますと空腹だった、と言っても夢のなかでだが、霊のエルゲの一室におり、頭をかかえて三宝のひとつである天秤の片方をみつめていた天秤の両端には水晶がのっており、その水晶に、以前エルゲの少女ミゲルが、映像を投影したことがあって、それが空腹よりもきになり、じっくりとみつめる。

そこには自分の心あたりのある光景が描写されていた。


自分のかつて犯したハッキングの犯罪をでかでかとつるされた職場、パワーバランスが課長に偏りすぎていて、部長がいないときに自分はいつも周囲の社員からいやがらせをうけていた。それが極端になってきたある日、デウスとエルゲが人々を救済するというオカルト的なアプリがディープウェブのどこかにあると聞き、それを人づてにたよりにハッキングやコンピューターの才能を駆使してようやくそのアプリケーションを手に入れたのだった。


 その現実にめをそむけたくなって、頭を抱えてもう一度その時は眠りについた。



 それからも限りない時間をたゆたうような、一瞬のできごとのような日常がはじまった。ある日の少女とイル・エルゲマン。おとこはただ腹がすいたら自宅にある食料を、消えることのない食料をあさり料理をつくった。いくら消費してモノは消えなかったが夢ということで違和感はなかった。だが、この夢に付き合って時たま顔を出すイル・エルゲマンや少女ミゲルが奇妙でこんな質問を何度も加えた。

 『ここから出るには、どうしたらいいんです』

 『記憶をたどるのよ、一度目の夢の記憶を思い出し、地続きで切れ目ない現実に当てはめるべき芸術を思い出す、夢は『一瞬』、映画であればひとこまひとこまの、フィルム画像、もしくは絵画、私たちはいま、芸術の一瞬の中にとじこめられているから、ここから出るにはその連続の“意味”を探り出すの、あなたの現実にとって重要な連鎖する記憶を取り戻すの』

 イル・エルゲマンは余計な説明をしたりはしなかった。

 『思い出すまで、そうしているがいい、ここが現実だと思うのもいいし、カオスネットと思うのもいいし、夢だと思うのもいい、なにしろここの時間のすぎるスピードはあまりにも早い、一瞬でしかない』

 ドーザーはあまりの意味不明な夢にも、少しその景色に飽きてきて、透明なガラスの映す庭にでていみたいと考えた。いつも突然にあらわれるイルエルゲマンが指図する。

 『庭にもでていいぞ』

 庭には物干しざおがある。それから開けた広場。どこかで見た遊具や、カキやミカンの木やキンモクセイ。その奥に奇妙な光景がひろがっていた。

 『ミニチュアの、僕の実家だ』

そこにおかれていたのは、その庭を模したミニチュアの模型、それが庭の中央にたたずんでいた。奇妙なことにそのそとがわにさらに、つまり庭の外にまたガラス張りの空間があり、庭の左右は隣人の壁に囲まれていたことだ。 

 『庭の外にさらに巨大な庭?いや、底がない、大きな、大きな木がある、俺にはこんなもの記憶にないぞ!!これは、“外”だ、この庭までが俺の記憶の中にある俺の生家といまの自宅で、この外側は、巨大な、まるでセカイジュのような……』

 『ソースツリーだ』

 (ソースツリー?)

 エルゲマンが、ずけずけと同じ庭にはいってきて、その巨大な、庭の外のさらに外、ガラス張りの莫大な広さをもった(地下を見下せる空洞がみえる、巨大な樹木)を指さした。その樹木はところどころに穴があいていて、見たことのある赤い花が、そのうろから姿をみせていて、そのうろはところどころ、呪文の書かれた拘束ベルトでがんじがらめにされていた。

 『結界だよ、アブノーマルバーストと、ヘリオアントスの花、あれは我々の文明の力で、現実と夢をひるがえした、君たちが火星に移住するのに必要だったが、あれは……自然が作りだした兵器だ』

 『我々の文明?』

 男は意味ありげな沈黙とうつむきをするだけでで、まともに回答はしなかった。

 『古くはエルゲレコードと呼ばれた、この木が、実はオカルトでいう、アカシックレコードに似たようなものなんだけど、その近場で、影響を人に及ぼす案内をするのがこの夢さ』

 『何ですそれ?』

 『生命や存在の垣根をこえた世界すべての記憶の引き出しだ』

 エルゲマンはのそのそと庭から、室内へと戻り、部屋の真ん中に配置された例の天秤と、ある盤に手を伸ばす。

 『ここに君は君の記憶の中、それを思い出しつつ、重要な二つを乗せる君は一時的にその解決方法を見つけるだろう、だが、それではあまい、君は、あの庭で、あの樹木の近くで君の“原型”に語り掛ける必要がある』 

 そういって指さしたのは、部屋の隅におかれているクリスタルの骸骨だった。

 『そこで君は、この夢、そしてこのソースツリー、そしてエルゲとのつながりを知るために、前後左右、時間軸が不明の“真のゆめ”をみる、それは預言、エルゲとつながる火星人の夢、これを利用して、我々は君にエルゲとのつながりを開き、君の周囲を巻き込んだ祭りを行う、そうして君は『呪い』を火星の芸術に昇華させるのだ、芸術、ただそれだけがエルゲとデウスとの盟約の確信』


木の根元に墜落した宇宙船と、白と黒の影も見え木の根元で大量にあつまってる。結界で近づけないようだ。どの影も地面をほり、採掘しているようだ。

 

 この夢は、とりとめのないところもあるが、納得できるようなところもある、ドーザーには、ひたすら大きな疑問があった。ついその瞬間、それを口にしてしまった。

 『しかし、エルゲの事もしっているし、だけどどうして、この夢が僕を助けるのです?』

 『エルゲとともに人々は夢を見る、同じ夢をだ、エルゲの活動をしっているだろう、彼らはボランティアで、デウスの社会貢献活動に参加し、それによってデウスから、見返りとして金銭を受け取る、初めからボランティア、すべてがボランティアの一貫だ』

 『ええ、それに、私たちの“予知”についてもひとつあるしね』

 次にエルゲの少女が口を開く

 『アプリの起動については話した?』

 『まだだよ、ミゲル、ハガレ。』

 『違うよ、私はハガレじゃない。私はミゲル、シャドー、影の人格よ』

 きをとりなおして、ミゲルははなをかいた。なんどもその様子をみるに何か重要な話をするときにそのしぐさがでるらしい。

『アプリの起動条件は、すでにアプリの影響によって不幸に見舞われた人間であること。あなたのハッキングのせいで私たちの夢はつながったわけじゃない。アプリにより起こった種々の問題を解決するために私はあなたの夢に干渉して、この、TSとつながった世界をあなたに案内している、アプリの悪影を解消するために、私はただの夢の案内人、あなたは知っているはず、あなたが自分から“エルゲによる救済アプリ”を開いて、私たちの夢と接触し、この夢に閉じ込められることを選んだ、そして、アプリの見返りは“亜人”もしくは“エルゲ相当”の力による“火星人の救済”』


 『ちょっとまって、いま、さらっと、この夢が、ト、トランススぺースと通じてると、この世界があの超能力のトランススペースが通じているというのですか?そんな夢など、白昼夢でもないし……エルゲと共有の夢?そんなわけない。』


 『君はすべてを知っている、だが今は忘れているだけなのだ、

 イルエルゲマンはドーザーの方に手を置いて諭すように話しはじめた。

『エルゲときみたちはすでにエルゲの力を借りて生きている、きみたちは現実を自分たちの力で生きていると考えているだろうが、現実は違う、デウスエクスマキナは人の夢に入り、君たちを制御しようとしている。そのデータを予測して、デウスは危険や、危機を察知して人類の文明としては画期的な未来予測能力をてにいれ、それにより火星人の犯罪率は地球と比べ物にならないほど低い。デウスは人間のあらゆる面を、一つ一つのデータの集合としてみる、それは絵画だ、その絵画のひとつはこれだ、絵画によってデウスは、いや、芸術によってデウスは、君たちと“対等な対話”をして、紛争の芽を摘み取っているのだ』


 『じゃあ、デウスによってこの世界はつくられ、あるいはエルゲとともに?それによって僕はここにとじこめられている?“あのアプリ”にアクセスしたがために?』


『エルゲの力はからは方向性を決めるだけ、あなたは、あなたの記憶をたどり、重要な“意味”を祭りから取り出す、えるげは手伝いをするだけ』


またある日、部屋の外に出て城壁を歩いていると影とすれ違った、白かった影が一瞬でくろくなり鬼のような形相になって自分に襲い掛かりそうになったとき、傍にいたイル・エルゲマンがそっと手を差し出し、その影を自分の手のひらの中に“吸い込んだ”

『ぐっ』


『何をしたんです?』




------------------

ある、水晶を覗いている間混線する。

『つながったわ』


つながった。たしかにそうだがつながれていたのは、意識あけではない。ドーザーは椅子の上に色々な機器につなげられ、配線を様々な端末を利用して、体のあちこちにつけられ、『骸骨』を操縦するようにいわれた。


操縦といっても、あれは『明晰夢』によって記憶をさかのぼるための装置だという。

だから実際に操縦するのではなく夢のなかで自分の夢にアクセスするような、二重の夢をみる装置として、あるロボットのようなものだという。




『青髪の少女だ』

自分の意識が一人ごとをいった。荒野を少女の手を引き駆け抜けていく男の姿が俯瞰でみられた。

『俺は、荒野のカウボーイ、俺の過去をみたいか』

突然に流れ込んでくる記憶

『俺は長い子と夢をみていないんだ』

『誰だお前は、おまえなんかに導かれていない!!、いや、お前が一度目の夢の!?』

意識の外側から、エルゲの少女ミゲルの声がよびかかる。

『カウボーイだ!!見た目より長寿よ』

『俺は守る、あの少女を』

『それが俺に何の関係があるんだ!

外側で、ミゲルが驚いたような声をあげた。

『お前の過去と俺の過去はかさなっている』


次の日、あなたの過去をきかせて


少年の頃、事故にあい、ある奇跡的な体験をして自分だけ生き残った。

亜人と亜人の意思疎通ができる特殊能力があった


それから友達はできなかった。

だが一人だけネットでいしりあったレッドという男と友情をはぐくみ、それでネットに詳しくなっていった。

レッドは、アンダーグラウンドの人間でいて、肉体改造をしたいといつもいっていた。


ー-カウボーイも同じように事故にあい、両親をうしなっているわ。

あなたは占い師でもあるのか?ミゲル、


エルゲとは本来そうしたものよ。


次の日、アクセス、危ないけれど夢と夢を接触させてみる


ドーザー

『おまえはずるい、守るものがあるなんて。

この特異な少女とつながりをもっているのはお前だ。ドーザー。

は?ぐっ。顔にキズを。




 それからその場でぼーっとつったったまま、砂埃や霧だけが城壁の内部の神殿のそばをすぎていった。幾日たっただろう。ドーザーはいわれるままにその少女と『イル・エルゲマン』のいうことをきいていた。幾日も幾日も、不自然な共生関係が続くのだった。


 朝起きればおはよう、夜がくればいい夜だと、ただ言葉を交わすだけの、奇妙な共同生活。ドーザーはイル・エルゲマンと、ミゲルとともに、小さな庭(城壁と城壁の間)と部屋(城壁の一部)を与えられて、

ある日少女が自室だという部屋案内された。

これが君の部屋?


何をしているの?


絵を描いているの?

なぜ?

麻痺しているからよ。

いつまで?

誰かの苦しみがおわるまで。

私自身の苦しみはとうにマヒして、いまは人の苦しみを感じ取ることしかできないから。




なぜ苦しいなら辞めないのか。、

記憶をすてて生きるのなら、楽なのに。


(まさにそれよ)

何が?

この夢のなかは、永遠とも思える時間が一瞬ですぎていく。


苦しみから解放されようと多くの人々が多くのものをすてていく。

けれど、重要な記憶を捨ててまで生きて、それが同じ人間といえるのかしら。


その後、少女のそばに少女そのものの影をみる。

『強い思いはこの『夢』に影響を及ぼす、そうしたものが火星の幻想につながる、火星の幻想のほとんどは、幻覚のほとんどは、デウス・エクスマキナの計算バグ、このドッペルゲンガー的なものはデウスが、『人間にとっての魂』だと考えているもの、つまりこの夢では魂そのもの』


『ってことは、“黒い影や白い影も”』

『そう、ここで過去を反芻するものたちが生んだもの、良い祭りがうまれるようにこの夢はエルゲそれぞれの中にあり、いろんな人がデウスの『バグ』を利用する』




ある日は少女は何もせず、部屋の隅で、まるで日曜日の男のようになにもせずぼーっと眠りこけていた。

その様子をみて、迷い込んだドーザーは(安心)を覚えたのだった。


 そんな日々の中、あのミゲルという少女が洗濯ばさみで手を挟み、ひとことこういった。

 『 痛い!! 』

 ふと、以前の夢、を思い出す。唐突に脳内に言葉がよぎる。砂ばかりの世界に足を突っ伏す。おとこはひざから崩れ落ちた。脳に記憶が瞬間的にやきつくようだった。 ある部屋の連想。男は以前、その夢でミゲルとイル・エルゲマンからその部屋、クリスタルの(むくろ)と胸元の宝箱。それに願いの契約書を渡された。

 『覚えておけ、次記憶を取り戻すとき、こういうんだ、“男の名は、イル・エルゲマン、真理の探究者”』

 夢のなかでエルゲが必ず見る同じ背格好、同じ顔をした人間、歯車の目玉を持つ人間。イル・エルゲマンのかつて言った言葉が脳内のコロニーこだまする。

 【君は道化か?夢を見せる側か見る側か、どちらにせよ、エルゲはその願いにこたえよう、君が記憶と秘密を守る限りね、ここで見たことを現実で話してはならないのだ、それさえしなければ無限の力を(霧)に授けよう】


 『きみは一度目の契約で自分の夢を破壊した、つり合いなんてとれるわけない。恨みや破壊とはものだ、君は現実で仲間を救う英雄となることを拒否し、力を手に入れようとした、暴力的な力そう君は戦っていたハラスメントと、それに対する“呪い”によって、繭を手に入れたのだ』

 そういいながら、案内がてら彼は、エルゲマンはある『鍵』を渡した。

 『この鍵をてにしたときにえられる記憶は、現実世界には持ち帰れない、ただ予知と予言だけがもちかえられる、デジャブだ、デジャヴに現実の君が反応するとき、君のここでの記憶は現世に持ち帰ることができる』

 『なんだって?』

 掌に鍵がおかれたその瞬間その瞬間、案内される彼の脳内にはこんな連想が浮かんだ。以前自室と呼び渡された部屋の中に、鍵と天秤とクリスタルの骸骨があった。

 (この男だけがエルゲとデウスの名訳をしっている)

そう、なぜだか悟ったのだった。



鍵を手にした彼は、まぶたの無効の白い光をみた。彼は思い出したのだ。ミゲルは嘘をついていた。

 【彼の代わりに、アンドロイドを傷つける人間を殺したい】

 取り戻した記憶をもとに

彼はそう思ったその衝動だけが、荒野に亜人である、どーざーをかりたてたのだった


※ここでドーザーが見た夢は、彼の母の記憶と、母の言葉、アンドロイドは差別をしらないという言葉。そこで母はさいぼーぐ人に対する皮肉もいう、彼らが芸術性に優れているのは肉体改造をしたからだと、ここでドーザーの正義はさいぼーぐ人にたいする“ずるい”という性格のものになる。

それはかつて、父親が、自分たちをすて、サイボーグ化した美人な女性と夜逃げしたという痛烈な記憶から彼の奥底に刻まれていた。彼の中でサイボーグ化した人間はアンドロイドより卑怯だと。



ー-------------------

 いったい、眠りこけてからから何日、何十日、何百日たっただろう。男はようやっとここへきた意味と、夢のなかで夢から目覚めようともがく自分の姿がうかんだ。前夢をみたとき、こんな約束をしたはずだ。-ある郊外の砂漠地帯に自由な空間がある、そこへいってみるといい、ここを訪ねてきた男がいる彼は右手のひらにキズをおっている、深い傷だ、それを修復したのは亜人の……巨大な河童の手のひらさ。


 『ハッ』

 そこで男は目を覚ます。目を背けていた現実。そこにあるのはただの砂埃と雑多な荷物をつんだリュックサックと、それから人気のない都市と岩陰だけった。


 自分は、かつて平凡な一般人。、いまは亜人。デミ・ヒューマン。エルゲにあたえられた新しい現実の中にいた。ひ弱で小さな体と背丈は、いまは見違えるほど大きくなった。平均の倍以上、そして、繭のはしから小さなつのがはえてきた。このツノが巨大になるころには、この惑星に敵などいなくなるものと思えた。彼の手のひらには、水かきもあった。

 『こんなに簡単に力が手に入るとは、今の俺は、あのクソ上司より力がある、力によって俺の行動と言葉を支配したあの上司より、今の俺は、世の退屈さに失望している』


エルゲたちはこういっていたな。

『起きたとき夢は、半分忘れる、半分覚えている、デジャブによってその半分を思い出す』


なぜドーザーはここにきたのか?最初の夢で、荒野に“力”をもち、それを振りかざしながら、いまだに伝説として語り継がれる、『無敗の男』がいるという話をきいた。そこでドーザーは自分はまだちっぽけな自分の力を彼を破壊することで、克服しようと考えた。そしてそれが、『強きをくじく』ことが、過去への自分の救いになる気がしたのだ。


 ドーザーという彼が目覚めた後、イル・エルゲマンも、幾日かこの男と過ごすうちに、以前の記憶を何度か重み返してみた。

 【数か月、たしかにここに人はきた。亜人になる前の男だ。角が生えておらず、弱々しいしい肉体の天然パーマの頭と眼鏡、背丈もいくらか小さかった。小さな透明な一室を与えられた。

 その時、イル・エルゲマンは自分に質問をしたのだ。 

『意味のある嘘とは何か?』

 その問いかけは、エルゲが、そしているエルゲマンが人を救う意味と動機に起因していた。

 『予言予測、人間が持つはずのない能力を、人に提供する、しかし表向きその手助けは存在しないことにされている』

 ただ、弱者を救うという一点において、その嘘は意味を持つのだ。


 一方別の夢のなかに現れた娘、ミゲルという少女は、自室に戻り、静けさをとりもどしたそこで、自分と家具意外をすべてとっぱらって白い室内を用意していた。

 こそこそと影と二人で話を理していた。彼女のそばの影が声をだす。

『人間は怪物だ。用意したモデルに人をあてはめ邪見にしたり差別したりして日常のうっ憤をはらしてしまう』

『わたしは私の弱みを彼の前にぶらさげ、私の弱みを暴露する、それが信頼の証であり、彼に対する疑いでもある、弱みを差し出すことは怖いことじゃないわ、危機を知るため、つまりそれが“エルゲの触手”怖いのは、弱みという触手、手を指しのべても、現実には人がそれを、宇宙で培った『火星の標語』通り(暗闇から差し伸べられた友好の手には、信頼で返すべき)という言葉の意味と同じ出来事だと受け取ることができないことよ。



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亜人が目覚めた後

夢、→悪夢、少女。

少女がエルゲをつれてくる。

少女の特殊な能力、エルゲの夢に接触できる。

そこで亜人をみつける。

主人公、命を付け狙われていることが発覚。

ミッド→いったん夢での結党と決着。

木の弱い主人公、夢で負ける。



@直後、主人公側、改装、葵神の少女ノとの出会い。

@戦闘時、主人公側、

感覚は、人の感覚は、麻痺する以前から、

完全にあてにすることなどできなかった。

ならば、と私は考えた。

私は人に用意された舞台、その舞台を選び

その舞台上で踊ることをすればいいだけなのよ。



@交錯する夢、androidの記憶、亜人は、別れた恋人のかわりに、それを医師にみられ発狂するも、カウボーイ登場、預言をきいた、私の祭祀エルゲから、『あの男はしぬべきだ』と。



ある男が夢をみている。彼は、有名な詩人だ。

『私はあなたの芸術を信じている。

いっていなかったが、実はしんだ妻の、断片をつくってできたandroidだった。

違法改造から逃げるとき、妻は死んだ。これで、私が芸術になれるわ。


お願い、あなたはあなたの体をのこしておいて、私とおなじ、半分ずつよ』



 それからまた幾日もたった。ある閉鎖された暗がりの家屋の中。地面は砂埃にまみれ、廃墟といわれるような風体をしている。木漏れ日のように上から光が差し込んでいる。薄暗くどうやら地下らしい。公共の空間、図書館だろうか?広い廊下に窓や扉の痕跡が今は隔てるものもなく、ただ空間がぽっかりとあいている。古い建造物、石造りの建築物ようだ。そのひとつのドアだったものの闇から姿を見せるのは、いつかの老人だ。

 『やあ』

 『しばらくぶりだな』

 ひとことふたこと挨拶をする、お互いアイコンタクトで、もしくはアゴをつかい上を指す。何ごとか警戒しているのだろう。

 『母なる地球から生き延びた、初期型の強化人造人間、じいさん、どうしてお前のほうが長生きするんじゃろうな、魂だけは、若いままなのだろう、わしはすでに古びて年老いたというのに』

 昔話をはじめたのは、決まって老人というように、その彼だった。

 『若造』

 と口を開く相手方は、ひろい机につっぷして、すわって、上半身だけをむくりとおこした。彼の背後には幾重にもつみかさなる標的、標的、標的。スクラップの人型の人形たち。ボロボロに使いふるされ、穴だらけ、まるでハチの巣だ。

 若造、むしろ姿かたちはいくらか若く、いくらか若そうに見受けられる男がそう老人にこたえた。数世代前では考えられなかった光景。つまり若さが外見によって見受けられる時代は数百年前に終わっていた。その男、40代ほどにみえるが筋骨隆々。ひげをたくわえている。帽子にはそこら中穴をあけているが、ステロタイプなカウボーイ姿に相違ない。赤い帽子にスカーフ、話に出た通りのトレードマーク、星型のバックルもそのものだった。


数日そうしていた。戦争の事、

戦場でうらまれることからもどってきた。

俺を殺す人間を好きなんて嘘かもしれない。

俺を戦地に追いやる人間への愛なんて嘘かもしれない。

そうかもしれない。

ただ、嘘だけが救い、おいやられた人間が過去や未来を意味あるものにしておくための、美意識の中においておくために、ある唯一の救いかもしれない。


夢で見つけたみなしご

少女には荒野の外に救いがあると教えた。

嘘で何が悪いのか?

嘘が、デミ、レムレースの少女を救うなら、

俺は過去の栄光を今も続いているという

嘘をつく。

自分の強さを自分に信じ込ませ続けてきた。


いつ、答えてくれるんだ?

――『俺の秘密を守れ』

いつかの記憶がフラッシュバックする。

『そうだな。奪うのにも飽きたんだ』

 そう、その言葉だ。お前は私が老人の体を持っているのをみて、

――『奪うのに飽きた、そういった』

 男が回想をする。老人はその様子を理解したかのようにうなずいて、杖の上に顎をのせて、大男の前で、ちらちらとそちらを除きながら、男としばらくものいわず退治したのだった。



 ―老人、というより男がまだ、人として数えると齢60のころだった。あの時私は強い人間を求め、より強い人間を求め、私を最強だと認める人間は大勢いたが、それでも私は、いずれ私を打ちのめすすことのできる人間をもとめ、そこで待つ結末、いずれ私より強い人間に殺され、死ぬ未来を欲していた―

 

 彼らが出会ったのは何十年も前のことだ。老人はカウボーイにまけた。だがカウボーイは男を殺さなかった。この逃走者の荒野ではそれがルールであるにも関わらず、だ。



 しかし地下でくらしているうちに、彼らの間に奇妙な友情が芽生えたのだ。死にかけの闘争を、詩人になった今も老人は思い出す。

 

 【『死んでも死に切れん!!殺さぬというのなら、お前の秘密を一つ私に教えろ、それを墓場にもっていくまで、私はこのときの死を私の中にとどめておこう、もしくは私の秘密をお前に……】

 『……には及ばぬ』

 『はあ?』

 『それには及ばぬといったのだ』

若い大男姿のガンマンは節々に金属をきらりと偽の太陽光(デウスエクスマキナ)に反射させ光らせてくるりと銃を掌の中で回した。


 『俺の練習、ためしうちだよ。ためしうちこそが名誉への願望を捨てるんだ』

 

 『試し打ち、おまえ、ばかにしているのか?』

 曲芸、曲芸、曲芸のあらし。それが老人が今みているものだった。妙なうちかた、両手をねじったままグリップをにぎってうったり、銃をさかさまにしてうったり、頭の上でうったり。

 『こうして打つたびに俺は失敗を重ねる、そのことで俺はいざ命を懸けるときに、その一時だけにすべての精神を注ぐことができるのさ、何のためらいもなくね』

 

 『俺は、かつてあるレムレースを殺した、それからすべてがかわったんだ』


 奇妙な友情が生まれた。


 偏屈。人形うちを繰り返す。

難病にかかった。、余命、病気が原因ではなく、そこに至り気づいたのだと。死が自分と交わるほどの近づいた究極の境目で、人ではなく、機械でもなく、人形を繰り返しうつ、そこに恨みはこもっていない、腕も確かではない、ただ、それは練習なのだった。


 その後、王者の地位をかなぐりすてて3年の寿命を。逃走者の荒野では、自制の利かない戦いだけがあったという。動物と人間。そこでわかりあっていた。近頃は時代の変遷を感じる。勝者の気概、むしろ虚しさか。




---また数日がたった、ある夜の事だった、異邦人。

 『どこだ、大芸術家は』

 『何のことだ?』

 『後悔などない、後悔をひろい、この荒野に立っている、私を殺すものが現れるか、私が何者かを殺すか!!』

 ―いつか聞いた言葉だった。老人が初めて完全な敗北をしった荒野で、この言葉をきいたのだ。老人は狂気の記憶を呼び覚ましていた。その過去は、今目の前にある危機より彼の心を引き裂いた。名も知れぬ、噂にきく異邦人の殺し屋。それよりも。

 『あなたは、フヌケだわ』

 うごめくのはいつかころしたレムレースエクスマキナの群れ、男はそれをしたがえている。というより、男にその残骸がひきずりまわされているのだ、男の怪力に。この火星で地下の苦しみを知らぬものはいない。地下には才能のないものが、格差におしのけられたものたちがよりそい束になり、それそのものの芸術性を誰も受け入れることがないから、罪や罰を一身にうけ、うごめくように生活している。


『狂気、だから何なのか、銃をとれ、剣をとれ』


『戦え、戦え、お前のうわさをきいた……荒野の王者!!!』

ズドン。


 ーこれは因果応報か。


昨夜、久々にあの夢をみた。俺がこの手と指を失うまえのこと。

そういって男は、彼にキズつけられグローブがはげた自分の手のひらを凝視する。



 『あれから俺は強さというものがわからなくなった、だからこそ、強くなったのだ』


 戦場で敵に対しては何も思わない。むしろ慈悲さえも感じる。重んじる。

なぜなら、それこそが、因果から逃れる唯一の方法だったからだ。


 因果(あの男)は確かにカリスマ性をもっていた。火星住民の夢のなかに現れるという噂の男。

ディスマーズマン。噂では火星最後の男と、火星が滅びるときに人も滅びるという火星の自然教※【(デウスを神の擬人化した姿とするもの)火星で最もあがめられる宗教のひとつ。】

その自然教の予言であるアポカリプスでは、一人の人間だけが生き残るとされている。


 俺は戦争を生き延び、その褒章として永遠に近い命をデウス・エクスマキナに与えられた。

そのことを知っている人間も多くはない。だが俺はそのせいで、あらゆる人間的欲求が不能になった。飢えだけが俺を生き延びさせた。


 戦争で感じたあのいかりや恨みや憎悪は、敵に対して送れば送るほど、自分の姿と酷似していった。あれは影だった。あれは俺の姿。敵は俺の形をしている。戦場であの男の夢をなんどもみた。

 『亜人になれば楽さ、人間から離れろ、そうすれば、お前は楽になる、戦場からはなれられる』

 夢のなかで、意識をもったとしたら、その夢にあらがってはいけない。古くいいつたえられるエルゲの教訓らしい。だが俺はあらがってしまった。だがあらがえばあらがうほど、その夢を見る回数は増え、悩みや苦しみが増えた。


『敵は自分の似姿、そして、自分を壊すために俺は戦場にいる、いや、戦争とは本来そういうものかもしれない、短絡的な破壊と破壊の衝動だけがそこにある、人間は、いや誰もがその衝動をもっているのに、隠している、都市に生きる人間は上手にそれを隠している』


火星最後の戦争の、最後の戦地。ヴァルキュリアコロニー。今は荒廃したその地に俺は生まれ、戦争に駆り出された。


甥が連れてくるのは、おちつきだけだ。

おちついている?ならたのみがある、甲冑を着て彼の後ろにたて。


(そんなことでかてるのか?)

それだけでいい。



跳弾?


頭かっ

かがんだうえをかすめていった。

ふんばかめ、

これでおわりだ。


ばきばきばき。


ツノにひび、われる。


『ぐああ、ぐあああああ!!!』


『亜人の弱点は、強化された体の部位、噂は本当だったか』



角が生えてからガタイが良くなり、強靭な肉体を求めるようになり、体も病弱から、突然健康になっていき…、角が今回おられると、またもとの病弱にもどったが、芸術的センスが戻り、またネットで歌を発表するようになり、人気作曲家に。


地下世界との境界にあり、大小をもとに願いをかなえるというさいの王。

地下は地上のモノを欲している。

彼は何を差し出したか?

古い形のパソコン。


戦いのあと妙なことをいっていた。

集中力や執着が、若いあふれんばかりの力と爆発力を、知らず知らずのうちにどこか自分が知らない形に運んでいく。

亜人の彼は、そんな空想の中で、荒野にきたのだという。


『質のいい執着とは、どうでもいいことに対して執着していることでようやく保たれる、たとえば第二の欲求、第二の願望、そういった本命とは別の場所にありあまる力を捨て去ることによって、ようやく人は質のいい執着ができるのかもしれない。』


まだ、以前としてある地下世界との境界と差別。

力と技術に躓くものはおおい。

コンプレックスが原因だ。

コンプレックスは、人間という規模、単位のmんだいであり個人の問題ではない。人に原因をもとめても、自分に原因をもとめても答えあはでない。


亜人は力とともにコンプレックスを抱える。


力を失った。


エルゲとの接触。自身を失ったときに、男はエルゲの女性に励まされたが、エルゲの女性はいつも遠くをみていた。そして、何もいわずにきえた。その時自分の作品への自身を失った。


人は自分に期待をかけた。大芸術家。しかし力などないと気づいてしまった。つまり自分はある種の錯覚によって見せかけの地位を得ているだけなのだ。自分だけではない。誰もがそうだった。それを“気づかされて”しまった。エルゲは違う時空を生きている。時間間隔さえも。



ガンマンはその異邦人との決闘のあと、またもや姿を消した。

『王者』と呼ばれるのを嫌う彼は、そのなりを済ませて、生前はその弟子たるかの吟遊詩人のような老人の面倒をみていたという。


いわく彼はこういったと、老人はその後について荒野を話してまわった。

『戦いも殺しも彼の渇きをいやしはしなかった、彼は話を私に託した、それだけが彼の遺言だ』

話、いくつかのこばなし、小さな少年の話、母親の話、友人たちの話、ただそれだけ。

(彼は王者ではないといってこと切れた。もっとも強いものは、身を挺して大切なものを守った者たちだった、そういって、この世を去ったのだ)


@@エルゲの闇の部分。孤独隔離法。(旧、戦前)

妙な夢でつながる、闇と光。電脳掲示板


エピローグ 亜人の男の最初に見た夢。

宇宙木、エルゲレコード

この夢の内部ではエルゲと同じように、エルゲレコードを参照できる。

ただし言語が違う。エルゲ言語はエルゲにしかよみとけない。


めいよへの呪い

しねんの記憶。記憶の木。


外から見た記憶と、実際の経験の記憶は違うから。

やはりエルゲと人々は分かたれていた

絶え間ない揺らぎと確信、それでも決意だけがことをなしとげる。


悩みを恥じても忘れてもいけない。

それが切り札


ニッチ、ニュートラル、

第三者だけが運命の旗色をかえる。


ドーザー、

やったのね。あなた、エルゲの夢に接続したのね。


でじゃぶ、連想記憶、動機、

少女、葵ひとみ。


庭の外、ソースツリー,

拘束ベルト。


アブノーマルバースト、エルゲと常人の立場逆転する結界。

キーコスト

記憶のそとに悩みをおかなければ肉体や精神が耐えられないほどの不条理が存在する。


くらい。

火との期待など裏切り続けて気た。


重要なのは、自分が戦うべき場所で戦うことだけだ。


夢、デジャブ。精霊の知らせ。やるべきときにやるべきことを知らせる。

 未知なはずな未来が、過去によって照らされる。


 遅すぎた決断は過去にある。


オチ

少女がだまっていること、実は正規改造


ミッド、子供時代、さいぼーぐで才能が」mざめたが、兄貴分のために、その能力をだまっていた。

でと。


あとがき

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登場人物紹介

・デト……(赤い左義眼、赤の帽子、コート、スカーフ、荒野のカウボーイ)

・ドーザ……(亜人、河童のイヨカイ)

・ナリス……青髪の少女(みなしご)

・ローム……語り部。吟遊詩人。

・モグラ……ガスマスクの匿名秘密結社。

 ・イルエルゲマン……顔が半分機械、片目に肩眼鏡によく似た歯車のついた機械を装着。

ー---------------------

用語

トランススペース

トランススペースアーツ。(能力が行使されたとき)

“デウスの加護”デウスによって統治された火星、機械によって人間が権利や尊厳、生存を保証された火星人という特殊な状況下を言い表したもの。

(nem,nano environment module)

ー-----------------------


メタ、呪い、夢。

自分を呪うか、人を呪うかl

臨海結界、マツリ。

長くいると、身体にも機械にも変調をきたす。

秘密、爆弾、呪い。

結界を爆弾と考えている。

秘密→呪い。恨み、執着。



火星の根源である恨み、精神の根本である執着を忘れかけているという面で、

半分死んでる。


君たちは、正規のルートとははずれた世界の生き物。


やつが君の未来の姿を知っている。確かめなくては、本当にあの男の言ったことが本当なのか。


男。

恨みは無力だ。

人と比べて醜いことを考えるより早く創作はネタをださなきゃいけない。これはポリシー。l

ユーモアのない奴だけがオゾスを思いつく


人の記憶や経験を嘘だといって何の意味がある?


しったかぶりさせる。(都市伝説)としてあえて公表することによって、

盟約を影に隠す。


しりこだま、魂を抜く。

弱みのない人間は倒せない。

カウボーイに弱みはない。

なぜなら弱みを埋め合わせる存在に拾われたから。青髪


その上、ドーザーの守っている、(自分の強みを残して競争に勝ち残る)という、

ルールを、いやいやながら実現したのがカウボーイデトだから。

(もっとも弱い戦闘力、それが肉体改造をして、もっとも競争に勝つというよくがかけているからこそ、もっともさいぼーぐかされたからだをうまく扱っていた)


人間の最も弱いのは尊厳を否定されるようなこと。

イヨカイは尊厳をぬきとり、精神的に人を殺そうとする。

それによって自分が確たる存在になろうとする。


※プロット的には、“一人では実現不可能なこと”“他者と共存しなければ生きていけない人間という存在”を肯定したものの間にうまれた概念としての亜人なり超能力なり、エルゲ。

人が人を必要とする、窮屈な孤独と、温かい人間の隙間、人と人との間に祭りがうまれ、奇跡や神がおりたつ→ユーモアがうまれる。

※直観としてできるだけ端的にいうようにすると、

“一人では何もできない”

“孤独”

“誰かの助けと誰かを助けるという思い”

がバランスよく配列されたとき、同じように、波長の合う人間とのつながりが見いだされる、

というイメージ、混線の中から“鍵”がみつかる。

というのも僕自身が考えていることとして、

才能でもなんでもなく、努力云々だけでもなく、

誰かの助けや誰かを助けたいという思いからやっぱり

それに導かれてミラクルは起きている気がするから。

おもいっきりにつまったあと、

きをぬいたあと。

つまりそれはある意味で儀式じゃないか、片方は努力であって片方は才能にまかせて、片方は自分にまかせて片方は人にまかせて、っていう自分に対する問を儀式にしている、それを他人にぶつけても何ともならないのは、自分がよく、理解しているということなんだ。

これは祭りで面白いよ。

つまり物語づくりかこういう作用があり

面白いよと伝えたいのが、エルゲだ。

でもエルゲとミゲルにとっては、船の修復みたいなイメージがあるかもしれないな。

故障した船、能力、能力を使う機会。

そういうものを修復した、それでようやっと人並みに能力を発揮すると、それが自分の弱さでもあると、けどそれが何の問題があるのか?

ということだ。ユーモアがあれば発揮出来る

常に奪い合い、56しあいをする存在が人間ではないと考えるのなら、必ずそこにユーモアは生まれる、

ユーモアがうまれるということはマイノリティが能力を発揮する機会もある。

これが船全体の負荷だと欺瞞を吐き散らす人間がいるが、人間という存在の定義にとって一番不可なのは、つねに奪い合いや56仕合のことしか考えてないで、そのまま生きて死んでいくという想像力の乏しさの方だ。




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