第三話 試験日
「では、試験を始めますぞ。」
イソが大きいしわがれた声で言った。
一斉に10人ほどの青年達がテストに答えを書き始める。本来ならばライが一人で書く予定だったはずが、受験者が増えたのには理由がある。
実はテストを書く五時間前、ガリンはいっそのことこの村にいる子供たち全員にやらせようと判断したのだ。
「最近は村の近くの魔物も強くなってきている。ほかの子にも受けるだけ受けさせたほうがいいんじゃないか?そしたら、生き残る確率も上がるぞ」等のガリンの的を射ている意見によって、イソは説得され、みんなにもこのテスト受けてもらうことにした。
この村には守り人によって保護された人がよく連れてこられるので、青年がたくさんいるのだ。ライもそのうちの一人だ。
「さてと…まず、テストは合計で何ページあるのかな?」
冷静にページ数を確認するライ。
そして、最初の問題を解き始めた。
「問一:守り人とはどんな職業か、またどんなときに出動していたか、例を一つ述べ、答えよ…か…結構簡単な問題だな。」
余裕たっぷりで答えを書き始める。
「守り人とは魔物によって破壊されたりした町や村から、生き残った人を保護し、別の安全な村や町に送り届ける職業のことである。例として、ライ(僕)は十年前、ソルマレの町の井戸の中で、いろはという名の守り人に保護され、この村に来た。」
まるであらかじめ答えを知っていたかのように、すらすら解いていく。
しかし、最後の問題で詰まってしまった。
「問20:敵に遭遇した場合の選択肢を4つ述べよ、か…戦う、呪文、さくせんと何だったけな…」頭を抱えるライ。
ふと、左隣りの机にいるクミをちらっと見る。すると彼女もライのほうを向いていた。
瞳をエメラルドグリーンにし、口を動かしてライに何かを伝えようにしているように見える。
「なんだ?何か僕に伝えたいのか?...いや...待てよ…そうかクミなら僕が考えてることがわかるから、その答えを教えてくれようとしてるのか!?」
クミの口の動きを読み取ろうと目を凝らしたその瞬間、イソが目の前を通り過ぎる。一瞬、背筋が凍る。しかし、ばれないようにと、首の向きと視線を自分のプリントの方向に急いで戻す。
どうやらイソには気づかれなかったみたいだ。
「やばいな…これ。ここでクミの言いたいことがわからないと、旅に出れないぞ…」
その不安をクミも読み取ったのか、少しゆっくり、そしてはっきりした動かし方で少しでも分かりやすくしようとしているのが見て取れる。
ちらっとイソのほうを向くライ。
「よし、ばれてないな。」
そう頭の中で言い、クミのほうを見る。
「なんだ?「き」、いや、唇をかみしめたから「み」か!えーと次はの「の」でその次が...」
「あと五分ですぞ!」
イソの声がさらにライを焦らす。
ライは体をもう少し机から乗り出すようにする。
クミまでの距離は約5メートル、口の動きを正確に読み取るには少し遠い距離だ。
「たぶん「が」だよな?」
そう思ったライの心を読んだのか、クミが激しく首を縦にふって同意する。
ライがほっとするのもつかの間、イソが戻ってくる。
「クミよ。何をやっておるのじゃ?そんなに首を振って。」
「『す』みません」
と強調して謝るクミ。
それから、怪しまれているのを察したのか、ライのほうを見なくなった。
「えっと、最初が「み」、そして「の」、あと「が」で最後のは…「す」⁉「みのがす」⁉」
急いで考えを整理し答案に書くライ。
「終了じゃぞ!!」
間一髪、書き終わる、ライ。そしてイソに言われるがまま、答案用紙を渡した。
テスト後、ライのもとに駆け付けるクミ。
「大丈夫だった?途中からイソが警戒してたから、あなたの心を読むことができなかったの。」
それに対し、ライは平然と答える。
「もちろん、君のおかげで大丈夫だったよ。ありがとう、クミ。」
その答えを聞きほっと胸をなでおろすクミ。
「まったく、あなたはいつまでも私がいないとやっていけないのね…」
ライには聞こえないように、そしてちょっとうれしそうに呟くクミ。
「それはそうと、今回初めて試験をやったけどさ...試験って意外と楽しいんだね…」
ライがボソッと呟く。
試験を少し勘違いしているライを見てクミはクスっと笑った。




