阿呆は死んでも治らないってこっちゃ
あるとき魔女は、罠を仕掛けて一匹の鹿を捕まえた。縛った鹿を引きずって持って帰り、家の前で仕留めて血抜きをし、細かく解体した。
毛皮を剥いでから腹を捌いたとき、大腸の中に人間の指の骨を発見した。すぐにあの錬金術師のものだと分かった。
蒸発する前に言っていた通り、自分を動物に食べさせる実験を試みたわけか。それにしても草食動物の鹿にどうやって自分の肉片を食べさせたのだろうか。
魔女は口を尖らせて、彼の指の骨をデコピンした。
「ったく、思いっきり死んどるやんけ。世話焼けるなぁ」
そして、以前にも毎回やってあげていたように、小さく呪文を唱えた。
その瞬間、錬金術師の指の骨が振動し、爆発的に増殖し始めた。
骨が生え揃い、筋肉と脂肪が付き、掌になり、そこから腕がにょきにょき生えていく。成長の波は肩から胸へ伝播し、胴体が育てばそこからはあっという間だった。
錬金術師の五体が揃い、生まれたままの姿の彼がそっと目を開いた。
「……あれ? 魔女さん? 何だか、結構お久しぶりじゃないですか?」
「そうやな。ざっと三ヶ月ほどや」
「あー、そんなに死んでたんだー。あ、でも今回も無事復活できたんですね! すごいな、あのレベルになっても復活できるんだ! なるほどなるほど!」
「そうやな。ワレの不死の薬の効果が、また一つ証明できてよかったやん」
「そうですね! でもまだ不十分です! 調べなきゃいけないことが沢山あります」
「あっそう。つくづくド阿呆やな、お前は」
魔女は吐息した。
これからも、実は未完成品の蓬莱の薬を飲んで不死になったと思い込んでは無謀にも死にまくる彼を蘇生魔法で復活しなきゃならないのかと思うと、げんなりした。
錬金術師が発見した不死薬の生成法は正しいのだが、惜しいことに正しいのはそこまでで、実際に作ってみた試作品は全然完成していないのだった。人間が飲んでも、少し生命力が上がる程度の効能である。
そんなエナジードリンク紛いの未完成品を不死薬だなんて言って会社に報告した日には、頭がおかしくなったと思われて、解雇されるだけであろう。現在、錬金術師が勤めている研究所はエナジードリンクとしての効果を求めて彼を採用したのだ。
「もういっそ、ウチの知らんとこで死んでくれや、ホンマ」
「いえいえ、魔女さんには奇跡の薬が完成する瞬間を、是非とも見届けて欲しいんです。何せ僕の恩人ですから。完璧な安全が証明された暁には、いの一番に魔女さんに飲んでもらいたいと思っているんです」
「抜かしおるわ」
そう言いつつも、彼が本当に不死薬を完成させるその日まで、きっと付き合ってやるのだろうという未来が予想できて、自分の愚かさに笑ってしまうのだ。
「ったく。ホンマ阿呆やな、お前は」