悲報! 錬金術師、死す!
必要な検査項目は大量ある。
回数制限。復活までに掛かる時間。投薬後の心身への影響。復活後の心身への影響。死因と効能の関連性。覚醒後の記憶の混濁の有無。持続的な死に対する効果。人体の損壊具合と回復速度の比例。隔離した肉体の再生。エトセトラ。
検査項目の数だけ、自ら死んで確かめないとならない。
何よりも、絶対に安全だと証明しなければ安心してくれない国民のために、錬金術師はありとあらゆる死に方を試す必要があった。
「今日の実験で少なくとも窒息死には効果があることが認められましたね! 安心して皆、首吊りができるってわけです」
「ワレ、首吊りをブランコレベルに考えてへん?」
「よし! 明日は自分を解体して動物に食べさせてみましょう! 『分割された肉体はどの段階で回復を始めるのか』。また『分割された肉体はどちらが回復するのか』。この実験は時間が掛かりそうだなあ」
「すっかり自殺マニアやん、キモイわー。ウチ嫌やで。捕まえたウサギを解体したとき、腹ん中からお前が出てきたら」
「ああ、そうか! 『実験体の細胞は他の生物に消化されるのか』! 『実験体を摂取した生体に如何なる影響が出るか』! この二つも調査しなくてはですね。ああ、うかうか無駄に死ぬところですいた。ありがとうございます」
満面の笑みを浮かべる錬金術師に、魔女はそっぽを向いて毒づいた。
「……ったく、研究ド阿呆が」
男は気付いていないのだろうか?
不死の実験に失敗したら死んでしまうということを。
この錬金術師は死ぬまで死に続けるつもりなのだろうか。仮にも知の探究者の端くれの彼がそんな間抜けであるはずがない。それだけ、自分の発見した不死の薬の理論に自信があるのだろう。
ただしそうだとしても、彼が愚かであることには違いない。
そのことを魔女は一番知っていた。だから呆れて溜め息するのだ。
翌日の早朝、魔女が起きたときには錬金術師の寝床は空になっていた。テーブルには書き置きが一枚残されていた。
『元気に死んできます!』
錬金術師はその日帰ってこなかった。
次の日もその次の日も、そしてその次の日も。
錬金術師が帰ってこない日がそうやって一日ずつ積み重なっていき、いつの間にか三ヶ月が経過した。木々の間から吹き込む風の寒さに季節の変化を感じたときに魔女はそれだけの期間、彼が帰ってこなかったことに気付いたのだ。
彼はきっと実験に失敗したのだろう。死ぬのに成功したとも言う。
魔女は少しだけ寂しさを感じたが、魔術師の業界では、危険な実験や魔法の暴発で知り合いが突然亡くなることは日常茶飯事なので、すぐに何とも思わなくなった。