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夜北芋氷物語  作者: 幻華鼠(ネツミ)
巻一(日本語版)
6/15

第四章 先生も知らない遠足の旅

 ゆらゆらと、移動する揺りかごのように、眠り落ちようとする南蓮(なんれん)を揺らしている。

「すずりちゃん、チョコレート食べる?」

 答えを待たずに、玖瑠実(くるみ)は板チョコを割り、棠硯(すずり)に半分をあげた。

「トン」

 南蓮の頭は玖瑠実の肩に倒れ、列車の揺れに揺れるがまま、すやすやと眠り落ちた。玖瑠実と棠硯はお互いに眼差しを向け、手の中にあるチョコレートを下ろした。

「し~~」

「……し~~」

 玖瑠実の真似(まね)で人差し指を唇に置いた棠硯は、金属の指に(くも)りを吹き付けた。そして、彼女が見たのはお化粧のようにチョコレートを南蓮の唇に塗り潰していた玖瑠実だった。

 れんちゃん起こしたほうが良かったかな……

「(まずは遊園列車に乗って…乗り場は『夜行動物館(やこうどうぶつかん)』のすぐ傍で、乗ったら……)」

「せんせぇ! 何見とるぅ?」

 ぱっつん前髪を振り回した生徒の頭はドリルのように、先生の顔面と遊園地図の間に突っ込んだが、見たのは目の下にクマができ、憔悴(しょうすい)な顔を見せた先生だった。

「ひゃっ! せんせぇどうしたぁ⁈」

「昨日…」松田先生はあくびを我慢して答えた。「…昨日は、先生があまりにも今日の遠足が楽しみにしすぎて、夜はあまり眠れませんでした……皆さんも先生と同じでしたら、ちょっとだけ寝ていてもいいですよ」

 玖瑠実の肩に居眠りしている南蓮を見て、松田先生の顔は「ちょっとだけ寝てもいいですよ」的な思いやりより、「なんで教師は寝っちゃいけないですか」的な怨念だった。

「それぇ、楽しみにしとる顔じゃないよぉ!」生徒はツッコんだ。

 手で顔を拭き、松田先生は元気を出そうとしたが、顔色は変わらなかった。

「千代ちゃん、心配かけちゃってごめんね」先生は生徒の髪を撫でて、指で梳いた。「先生は今日調子が悪いので、皆さんは先生に心配させないように、先生との約束をきちんと守りましょう、ね?」

「「「「「は――い」」」」」

「それじゃ、先生との約束その一――行列からはぐれないこと!」


 周りを見渡し、棠硯の丸い瞳は収束して拡大する。見た限り、長い鼻で干し草を拾い食べる灰色の巨獣(きょじゅう)以外、馴染みのあるものは巨獣を眺めている二人の友達だった。

「……れんちゃん、るみちゃん、」二人の袖を捻り、棠硯はゆっくりと口を開けて聞いた。「先生……は?」


    ×


「見て見て、(ぞう)

「僕も(ぞう)――殴る(ぞう)

「おい!」

 見知らぬ子供たちは近くに騒いでいる。見知らぬ親子は象に指をさしている。見知らぬ象は強く息を吐き、座り込んだ。

 三人が見渡す限り、馴染みのあるものは一つもなかった。

「ねぇ、すずりちゃん、」玖瑠実は髪を(ひるがえ)し振り返り、なびかせた髪は彼女の神秘そうな顔を見せつけた。「あの話、知ってるかしら?」

 ……何の話? 今言わないといけない話なのかな。

 困惑で棠硯は首を傾げた。

「この動物園には危ない動物いっぱいいるわよね。獅子(ライオン)とか(とら)とか……なんでそんな動物たちは危なくない動物たちと一緒で、大人しく檻の中にいるって知ってる?」

 棠硯と南蓮は頭を振った。

「それはね、昼にはあっちこっちも管理人がいるからだわ。その動物たちは管理人しか恐れない。だから管理人がいなくなるときが来たら……」

 聞いている南蓮はごっくりと息をのみ込んだ。

「もし、日が暮れるまで先生たち見つけてなかったら、今夜はここに泊まることに…そしたら、気を付けないと……


 ……ガウ!」


「はっ」「ひっ!」

 くるりと涙が棠硯の目に回ってしまったけど、先に声に出したのは南蓮だった。

「どうしようどうしようどうしよう! 日が暮れるまで先生たち見つけてなかったら、(とら)に食べられちゃ…」

「……待って。昔、おにいちゃんに読んでもらった科学雑誌に、動物園の管理人は二十四時間動物園にいると……だからるみちゃんの話はウソ」南蓮の言葉を遮って、棠硯は言った。

「なんで読んだのは御伽話じゃなくて科学雑誌わよ⁈」

「どうでもいいよ! とにかく、先生たちを早く見つけないと」拳を上下に振り舞い、南蓮は焦りの声で言った。「今頃先生はきっと私たちのことが心配で……」


     ×


 自分の体調不良のせいで間違わないように、何度も何度も生徒の数を数えていた松田先生だったが…

 違う、本当に減っています。

「先生! 西宮(にしみや)たちがいません!」級長(きゅうちょう)釘宮(くぎみや)節子(せつこ)は頬にくっついた三つ編みの髪を掴んで報告した。

「からくり眼鏡たちがいない?」「いつから?」「気付かなかった…」

 そして、生徒たちは勝手に騒ぎ出してしまった。

 そんな生徒たちを見て、松田先生は震える手で遊園地図を取り、クマができた両目を細めた。しかし、眼差しで地図をいくら刺し込んでも、どこで生徒を失くした記憶は浮かばなかった。

「(どうしようどうしようどうしよう…)」心に押さえつけた声がやっと唇からただ漏れ、松田先生は頭に付けたふにゃふにゃなリボンを掴み、小声で唸った。「(どうしようどうしよう…今から手分けて探すのはまずありえません! 全員迷子になったらどうしよう……って、どこで見失って? 午後の集合時間に見つけられなかったら、彼女たちはここに残されて、管理人が退勤して、(とら)が出てきて、そして……)」

「先生!」

 大声で先生の独り言を遮った節子は、先生の顔を大人の高さから鷲掴(わしづか)み、目を目で見える距離まで置いた。

「先生、落ち着いてください。動物園の管理人がいなくても、檻から(とら)は出てきません。ですから、落ち着いてください」

 小さな手は松田先生の両手を握りしめた。ややしばらくの間、もう震えたりしない先生の声がようやく聞こえるようになった。

「ごめん、先生が取り乱してしまいました」

 息を整え、先生は立ち上がり、節子の頭を撫でて礼を言って、他の生徒に告げた。

「皆さん、まずは案内所に行って、放送してもらえないか聞いてみましょう。予定のルートじゃありませんが、途中にも動物がいっぱい見られますから、一緒にれんちゃん、すずりちゃんと玖瑠実ちゃんを探しましょう。いいですか?」

「はい!」「へ~面倒くさい~~」「おい!」「痛っ」

 節子は異議を放った同窓を肘で突いた。

「いいですか?」

「「「「「は――い!」」」」」

 よし!――松田先生は胸に拳をギュッと握り、何があろうと、きっと大丈夫なんだと信じて、自分に元気付けた。


 先生は動物園に一回しか来たことありませんが、地図があれば、絶対道に迷ったりしません――そう考えた松田先生はしわしわになった地図を展開し、加熱していく日差しの中で足を踏み出した。


     ×


 炎天下、麒麟(きりん)の長い首にぶつ切りされた日差しの塊は、三人の顔を掠(かす)めた。

「もし私たちの首もそんなに長かったら、先生たちのことすぐ見えちゃうよね~」南蓮は仰向けて嘆いた。

「でもそれなられんちゃんは首が長いお化けになっちゃうから、やめたほうがいいわ…あ、花の蜜吸う?」玖瑠実は小さな赤い花を口に挟んで聞いた。

 ……高さも足りないよね。

 棠硯は玖瑠実から花をもらった。

 甘美な花の蜜を吸い、しばらくの間、三人は今の状況を忘れたように、ボーッと立ち尽くしていた。

「いっそのこと、先生たちのこと気にしないで、集合時間まで遊んだらどうかしら?」玖瑠実は吸い尽くした花を近くの花壇に投げた。しかし、ふらっとした花弁は正射必中を邪魔し、玖瑠実は仕方なくもう一度花を拾って捨てた。

「でも(とら)が…」

(とら)ジャッサイラッ(食屎啦)!」

 ……先生たちを見つけられなかったらここに泊まって、檻から出た(とら)に気を付けないといけないと言ったのは誰だったんだろう。

 棠硯は麒麟の長い首に沿って見上げた。何も食べていないのに、その動物は常に何かを咀嚼(そしゃく)しているようだった。

「グ……」

 そして、低い音がした。

 棠硯と玖瑠実の視線は音の元に辿り着き、そこに立っているのは髪の毛で顔を隠している南蓮だった。

「……れんちゃん、お腹すいた?」

 南蓮は黙っていた

「先に弁当食べようかしら? なんかもうお昼の時間みたいだわ」

 南蓮は黙っていたが、頷いた。

 三人は近くの花壇の縁に座った。

 棠硯は普段から弁当箱を包んでいる風呂敷を解いた。だが、その中には普段使っているものではなく、新しく買ってもらった二層式の弁当箱だった。中身にあるおかずにも工夫をした――蓋を開け、一番最初に見える炒め椎茸、だし巻き卵と茹で野菜は絵の具で飾られたパレットのように並び、白玉(はくぎょく)のようなもち米で包んだ肉団子で綴った。第二層に敷き込まれた白米の上に、しょうゆで煮込んだ鶏モモや色んな煮込みものが寝かせた。煮込み汁をたっぷり吸収した白米は一段と美味になっていた。

 ……なんか作りすぎたみたい。

 でもこのくらい、るみちゃんに任せたら、多分大丈夫……

「ジャジャン!」玖瑠実は三層式の漆器重箱を開いた。容器ほど高級そうにない中身だったが、数だけは凄まじかった。「『中に一つはワサビ地獄だけど他は普通なおにぎりルーレット』と『わたくし特製超巨大おにぎり』!」

 前者は多分普通な外見しているおにぎりの群れで、後者は重箱に押しつぶされた海苔ご飯もどきでした。

 ……多い。

「るみちゃん、こんなにいっぱい食べれるの?」南蓮は心配そうに聞いた。

「れんちゃんが欲しかったら分けてあげるわ」

「うん…私は……」気まずく微笑んだ南蓮は少し引いた。「私の弁当は普通に――焼き魚と……ひゃっ!」

「れんちゃん!」

 どこから現れたかわからなく、大きな白い鳥が突然飛び降り、南蓮の焼き魚を(さら)って逃げた。残されたのは驚きの中でひっくり返された弁当箱だった。

「おい!れんちゃんの魚返せぇ…やあ!」

 泣きっ面に(はち)、立ち上がって追おうとした玖瑠実は膝の上にあった漆器の木箱を転がし、元から散らかっていた「わたくし特製超巨大おにぎり」をもっと散らかし、完璧だったおにぎりもいくつか巻き込んでしまった。

「わたくしの『中に一つはワサビ地獄だけど他は普通なおにぎりルーレット』と『わたくし特製超巨大おにぎり』!」

 長い。

 とっくに立ち去っていた白い鳥は大空の一点となり、いくら追おうとしても無駄だと知り、玖瑠実と南蓮は無力に座り、どれがワサビ地獄なのかもわからないおにぎりに希望を託すしかないとわかった。

 否、まだ託せるものがあった。

「……鶏モモ食べる?」

「「食べる!」」


「すずりちゃん大好き~~」

ふふひひゃん(すずりちゃん)はいひゅひ(大好き)~~」

「呑み込んでから話しなさいよ、るみちゃん」


     ×


「先生、ここはどこですか?」

 彩り鮮やか羽根を持った雉鳥(きじどり)は小走りに行列の前を通った。仰向けば見える、ここは鋼の檻とガラスで組み合わせられた巨大な鳥かごだと。耳を傾ければ聞こえる、嘲笑いのような異国の鳥のさえずり。

「……さっきの見ました? (きじ)ですよ――」ぎこちない笑顔で松田先生は言った。

 木の上からの笑い声は少しだけ大きくなったようだった。

「先生……もしかして、私たちも迷子?」

 広葉樹(こうようじゅ)に遮った日差しは(わず)かな木漏れ日となり、松田先生の顔を半分だけ照らした。

「そ、そんなわけないでしょう」「さっきも言ってたじゃないですか。案内所に行く途中には動物がいっぱい見られますから、皆さんもちゃーんと目を開いて…」

「話を逸らさないでください、先生」


「ごめん……」


     ×


「水水水るみちゃんお水を早く!」

「水水水お水いっぱいあるわよ水!」

 震えながら、小さな手は円盤状な金属の水筒をねじり開け、ちょっちだけこぼしてから、もっとひどく震えている棠硯の手に渡した。

 涙に覆われた目をした棠硯は水筒を持ち、咳をしながら喉に水を通させ、さっき食べてしまった刺激的物質を洗い流そうとした。

「どうして『ワサビ地獄』引いたのに最後まで食べちゃったのよ!」南蓮はハンカチで棠硯の口元を拭いた。棠硯は答えず、ただひたすら水を飲み続けていた。

「きっと食べ物を無駄にしちゃいけないとか考えてたでしょ」傍で取り乱した玖瑠実は言った。「早めに気付いて良かった……で?これでどう、すずりちゃん?」

 濡れた唇は水筒の口から離れ、しばらく休憩を取った後、やっと声を出した。

(辛い)……」

 どうやら水洗いの効果には限りがあった。焦りながら玖瑠実は周りを見渡し、ちょうど、すぐそこに帆布(はんぷ)造りの巨大日傘をさした屋台があった。

「すずりちゃん、冷たいもの食べたら治るかも!」

 走り出した三人の足はすぐに巨大日傘に辿り着き、見上げたら、そこにいたのは馴染みのある姿だった。

「え? バブー(アイスクリーム)のお姉さん?」

「何がバブーのお姉さんだ? お姉さんには「(ちん)玉霜(ぎょくそう)」って名前があるんだヨ」

 片方の肩に流れるポニーテールで、桜色のエプロンを身に着けたその人は、普段酔潭(すいたん)にアイスクリームを販売しているお姉さんだった。

「え? 団子頭はどうした? 顔色悪いヨ…普段から悪いけど」お姉さんは聞いた。

「すずりちゃんはワサビをいっぱい食べっちゃったから辛いの。芋氷(アイスクリーム)を一玉大きいのもらえますか?」頑張って手を棠硯に扇ぐ南蓮だったが、当然のように効果は無し。

哪會按呢(なんてこった)? どこからのワサビ?」

「そうだわ。ワサビジャッサイラッ(食屎啦)!」

「全部るみちゃんのせいでしょ⁉」

好矣好矣(いいからいいから)! 喧嘩しない。これはお姉さんの(おご)りで、しっかり手に取ってヨ」

 アイスクリームを手に取った棠硯はすぐに噛みついた。冷やした感覚は一時的に頭痛を鳴らしたが、ようやく辛みをおさめた。

 危機が排除され、南蓮と玖瑠実はほっとした。

「そういえばバブーのお姉さんはなんでここに?」玖瑠実は聞いた。「ちなみにわたくしは『口座』から一玉ください、イチゴ味で」

「バ……まあいいや。知り合いの代理に来たんだヨ、ここでアルバイトしている子が風邪ひいてね」手練れなアイスクリームディッシャー捌きで、お姉さんは答えながら、できたアイスを玖瑠実に渡した。「で、あんたたちは? なんで今日はここに? サボり?」

「今日は遠足ですよ~」唯一口が空いてる南蓮は答えた。

「ならあんたたちの先生は?」お姉さんが見渡す限り、行列とかの群れはどこにもいなかった。「もしかして……はぐれちゃった?」

「はい!」「違う!」「…うん」

 なんかるみちゃんだけ返事がちがう……

 小さく小さく残されたクッキーのコーンを(かじ)り、棠硯は隣にいる黒髪の女の子を、何も言わずに見つめた。

「誰がでたらめ言ってるか、膝で考えてもわかるヨ……面倒くさっ」アイスクリームディッシャーをしまい、お姉さんはエプロンに探り、ポケットから動物園の遊園地図を取り出した。「元の場所であんたたちを探してなかったら、あんたたちの先生は多分案内所へ行ったんだろう。ほらヨ」

 お姉さんは地図に指をさして、南蓮に渡した。

「え? あ…ありがとう、バブーのお姉さん~」

「だからお姉さんの名前は…」


     ×


「先生、その鳥かごはさっき入りましたよ!」

「え……」


     ×


「暗いね……」

 魔石燈(ませきとう)は赤くて弱い明かりを灯し、往来する人々の足元しか照らしていない。

 手探り状態、南蓮は足の幅を控えめにして歩く。

「すずりちゃん、本当にこの道なの?」南蓮は不安で聞いた。

「…うん」

「ひっ! …あ、すずりちゃんの声か……」

 傍から弱々しく響いた棠硯は、あえて南蓮をビックリさせたみたい。

 じゃないと誰の声なの……

「……地図を覚えた。ここからが一番早い。」

「ならいいけど……」

 そうは言ったが、周りには暗闇以外、微弱で赤い蛍光(けいこう)しかない状態で、南蓮にはまだ不安が止まらなかった。

「ひっ! …あ、るみちゃんの手か……」

 急に伸ばしてきた手は南蓮の手を繋ぎ、安心させているみたいで揺らした。握り返した南蓮が少しだけ安堵したところで、玖瑠実の声にビックリしてしまった。

「れんちゃんれんちゃん! 木の上に何がいる!」

「な、なに?」

 玖瑠実が言ったばかりに、指差した枝の上にいる毛玉は突然切断されたように、上だけ百八十度ねじり、赤き光を反射する丸い目で眺めてきた。

「ひっ! …なんだ、(ふくろう)か……」

「すずりちゃんはそこのモモモ…モモン? …モモンガ見えた?」もう一つの鉄網にキョロっと見て、玖瑠実は棠硯のもとに一歩近づいた。

「モモンガ……見てみる……」聞かれた棠硯も「カラッ」と暗闇中の足を止めた。

 今回こそ目的を忘れたように、三人は蛍光に灯された歩道に沿え、見て回った。

 そんな観光気分よ止めさせたのは、なぜか押し込んできた大勢の人だった……

釘宮(くぎみや)、なんで夜行動物館(やこうどうぶつかん)に入っちゃったんだよ?」

「ここからが一番早いんです――地図にはそう書いてます」

 入り込んだ人はさすがに多すぎて、玖瑠実が手を繋いでいなかったら、押されて進んでいる南蓮は流されてしまったかもしれない。

ジャッサイラッ(食屎啦)、なんで急にこんなに人が…」空いている手で、玖瑠実は棠硯の肘を急いで留めた。「早く出よう!」


「先生もその地図見てぐるぐる回ってたんじゃないの? 本当に信用できるの、その地図?」

「それは先生が地図読めないだけです」

「ぐぅ…」

 三人は外に出た。

 太陽は真昼のようにひどくはなかったが、室内から出たばかりで、日差しは一段と眩しく見える。

「ごめんね…こんなに不甲斐(ふがい)ない先生で…」そんな眩しい太陽にやられなかったのは、下に向けて顔を隠してる松田先生だけだった。

「せ、先生はふがいないなんかじゃありませんよ! 元気出してください、」隣に節子はいつから持っていたかわからない地図を持ち、先生に元気付けようとした。「西宮たちを見つければ、わたくしたちは……あっ」


「「「あっ」」」


     ×


 ゆらゆらと、移動する揺りかごのように、眠り落ちようとする玖瑠実を揺らしている。

「るみちゃん?」

「れんちゃん……おやすみ……」「トン」

 玖瑠実の頭は南蓮の左肩に倒れ、あっという間もなく、列車の揺れに揺れるがまま、すやすやと意識を穏やかな呼吸に潜ませた。

 何か言い出そうとしたようで口を開けた南蓮は、唇を閉じた。手を上げ、彼女は玖瑠実の乱れた柔らかい黒髪を指で梳いた。

「トン」

 南蓮が右肩も重くなったと感じさせたのは、棠硯が傾けてきた重さだった。

「え? なんですずりちゃんまで……」

「……おやすみ」

 そんな言葉を吐いた唇は、さっきまでの沈黙に戻した。

 二人の間に挟まれ、動けようとしても動けない南蓮は腰を曲げて本を取り出すことも、朝の玖瑠実のようにチョコレートでいたずらをすることもできない……あれ? 朝!

 この場で一番目がさえている南蓮は左右に見て、ようやく気付いてしまった。


「……これわざとでしょ~」


2020.01.26著作

2020.01.30翻訳

皆さんこんばんわ、こっちはネツミです。

変な日本語ですみません。

作中にあるルビ付きの「洛語」は実際台湾語です。今後もいっぱい出ることもあるだろう。

「この連載小説は未完結のまま約4ヶ月以上の間、更新されていません」と書かれたなろうの画面を見て、結構焦っちゃったけど……まあ、書き出せたから結果オーライかな?

それに最初から「不定期連載」って言ったから、〆切がないみたいなものだから遅れてはいないよねw

こんなにも時間かかせて申し訳ないけど。

実は、今回の内容のために、二回も台北動物園に取材しに行ってきた。動物を見るためじゃなくて、小学生の観察のために行ってきたが……あ、まず通報しようとするあなたのスマホを下ろしてください((違いますから

二回の取材のお蔭で、動物園の子供は大人と大体同じこと言ってることがわかった。


「見える?」

「どこどこ?」

「あそこだよ」

「おおお見えた!」

「どこだよ?」

「まだ見えないの? あそこだよ」


ってなわけで、自分と仲間が動物園の中で迷子になった話をストーリーの筋にした。

近頃は台湾で旧正月休みだったけど、この章に描かれたストーリーは旧正月に一切の関係がなく、残念だなって思うけど、機会があったら絶対旧正月のことが書きたいです。

それで、今回はここまでにします。

それじゃ、一旦シャーペン放します。


2019.01.30幻華 ネツミ

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