第一・五章 城に潜む物
……眠れない。
そういえば、棠硯が家以外のところで寝るのはこれで初めてだった。その光沢の欠けた両目は大きくて丸く開いたまま、馴染みのない天井を見つめていた。彼女の発見といえば、玖瑠実の寝台が家の紅眠床のように装飾された天井がないことと、吸い込まれちゃいそうな柔らかさは安眠妨害をすることだった。
彼女は起きて、玖瑠実の枕にまき散らした黒い髪をいじった。すやすやと、友人二人の寝顔は穏やかで可愛かった――不安な彼女と違って。
「滾水……」「カラッ」
軽い動きで寝台から降りた彼女は水を取りに行きたがる。
この屋敷の水源は井戸ではなく、便利な水道水だ。だけど彼女の兄は、水道水がいくら便利だとしても、直接飲むのは控えた方がいいと言った気がした。「体に支障が出るかも」とか、
台所なら沸かした飲用水があるはずと、棠硯は憶測した。
「カラッ……カラッ……」
……足音、デカすぎないかな。
人を起こしたくない。でも水を探さなきゃいけない。
廊下の高い天井は夜の中、分厚い暗闇がこもってるように、上も下もよく見えない状態。でも、夕暮れ時ノリノリだった南蓮が彼女を引っ張り回ったお蔭で、記憶がまだ残っているうちに、彼女は暗闇の中でも台所に辿り着ける。
丫の字をした階段から降りて、右に曲がったら台所のはず。
「カサカサ……」
台所から変な摩擦音がした。
緊張してきた棠硯は姿勢を低め、キョロと台所の様子を見た――見た彼女はすぐに後悔した。
変な蠟燭の光に灯された台所に、形容しがたい生き物が床にあった皿を舐めていた。上を見ると、人影が一人血に染まれたような包丁を持ち、何かを切っている。
「サクッ、サクッ、」
そして棠硯はその目で見た、その人影が「汁」が垂らしている物体を口に、美味しそうに食してる様子を。
……虎姑婆だ。
……虎姑婆で間違いない。
「カラッ」「――!」
ビクッとしたら義肢が鳴った。金属のぶつかり合う音はこんな針一本が落ちても聞こえちゃう夜にはよく聞き取れちゃう。
――気づかれた!
「カン、カン、カン、カン……」
もう人を起こすかどうかはどうでも良くなった。四足歩行から二足歩行、棠硯は二階に駆け付けた。ドアも閉まって、鍵をかかって、背中をドアに当て、やっと深呼吸ができるようになった彼女は……
鏡台に陶磁器の急須があることに気づいた。中身を傾き出してみると、淡いお茶の香りがする飲用水だった。
……外に行かなくても水があったんだ。
頭を傾けて考えても、まだ何かがおかしいと気がした。
……まさかこの急須は気づかれなかったじゃなくて、勝手に移動してきたかも……
棠硯は決めた。
玖瑠実の髪の毛を枕から片付けて、その枕に自分の頭を置いた。
この屋敷……本当にどうかしている。
2019.07.16著作
2019.07.19翻訳
皆さんこんばんわ、こっちはネツミです。
変な日本語ですみません。作中にある「洛語」は実際台湾語です。
うわ……悪趣味な一章だったな、思えば、
中国語版を読めばわかると思いますが、実はこれ第一章と一緒の文章だったんですが、翻訳の途中で飽きちゃって分けっちゃったのですw
で、作中じゃ上手く説明できなかったけど、この章の真実といえば、怪物とか妖怪とかは出ていない。台所にいたのはスイカを切って冷蔵庫にしまうの忘れた阿琴姉と世話されている夕暮れの野良猫。
実はそんな内容だったけど、なぜかこんなものになっちゃったw
ちなみに虎姑婆ってのは台湾の民間伝承に出てきた妖怪の一つである。山姥みたいな人喰い妖怪で、虎から化けて、留守番をした人間の子供姉弟の家押しかけて、親戚だと騙して、夜になるとピーナツみたいに弟の指をカリカリと食べたから……というお話((結末が覚えてない
面白いことに、台湾には野生の虎がないんだ。
とにかく、真夜中にスイカを切ってつまみ食いするのは遠慮したほうがいい((誰がそんなことをw
それじゃ、一旦シャーペン放します。
2019.07.19 幻華 鼠