9話 夢と現実
「でも、ほんとに良かったね! 潤さんとまた会えて!」
「うむ。神に感謝せぬといかぬのじゃ」
いや、ときめは神でしょ……。
しかし、この姉妹、正直全く似ていない。妹の方はかなり幼く感じるし、お胸さんも発展途上のようだし……。
いや、年齢的にも身長含め、このサイズで成長済みなのかも知れないな……。
「潤、何を美月に見とれておるのじゃ! もう心変わりしてしもうたのか!?」
「えっ! そ、そんな……あわあわ……ふ、不束者ですが……」
前言撤回、とっても良く似てる姉妹だ。特に天然さが……。
「心変わりなんてしてませんから、安心して下さい」
「ふふ、冗談だよ! お姉ちゃん!」
こ、この子は! 騙された! やはり違う! ときめと全然っ違う!
「じゃあ、私、そろそろ戻るね! もうすぐ新しい動画がアップされるから!」
この十年で俺の知らない日本が出来上がっていたようだ……今時の若い子はみんなこうなのだろうか。本人は520歳らしいけど……。
嵐のように妹さんは去って行った。えっと……何の話をしてたんだっけ……。
「騒がしい妹で済まぬのう、あれでいて中々優秀なのじゃが、いかんせん落ち着きが足りないのじゃ……」
はい、心中お察しいたします。
「もちろん、美月ちゃんもきつねさんですね?」
「そうじゃ、先程は尻尾を出してはおらんかったが……ま、まさか! 美月の尻尾の方が良いというのか! ときめの方が大きくてもふもふなのじゃ! 美月のは一回り小さいのじゃ!」
おお……なんか尻尾アピールが凄い。
「はい、俺はときめの尻尾が大好きですよ」
うん? 何か……。
「も、もう一度言って欲しいのじゃ!」
思い出した……このやり取りしてたんだった……まだやるの?
とんだ来客があったおかげで随分時間を使ってしまったが、取りあえずは今日は休もう。有給は掃いて捨てる程あるので、たっぷりと消化させてもらう手筈を取ってる。
明日はクーラーの取り付けと、やっぱり買い物かな。
「さあ、寝るのじゃ!」
尻尾をフリフリしながら俺の背中を押して部屋に押し込まれた。
「ちょ、ちょっと! 俺の部屋はあっちです。ここはときめが寝る所ですよ!」
「ダメなのじゃ。向こうの部屋には毛布しかなかったのじゃ」
当然、一人暮らし用の荷物には一組の布団しかない。なのでときめには布団の方を用意したのだが……。
「ときめの為に無理する必要など無いのじゃ。一緒に寝なければ我もここでは寝ぬ」
参った……流石年上の彼女である。見破られてるし、ときめの事だ、本当に床で寝かねない。
「……本当に一緒に寝ていいのですか?」
こちらと男である。そんな状況になったら……。
「いいのじゃ、一人は寂しいのじゃ……美月もおらぬし……」
……大変失礼致しました。寂しく無いように添い寝させていただきます。
「今日は冷えますからね、しっかり布団を――おうふ!」
尻尾のもふもふがみぞおちに、痛くはないけどちょっと驚いたよ?
「尻尾にくっつけば暖かいのじゃ! 美月とも寒い時は良くくっつけていたのじゃ」
なん……だと……? もふもふ尻尾を抱きながら寝れる……。そんな事が許されるのですか?
全国のケモナーさんが泣いて喜ぶシュチエーションじゃないか。
「じゃあ、遠慮無く……うわあ、きっもちいい……」
「ぅん……」
「とっても柔らかな毛並みですね……」
「くぅ……」
「……あの?」
「はぁはぁ……な、なんじゃあ……じゅ、潤……」
寝れない。そんなに悩まし気な声を出され続けて、くねくねされたら……。
「あの、こそばゆいみたいのなので触るのやめますね……」
「さ、触って欲しいのじゃ! ほれ! ときめは動かぬぞ!」
思いっ切り尻尾を抱きしめておいた。神様……俺、幸せです。
「ふあああ……」
朝、目を覚まして大きく伸びをする。俺の起床スタイルだ。昨日はなんか大変だった……でも尻尾がとっても気持ちよかった……あれ?
布団に居たのは俺一人、ときめは居ない。
部屋から出てキッチンに向かうが人影は無い、他の部屋にも……俺一人である。
「え……? まさか……夢なんて事は……」
いや、あり得る。そもそも神様が彼女? ケモミミに尻尾? しかも巨乳で献身的? そんな都合のいい話がある訳が無い。
「はは、いい夢見れたよ……」
誰もいないキッチンで一人呆けていると、自然に脳裏に浮かんだ、いやその時点からすでに動き出していた。ときめの痕跡を探すために。
非常に不謹慎極まりないが、洗濯かごを漁らせてもらった。そこにはときめの下着が確かにあった。でも本人は居ない……。
「まさに神隠しってか……あんなに一緒に居たいって言ってた癖に」
上手い事言ったつもりだが、全く笑えない……珈琲でも飲むか……。
「饅頭のゴミ……か。ときめ、美味しそうに食べてたな……」
今日はゴミの日だったな。昨日のコレクションもまとめてあるし……これはもう捨ててしまおう。ときめが戻って来た時に怒られてしまう……。
ゴミをまとめて玄関の前に置くとふと思いたった。
「あ、段ボールも持って来なくちゃな……資源ゴミも今日出せた筈だし……」
これがときめが味わった気持ち……十年待たせられた気持ちか。まあ、いい。十年ぐらい待っててやる。その頃には三十八歳か……もうおっさんだな。帰ってくる保障なんて無いけど……。
「のわあ! な、なんでこんな所にゴミが置いてあるのじゃ!」
声のする方に走った。
「おお! 潤、起きておったのか! 頑張って一人で神社に行って美味な梅干しを――」
ときめの言葉が終わる前に抱きしめた。
「な、な、な! じゅ、潤、どうしたのじゃ!?」
柔らかな感覚を感じる為に更に強く抱きしめた……。
「あ……じゅ、潤……そ、そんなにされたら……」
この暖かさ……正真正銘ときめだ、夢じゃない。
「一人で勝手に出かけないで下さい! 俺は十分も待ちましたよ!」
「な、何を言っておるのじゃ! 我は十年待ったのじゃぞ!」
『ふふふ……』
二人の笑い声が玄関で重なった。
「もう少しだけ、このままでいさせて下さいね」
「それはときめからのお願いなのじゃ……取るで無い……」
しばらくの間、力いっぱい抱き寄せた。
古風で美人のきつねの神様……俺の大事な彼女を。
ご愛読有難う御座います。
今話にて序章部にあたる出会編は終了となります。お楽しみ頂けましたでしょうか?
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