8話 パンドラボックス
ときめに呼ばれ、恐る恐るパンドラボックスが置かれてる部屋に向かうのだが、明らかに部屋の入り口から、不穏な空気が流れ出ているのが分かる……。
「き、来ました……」
「なんじゃ? これは」
パンドラボックスの封印は既に解かれており、ときめの手には肌色率百%の雑誌とDVDが握られている。
十年間の秘蔵コレクションが今の俺には悪霊にしか見えない……。
「そ、それは、その……」
既にケモミミ、尻尾は解放状態であるが、いつもとは大きく違う。毛並みが見事に逆立っている……激おこぷんぷん丸インフェルノ状態だ。
「我ともあろう者がおりながら……なんじゃこれは! どれも裸ではないか! しかもみな金色の髪をしておるが、我の毛並みの方が断然上じゃわ!」
「は、はい。ときめの毛並みに適うものは無いです……」
「たわけが! こんなものこうしてくれるわ!」
ああ、雑誌が破られてDVDがマッハ踏み踏みされてる……未練なんてこれっぽちも無いのだが、それで怒りが収まってくれるのだろうか……お願い、収まって!
「はぁ、はぁ……酷いのじゃあ……」
今度は座り込んで泣き出した!? は、早くこの場を収集せねば!
「す、すみません! ときめに会えた今ならこんな物は必要無いです! すぐに捨てます!」
「……ほんと……じゃな」
「はい! 今すぐゴミ袋に入れて捨てます!」
あ、危なかった……なんとか毛並みの逆立ちも収まったし。とりあえずは許してくれたのかな……?
「潤……す、済まぬのじゃ……ときめは乱心してしまったのじゃ……こんなおなごはもう、嫌いになってしもうたかの……?」
ツンデレ来たあ~!
「いえ、悪いのは俺ですから。嫌な気持ちにさせて申し訳ありません……」
「済まぬのじゃ……うぅ……潤、こっちに来て欲しいのじゃ……」
嗚咽を漏らしながら訴えられたので、ダッシュで駆け寄りケモミミを撫でてあげた。
パンドラボックスの底には確かに希望が残されていた……よかったあ~……。
「落ち着いてくれましたか? 先程の物は全てゴミでまとめておきましたから」
「二度とするでないぞ……次は許さぬからな」
「はい!」
とりあえず精一杯の返事をしておこう。それに大丈夫です、俺にはもう必要無い物ですから。
グッバイ! 俺の十年、おいでませこれからの人生!
「それではそろそろ寝ましょうか。ときめはこちらの部屋を使って下さい。俺は向かいの部屋で寝ますので」
「なぜじゃ!? やっぱり嫌いになっておるではないか! 嘘つきなのじゃ! 針千本飲むのじゃ!」
「いや、飲まないですし、嘘なんて付いてませんよ。ときめの事は大好きですから」
「い、今の……もう一回言って欲しいのじゃ……」
「え? 飲まないですし――」
「違うのじゃ! その後じゃ!」
「……ときめの事は大好きですから」
「はふぅ……も、もう一回じゃ!」
なに? この羞恥プレイ!? でもさっき怒らせたばかりだし、ここは素直に。
「ときめが大好きです」
「はぁぁ……もう一度じゃ!」
「ときめが――」
『ピンポ~ン』
うん? こんな時間に誰だろう? 回覧板かな?
「なんじゃ!? この至福の時間を邪魔する音は!」
「誰か来たようですね」
「なんじゃと!? けしからんのじゃ! 文句を言ってやるのじゃ!」
そのまま玄関の方に……ダメ! 今は男物のパジャマ来てるし、ケモミミと尻尾あるし! やめて神様!!
「誰じゃ! 我の恋路を邪魔する不届き者は!?」
うわあ……終わった……どうして勝手に出ちゃうかなあ……。
「お、お姉ちゃん!? ど、どうしたのその恰好!?」
……なぬ? お姉ちゃんとな?
「どうぞ、お茶になります」
「わあ、ありがとう! お姉ちゃんがお世話になってます!」
ときめの事をお姉ちゃんと呼ぶ、巫女の服を着た女性、活発な感じのする少女はリビングに座り、元気いっぱいに答えてくれた。
妹……居たんだ。
「自己紹介しないとね!、私、天照加命建御名――」
「これ、そんな長ったらしい名前では無く、いつもの呼び名で良いじゃろう。だいたい、そんな名前を出しても誰も覚えてくれぬわ」
ごもっともである。
「そ、そうかなあ~それじゃあ、私の事は『美月』と呼んで下さい!」
呼び名あるんですね……じゃあときめも呼び名があるんじゃ……。
「は、初めまして、秋元潤と申します……ときめに妹さんが居たんですね……もちろん神様ですよね?」
「ときめ? お姉ちゃんの事? ちなみに私も神だよ!」
「潤が付けてくれた名なのじゃ! 良い名じゃろ?」
「そうなんだ! とっても可愛い名前だね、お姉ちゃん!」
なんか身内で盛り上がっているが……。しかし、巫女姿の方が神様として自然だな。どうしてときめはあんなファッションなのだろうか。
「もう!『潤が来たのじゃ! 行ってくるのじゃ!』って飛び出しちゃうんだもん! はい、これ、お洋服だよ!」
「おお、いつも済まぬのう!」
成程、服の供給源はここか……さっき下着買っちゃったけどなあ……。
「服はありがたいが、下着はさっき潤が買ってくれたのじゃ! これは予備に回すのじゃ!」
「え……お姉ちゃん達、もうそんな関係に……? あ、あの義理の妹として宜しく――」
「何もなってません、ネットショッピングで購入しただけです!」
話によると飛び出して行った姉が心配で見に来たらしい。神社の方はそのまま妹が引き継ぐとの事だ。
「お姉ちゃんみたいに全員は無理だけど頑張るね!」
「うむ、普通は全員に幸を与える方が異常のようじゃからのう。美月の好きなやり方で良いと思うのじゃ」
「あ、あのお。一つ宜しいでしょうか? 妹さんの方は随分と今風な喋り方ですが、お歳を伺っても……」
「うん、いいよ! 美月は520歳だよ!」
その差、492歳……の彼女の妹の知り合いが出来た……。




