32話 久しぶりの神様へのお願い
「ところでお手伝いとは一体どんな内容なのでしょうか?」
話が脱線してしまっくっているので本題を単刀直入に聞いてみた。二人は衣服の乱れを直している最中ではあるが。
「あ、そうそう! 明日秋祭りがあるでしょ? 私も一緒に回りたいの! でも……」
ある部屋をちらちらと眺めている。あの部屋になにかあるのだろうか……。
「む、確かに気にはなっていたのじゃ。この神社は勉学の幸を授けるのが主で、この季節の参拝客は比較的少ない筈じゃ。正月や受験シーズンとは違っての。別段秋祭りで準備するものは無い筈じゃが」
そう言えばそうだな。ときめの言うと通り普段はそんなに混み合うイメージは無いかな……もちろん、参拝する人は多いが、繁忙期と呼ばれる時期に比べれば少ないだろう。
「たはは……」
うすら笑いしながらケモミミの後ろをかいている。なかなか可愛らしい光景だ。
「……まさか、さぼっておったのではなかろうな?」
その言葉に美月ちゃんの目が完全に泳ぎだした……これは、図星だな。
「うう、お姉ちゃん! 助けて! 昨日ね、督促が来て『今溜まってる願いの処置をしないと秋祭り出禁!』って言われたの~!」
言葉の意味通りこの神社から出るのを禁止って意味なんだろうけど。ときめも目に手の平を当てて上を向いてる……ときめ困ったverだ。なんかこっちも可愛い事になってる。
「それでお姉ちゃんを呼んだの! あ、ちなみに入るのは自由だけど、もう出れないよ」
笑みを浮かべとんでもない事をさらりと言ってくれた……ちょっとおお! 閉じ込められたじゃないですか!? 秋祭り行けないじゃん!?
「み・づ・きぃ……」
ぎゃあ!! ときめさんご立腹モード!? お、落ち着いて! モンブランまだあるから! くそぉ、まんじゅうも持ってくれば良かった!
「お、お姉ちゃんと一緒にお祭りに行きたいの……」
少し悲し気な表情でしょんぼりとしている、ケモミミと尻尾にも元気が無い……。確かにずっと一緒に居たもんな……寂しい気持ちはあるだろう。そんな美月ちゃんを見てときめも困惑しているようだ。
「……仕方無いのう! ほれ、早く片付けるのじゃ! 執務室に行くのじゃ!」
やっぱり優しいお姉さんだ。なんだかんだ言って妹が可愛いのだろう、良かったね、美月ちゃ――
口角を少し上げ、小さなガッツポーズをしている美月ちゃんと目が合った。
『……』
な、なんて子だ……。
「……何が望みですか!? そ、そうだ! 一緒にやってみた動画に出ます!? 結構人気あるんですよ、私のチャンネル! お願い、お願いだから内緒にしてお義兄さん!」
さっきまでイチャラブしててブちぎれてたのに今度はお義兄さんと来ましたか……しかし、事の真相が発覚した暁にはどうなるかは容易に想像出来る。ときめは怒ったら怖いのだ。
「何をしておるのじゃ! 早く来ぬか! 秋祭りに行けぬではないか!」
「は、はい! すぐに行くよ~! お義兄さん、絶対、ぜ~ったいに喋ったダメだからね! じゃないとこれからのおみくじ全部大凶にするからね!」
なんか一周回って脅されているような気がする……。しかし、おみくじが全部大凶って。嫌だな、それは。
「分かりましたよ、しっかり頑張って来て下さいね」
「うぅ……お姉ちゃんを本気で怒らせたら怖いんだよ? 尻尾なら触ってもいいからぁ……」
今度は泣き脅しですか……この子多彩な技を持ってるな。でも尻尾は魅力だ。だが、俺はそんな簡単な罠にはかかりませんよ?
「早く行ってあげて下さい。ほら、ときめが見てますよ?」
「美月……早く来るのじゃ……」
「ひいぃ! た、ただいま参りますぅ!」
まったく、面白い妹さんだ。さて、ところで俺は一体何をしておけばいいんだ? まさかの放置プレイ?
「お、終わったのじゃあ……あんなに貯めおってからに……」
「あ、ありがとう、お姉ちゃん……」
時刻は午前5時20分、ずっとぶっ通しで神様のお仕事をしていたときめと美月ちゃんが執務室と呼ばれる部屋から出て来た……ふわぁ……眠い。
「久しぶりにクタクタなのじゃ……じゅ、潤! もう起きて――いや、寝とらぬのか!?」
「ええ、流石にそれは悪いと思いまして」
以前海に行った時は先に寝ちゃったからね。あの時は二人とも遊んでいたからいいものの、ときめはお仕事をしているのだ。そこで俺一人だけぬくぬくと休む訳にはいかない。
「うぅ……眠たいよぉ……寝るぅ……」
美月ちゃんがソファーへと倒れ込み、その二秒後に寝息が聞こえて来た。
「なにをしておるのじゃ、自分の部屋で寝ぬか! 全く、手のかかる妹じゃ……」
ときめが美月ちゃんの方に歩いて行く途中で明らかに違和感のある座り方をした。まるで力尽きたかのような。
「と、ときめ! 大丈夫ですか!?」
「だ、大丈夫じゃ……ちょっと、疲れが出ただけじゃ……ひ、久しぶりじゃったからのお。でも参拝に来てくれた人の気持ちは無下には出来ぬのじゃ……」
「そうですね、ときめははいつもそんな事をしてたんですよね」
座り込むときめを抱いて運んだ。いわゆるお姫様抱っこである。こんなに豊満な体をしているのにとても軽い。
「あ、は、恥ずかしいのじゃが、なんだか嬉しいのじゃ……こ、これは確かひすいのメモにも載っていたのじゃ……」
やっぱりあのメモはひすいさんが書いたものか。いや、それよりも。
そっと、ソファーの上にときめを下ろし、姿勢を正し、お辞儀をした。
「な、何をしているのじゃ?」
手を二度叩き、目を瞑り再び頭を下げて言葉を出した。
「神様、私からのお願いです。どうか、ゆっくり妹さんと一緒にお休みして下さい」
「……承ったのじゃ」
笑みをこぼしながら伝えてくれた。久しぶりの俺の神様へのお願いは届いたようだ。
「じゃが、潤も隣に来て欲しいのじゃ……は、早くせぬと瞼が落ちてしまうのじゃ……」
もう限界寸前のようだ、言われた通り、ソファーに腰かけるとそのまま俺の膝に頭を置いて来た。優しくケモミミを撫でると、美月ちゃんと同じく可愛い寝息が聞こえて来た。
どうやら神様のお仕事は相当な気力と体力を消耗するようだ。二人ともお腹も減っているだろうし、お風呂にも入っていない。
「ふわぁ……でも俺も眠い……な……」
ケモミミのもふもふ感を感じ、幸せを満喫していると次第に意識は遠くなっていった。
きつねさんの神様姉妹と一緒に寝れる……日が……来るとは……。




