24話 初めてのキス
神秘的な光景を心に刻みつけた後は、思いっきり海を堪能させてもらった。翔はヘリを操縦出来るぐらいなので、当然の如く、船舶免許も所持しており、ジェットスキーを楽しんだ。
いわゆるバナナボートだ。しかし、なんでもありのスーパー社長だ。
当然ながら泳ぐ事になるので、ときめの泳力を心配したが、ライフジャケットを着て器用に犬かきをしていた。
ちなみに本人曰く、『泳ぐのは初めてなのじゃ』と言っていた。
……本能なのだろうか?
その後も翔はサーフィンなどを楽しんでいた。ほんと、なんでも出来子ちゃんですね……。だが、驚いたのはひすいさんだ。同じく翔と一緒にマリンスポーツを楽しんでいた。二人揃って運動神経抜群だ。
もちろん、俺にそんな特技など無い。ゆらゆら海面でマットを浮かべて漂ってみたり、砂浜でときめと山崩しなんかをしていた。
ちょっと子供っぽいが、ときめはそちらの方が楽しいようなので問題無さそうだ。
そんなこんなで海を遊び尽くし、今は休憩中だ。日も傾きかけており、時期に夕焼けが見れる事だろう。
「ふう……日も暮れそうですし、そろそろホテルに戻り――あれ?」
先程まで一緒に休憩していた筈の翔とひすいさんが居ない。
「む、何処に行ったのかのう? そ、そうじゃ、潤、さ、散歩でもせぬか? 夕焼けが綺麗じゃぞ?」
なんか目が泳いでいるような気が。まあ、確かに綺麗な夕焼けだし、貸切の海で見れる景色なんて翔がいない限り今後あり得ないだろう。しっかり堪能させてもらうとしようかな。
「そうですね、折角ですし散歩しましょうか」
「そ、そうじゃの! よし、なのじゃ……」
「うん? 何か言いましたか?」
「何でも無いのじゃ! は、早く行かぬと夜になってしまうのじゃ!」
そう言うと一人で海岸の方に走って行ってしまった……散歩、一人で行っちゃうんですか?
水平線に沈み行く太陽、濃いオレンジ色の光が眩しく、とても綺麗だ。それと同時に何故か無性に寂しくもなる。夕焼けとは不思議な物だ。
ときめと俺は海岸にあるヤシの木が数本生えた緑が茂るベンチに腰を下ろしている。おそらく夕日を眺める為に作られた場所だろう。
「ふふ……」
不意に笑ってしまった。少し昔を思い出したのだ。
「な、なんじゃ? 夕焼けが面白いのか?」
「ええ、確かに面白いかもしれませんね」
夕焼けを見ながら昔話をときめに伝えた。
実は俺が子供の時、海に連れて行ってもらい、同じく夕日を眺めていた。そこで水平線に沈む直前にまで迫った太陽を見て親に尋ねたのだ。
『うみにたいようさんしずんじゃたらどうなるの?』
『うん? ああ、見てな、じゅう~! って湯気出すから』
『ほんと!?』
そんな事をある訳が無いのに、俺はずっと太陽が海に入るまで一時も目を離さなかった。
完全に海の向こうに太陽が沈んでも何も起こらなかった事に疑問をぶつけると、大爆笑をさらった。
全く、純粋無垢な子供をからかうなんてけしからん。
「そんな事があったのじゃな、潤は面白い事を言うのお」
「俺にも純粋な時があったんですよ」
足元の砂を握り、さらさらと砂浜に戻しながら答えた。
「……今も、純粋じゃぞ。初めて会った時から変わって無いのじゃ」
ふと、ときめの方を向くとこちらをじっと見ている。どうやら、昔話をしている間もずっと横顔を見ていたようだ。
そんなに見られるとなんか恥ずかしいんですけど……。
「はは、まあ、珍しい子だったかも知れませんね。神様へのお願いもあんな感じでしたし」
「ときめは……そんな潤が好きなのじゃ……純粋で、思いやる心を持ってくれているのじゃ、一緒に居てより感じれるようになったのじゃ……」
ケモミミは少し倒れ、ふくよかな尻尾はゆっくりと左右に振られており、顔は夕焼けの明かりのせいでもあるだろうが、いつにもまして赤い。
少し体をこちらに倒し、顔はこちらに向け、瞳を閉じた……こ、これは……。
夏、海、夕焼け……誰もいない砂浜でカップルならこのシュチエーションならする事は決まっている。
アレだ。
俺も以前の神社でのお花見の時にやらかしたミスを放置していた訳では無い。世の中には便利な検索ツールがたくさんあるのだ。いろいろ事前には調べさせてもらった。
雰囲気はばっちり、相手は俺の事を思ってくれている。
かっこいいキスの仕方などもいろいろ調査してきた……だが、途中で調べるのを止めた。ときめの前ではあまり自分を飾りたくない。
不格好ではあったとしても、ときめの気持ちを素直に応えてあげたい。
「ときめ……」
体をときめの方に寄せ、俺も目を閉じ、そっと唇を落した。
「ん……」
心臓が驚くほど速く動いている。恐らく、今血圧を測ったら大変な数値が出る事だろう。俺の……ファーストキスだ。そして、ときめも。
唇の感触はとても柔らかく、永遠に味わっていたい至福の時間であった。しかし、息次ぎのタイミングが分からないので、早めに唇から離れた。
「あ……」
名残り惜しそうな声が上がった。ふと目を開けると、ときめは蕩けた目をしていた。ケモミミは先程よりも大きく倒れ、尻尾は砂浜についてしまっている。
「……ときめ、もう一度目を閉じていただけますか?」
その言葉に静かに頷き、再び目を閉じてくれた。そして再び、唇を合わせ――
「にゃあ~!?」
……ひすいさん。
「にゃはは……き、奇遇にゃ。こんな所で会うにゃんて! ほ、ほら夕焼けが綺麗にゃ!」
ヤシの木が生えている草むらから中腰の体制で現れた、いや、滑って出て来たな、これは。
見てましたね……恥ずかしいじゃないですかあ!!
「……ひすい」
ひいい!! 言葉に怒気は一切無く、無表情だが、ふっくら尻尾が完全に反り立って更に毛が逆立つ事でいつもよりも大きくなってるし、ケモミミもピンと跳ね上がっている。
こ、これは……激怒プンプン丸インフェルノとかそんな冗談を言ってる場合では無い、純粋にキレてる。
「と、ときめ、ゆ、許すにゃ……こ、これは……」
土下座して謝るひすいさんに冷たい目をして見下すときめ……流石に可哀そうだったので助け舟を出してあげた。一応、会社関係で言うと、ひすいさんは社長秘書だし、確実に俺より上席だ。
しかし、ときめを本気で怒らすとあんな目をするんだな……勉強になりました。ひすいさんのおかげです!




