20話 夏と言えば?
梅雨の湿っぽさも抜け、カラリとした空気と降り注ぐ日差し、いよいよ夏の到来である。日本ではクールビスが主流になっているようでネクタイを締めなくていいのは非常にありがたい。
ときめとは順調に同棲生活を送れており、毎日美味しいご飯を作ってくれている。買い物も上手になり、タイムセールの時間帯では世のおば様方達とし烈な争いを日々繰り広げているらしい。
実際食費はそのおかげで随分安くついている。正直、一人暮らしをしていた時と変わらない程だ。
給料自体も本社勤務になってから『こんなにもらっていいの?』という額面となっている。少々贅沢してもいいのだが、『無駄遣いはダメなのじゃ! 家計はときめに任せておくのじゃ』と言って譲ってくれない。
本当に妻になりつつある今日この頃だ。まあ、まだキスの一つもしてない訳だが……。
「社長、このデザインの機能性は確かに高いですが、この案件は諦めた方が……」
「秋元君、無理は重々承知しています。しかし、この案件は何としても成功させなければならないのです」
「ですが、代替案の方でも十分な効果はあります。それ程のリスクを冒してまで追い求めるのは無謀……ではないでしょうか」
スターシティ本社ビル七十五階、社長室にて社長との打ち合わせを行っているのだが、難航している。
これまで様々な服をひすいさんとときめに作ってきたが、今回の依頼があまりにも無謀過ぎるので社長に進言している。
「確かに、そちらの案件も素晴らしい事は認めます。ですが、秋元君は更なる可能性を諦める事に納得出来るのですか?」
ぐ……クリエーターに対して一番の弱みを的確に。流石、スターシティ代表取締役……。
「社長、秋元さん、少し落ち着いて下さい。今お茶を淹れますので」
「……済まない、僕も少し熱が入り過ぎたみたいだ。少しブレイクしよう」
「はい、分りました」
ひすいさんが給湯室へと向かい、社長と二人きりになった。このタイミングを待っていたのだ。ぎりぎり相手に届く声まで声をひそめる。
「……翔、流石に厳しいですよ。アレは」
「……先輩だって見たいでしょ?」
季節は夏直前、その為に必要な服……半袖シャツでも無い、ハーフパンツでも無い。
『水着』だ。
「やっぱり……怒られません? 『スクール水着』は」
「大丈夫、泳ぐ場所は考慮して一般の人は誰も居ないようにするから」
いや、確かに人が居る、居ないも重要なんだけど、一番大切なのは着る本人達の気持ちだからね?
ときめは多分着てくれそうな気もするけど、ひすいさんに引っ掻き回されても知らないよ?
「分かりました……翔の熱意には負けましたよ」
「ふふ、そんな事言って。もうある程度出来てたりして?」
おうっ! バ、バレてる……。
「どうやら図星だね? もちろん、名前も入れといて下さいよ、平仮名で。じゃないとスクール水着の良さが半減しちゃ……い……ます……か……ら」
翔の言葉が弱く……ま、まさか……。
給湯室の入口にひすいさんが居る。この距離で会話を聞き取る事は不可能だろう。人では。
だが、相手は神様、猫さんなのだ。耳がピクピクしている。いやピクピクしているのは耳だけじゃ無い。可愛らしい顔もピクピクしているような気がする。
ただ、これだけは確実に言える……怒ってる。
「じゃ、じゃあ私はこれで! 業務の続きがありますので!」
「あ、せ、先輩ずるいですよ! 逃げないで、というより置いていかないで下さいよお!」
こちらに歩みよって来るひすいさん……とても冷たい目をしていらっしゃいますね……。
「それでは! 失礼します!」
俺は走った、後ろを振り返ってはいけない! 目の前の扉だけを見据えて走るんだ!
「せ、せんぱ――」
「人が心配してたらそんなくだらない事を考えていたのかにゃあ!? ちょっとこっちに来るにゃあ!」
さらば……友よ。俺は、そっとドアを締め、入室禁止の札をかけた。
逃げるように、いや、実際本気で逃げて来た訳だが。翔にはほとぼりが冷めた後、お見舞いに行くとしよう。
さて、実は試作品としては翔に見抜かれていた通り、完成しちゃってたりする。もちろん、要望のお名前は付けていない。でも用意はしてある……作るの凄く恥ずかしかったんだからな……。
先程のひすいさんの感じからこの水着は無駄になりそうだ。まあ、これはお遊びとして、ちゃんとおしゃれな水着もちゃんと用意してある。
ひすいさんにはオフショルビキニだ。肩を開放している水着であり、活発な彼女にはとても似合うと思う。対してときめにはパレオを用意している。これは大人の容姿を持つ人が着るとよく似合うと思う。
今日の定時前にでも社長室に行ってひすいさんの水着を渡そう。これで問題解決だ。
しかし、水着作りは専門外だから時間がかかった……まあ、高い給料貰っているので文句など言えよう筈も無い。
いいんだろうか……こんな仕事内容でお金貰っても……完全にスターシティに貢献して無いような気がするんですけど。




