2話 やっぱりケモミミと尻尾があった
「ふむ、海外に居たのじゃな……どうりで日本中の神社に依頼しても見つからない訳じゃな……」
先程、晴れて彼女になった神様に十年間の空白の理由を伝えた。
俺は十八歳で入社し、一か月の研修の後に海外へと赴任したのだ。まあ、珍しいパターンの就職ではあるとは思う。
しかしいいのだろうか、神様と付き合っても……。
そして何気に神様にもネットワークあるんですね。俺、指名手配されてる感じだったんだ……。
「しかし、それならそうとはっきり言っておかぬか! 我がどんな思いで待っていたと思うのじゃ! 寂しくて、悲しくて……もう、絶対、絶対離れぬからな!」
涙目になって思いの丈を語ってるが……とりあえず店を出よう。お客さん全員が聞き耳立ててるし、これじゃあただの晒し者だ。
「わ、分りましたから。とりあえず、俺の家に行きましょう」
「い、いきなりお主の家に!? そ、そんな、ま、まだ心の準備が……今日、遂に、、し、初夜を迎えるのじゃな……」
「マスター! お勘定置いとくね! お釣りはいらないから!」
もうヤダ……いきなり初夜って。さっき彼女になったばかりじゃないですか……。
喫茶店は神社の前にあり、参拝者御用達の老舗のお店となっている。この神社の裏には俺の実家があり、神社は子供の頃の遊び場でもあった。
日本に帰って来て、構えた新しい住居は神社から五分程歩いた所にあるマンションだ。
「さ、寒いのお……」
そりゃそうでしょ、そんな服装じゃ。
ほぼ下着丸出しの服に、スボンもローライズだし、でもブーツは履いてるのね……神様の服装とはとても思えない。最新ファッションじゃないか……。どちらかと言えば夏の。
「ちょっと大きいですが、これを着て下さい。そんな恰好じゃ風邪引いちゃいますから」
コートを脱ぎ、神様にかけてあげた。寒の戻りで外の気温はかなり低いし、そんなセクシーな格好では寒さが身に染みることだろう。
しかし、取るものも取らずと言っていたが、コートの一つぐらいは着て来て欲しかったかな?
まあ、家までの距離は大して無いし、彼女になったばかりの神様に、寒い思いをさせる訳にはいかない。
「暖かいのじゃ……で、でもこれじゃお主が寒いのじゃ! 我は我慢出来るのじゃ!」
「いいから、いいから。家まではそんなに遠く――」
「ダメなのじゃ……風邪引くのじゃ……」
なんでそんな上目で瞳に涙溜めてるの!? ときめいちゃうんですけど?
「大丈夫ですから! ね! さ、早く行きましょう!」
「……分かったのじゃ。やっぱりお主は優しいのお……」
なんか凄く恥ずかしいぞ!? 彼女なんて初めて出来たけど、これがリア充と呼ばれる者の領域なのか……。
「ここが、お主の家か……箱ばかりじゃのう」
お姉さんからの感想の通り、リビングには荷物の入った段ボールが積み重ねられており、生活感は皆無だ。
昨日とりあえず荷物を入れただけで、まだろくに手を付けていない。まあ、しばらく休みを取ってあるし、徐々に片付け――
「はっくしょん!」
うう、寒……。まだエアコンの工事も出来て無いし、暖房器具は無いんだよなあ……。
「風邪を引いたのではないのか!? 我の、我のせいだ……嫁として失格じゃ……」
五分の間に嫁に進化してる……確か順序がどうとか言って無かったけ?
「大丈夫ですよ、確かフリースが……この箱かな?」
「あ、暖めてあげるのじゃ!」
うん? 温めてって。電子レンジじゃないんだから……って! ケモミミ! 尻尾! もふもふの!?
「か、神様!? 耳! 尻尾!」
「何を驚いておるのじゃ? 我はきつねの神じゃ、さあ、早くそこに座るのじゃ」
あ、きつねさんだったの……さっき喫茶店で見たのは疲れのせいじゃなかったんだ。あはは……。
「こんなに冷たくなって……わ、我の体温と尻尾であったまるのじゃ……」
言われた通りにフローリングに座るとその上に神様が座って来た……こ、これは、『だいしゅきホールド』ではないか!?
さっきまで彼女いない歴=年齢の人間がこの短時間でこんな濃厚な関係に……か、体が反動に付いていけないんですけど?
「だ、抱き締めてくれた方がもっと、温まるのじゃ。は、早くせぬか! 風邪が悪化するではないか!」
きつね神さんの顔が真っ赤だ……尻尾のもふもふが堪らない……ああ、癒される。このケモミミも。
「ひゃう!」
「す、すみません! 耳、触られるの嫌でしたか!?」
「ち、違うんのじゃ、そ、その……男性に触られるのは、は、初めてだったからの、す、少し、緊張して……で、でも嫁なのじゃからいいのじゃ、す、好きなだけ触るがよいのじゃ……」
尊い……。そして俺にはケモナーの血が流れているのかも知れない。
そしてもう完全に嫁になってるし。
「じゃ、じゃあ、遠慮無く……」
「ぅぅ……や、やっぱり恥ずかしい……のじゃ……」
萌える……。それに暖かいし、もふもふだし、柔らかいし……二時間はこうしていたい。いい迷惑だろうけど……。
名残り惜しいがもふもふタイムは十分程度でお終いにした。これ以上は俺の精神ときつね神様がオーバーヒートしてしまう。
「あ、ありがとうございます。おかげですっかり温まりましたよ」
「い、いいのじゃ。いつでも言うてくれたら……その、暖めてあげるのじゃ……」
この地球上で最高最強のカイロじゃないか。あ、そういえば。
「ところで神様、なんとお呼びすればいいのでしょうか?」
「うむ、本当は長ったらしい名前があるのじゃが、全部言うのはちと面倒じゃからのう、お主が好きに呼んでくれればよいのじゃ」
好きにって……俺が名前を付けちゃうの? まるで飼い主みたい。
「そ、そうは言われましても……」
流石にポチとかは付けれらないし、そんな事したらきっと神罰が下りそう。
名前、名前……うわあ、難しい……。しかも目を輝かせて待ってるし、ハードル高くない?
う~ん……そ、そういえば……。
「か、神様を見て先程、とてもときめいたので……と、ときめ、なんて如何でしょうか?」
「ときめ、か。とても良い名じゃ。我は今日からときめじゃ! し、しかも我を見てそんな風に……う、嬉しいのう……」
尻尾を左右に振りながら、にまにましてる……どうやら喜んでくれているみたいだ。
何より頬を赤らめて照れてる姿があまりにも尊い……。なに、このきつね様……超絶可愛いじゃないか!




