11話 社長とばったり!
「さて、今日はいろいろと買いたい物もありますので、ショッピングモールにでも行きましょうか」
「潤と一緒なら何処でもついて行くのじゃ~」
尻尾をフリフリしてとても愛らしい……でも外では絶対出しちゃダメだよ?
「なにはともあれ、まずはときめの服ですね。それと布団をもう一組――」
「好きって言ったのは……嘘じゃったのじゃな……」
尻尾が力無く垂れ下がった上、涙目になってるし……分かりましたよ!
「じゃあ、枕を買いましょう。それだったらいいでしょ?」
「……ときめは腕枕がいいのじゃ。で、でも布団は一つ、枕は二つ……こ、これは、ふ、夫婦ではないか! はわわ……」
うわあ……幸せだわ~。了解しました、この腕、ときめに捧げましょう!
しかし、ときめはお姉さんの見た目で口調も古風なのだが、どうも幼く見えてしまうな。まあ、そこが良いんだけど。
この街には一駅先に大型ショッピングモールがある。『スターシティーモール』と呼ばれているが、この会社はホールディングス形式であり、世界有数の超有名企業である。
俺もそのスターシティー系列の仕事に就いている訳なのだが。
「さあ、着きましたよ、ときめ、尻尾とケモミミには気を付けて下さいね、ここは人がたくさんいますので」
「分かっておるのじゃ。気を付けるのじゃ……それにしても綺麗な建物じゃのう」
店内は平日にも関わらず、多くの人が行き交っている。流石、スターシティー系列はモールの集客率も半端じゃないな。
「じゃあ、早速買い物と行きましょうか。まずはときめの服からですね」
「分かったのじゃ!」
「いらっしゃいませ、なにかお探しでしょうか?」
「えっと、彼女に何点か服をトータルコーディネートして欲しいのですが。特に上着を」
足を運んだのはモールに店舗を構える女性服専門店である。大手の洋服チェーン店ではなかなか頼めないのでこちらの店を選んだ。
「そうですね、お客様は身長もバストもありますので……」
「バスト? おお、胸の事じゃな。ときめは『G』なのじゃ。潤も言っておったぞ!」
「ときめ!? それ、俺が計った訳じゃないから!」
「……くっ……リア充め」
ひいいっ! お姉さんまで! ときめと居るだけで全ての人から塩対応を受けてしまう!
「どうじゃ? 似合うかの!」
春らしいデニムのジャケットと羽織っている……せめてボタンは閉めようね? まあ、とりあえず上着を多めにチョイスしてもらったし、春物としてはこれで十分かな?
「ときめ、ジャケットの前は閉めて下さいね。その、ちょっと露出が高いので……」
「分かったのじゃ、潤が言うなら閉めておくのじゃ! でもくっつく時は肌同士が良いのじゃ!」
「お会計いいですかね!? カードでお願いします!」
もう、この店には来れない……。
「楽しいのじゃ~!」
とてもご機嫌な様子であるが、やたらと気苦労が多い……しかし十年も待たせたのだ、これぐらいの事はどうという事は無い。
「じゃあ、次の店に行きま――」
「先輩……? 潤先輩じゃないですか!?」
俺の名前を呼ぶ方へと振り返るとそこには……スターシティホールディングス代表取締役社長、星町翔が秘書を連れて立っていた。
「しゃ、社長!?」
数多ある事業所の末端社員の名前など、いくら社長といえでも覚えていないだろう。だが、この社長とは縁があった。
「今は休暇中のプライベートでしょ? そんな呼び方しないで下さいよ、先輩!」
実は高校の時にしていたバイトで当時大学生であった翔と知り合っている、年齢は向こうの方が上だが仕事を教えてあげた仲であり、翔は俺の事は先輩と呼ぶ。バイトが終わってから遊んだりもよくしていた。
俺は大学には行くつもりは無かったので、翔の勧めでスターシティー系列の事業所に就職活動を行い、無事内定をもらえた。
期待と不安を胸に抱いた社会人初日に、同じ気持ちの新入社員一同集まったのだが、そこで初めて翔が社長の息子だと知り、当時、腰を抜かした。
有名企業の名字と一緒だとは思っていたが、日本には同じ名字の人はたくさんいる。本人も一切そんな事言わなかったし、超一流企業の社長の息子がバイトをするなんて考えもしなかった。
「十年間大変だったでしょ? でも先輩ならきっとやり切ると思ってましたよ!」
……実際、高校卒業程度の学歴でこの系列会社に入る事はほぼ不可能である。だが、翔の強い押しに負けてダメ元で応募したところ、すんなり入れた。違和感しか無かったが、入社式の時、おそらく翔の口コミがあったと気付いた。
だからこそ俺は周りに負けないように努力した。翔の顔に泥を塗らない為にも……海外での業務も二つ返事で了解したのもそれが主な理由だ。
「しゃ、社長。私は休暇中ですが、社長の方は業務中なので、流石にそう言った呼び方をする訳には……」
「む? ひすいではないか! 久しぶりじゃのう!」
……え?
ひすいと呼ばれた社長秘書、年齢はときめと同じく二十歳ぐらいに見えるが、しっかりとしている印象を受ける。
だが、非常に愛らしい顔立ちをしているので圧迫感などは感じない。細眼鏡もかけてはいるが、愛嬌の方が全面に出過ぎてキャリアウーマン感は皆無だ。
「ひすいを知ってる……? 先輩、今、時間あります? ちょっと人の居ない所で話をしたいのですが」
「……私からもお願いしたいです」
「うわあ~、久しぶり~! どうしたの? 妹さんは元気~?」
「うむ、相変わらず騒がしいが元気じゃ」
ああ、なんか神様の知り合いが増える予感……。社長とばったり会うのもミラクルだけど、神様にショッピングモールで会うって……もはや天文学的な数字じゃなだろうか。




