1話 お姉さんにキレられる
「十年も待たせおって、一体どう言う事なのじゃ!?」
小さい頃から慣れ親しんでいた神社で、参拝を済ませた後、すぐ近くの喫茶店で珈琲を飲んでいた所、不意に若い女性に怒鳴られた。
その言葉と表情は怒気を通り越し、憤怒の領域と言っていい。
突っ込み所は多々あるんだけど、まずその口調。『のじゃ』って……あと、やたら年寄り染みた喋り方ですね……見た目はとても若々しいのに。
あと、その服は寒くない? 個人的には目の保養になって嬉しい限りだけど。
こちらを睨みつけている女性は、まだ寒さの残る三月の下旬にも関わらず、おへそが丸見えのインナーの上からシースルーのトップスを着ている。完全に服装の季節が違う。
しかし華奢な体つきなのにお胸が相当大きく、谷間がこれでもかと強調され、今にもこぼれ落ちそう。あれは小玉のメロンサイズは十分にあるな……。
「何を呆けておるのじゃ! 質問に答えるのじゃ!」
その綺麗な女性は怒り心頭の様子で、テーブルに手を付け、顔を迫らせて来た。とても綺麗な黒く長い髪と大きな瞳だ。
それと、もふもふのきつね色をしたケモミミが……ケモミミ!?
「み、み、耳!? ケモミミ!?」
「む、我とした事が……よし」
ケモミミが無くなった……えっと、疲れてるのかな、そうだ、そうに違い無い。昨日、日本に帰って来たばかりだしな……ははっ。
「あ、あの。人違いと思うんですけど?」
「間違えてなどおらぬ! 秋元潤、十八歳、いや、もう二十八歳じゃったな、神社の裏に住んでおったじゃろう!」
あ、あれ……本名に年齢、住んでた所まで。
このお姉さんは二十歳ぐらいに見える……仮に今までの話が本当なら、十歳前後の幼女と仲良くなっていないと成立しない話になる。
俺にそんな記憶は無いし、幼女趣味の性癖も無いよ?
「確かに俺は秋元で間違いは無いですけど……」
はっ! い、いかん! 周りのお客さんの目がこちらに一点集中してる!?
「と、とりあえず座って下さい!」
完全に俺が悪者という目で見られてるし……俺、何も悪くないのに……。
「説明するのじゃ! 十年間、何の音沙汰も無いと思っていたら、急に声をかけて来おってからに! こっちは取る物も取らずに飛び出して来たのじゃぞ!」
いや、だから記憶に無いんですって……。今日は誰とも喋ってませんから。マスターに珈琲を頼んだ時以外は。
「す、すみません……と、とりあえず珈琲でも飲んで落ち着いて下さい」
先程、お姉さんの分も追加で注文し、テーブルには、ほのかに湯気の上がる珈琲がつい先程運ばれて来ている。
珈琲豆の焙煎された、何とも言えない独特の香りが漂う、俺は珈琲通なのだ。まあ、かといってインスタントが嫌いな訳じゃない。それはそれ、これはこれである。
それに何か訳有りのようだし、美女に珈琲の一つぐらい奢るのにそう躊躇する事も無い。
目の保養の代金にしては安いぐらいだ。しかしほんとセクシーだな……。
とりあえず、俺も一度、心を落ちつけたい……はあ、この苦味がなんとも――。
「ぶは!?」
「熱っう!!」
いきなりお姉さんの口から珈琲が噴き出されて俺の顔に!! ひ、酷い……。
「に、苦いのじゃあ……なんなのじゃ、これは……」
珈琲、飲めないタイプなんですね……とりあえずお手拭きを。しかしとっても苦しんでいるようだし、ミックスジュースでも頼み直してあげるか……。
「甘いのじゃ~!」
うん、このお姉さんは甘党のようだ。ところでさっきから全然、話が進まない……えっと、十年間待たせてたんだっけ? そしてなんか声をかけたんだよな、ナンパした覚えは一切無いのだが。
「あ、あの。俺はなんて声をかけたのです?」
あ、さっきまでの幸せそうな目が一気に険しくなっちゃった……そ、そんなに怒らないでよ……。
「何を言ってるのじゃ! 『お久しぶりです、神様。無理していませんでしたか? 俺のお願いはいつもと同じです。神様の好きな事をして下さい』と言ったではないか!」
はい? た、確かに言いましたけどね、心の中で神様に……。え、嘘でしょ?
「あ、あの、変な奴と思わないで下さいね。……神様……ですか?」
「そうじゃ! 何を今更言っておるのじゃ!」
おうふ……嘘を付いてる目には見え無いし、俺の事や周囲の事情まで知ってる……もしかして本物かも……。
「お主が小さい時からいつもその願いではないか! まったく!」
はい、もう本物確定! 子供の頃のお願いまで知ってるし! 俺は自分の願いを人に言った事は一度も無い、親でさえも。
でも神様ってそんなセクシーな服を着たりしてていいの? すっけすけだよ?
「じゃから我はお主の願い通り、我の願いを叶える為にずっと待っておったのじゃ! そ、その、今風に言うと、か、彼女にしてもらう為にじゃな……よ、嫁でもいいのじゃが、ま、まずは順序が大切なのじゃ……」
えっと、神様? なんか、とんでも発言してない? しかも今風って。
「ど、どうなのじゃ!? 我を嫁にする前提の彼女にするのか!?」
そんな大きな声で! ほ、ほら他のお客さん全員が見てるし! でも俺の願い事だし、答えないと……きつねに摘ままれたようだ……。
「ふ、不束者ですが、宜しくお願いします……」
喫茶店内に居るお客さんとマスターから拍手が送られた……何、この新種の公開処刑?
「わ、我の願いが叶ったのじゃ! これからはずっと一緒なのじゃ~!」
満面の笑みでミックスジュースを飲んでる……なんか、十年振りに日本に帰って来たら、流れに任せて神様の彼女が出来ちゃったんだけど……。
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