第壱拾九話 静寂の夜に
それからすぐ、7人は真っ白の壁で覆われただだっ広い部屋へと連れてこられた。
「すいませんが、一応念のためここから出ないようにお願いします。」
ユウはそう言うだけ言うと入り口の鍵をかけ、立ち去った。
皆、入り口の辺りに固まっていたが鶯劍がドカリとソファーに座りこむとそれぞれ思い思いのところへ移動した。
龍牙は座る気にもなれず、右手にあった大きな窓の脇にもたれかかった。
それを通して外を見てみると、この船はいつの間にか離陸していた。
全く振動がなかったことに感心しながらも龍牙はある不安にかられていた。
(龍影様は大丈夫だよな・・・。サヴァリスさんが解除したって言っていたけど、もし治っていなかったら、どうすれば・・・)
「なにを考えているんだ?」
龍牙は突然話しかけられたことに驚いて振り返った。
そこにいたのはさっきまでソファーを1つ思いっきり占領していた鶯劍だった。
「なんだ?俺の顔になにかついているか?」
「いえ・・・」
鶯劍の顔を凝視していたことに気づいた龍牙はさっと視線を外した。
「?何を考えていたんだ?」
「その・・・」
「攫犀のことか?」
龍牙は小さく頷いた。
「やっぱり不安になるか。」
鶯劍は窓の外に目を向けたまま続ける。
「確かにそれは仕方がないとは思う。だがな、今の俺達にできることはここまでだ。今はな・・・」
「どういう意味ですか?」
「なに、行けば分かる。」
「?」
鶯劍はそう言い残すとさっきまで座っていたソファーに寝転がり、いびきを書き始めた。
それから数時間が経ち、窓の外が暗闇に包まれ始めたころ、龍牙は窓の脇にうずくまるようにして寝ていた。
龍牙だけではない。部屋のいたるところで、皆、それぞれの体勢で眠りについていた。
その部屋だけではない、艦内でも静寂に包まれていた。
それもそのはず、深夜を回った今、必要最低限の船員を残し、全員が眠りついていたからだ。
声がするのはその少ない船員がいる操縦室だけだった。
???艦 操縦室
「状況はどうだ?」
5人の操縦士が機体を操るその一段上にあるイスに座っていた艦長が口を開いた。
「はっ。感度良好、左翼、右翼ともに問題なし。」
「機関部にも問題はありません。」
「そうか。分かった。」
「艦長、そろそろお休みになられた方が。」
「いや、いい。」
副艦長を勤めている青年の言葉に首を振っていると艦長は左手の雲におかしな影があるのに気がついた。
「10時の方向におかしな影がある!!調べろ!!」
「はっ!!」
艦長の一段下の左右に座る2人は返事をしながら目の前のパネルの操作を始めた。
「10時の方向、未確認中型飛空挺を確認!!その数、5隻!!」
「この規模、この紋章は、『トルマリン空賊団』です!!」
「なんだと!?こんな時に。」
艦長は脇にあるボタンを押すと、すぐよこにあった伝声管に手を伸ばした。
「乗組員全員に継ぐ!!
たった今、10時の方向に5隻、空賊の飛空挺を確認した!!全員、戦闘準備を整え、持ち場につけ!!
繰り返す、たった今、10時の方向に5隻、空賊の飛空挺を確認した!!全員、戦闘準備を整え、持ち場につけ!!
絶対にこの『ヘイムダル』を落とさせるな!!」
艦長のこの言葉で『ヘイムダル』の静寂は破られた。