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第壱拾壱話 巨斧と幻惑

「行こうか。」

「ええ。」

サヴァリスは龍牙を背負い、ロッソと共に部屋を出た。

長い緊急用の階段を降りながらサヴァリスはあることを思いだした。

「そういえばロッソ、なんで彼はあの広間から動かないなんて言ったんだい?」

「ああ、それはあのソファーが採掘場への入り口だからよ。あそこから裏の岩山の中につながってるの。」

「そうか。」

そう呟きサヴァリスは黙り込み、階段を駆け下りた。






その裏の岩山では2つの影が動いていた。

「ケホッ、先生、大丈夫?」

「ああ。」

それは爆発に巻き込まれたはずの鶯劍と麗那だった。

「あれ?もう夜が明けてる。もしかして私寝てた!?」

「ああ、爆睡だ。」

「うそぉっ!!じゃあ中はどうなったの?」

「ケイミーからはサリア嬢を救出したと連絡があった。

龍牙は・・・分からない。」

「どういうこと?」

「敵のだろう大きな力を龍牙が打ち消したのまでは見えたが、その後は全くだ。」

「じゃあ早く助けに・・・」

「ダメだ」

飛び出そうとする麗那を鶯劍は手で制した。

「俺達が今すべきなのは退路の確保。

これを失ったら今迫ってきているジャッジメント共の餌食になるぞ。」

「なんで分かるの?」

「感じないか?

この荒々しい魔力と研ぎ澄まされた針のような冥力。

両方とも覚えがある。」

「じゃあ早く逃げないと!!」

「ああ、だからこそここを失う訳にはいかない。」

「うん・・・。」

「あいつらを信じてやれ。」

「・・・、はい。」

少ししょんぼりした麗那に笑みをこぼしながらぎごちなく鶯劍はその頭を撫でた。





「!!この感じは!!」

「どうしたの?」

突然立ち止まったサヴァリスにロッソは怪訝な顔を向ける。

「マズい。ジャッジメントの誰かが近づいてくる。」

「そんな!?」

「後、10分ないみたいだ。急ごう。」

「うっ。」

背負われた龍牙の目が微かに開く。

「龍牙、起きたのかい?」

「う、ん?」

頭を何度か振り意識を覚醒させた龍牙はゆっくりと周りを見渡した。

「ここは?」

「緊急用の階段だよ。今、一階に向かってる途中だ。」

「そうですか。あの、降ろしてもらっていいですか?」

「ん?ああ、はい。」

屈んだサヴァリスの背から素早く降りた龍牙はもう一度辺りを見渡した。

「今、何階ですか?」

「2階だよ。どうかしたのかい?」

「地下に行きましょう。その先に仲間が待っているんで。」

「そうか。ならそこへ向かうとしよう。とはいっても目的地は変わらないけどね。」

「はあ。」

「ふふっ。」

3人は広間に向けてまた駆け出した。







ユーラス公国 エステル西端


平穏で雪の降り積もる街の中、屋根伝いに大きな影が通り過ぎた。

「なんでこの俺がこんな所まで来なきゃいけないんだよ!!」

「・・・」

巨漢の男、ジャッジメント第四位のグレイスはその体重と筋力で屋上にひびを入れながら呟いた。

その横にはそれに全く取り合わないジャッジメント第九位の雅壱(がいつ)がいた。

そんな雅壱に向かってグレイスは初めて口を開いた。

「なあ、雅壱だっけか?お前、なんでジャッジメントというより帝国に入ったんだ?」

前置きもなく本題にいきなり入るあたりグレイスの性格をよく表していた。

「・・・」

その質問に対して雅壱はただ俯く角度を変えるだけで答えなかった。いや答えられなかった。

それは、雅壱及び彼の兄弟の目的が、

「俺を殺すためだろ?」

「!?」

雅壱は不覚にもその言葉でバッと顔をあげグレイスを見てしまった。

「やっぱりそうか。」

心の中で舌打ちしながらも雅壱は口を開いた。

「いつお気づきに?」

「ふん、お前の目を見てすぐに分かった。あの部屋に入った時お前は真っ先に俺を見た、普通は真っ正面にいる将軍に目がいくはずなのにな。

何より、もう少し殺気を抑えろ。バレバレだ。

多分あそこにいる奴ら皇帝を除いて全員気づいてるぞ。」

「そう、か。」

そんな初歩的なミスをした自分への怒りに雅壱は唇を噛み締めた。

「で、どうするんだ?俺と殺り合うのか?」

「なんでそれを知りながら放置を?」

「お前の顔が昔、俺の戦闘に巻き込まれて死んだやつにそっくりだったから、だろうな。」

「えっ?」

「昔、西の国の戦争に参加した時、敵が弾き返した俺の攻撃が近くにあった木に当たって下にいた夫婦が死んだんだ。」

同じテンポで跳び続ける、グレイスの顔に暗い何かがよぎった。

「今でもはっきりと覚えている、夢で時々見るほどにな。

そういえばその横に子供が4人いたな。赤ん坊いたはずだ。」

「それが・・・俺達です。」

「やっぱり、な。あの部屋でお前を見た時、運命を感じた。そっくりだったからな、おれの親友に。」

「えっ!?」

雅壱は驚きのあまり立ち止まった。

その横にまたグレイスが並ぶ。

「この話は今度詳しくしてやるよ。

まずは仕事だ。」

2人はすでにエステル城の前にいた。

「多分あのバカがいるはずだ。」

「えっ?バカって?」

そう呟く雅壱を無視して、その巨大な拳を扉に叩きつけた。






???


「うわっ!?」

「きゃっ!?」

龍牙とロッソは突然の揺れに軽く悲鳴を上げた。

「来たか、グレイス。」

パラパラと土が降ってくるのを見上げながらサヴァリスは呟き、また歩き出した。






一階 広間


「ん?誰もいないな。」

「いませんね。」

グレイスと雅壱の2人は壁に開いた大きな穴をくぐり、城内へと踏み込んだ。

「ん?」

辺りを見回していたグレイスはその部屋にある違和感に気づいた。

「おい、ここおかしくないか?」

「どこがですか?ああ、確かに。」

グレイスが指指したのはブラストが座っていたあの向かい合わせに置かれたソファーだった。

周りは爆発などで抉れたりしているのにその周辺だけ無傷だったのだ。

「ここだな。」

グレイスは右手のソファーに手をかけ、一気に持ち上げた。

『ピー、ガガガ。ユーザートハチガウシモンガケンシュツサレマシタ。』

すると、それから合成音が響いた。

『ヨッテジバクモードニイコウシマス。バクハツマデ、アト、5、4、3、・・・』

「あっ、ヤバいな。」

「そうですね~。じゃなくて、逃げますよ!!」

雅壱はグレイスの腕を引き、外へ飛び出した。

『・・・、1、0』


一瞬辺りから音が消え、次の瞬間には大爆発が起こった。








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