第八話 恐怖の消滅
広間ではまだ龍牙達3人が戦っていた。
「しぶとい。」
サヴァリスがそう呟くのも無理はない。
敵であるスレイターは既に体中を龍牙やロッソに切り刻まれているにも関わらず、傷つけられた側から治癒しているのだ。
「ここはやはり『コア』を破壊するしかないかな。」
「そうね。」
サヴァリスの言葉にロッソが頷く。
「それにさっきから妙に大きくなってない?」
「俺もそう思います。」
2人の横に龍牙はひらりと着地した。
確かにスレイターの体の大きさは最初の裕に2倍はあった。
「そろそろ中の『コア』が暴走するかもしれない。早めに壊すとしようか。」
サヴァリスはそう言いながら背中に差していた巨大な木でできた杖を取り出し、床に立てた。
すると、その先端についている赤い石が輝きだした。
「『摩天楼』」
その言葉と共にスレイターの足下と頭上に巨大な魔法陣が描き出される。
そしてそれが光ったかと思うと、その魔法陣から大量の光が噴き出した。
「ぐあぁぁぁぁ!!」
それをまともに受けたスレイターは頭を抱え、片膝をついた。
「龍牙、今だ!!」
龍牙は双劃に冥力を注ぎ込み、口を開いた。
「『聖者の十字架』」
無数の細い鋼糸と化した双劃は、光の中、身じろぎ1つできないスレイターを宙に縛り付けた。
白銀の十字架に架けられたスレイターはピクリとも動けなかい。
「はあ!!」
スレイターの方へ跳んだロッソはスレイターの胸の辺りへと手を伸ばした。
その刹那、目の前のスレイターの胸に大きな穴が開くのを見ながら、ロッソは吹き飛ばされた。
「うっ!!」
受け身も取れず、ロッソはそのまま背中から床へ落ちた。
「ロッソ!!」
床に当たる直前にサヴァリスが受け止めたため、ロッソに衝撃はこなかった。
だが、痛むこめかみに手を当てると軽く肉をもがれているのに気づいた。
後少しでも早く近づいていたら、と思うロッソの体は小刻み震えていた。
(死の覚悟はできていると思っていたけど、やっぱりまだまだか。)
「ちっ。はずしたか。」
今度は壊れた壁の方から声がした。
「誰だ!!」
そこから現れたのは一階でサヴァリスが戦ったあの男だった。
「無様だな、スレイター。」
「『爆破』・・・!!!てめぇ、なにしやがる!?」
一部の鋼糸が千切られたことで、スレイターは十字架から逃れ、ブラストと呼ぶ男の前に立っていた。
「まだ死んでいなかったのか。相変わらず頑丈だな。」
「なんだと!?」
掴みかかろうと手を伸ばした瞬間、男のあの魔道銃が火を吹き、スレイターの腕を吹き飛ばした。
「失せろ、クズが。」
「くそがぁっ!!」
大砲のような爆発音と共に迫るスレイターの頭は吹き飛ばされ、遅れて噴水のように血を首から噴き出しながら巨体が倒れた。
その背にブラストは手を当てるとあの黒い珠を取り出し、
「あぁむ。」
食べた。
「ふむ。まあまあだな。」
「・・・ないのか?」
「ん?」
ブラストは俯いてぶつぶつ呟く龍牙に目を向けた。
「仲間じゃないのか?」
「ああ、こいつか?」
ブラストは首なしの死体を足でつつき、顔に笑みを浮かべた。
「ただ同じ部隊に所属していただけだ。全く、こんな雑魚と同じ扱いとはな。ふん、虫ずが走る。」
つついていた足で死体を蹴り飛ばし、龍牙に向き直った。
「弱いやつはそれだけで罪だ。そうは思わないか?」
「なんだと!?」
龍牙は怒りが沸いてくるのを感じながらもなんとかそれを抑えた。
「強いやつは弱いやつを守らなくてはならない。 兵士は民を守るためにある。
よく俺たちが言われる言葉だ。
だがな、弱いやつが目の前で死んだのをなぜ助けなかった?そんなの俺のせいではない。そいつが弱いからだろ。」
先のスレイターとの戦いで天井に開いた穴を見上げ、その間に見える月に手を伸ばし、握り込んだ。
「だから俺は気に入らないんだよ。弱いくせに粋がって自分は最強だと口にするやつがな。」
握り込んだ拳を見つめながらブラストは続ける。
「弱いやつはそれだけで罪だ。
こいつもまた弱かった。だから殺した。ただそれだけだ。」
「お前!!」
龍牙は堪えきれず、ブラストに殴りかかった。
しかしその拳は容易く防がれた。
「お前たちもまた罪人か?」