第七話 恐怖との戦い
扉から現れたサヴァリスに龍牙は驚きの色を隠せなかった。
「なんでこんなところに!?」
「妹を助けに来たに決まってるじゃないか。」
「だけど帝国にバレたら・・・」
「大丈夫。もうすでにお払い箱にされたから。」
「っ!?なんだって!?」
しかし、2人の会話はそこで途切れた。
「てめぇら、何、俺のことを無視してるんだ?」
スレイターがサヴァリスへと背から生えた黒いヘビを伸ばした。
だが、それはサヴァリスに触れる前に赤い閃光によって切り刻まれた。
「ぐっ。」
それを見てスレイターはうめき声を上げた。
一方、それを行ったロッソは呆れ顔でサヴァリスを見た。
「話は後。先に片づけるわよ。」
「あんたは?」
「それも後。時間がないんだから。それよりサリアさんは?」
「あ、ああ。ケイミーさんが・・・」
「ケイミーがいるのか!?」
「あ、ああ。」
龍牙の言葉にサヴァリスはハッとして龍牙に詰め寄った。
「なぜ彼女がいる?」
「彼女の意志ですよ。」
「僕は頼んだはずだ!!彼女をこの戦いから遠ざけるようにと。」
「それは・・・」
そんな2人に割り込むようにで木が裂ける音がした。
「そんなことは後でいいのよ!!さっさとやるわよ!!」
ロッソは手に持つ赤い鞭を両手で引っ張り痛そうな音を立てた。
龍牙もサヴァリスもそれに呆気にとられながらもそれぞれの武器を構えた。
「後でじっくりと話そうか。」
「俺もそれでいいですよ。」
2人は軽く言葉を交わすと、龍牙は駆け出し、サヴァリスは詠唱を始めた。ロッソもまた龍牙に続き走り出した。
龍牙はなんのためらいもなく一直線にスレイターへと駆ける。
スレイターはそれを背中から生えているヘビのうち半分を使い、龍牙の進行方向を塞いだ。
しかし、龍牙は速度を緩めず、逆に加速し、まだ広がりきっていない黒い束の先端を切り落とした。
「くそ、ガァ!!!!!」
龍牙はまたその大声にバランスを崩しそうになるが、2度目だったためかなんとか踏ん張った。
だが、ロッソとサヴァリスはそうはいかない。
2人とも突然の大声にバランスを崩し、サヴァリスは膝をつき、ロッソは走った勢いのまま転倒してしまった。
そんな絶好のチャンスを見逃す訳もなく、スレイターは飛び退き、またあの影を2人の足下に伸ばした。
それをみたサヴァリスは龍牙に向かって叫んだ。
「龍牙!!あいつをあの場所から移動させろ!!」
「え!?」
「いいから早く!!」
「分かった。」
龍牙はすぐさま飛びかかり、スレイターの側頭をえぐるようにして右足を繰り出した。
だがそれは残っていたもう半分の黒い翼に防がれてしまう。
しかし、まだ龍牙の攻撃は続く。
止められた足を軸にして腰の回転を使い、スレイターの左目を縦に切り裂いた。
「ぐぅっ!!」
呻きを聞きながら龍牙は体をひねり、一度着地する。
そして、体勢を落としたままスレイターの足目掛けて横に凪いだ。
「っ!?くそっ!!」
遠近感を一時的に失ったスレイターは大きく後ろへと飛び退いた。
それに吊られるようにまたあの影もまた移動していた、
龍牙の足下に。
それに気づいたサヴァリスは叫んだ。
「龍牙!!よけるんだ!!」
その叫びの前に龍牙は動いていたが、分かっていた。一体ならまだしも二体もいるのであれば逃げるのは不可能だと。
「跳びなさい!!」
だが、そんな龍牙の耳に1人の言葉が聞こえた。
なぜだか知らないが龍牙の体はそれに従っていた。
「喰らえ!!」
刹那、龍牙は脇腹に鈍い痛みと共にかろうじてその攻撃を避けきっていた。
「痛っ。」
龍牙は床に転がったまま脇腹を軽く押さえるとあることに気づいた。
あの影に喰われたのだから龍牙は脇腹から流血していると思っていた。
だが、そこにはただ赤いミミズ腫れしかなかった。
「油断しすぎよ。」
そんな龍牙の前に左手に鞭を持ったロッソが右手を差し出した。
「すいません。」
龍牙もその手を掴み立ち上がった。
「さっきのは助かりました。えっと・・・」
「ロッソよ。今は時間があるから答えてあげる。」
「どういう意味ですか?」
「あいつが遠近感を失った今なら殆ど遠距離攻撃を出せないからよ。」
「なるほど。相手の位置を認識ができないのなら攻撃の座標も指定できない。『仮想現実』系によくある弱点ですね。」
「そういうこと。じゃあさっさとやるわよ。時間もなくなってきたし。」
「了解です。」
龍牙はそれに相づちをうち、2人はそれを合図に二手に分かれて走り出した。
「あなたがサリアさんよね?」
何度目かのケイミーの質問に少女、サリアは頷いた。
「ふぅ。なら早くここをでましょ。ついてきて。」
「なんで」
ケイミーは踏み出した足を戻し、サリアへと振り返った。
「なんでって、あなたはここからでたくないの?」
「私には、家族が・・・いない。」
「いないってサヴァリス様は?」
「兄は、戻ってこない。私は捨てられた。だから、私はいつも1人・・・」
「そんなことはない!!」
サリアは突然のケイミーの大声に目を見開いた。
「あの人は自分じゃ助けにいけないから私たちに頼んできたの。自分が殺されるかもしれないのに。」
「・・・」
「自分の命を省みずに妹を助けようと思っている人があなたを見捨てる?ふざけるな!!あの人が今まであなたの身を案じるからこそ助けに来られなかったのよ!!」
ふぅ、と息を吐きケイミーは口調を和らげ続けた。
「だから、一緒にお兄さんのところに行かない?」
サリアはコクリと頷くとケイミーの差し出した手をしっかりと握った。
ケイミーもそれを満足げに見ると走り出した。