第五話 侵入4
「あっ、先生。」
岩陰に身を潜めていた麗那は鶯劍が近づいてくるのを確認し、手を振った。
それに気づき鶯劍は駆け寄る。
「ケイミー達は入れたか?」
「うん。2分ぐらい前に。」
「そうか。なら俺達も準備にかかるぞ。」
「うん。」
そう言って歩き出す鶯劍とそれについていく麗那。
だが、その背後で突然何かが爆発し、それは一瞬のうちに2人を呑み込んだ。
「ん?外も騒がしいな。まあ、構わないが。」
先ほどサヴァリスと戦っていた男は視線をソファへと向け、懐からあの魔道銃を取り出した。
「どうせこいつで一網打尽だからな。」
爆発でさらに広くなった広間に、ただ男の笑い声だけが響いた。
「はあ!!」
短剣へと形を変えた『剛石』と羽根の形をしたあの短刀を振るい、敵をなぎ倒しながらケイミーは廊下へと飛び出した。
敵は先に突撃していた龍牙の方へ向かったらしく、廊下には誰一人いなかった。
「よし。」
ケイミーはできるだけ足音をたてないよう注意しながら廊下を駆け抜けた。
龍牙はケイミーよりも早く、彼女とは反対側の窓から建物の中へと侵入していた。
今は、5階の中で一番広い部屋の真ん中に立っているのだが、その表情は浮かばれなかった。
「引きつけろとは言われたけど。」
げっそりとしながら目の前にいるモノに対してため息をつく。
「多すぎじゃないか?」
目の前にはいたのはこの階を警備していた兵士達だった。
その数はおおよそ30。
さらにその手に持つ武器から容易に全員、魔道士であることが分かる。
普通に考えれば1人では絶対に勝てない数だ。
「貴様!!何者だ!!」
ぶつぶつ呟く龍牙に集団の先頭に立っていた兵士が怒鳴った。恐らく隊長なのだろう。
「答えぬか。なら、その体に聞くまでだ!!かかれ!!」
隊長を含め10人ぐらいを残し兵士達が龍牙へと突っ込む。
それに龍牙はまたため息を1つ零す。
刹那、先頭を走る5人が斬り伏せられた。
そのすぐ後ろには『双劃』と『雷鮫』を握る龍牙がいた。
「「「!?」」」
兵士達は突然のことに驚き、動きを止めてしまう。
そんな隙を龍牙が見逃すはずもなく、剣閃を煌めかせ、次々と血しぶきが兵士の間から上がる。
ものの一分で龍牙へと突撃していった兵士達は全員地へ伏していた。
だが流石は訓練された兵士、そこへなんのためらいもなく無数の炎弾や雷弾が襲った。
龍牙はその決断力に感心しながらも、それを2本の刀で弾き返していく。
「かかったな!!」
「!?」
龍牙は弾き返したはずの攻撃が軌道を変え、四方八方から迫ってくるのを見た。
そして龍牙は無数の炎で包まれた。
「トドメだ!!」
そこへ特大の炎弾が隊長によって撃ち込まれた。
「ここか。」
派手な爆発音を耳にしながら、ケイミーは目的の部屋のドアの前に立った。
ドアノブに手をかけ、ゆっくりとドアを開いた。隙間から目を覗かせ敵がいないのを確認すると、素早く中に入り、なるべく音がしないようにドアを閉めた。
中は他の部屋と変わらず天幕のついたベッドに少し小さめの机と椅子、壁には何百という数の本が並ぶ棚が備え付けられていた。 そんな中、この部屋の唯一の特徴である大きな窓、その前にある椅子に少女が座っていた。
ケイミーが近づくと月を覆っていた雲が晴れ、少女の容姿がはっきりと目に映った。
綺麗に整った顔、まだ成長仕切っていないその体には薄い水色を基調としたドレス。
そして一番目をひくのは窓から吹き込む風になびく腰ほどまである銀に近い薄い金色の髪だった。
「あなたがサリアさん?」
少女の座る椅子の少し前で立ち止まりケイミーは尋ねた。
それに少女は答えるどころか顔すら向けない。
いつまで経っても返答がないことに痺れを切らし、ケイミーは口を開いた。
「ねえ・・・」
「風が、」
「えっ?」
「風が変わった。」
そういいながら少女はケイミーへと顔を向けた。
初めて正面から少女の顔を見たケイミーはどこか人形にでも話しかけているような感覚を覚えた。
「この風・・・懐かしい。」
「『スランブル』」
もう何度目か分からない呪文をサヴァリスは唱える。
それでまた警備兵が1人、眠りに落ちた。
「本当にその魔法は便利ね。」
ロッソは赤髪を掻き揚げながら声をかけた。
「しかも数分前の記憶を忘却できる追加効果つきだしね。」
サヴァリスが眠らせた警備兵をつま先で軽く小突く。
「それよりも早く上へ。」
サヴァリスはロッソに取り合わず階段の方へと進み始めた。
「ちょ、ちょっと。」
ロッソも慌ててそれを追いかけた。