第四話 侵入3
「っ!?」
突然の爆発音と凄まじい揺れに龍牙は倒れそうになる体を屈めた。
今、龍牙がいるのはエステル城の屋根の上だった。
龍牙は作戦確認の後、すぐさま例の岩へと移動し、建物の中ではなく、上へと飛び移っていた。
「この揺れ、何かあったみたいですね。ケイミーさん。」
「そうね。」
龍牙の後ろで同じく身を屈めていたケイミーが立ち上がり、膝についたほこりを払った。
『聞こえるか?』
「あっ、先生。」
そこへ2人の頭の中に鶯劍の声が響いた。
「さっきの爆発はいったい」
『一階で一騒動あったみたいだ。時間がない龍牙とケイミーは今から30秒後に突入しろ。』
「先生はどうするんですか?騒動があったなら1階からの侵入は無理なんじゃ・・・」
『俺は麗那と合流してから行動に移る。いいな?麗那』
『了解』
『龍牙もケイミーに続け。できるだけ敵を引きつけろ。』
「了解」
そこで通信は途切れた。
エステル城3階踊場
所々、先ほどの爆発で吹き飛んでいる廊下で、サヴァリスはボロボロになった身体を引きずるようにして歩いていた。
(左腕がイッたか。)
壁にもたれかかりながら視線を落とすと、そこにはあらぬ方向に曲がった左腕があった。
血が止めどなく流れる左腕から視線を外し、辺りを見回す。
(あれがいいな。)
ふらつく足でサヴァリスは数歩進むと屈んで折れた木の棒を手に取った。
(これで、なんとか・・・)
サヴァリスはまた移動を始め、目にとまったドアの1つに手をかけた。
ギィィィ
ゆっくりと慎重にドアを開けながら中の様子をうかがう。
(誰もいない、か)
そこは客室なのかベッドや机などの一般的な家具(椅子や本棚は倒れていたが)が置かれていた。
一先ず、サヴァリスは近くにあった布地を細く裂き、それをさっき拾った木の棒と共に左腕に何重にも巻きつけた。
「ぐっ。」
そのあまりの痛みに顔をしかめるが、なんとか歯を食いしばってこらえる。
座りこみ、壁に体を預け、荒れた息を整えながらサヴァリスは思考を巡らした。
(応急処置は終わった。だけど、これは使い物にならないね。)
軽く指先を動かそうとすると、先ほどの激痛がまた襲ってくる。
「つぅっ。」
歯を食いしばりまた耐える。
少し痛みがひいたところでまた思考を始めた。
(やっぱり問題は、あの男が持っていた石、か。)
サヴァリスは目を瞑り、先の一瞬を思い出した。
(抜きざまのそれも一発だけであの威力。やはりあれは、)
「『紅玉』」
「!?」
突然の呼びかけにサヴァリスは飛び上がりその声のする方へと目を向けた。
月を覆っていた雲の隙間から差し込んだ光が照らしたのは、スーツをピシッと着こなしたショートヘアーの赤髪の女だった。
「お初にお目にかかるわ、夢幻のサヴァリス。」
「誰だい、君は?『アサシン』の1人みたいだけど。」
「ご名答。私の名前はロッソ。よろしく。」
ロッソと名乗る彼女は笑みを浮かべた。
「目的は、僕の暗殺、かな?」
サヴァリスは手首に巻いたブレスレットを握り込む。
だがその言葉にロッソは笑顔のまま首を横に振った。
「いえ、それは違うわ。」
「じゃあなんの用だい?」
「あなた及びあなたの妹さんの保護」
「!?」
サヴァリスはその意外な言葉に驚きの色を隠せなかった。
「それがリーダーの意志。」
「陰穿が。」
「ええ。リーダーは帝国があなたへどのようなことを強要してきたか知っているわ。」
「・・・だからといって裏切り行為と言われてもおかしくないことを、なんで。」
サヴァリスは俯き呟く。
「彼もまたあなたと同じだから。」
ロッソは顔を上げたサヴァリスと視線を合わせ続けた。
「リーダーの場合は私たちの命なんだけどね。
そんなことよりも早く妹さんを助けに行くわよ。」
「そうだね。あの男はどこにいるんだい?」
「動いてないわ。」
「なんでまた。」
「あそこに大切なモノがあるから。」
ロッソはサヴァリスに小さな小瓶を投げ渡すと窓を開け、ベランダへと出た。
サヴァリスもそれが『回復薬』だと気づきすぐにそれを飲みほした。
それにロッソはベランダから笑みを浮かべた。
「私たちを信用してくれるのね?」
「それしか今、妹を救う手がないからね。」
サヴァリスもまたそう言いながらベランダへ出た。
すると、そこには一本のロープがぶら下がっている。
どうやらそのロープは1つ上のベランダに巻きつけてあるようだ。
2人は何も言わずロープにしがみつき上の階へと登っていった。