第二話 侵入1
更新が遅れました。すいません。
ヴェスペリアに存る4つの大陸には、それぞれ大陸を横切るように標高800メートル以上の山脈が、北と南では西の端から東の端まで、西と東では北から南へと伸びている。
今では鉱山ぐらいにしか見られていないが、一世代程前まではその山々を『砦』の一部として使っていた。
今でもそのような建造物は残っており、未だその役割を全うしている場所がある。
4人が向かっているエステル城もまたその1つだった。
「そろそろだな。」
日も沈み、辺りは暗闇に包まれ始めたところで鶯劍は呟いた。
4人は今、フォート山脈の中腹からエステル城を見下ろせる位置にいた。
「最終確認だ。」
鶯劍は懐から小型端末を取り出し、4人の中心に置いた。
すると、そこからは飛空挺内で龍牙が見た、エステル城内の設計図が表示された。
だが前回と違い、今回のは城内だけでなく周りの地形までもが立体的に表示されていた。
「今俺たちがいるのがここ。」
鶯劍は手に持っているペン型の端末で地図に印をつけた。
「で、おそらく目標がいるのはここだ。」
ペン型端末を操作し、エステル城最上階の間取り図を呼び出し、ある部屋に印をつけた。
「なんで、そう言えるの?
こっちの大きい方の部屋を普通は選ぶんじゃないの?」
「いや、麗那。俺も先生と同意見だ。」
「なんで?」
全く意味が分からないという表情を浮かべる麗那に龍牙は図を指差しながら説明する。
「ほらここ。ここ少し岩が出っ張っているだろ?」
「うん。」
「他の部屋を見て分かるけど、この城で一番接近しているのがこの区画なんだ。」
「だけどそれならなんで階をずらさないの?こんなに部屋数があるのに。」
この城には麗那の言うとおり5階立てで、50はゆうに越える部屋がある。
「結局、最上階に行けるということは他の階も行けることを意味するって考えたんだろうな。」
「なるほど。じゃあなんであの岩を壊さなかったの?」
「壊さなかったんじゃない、壊せなかった。そうですよね?先生。」
龍牙、麗那、ケイミーは鶯劍を見ると彼はゆっくりと頷いた。
「ああ。その通りだ。」
「帝国の技術を持ってすればその程度容易いはずではないんですか?」
ケイミーの問いに頷く鶯劍。
「ああ。そうだろう、間違いなくな。」
「じゃあ、なんで・・・」
「鉱山を失いたくなかったら、ですよね?」
「その通りだ。」
「鉱山?」
ケイミーと麗那は地形図に目を向けた。
「どこにそんなものが・・・?」
「城の地下からだ。」
「この通路ですか?」
確かに城の地下には一本の道が山脈へと伸びていた。
「ああ。で、なぜ壊せないかだが・・・。実はこの山脈は上質な鉱物が大量に採掘されるんだが、地質的にもろくてな。普通に採掘に使う爆薬程度ならまだいいが、あの岩を壊すとなると、恐らくあの鉱山は埋もれるな。」
「そこまでの爆発を必要とするあの岩っていったい・・・」
「『アクチニウム鉱石』だ。」
「!?」
ケイミーはその名前に驚愕の色を浮かべ、その岩をじっと見つめた。
「これが・・・」
「ああ。」
「先生、その『アクチニウム鉱石』っていうのは?」
「自然界に存在する物の中で2番目の硬質を持つ鉱石だ。」
「2番目、ですか?」
「ああ、ちなみに1番目は『破天石』だ。」
龍牙は無意識のうちに首に掛かっている首飾りを握りしめていた。
「まあ、無駄な説明はこれくらいでいいだろ。」
鶯劍は真剣な顔で3人を見回した。
それに3人共頷く。
「そろそろ本題に入ろうか。」
エステル城門前
時を同じくして、エステル城の門の前には1人の男がいた。
その男は魔道士のような漆黒のローブを頭からかぶったまま、それを外すことなく門の中へと歩を進めた。
「待て。」
だが、男は門の横に立っていた2人の門番に行く手を阻まれた。
「貴様、中に何か用でもあるのか?」
門番は疑い深げな目でローブの中にある男の顔を覗き込む。
すると門番は飛び退き、青ざめた顔のまま震える手で敬礼をした。
もう1人の門番は訝しげな目を震える相方に向けていたが、次の一言で顔を一瞬にして青ざめた。
「も、申し訳ありません!!『夢幻のサヴァリス』様。」
その言葉にため息をつきながらはずされたフードの下から現れたのは朱雀里で龍牙が出会ったサヴァリスだった。
「そこまでかしこまらなくてもいいよ。
それより中に入れてもらえるかな?」
「はい、只今!!」
2人はすぐさま門の端にあるパネルを操り、門を開いた。
「どうぞ!!」
「ありがとう。あっ、そうだ。」
サヴァリスは今思い出したみたいに人差し指を立てながら振り返った。
「なんでしょうか?」
「ここへ来たことは内密にね?皇帝からの命令だから。」
「了解しました」
サヴァリスは分かりましたと再度敬礼をする2人に見送られ、エステル城内へと歩を進めた。