第七話 衝撃
そのような死闘(燐堵にとってだが)が繰り広げられているとき、龍牙は兵士達の案内により、ある建物の前にいた。
そこは、さっきの通りとは違い、全く人の気配がせず、暗い雰囲気が漂っていた。
明かりが5メートルおきぐらいに天井からぶらさがっている電球のみと、とても暗かったのもあるだろうが。
体格のいいその小隊のリーダーが龍牙の背中を軽く押し、中にはいるよううながした。
龍牙はそれに少しムッとするが素直に従い少し錆びた鉄の扉を開け、中へと進む。
中に入ってみると、中はそこまで広くもないが、外とは違い明るく、高級な感じのする作りだった。
真ん中に絨毯がひかれており、その上にはモダンな机、大量の本が納められた本棚、そして皮張りのソファーが向かいあうようにして2つ置いてあった。
龍牙はそのソファーの1つに見知った顔が座っているのに驚いた。
「龍影様!!」
龍牙はすぐさま走りよりひざまずいた。
「龍影様、ご無事だったんですね。」
「すまないな、龍牙。色々あって連絡できなかった。」
そういいながら攫犀は龍牙の頭を撫でた。
「龍牙、とりあえず座りなさい。」
「はい。」
龍牙がソファに腰を下ろした後、攫犀の執事と思われる男がティーポットやカップをトレーに乗せてやってきた。
慣れた手つきで紅茶を2人に出した後、一礼してすぐさま奥へ消えた。
それをぼーっと見ていた龍牙に攫犀は声をかけた。
「龍牙、私が君を呼んだ理由は分かるか?」
龍牙はこの質問に正直に答えるべきか迷い俯くが、すぐに思い直し頷いた。
「はい、おそらく。」
その答えに攫犀は頷き返した。
「言いにくいが、今回の戦闘はどうやら君の父、蒼龍の反逆が原因だと思われている。」
はっきりと分かってはいたが、改めて言われ龍牙はショックを受けていた。
「現に彼は昨日の夜遅くに村の外に出て行ったきり戻っていないそうだ。」
カップに口をつけた後攫犀は続けた。
「聞いたところ、出たきり戻ってきていない者がもう1人いるらしい。」
机にカップをゆっくりと置いた。
「それが君に関わりのある人物でね。」
「それはいったい?」
攫犀は龍牙の反応を見、少し戸惑いながらもはっきりと告げた。
「名を我狼龍幻。
そう君の兄だ。」
「!?」
龍牙は驚きのあまり手に持っていたカップをとり落とし、盛大に紅茶を絨毯にこぼした。
だが、今の龍牙にはそれを認識することすらできない。
龍牙はあのおおらかで優しく、皆に好かれていた、そして自分の自慢であり、目標であった龍幻が家族を、仲間を、なにより自分を裏切ったということを信じたくなかった。
龍牙が5歳のころ、村の西にある森に迷いこんで帰れなくなったことがあった。
燗耶達とあそんでいるうちに知らず知らず奥の方に入ってしまい、出られなくなったのだ。
さらに、不運は重なるもので、『サーペント』と呼ばれる猛犬の魔物に出くわし、襲われたのだ。
龍牙は必死になって逃げた。
だが、所詮は5歳の子供である。すぐにサーペントは龍牙に追いつき、飛びかかった。
まさに龍牙に噛みつこうとしたとき、そのサーペントは足が一本残らず黒いなにかに斬り飛ばされ、次の瞬間には真っ二つに斬り裂かれていた。
サーペントが全く襲ってこないのを不振に思った龍牙が、恐怖で閉じていた目を恐る恐る開ける。
すると、そこにいたのは、自分が殺した猛犬の死骸をまるで汚いゴミをみるような冷たい目で見下ろす、闇を写したような漆黒の刀をもった兄、龍幻だった。