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第六話 二頭の猛獣

龍牙は旛龍を生み出すと同時に兵士達に向けて刀を振るった。

滑らかに、そしてゆっくりと何もない空間を薙ぐ。

それを見ていた兵士達は好機と思い、一気に距離を詰めようと駆け出した、それが罠とは知らず。


駆け出した5人兵士のうち2人は一瞬にして、1人は足を、もう1人は手を切り落とされた。

「うわあああああああ!!」

噴水のように噴き出す血に無事だった兵士達は突っ立ったまま唖然とする。

なにが起こったのか、それを誰一人として理解してはいなかった。

そこへ龍牙はさらに刀を振るった。

兵士達は全く刃に触れていないにもかかわらず体中を切り刻まれていく。

「ぐっ、うぅ。」

「いてえ、いてえよ。」

長針が1つ進んだ時にはその辺り一帯は、切り落とされた手や足などが転がる血の海と化していた。


にもかかわらず、誰一人として兵士は死んではいない。

転げ回る兵士に哀れみの視線を向けながら鶯劍は尋ねる。

「いつの間にそんな力を得たんだ?」

「昨日の夢の中で、あの回廊から逃げた後に覚えた・・・、ん?誰に教えてもらったんだっけ?」

首を傾げる龍牙を訝しげに見ていた鶯劍だったが、すぐに気を取り直し、戦艦につまれたヘレー族の開放を始めた。

それに気づいた龍牙も戦艦の中へと駆け込む。




10分後、その艦に閉じこめられていたヘレー族を全員開放した龍牙は鶯劍と別れ、移動を始めた。




そこから少し離れた所では麗那とケイミーの2人が帝国兵士6人と対峙していた。

2人は頷きあうと麗那は右へ、ケイミーは左へと駆け出す。

「みんな、少し寒いと思うけど、我慢してね。」

麗那は走りながら、右手に握る杖を振るった。

「『氷束縛(アイス・ロック)』!!」

麗那の声とともに戦艦の前に立つ兵士達は戦艦ごと氷づけにされる。

今度はそこへ、鎚へと変化させた剛石(クリスト)をケイミーが振り下ろした。

「はあああああ!!」

鎚が地面に触れると同時に、発せられた衝撃波でその周りにいた6人を氷づけのまま吹き飛ばし、声を出す時間すら与えず意識を刈り取った。



それを確認し、麗那は氷づけになったままの戦艦へと駆け出す。

「ケイちゃん。早くみんなを。」

「分かってる。」

すぐさまケイミーも走り出し、2人は戦艦の中へと消えた。






「これで最後だね。」

5分後、麗那は最後の一匹を放していた。

そのヘレー族は檻から飛び降りると、振り返りぺこりと愛らしく頭を下げた。

「ありがとうございます。」

それに麗那とケイミーは顔を見合わせ、お互いに微笑む。

ヘレー族は下げていた頭を上げるとハッとした。

そのつぶらな瞳には、笑顔の2人の後ろにある入り口に左手が凍ったままの1人の兵士が銃を持っているのが映っていた。

「よくもこんなことしてくれたなあ!!このクソアマどもが!!」

その言葉でやっと2人は背後の殺気に気づき振り返るが、その時にはすでに兵士の指がトリガーにかかっていた。

それを見た2人だったが、諦めず、最後の望みにかけて、麗那は詠唱を、ケイミーは剛石(クレスト)を取り出そうと右手を腰のホルスターへと伸ばす。

「死ねええぇぇぇぇ!!」

だがそれも虚しく、トリガーにかけられた指がゆっくりと引かれた。




立て続けに火薬の弾ける音が辺りに響く

ハズだった。

「なっ!?」

だが、辺りに響いたのは、バラバラになった銃の破片が床に落ちる音だった。

「な、なんで!?」

「動くな。」

「!?」

手から滑り落ちる元々銃だった物を拾おうとしたその首に黄金に煌めく刀が突きつけられていた。

兵士はその冷たい感触に、冷や汗が頬を滴り落ちる。


ゴスッ


峰打ちが決まり、事切れたように兵士は地面に倒れた。

「お前らも戦闘中ぐらいはもう少し周りに気をはっておけ。」

「先生・・・」

2人に近づいて来た鶯劍がため息とともに呟く。

「すいません。」

「まあいい、とりあえず転がってる奴らを縛ってから次に行くぞ。」

「はい。」







龍牙は1人、鶯劍の言葉を頼りに次の場所へと移動していた。

「あそこか。」

低い建物が並ぶ中、大きさの違う物が混ざっているのに龍牙は気づいた。

「あれは・・・なんだ?」

龍牙が立つ通りの先にあの戦艦があるのだが、その横に何かがいた。

逆光であまりよく見えないが何か戦艦ぐらい大きな影がそこにあった。

しかも2つも。

龍牙はそれを見定めようと目に冥力を溜め始めると、その影は動き始め、次には龍牙の目の前に立っていた。

「ははは、なんで『ベヒーモス』なんているんだよ。」

『ベヒーモス』

頭にいかつい2本の角、ライオンのような猛々しい(たてがみ)に牙、さらにはクマのようなしっかりとした体と鋭い爪を持つランクAのモンスターである。

ベヒーモスのムチのような尻尾を飛んでかわしながらもう一つの影の方へと目を向ける。

「じゃあ、もう一体は?」

龍牙はベヒーモスから距離を取りながらも目に冥力を集中させる。

それに映ったのは、

「『ミノタウロス』、か。」

そう言っているそばから龍牙に向かって巨大な斧が投げつけられた。


『ミノタウロス』

胴体が人でそれ以外が牛というモンスター。ランクはベヒーモスと同じくA。

龍牙はそれを宙を舞ながら交わすがそこへベヒーモスの鋭い爪が迫る。


即座に背中の双劃を抜き、自分の背丈ほどもあるその鋭い爪を受け止め、その勢いを殺さずに距離をとった。

地面を滑りながら、紅蓮と蒼碧の2つの眼で2頭の猛獣を睨みつける。

それを気にもかけずミノタウロスはのしのしとベヒーモスの横に歩み寄り、そばに突き刺さっていた斧を引き抜いた。

2頭のサイズはどちらも龍牙の2倍は優にある。

その2頭の圧力に軽く気圧されながらも龍牙はより刀を握る手に力をこめる。

「帝国軍もよくこんなの従えられたな。」

そう言いながらも龍牙は発動した『竃滅眼』、『竃烈眼』を弱点を見つけようとこらすと、

「なっ、これって!?」

見てしまった、悲しい現実を。


「どこまでヒドいことをするんだよ、帝国はああぁぁぁぁぁ!!」



龍牙は吼えながら可哀想な2頭との戦闘を開始した。







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