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第五話 またか

朝日が見え始めた頃、龍牙はベッドから起き上がった。

「またひとつ、か。」

俯いたままのその口から発せられたのは昨晩の無限の(インフィニティ・ゼロ)での出来事だった。

(『楽しみ』のかけらの爪牙、か。信用していいのか・・・)

広げた右手をじっと見つめると、それを強く握りこんだ。

(それにあの男・・・。)

龍牙はあのフードの奥で煌めく紅い目を思い出す。

(あの目は、やっぱり・・・)

「起きていたか。」

物思いにふけっていた龍牙は軽く驚きながら声のした方へと目を向けた。

「先生。」

鶯劍は龍牙のベッドの傍らにあるイスに座る。

「またあの『心象世界』に行っていたのか?」

その言葉に龍牙は目を見開いて驚きの色を見せた。

「なぜそれを・・・」

「俺が気づいてないとでも思ったのか?」

不敵な笑みを浮かべる鶯劍を見て、かなわないなと龍牙はため息をついた。

「で、お前はそこで何があったんだ?」

「実は・・・」






「・・・そうか。」

「驚かないんですね。」

龍牙は立ち上がり、背を向けたまま口を開いた。

「まさか先生は俺が何なのかを知っていたんですか?」

「ああ。」

「なんで・・・、教えてくれなかったんですか?」

「・・・」

龍牙の肩が揺れるのを見るだけで鶯劍は口を開かなかった。

「先生達は俺にいったい何を求めているんですか!?この力ですか?それともどこかの勇者の『器』としてですか!?」

鶯劍は押し黙ったまま龍牙を見ていた。それにさらに龍牙の怒りはつのる。

「俺は誰にも『我狼龍牙』個人に見られていないんですか!?この『俺』という存在は・・・」

龍牙の瞳から涙が流れる。

「本当にあるんですか?」







龍牙は力なく壁に体育座りでもたれかかり、顔を腕にうずめた。

それを見た鶯劍は懐からタバコを取り出しくわえ、長く煙を吐きだすと、話し始めた。

「龍牙。」

「・・・」

龍牙は身じろぎ1つせずうずくまっている。

「俺は、確かにお前の存在が何なのか知っていた。だが、お前にそのことを言わなかった。

この行動を見れば、お前を利用しようとしているように見えるかもしれない。だがな、」

天井を見上げ、続ける。

「俺はお前を俺の『弟子』以外として見たことはないぞ?」

「えっ?」

龍牙は顔を上げ、鶯劍を見る。

「俺は時々思うんだ。もしお前にそんな複雑な運命がなくても弟子にしたかってな。」

鶯劍は龍牙に笑みを向けた。

「やっぱり、俺はしたと思うぞ。」

龍牙の瞳にまた涙がたまる。

「龍牙、お前はな」

龍牙の肩に手を置き諭すようにして告げた

「俺の最高の弟子だ。」

「先生・・・」

龍牙の瞳から涙が溢れる。

「何泣いてるんだ?俺は当然のことを言っただけだが?」

龍牙はゴシゴシと袖で涙を拭う。だが、涙は止まらない。

「先生・・・」

「なんだ?」

龍牙は涙を流したまま笑顔を浮かべた。

「俺はいつからこんな泣き虫になったんですかね?」

「知るわけないだろ?しゃんとしろ!!胸をはれ!!」

「はい!!」

恥ずかしくなったのか鶯劍はそそくさと部屋の外へと向かった。ドアを開けたところで鶯劍は振り返らずに言った。

「龍牙。」

「なんですか?」

「お前の存在は他のやつのかけらかもしれない。だがな、そのお前の喜びや怒り、悲しみや楽しさという感情はお前だけのものだ。」

「はい。」

「迷った時は、自分の『心』のままに動け。もしそれでも迷うなら・・・俺に頼れ。」

「はい!!」 その返事に軽く微笑みながら鶯劍は出て行った。






それからしばらくして、龍牙はベッドから起き上がり、最初に通されたあの部屋へと向かった。

大量に飾られた絵を眺めているとふと目に付く不思議な絵があった。

「『セントラル・アース』、空に浮かぶ球体、か。」

その下に張られた題名を読み上げる。

それは、海の上に白い球体が浮かんでいる絵であった。

その横には燃え盛る街の中に立つ巨大な影とそれを見て怯える子供達の絵があった。

「お、め、が、『オメガ』?どこかで聞いたような・・・、あっ。」

龍牙はラミレス達の会話の中にその言葉があることを思い出した。

「史上最強兵器『オメガ』、か。」

「龍牙くん!!」

そこへ、勢いよくケイミーが飛び込んできた。

「どうしたんですか?そんなに急いで。」

息を切らしながらケイミーは口を開いた。

「早く、早く外に。」

「えっ?」

「また帝国軍が」

「なんだって!?」

龍牙はケイミーを気にもかけず、その横を駆け抜けた。

あの小さな扉を抜けた龍牙の目に入ったのは、

「なんなんだよ、これ・・・。」

龍牙が見たのは、ヘレー族の家を破壊し、中にいたヘレー族を檻に入れ、門の当たりに停泊している小型戦艦に積み込む帝国兵達だった。

「なにやってるんだよ!!」

「ついに、こういう手を使ってきたか。」

「えっ?」

声のした方へ目を向けるとすぐ横にオババが立っていた。

「オババ様。なんで、出てきたんですか?」

「この目で『時詠み』と同じか確認するためじゃよ。」

「どういう意味ですか?」

「奴らがこのような行動をとったのは我らの能力、この『時詠み』を欲したからじゃろうの。」

「その『時詠み』というのはいったい」

「読んで字のごとく時の事象を詠みとる能力じゃ。」

「!?」

龍牙は唖然とした。

「この村にいる者達はまあ個々によって違うが、全員が前後1日の未来や過去を見ることができる。分かるかの?これがどういうことを意味するか。」

「敵の動きを前持って知ることができる。

じゃあ、昨日聞いた過去の話も」

「そう、わしが直々に詠んでやったのじゃぞ?ありがたく思え。」

「で、どうするんですか?」

「わしは観測者。それゆえに干渉は許されない。例えそれが仲間であっても、じゃ。」

龍牙は使命のために仲間を捨てるのはおかしい。そう思ったが、オババの目を見て、それが何を意味するかを理解した。

「なら、俺が行きます」

「ほう。」

オババは感嘆の息をこぼす。

「オババ様の『時詠み』ではそうなってるんでしょ?」

「ノーコメントじゃな。」

龍牙はそれに軽く微笑むと駆け出した。




走っている最中、背中に手を回すが、

(そうか、確か部屋に置きっぱなしなのか。)

龍牙はその手で今度は腰にある小刀を逆手に引き抜いた。

龍牙の全速力では、門まで5秒もかからず到着した。

足が地面につくと同時に、龍牙は近くにいた3人を斬り伏せる。

「なっ!?」

その突然の襲撃に帝国兵達の間に動揺が走る。

「お前ら、何をしているんだ?」

龍牙の鋭い視線に、帝国兵達の体は全く動かせなかった。

「うっ、ヘレー族の、か、確保だ。」

近くにいた兵士が震える声で答えた。

「なんのためにだ?」

その兵士の首もとに小刀を当て、軽く裂いた。

「言え」

「軍事力の、強化のためだ。」

「やはり、か。」

いつの間にか龍牙の後ろに立っていた鶯劍が呟いた。

龍牙は掴んでいた兵士に当て身を決め、鶯劍の背についた。

「先生、どうしますか?」

「今この村に小型戦艦が5隻ある。それをまずは潰すとしよう。」

「周りにいる兵士達は?」

「戦闘不能にしろ。『できるだけ』殺すなよ。」

「それを聞いて安心しました。」

龍牙は首もとにかかっている首飾りについている銀色の石を弾いた。

「今の俺はこいつらを殺さない自信がなかったので。」

弾いた龍牙の右手は石から伸びる銀色に輝く光の棒を掴むと引き抜いた。

それは、いつも通りの龍牙の覇剣の取り出し方だった。

しかし、その右手に握られた柄の先にあったのは、

「ほう。」

「旛龍、第一破型。」

龍の上顎を連想させるような背に凹凸がついた巨大な刃だった。






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