第三話 新たな『かけら』
その夜、龍牙はまたあの黒い回廊に立っていた。
どこにつながっているのかも解らない回廊でひたすら前に歩を進めていると、そんな龍牙の前に黒い鏡のようなあの『門』が出現した。
その中からは、あの黒いフードを被った大柄な男が現れた。
「誰だ!?」
龍牙は背中に担いであるはず双劃を手に取ろうとするが、その手はただ空を切り続けるばかりだった。
「なんで!?」
そんな龍牙にフードの奥から声が発せられる。
「どうやら、まだ『心象世界』での『具現化』はできないようだな。」
若干見下したような言い方にイラつきながら龍牙は返した。
「どういう意味だ?」
「いや、なに。これがあの人の『器』とは。正直、拍子抜けだ。」
声と雰囲気から前回襲ってきた奴でないと判断した龍牙は若干緊張を解きながら口を開いた。
「あんたは誰だ?」
その言葉に堪えきれないと言わんばかりに吹き出し、男は笑い出した。
「誰ですか?だってよ。そんなの決まってるだろ?」
いつの間にか龍牙の横へと移動していた男が続けた。
「俺はお前と同じ『あの人』のかけらさ。」
「それにしても、誰ですか?は、ないだろ。
俺はお前の代わりに戦ってやったこともあるのによ。」
「なんのことだ?」
「ああ、お前は意識が飛んでたんだっけか?」
「待てよ、俺のかわりに、戦った?まさか、お前が!?」
「そ〜のとおり、俺の名前は爪牙。感謝してくれよ?お前の代わりにあのちっぽけな村を守ってやったんだからな。クックック。」
「お前〜!!」
含み笑いをする爪牙に耐えきれず、龍牙は殴りかかった。
「おっと。」
しかしその拳は爪牙の頬を捉えることなく、軽々と爪牙の手に受け止められてしまう。
「どうしたんだ?突然。何か気に障ることでも言ったか?」
「お前の、お前ほどの力の持ち主なら、あいつらを殺さずに鎮圧できたはずだ!?なぜ、無作為に殺した!?」
「別に、暇だったからだけど?」
「なんだと?」
龍牙は掴まれた拳にさらに力をこめる。
「そのままさ。俺が与えられた感情は『楽しみ』。俺は本能に従って動いるだけだ。それ以上でもそれ以下でもない。ただ、それだけだ。」
その言葉にさらに怒りを覚えながらも、龍牙はその言葉に矛盾があることに気づいた。
「お前が『楽しみ』だと?」
「ああ。それがどうかしたか?」
龍牙は手を顎に当て、考えこむ。
「前に狼牙がお前のことを教えてくれた時は、お前を『怒り』だと。」
「ああ、それか。それは本物の『怒り』が仕組んだことだ。『怒り』は俺じゃない・・・。
おっ、噂をすればだな。」
爪牙が横に顔を向けると同時に、あの黒いゲートが開き、中からあの黒いコートに紅い目のあの男が現れた。
「久しぶりだな、『怒りの』。」
「・・・」
「おっと」
男は無言のまま、両手に剣を2本生み出し、爪牙に切りかかった。
「結構なご挨拶だな。おい。」
「・・・」
爪牙の軽口を全く意に介さず男は斬り続けた。
「おい、龍牙。」
軽やかに目にも留まらぬ速さの剣をよけながら爪牙は口を開いた。
「えっ?」
「えっ?じゃねえよ。お前は早く帰れ。ここは危なすぎる。」
「りょ、了解。」
すぐさま背を向け、駆け出した龍牙だったが、そこに斬撃が一直線に放たれた。
「やべっ!!」
当たる、そう龍牙が思った刹那、その斬撃は、その爪牙が手に持つ巨大な盾によって砕かれた。
「させるかよ。」
爪牙と男の鋭い視線が交錯する。
その間に龍牙はゲートの中へと飛び込んでいた。
それをみた男は興味を失ったのか、微かに口を動かした後、コートを翻し、出てきたゲートの中へと消えた。
「誰がくれてやるかよ。」
「『あれ』はこの爪牙様の獲物だ。お前には絶対にやらねえからな。」
爪牙のその言葉はただ虚しく回廊の中に響き渡った。
またまた更新が遅れてすいませんでした。
今、友達と他のペンネームで作品を作っているので、次もまた遅れるとは思いますが、これからもお願いします。
できれば、感想などもお願いします。待ってます。