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第弐拾弐話 裏切るのか!?

次の日の朝、龍牙と麗那は一階の食堂で朝食をとっていた。

「目の調子はどうだ?麗那。」

「うん。霞みもなくなってきたから、多分大丈夫だと思うよ。」

麗那のその言葉に安堵のため息を零す龍牙。

「そうか、良かった。」

「ごめんね、心配かけて。それにわざわざ薬までもらって来てくれて。」

フォークを置き、俯く麗那の頭を龍牙はそっと撫でた。

「いいんだよ。元はと言えば、俺が弱かったからお前にあんな危険な力を使わせて。それに、それをもらって来たのは俺だけじゃないから。」

重い雰囲気の中、しばらくの間、2人は暗い顔のまま、静かに食事を続けた。

「そう言えばケイちゃんとユウさんは?」

そんな沈黙は麗那の質問によって断ち切られた。

その質問を答えるべきか龍牙が悩んでいるうちに、いつの間にか鶯劍が龍牙の横に立っていた。

「先生、どうしたんですか?」

「行くぞ。」

鶯劍はただ一言呟くと歩きだした。

麗那は頭の上にはてなを浮かべながら首を傾げていたが、龍牙はそれが意味することを理解していた。

「麗那、行こう。」

「えっ?どこに?」

「いいから早く。」

「う、うん。」

龍牙は麗那の手を引き、鶯劍の後を追い外へ駆け出していった。






龍牙の予想通り、鶯劍が向かったのはマーズの鍛冶屋であった。

「ここマーズさんのお店だよね。なんか用があったの?」

麗那の質問に鶯劍は無言のまま2階にあがり、すぐ右にある部屋の中へと入った。

その様子にさらに麗那は首を傾げる。

「行こう。」

「うん。」

龍牙の手をとり2人は2階に上がった。

「容態はどうだ?」

龍牙がドアノブに手をかけたところで、先に入った鶯劍の声がドアごしに聞こえた。

「なんとも言えんの。お嬢ちゃんの方は大丈夫じゃろうが、この青年の方がのう。」

龍牙達はためらいなくドアを開き中へと入った。

マーズは龍牙の後に続いて入ってきた麗那を見て、嬉しそうな声を上げた。

「秘薬は効いたようじゃの。」

「はい。ありがとうございました・・・えっ。」

麗那は笑顔で答えたが、ベッドに横たわら体中に包帯を巻かれたケイミーとユウを見て、顔が強張る。

「ケイちゃん、ユウさん・・・。なんでこんな。」

「俺のせいだ。」

「えっ?」

龍牙は唇を一度噛み締め、続けた。

「俺があの時、あいつらに近づかずに逃げていればこんなことには・・・。くそっ!!」

龍牙は拳を思いっきり壁に叩きつけた。

その自分に対する怒りで震える肩に鶯劍は手を置き、首を横に振った。

「お前のせいではない。」

「だけど、俺がさっさと立ち去っていれば、」

「いや、どちらにしても戦わなくてはならなかったじゃろうの。」

「えっ?」

マーズの言葉に呆気にとられる龍牙。

「奴らがあそこにいた理由は恐らく、ワシじゃろうからの。」

「なんでまた?」

「連れ戻すためですよね。」

マーズのかわりにあの澄んだ声が響いた。

「おお、お嬢ちゃん。気がついたか。」

見ると、ケイミーがベッドの上で身体を起こしていた。

「ええ、つい先ほどですけど。」

まだどこか痛むようで顔をしかめるケイミー。

「ケイちゃん!!」

麗那は駆け寄るとケイミーに抱きついた。

それをしっかりと抱き止め、包帯の巻かれた右手でそっとその頭を撫でた。

「目、治ったみたいね。」

「うん。」

麗那の肩は微かに震えているのに気づいたケイミーは龍牙に顔を向けた。

「麗ちゃんにちゃんと届けてくれたみたいね。」

「ケイミーさん。」

龍牙はケイミーのベッドの前に立ち、思いっきり頭を下げた。

「すいませんでした!!」

ケイミーは何も言わず龍牙の頭を見ていた。

「あの時俺がすぐにあそこから立ち去っていれば、こんなことには・・・。」

「ならなかった。って言いたいの?」

龍牙は驚き、顔だけケイミーに向ける。

「なら、私が言うことは一つ。


自惚れるな!!

ケイミーの怒声にそばにいた麗那も泣くのを止め、その顔を見つめた。

「あなたは、いつもいつも悪いことがあれば、自分のせいだって決めつけてばっかりじゃない!?」

「だけど、やっぱり原因は俺に、というより俺の存在にあるのに変わりはな・・・」

「ある!!確かにあなたは私には想像できないような苦難を背負って生きているかもしれない。

だけど、それが全ての悪い事の原因と考えること自体が傲りなのよ!!」

ケイミーは固まる龍牙に近寄り間近で語りかける。

「いい?あなたのせいで何か悪いことが起きたと考えるのは構わない。いや、確かにそう考えて反省すべき時がある。

だけどね、あなたはその考えに捕らわれすぎてる。臆病になりすぎて、自分を偽るために言い訳を作っている。」

頭を優しく撫でるケイミー。

「私達はそんな龍牙くんを見たくはない。だから、」


「もっと私達を頼りなさい。1人で苦しいこともみんなでなら全部とまでいかなくても分かち合えるから。それに、」

龍牙の頬に手を当て、微笑むケイミー。

「約束したんでしょ?いつも笑って、それで楽しい生活を送るって。」

龍牙は親友達の笑顔が瞼の裏に蘇った。

龍牙は流れる涙を手の甲で拭い、頷いた。

「はい。」

「つらかったよね。

もう、泣いていいんだよ。

泣いて泣いて、全部吐き出せば・・・、また笑えるから。」

「はぃ・・・」

ケイミーの胸を借り龍牙は泣いた。




「騒々しいですね・・・」

「えっ?」

声のした方へ目を向けると、頭に巻かれた包帯に隠れている瞳が動いた。

「ユウ、さん?」

「もう少し、寝かして下さいよ。疲れているんですから。」

泣く龍牙の頭にポンと手を置いた後、鶯劍は横たわるユウの横に立つ。

ユウはそれを静かに見上げた。

「身体はどんな感じだ?」

「・・・絶好調ですね。」

自嘲の笑みを浮かべるユウ。

「明日、ここを発つつもりだ。目的地はユーラス公国エステル城。

そこに捕らわれているサリアという娘を救出する。

絶対に追いついてこい。」

「まったく、本当にいつもむちゃをいいますね。」

ユウは包帯でぐるぐる巻きになった腕を上げ、強く握りこんだ。

「ええ、地の果てまで追いかけますよ。あなたが解放軍に入ってくれるまでは。」

「そうか。」

鶯劍は一言呟くと部屋を出た。

泣き止んだ龍牙と麗那はそれについて行くべきか迷い、ケイミーを見た。すると、ケイミーはすでにベッドから降り、靴を履いていた。

「ケイちゃん!?大丈夫なの!?」

「そ、そうですよ。安静にした方がいいんじゃ。」

「大丈夫、大丈夫。私のは単なる打撲だから。

ですよね?おじいさん?」

「ああ。お嬢ちゃんのは腹部の打撲と軽い脳震とうだったからの。大丈夫じゃろ。」

「らしいから、行こっか。」

「うん!!」

ケイミーに大きく頷く麗那に対し、龍牙は俯いた。

「すいません。俺、少し残ります。」

それに麗那は訝しげな顔をしたが、ケイミーは気にせず麗那を連れて部屋を出た。

「今度は何が聞きたいんじゃ?」

部屋の隅にある椅子に座るマーズ。龍牙もその向かいに座る。

ユウはというともうすでに寝息をたてていた。

「さっきの、帝国軍があなたを連れ去ろうとしたという意味です。」

「意味も何もただわしを連れ戻しに来ただけじゃろうに。」

「いえ、そうではなくて、なんであなたを引き戻す必要があったのか、というところです。」

龍牙の問いに頷くマーズ。

「実はわしもそれが気になっての。連れ戻しにきた暗殺部隊の頭と思われるやつにカマを掛けてみたんじゃ。」

「で、どうでした?」

「当たりじゃ。

どうやら最近、ジャッジメントのメンバーの1人が誰かに殺されたようでな、その穴埋めとしてわしの名が上がったらしい。」

「ジャッジメントが・・・。

だったら、また帝国軍が来るんじゃ」

「いや、もう来んよ。」

マーズのはっきりとした口調に龍牙は違和感を感じた。

「なんでそう言い切れるんですか?」

「わしがそれを了承したからじゃよ。」

「なっ!?」

龍牙は後ろへ跳び、双劃の柄に手を当てる。

「あんたも裏切るのか!?」

マーズは慌てて口に指を当てる。

「最後まで聞きなさい。 私はもう老い先の短い身じゃ。なら、ワシが変わりに潜り込んでやろうということじゃ。」

「・・・信じていいんですか?」

「もちろんじゃ。じゃが、誰にも口外してはならぬぞ。特におぬしらは監視の目が厳しいからの。よいな?」

マーズの真剣な目を見て龍牙は頷いた。

「分かりました。じゃあ、俺、行きます。」

「ああ、達者でな。」

「そちらこそお元気で。」

龍牙は一礼すると先に行った3人を追って部屋を駆け出した。

「こう言えば良かったんじゃろ?」

「ええ、ありがとうございます。」

その返答はベッドで寝ているユウから発せられた。

「じゃが、これに意味は

「ありますよ」?」

「これが、あの御方の『シナリオ通り』なんですから」

含み笑いをするユウになんとも言えない感情をマーズは感じた。



「さて、プロローグはここまで。そろそろ第二部に移りましょうかね。」







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