第弐拾壱話 白
白い空間の中、それと同じ真っ白な椅子にあの黒いロングコートを着た男が座っていた。
男はため息をつくとひじをつくのをやめ、背もたれに身体を預けた。
「終わりましか?」
その男の向かいに座っている同じ黒いフードをかぶった小柄な男が口を開いた。声からしてまだ少年といったほうが適切かもしれない。
「ああ、だがどうやら狼牙もまだ命が惜しいらしい。」
「では、」
「ああ、何も問題はない。それよりも計画の方は進んでいるのか?」
少年はどこからか分厚い本を取り出し、ぱらぱらとめくると報告を始めた。
「建物の方は後半年ほどで完成の模様です。で、敵になりうる危険分子の削除についてですが、」
ひらりと一枚ページをめくると、少しトーンを落として続けた。
「リストアップされた152名のうち削除、または再起不能者は47名のようです。
名前を読み上げましょうか?」
「いや、いい。どうせブラックリストのトップは倒せていないのだろう?」
「はい。」
「まあいい。計画はそのまま続行しろ。」
「了解しました。では、失礼します。」
少年は立ち上がると後ろに現れた『門』の中へと消えた。
「さて、そろそろ次の手を打つとするか。」
男はすぐ横の机の上にあるチェス盤に手を伸ばし、黒の兵士を前に進めた。
「お前はどこまで耐えられる?我狼龍牙よ。」
フードの奥の瞳は不気味に漆黒に輝いていた。
「動きだしたか。」
深い森の中を迷わず歩いていたその足を止め、何かの気配を感じとった方向へ顔を向け、青年は呟いた。
「こちらも急がなくては。」
ロングコートの裾をはためかせ、進行方向に向き直ると、また歩き始めた。
「少しでもアイツに被害が及ばないように。」
光すら届かない森の奥に消えていく青年の背中には、青年とあまり変わらない大きな刀があった。