第六話 連行
爆発に備え固まって伏せていた燗耶達はゆっくりと頭を上げた。
来ると思っていた衝撃が襲ってこないのに疑問に思い燗耶は辺りを伺う。
すると、その目に真っ黒に焼け焦げた、自分が初めて殺した相手を眺める龍牙が映った。
その龍牙は長く息を吐くと、足の力が急に抜けたのか、その場に倒れこんだ。
それを燗耶はとっさに受け止めた。
受け止めた燗耶は龍牙の体が震えているのに気づいた。そして見た、その頬に一筋の涙が伝っているのを。
龍牙は本当は恐れていたのだろう、親しい友達が死ぬことを
そしてなにより自分の手で誰かの命を奪ってしまうことを。
しばらくして落ち着きを取り戻した龍牙は、周りの友人達の手を借りて立ち上がった。
「ごめん。」
そう謝る龍牙を、燗耶は怒ったような口調で咎めた。
「お前は謝らなくていいんだよ。お前は俺達を助けてくれた。もしかしたら死ぬかもしれないのに、お前はなんのためらいもなく助けてくれた。」
まだふらつく龍牙に肩をかしながら、笑顔で続けた。
「次は俺達がお前を助ける番。
まあ、俺達がお前にできるのはこれくらいだけどな。」
はっきりと宣言するように言い、避難所の入り口の方へと子供達は歩き始めた。
数十分後、龍牙達はなんとか避難所にたどり着くことができた。
そこにいた人達は子供達が無事にもどれたのを喜び、また、そうできなかった子供の存在を知り、嘆いた。
避難所には多くの村人が避難していたが、それでもそこにいる人数は村の半分に満たない程度だった。
さらにこの戦争のせいで、はてしなく疲れているのが目に見えて分かった。
龍牙、燗耶、燐堵、華蓮、凛榎の5人は先の子供達と別れ、軽い手当てを受けた後、そんな風景をみていた。
すると、鼻をひくつかせていた燐堵が走りはじめた。
「お、おい、燐堵。どこに行くんだよ?」
燗耶の声に耳も貸さず、燐堵は人ごみの中を軽快なフットワークで走り抜けた。
残された4人も、そんな燐堵を見失わないように、 龍牙はすぐに後を追いかけようとした。
だが、それは龍牙の肩をがっしりと掴む手によって阻まれた。
振り返ると、そこにいたのは白狼村の戦闘服(頭には特注ヘルメット、体は防弾性能の高い繊維で編まれたレザースーツ)を着用した3人が立っていた。
3人はマニュアル通りにヘルメットをかぶっていたので、龍牙は顔を確認することができなかったが、体格からして3人共男のようだ。
「我狼龍牙だな。」
龍牙の肩を掴んでいる男が口を開いた。
「そうですが、何かようですか?」
龍牙に代わって燗耶が尋ねる。
「お前には聞いてない。黙ってろ。」
それに別の兵士が冷ややかに言い放った。
「抑えろ。」
それを、最初に龍牙に話しかけた兵士がなだめる。どうやらこの人が3人の中でリーダー格らしい。
その兵士は龍牙にもう一度告げた。
「我狼龍牙、一緒に来てもらおう。」
「なぜですか?」
今度は龍牙が口を開いた。
「知る必要はない。ただ私たちについてくればいい。」
その兵士の口調から逆らわない方が得策と考え龍牙は頷いた。
「分かりました。」
「では、行こうか。」
兵士が促すのに頷き、龍牙は燗耶達の方に向き直った。
「というわけで、燐堵は3人で探しておいてよ。頼んだよ。」
そう言い残した後、兵士達に囲まれながら、すぐに人だかりの中に姿を消した。
残された3人は今の出来事に思考が追いつけず、呆然としていたが、近くの屋台で店員が派手に皿を割った音を聞き、3人はハッと現実に呼び戻された。
少しの間、龍牙を追うべきか迷ったが、龍牙に頼まれたことを実行しようという燗耶の言葉に残りの2人も賛同し、燐堵が走っていった方へと歩き始めた。
3人は根気よく探し続けた。だが、燐堵を探し始めてからもう30分は経つが、一向に見つかる気配がなかった。
「ったく、あのバカはどこに行ったんだよ。」 燗耶にしては珍しく口調を荒げた。
「ホント、いつも急にいなくなるんだから。どこにいったのかしら」
首をめぐらす凛香の横で、小さな声で無表情のまま、華蓮は呟いた。
「いた。」
「え!?どこどこ?」
「どこにいるんだ?」
「あそこ。」
ゆっくりと華蓮が指差した場所、それは、
ラーメン屋だった。
そのラーメン屋とは、白浪村の隠れた名店として有名、そして燐堵がこのラーメンを1ヵ月は喰い続けられると豪語した『銀龍』の臨時店だった。
そしてその店内をよ~く見るとそのカウンターに見慣れた横顔と山積みにされた丼があるのが燗耶達の目に入った。
それを確認した燗耶と凛香は頷きあい、猛ダッシュを始め、その勢いのまま目標に向けて跳び蹴りを繰り出した。
同時に2発もの大技をくらい燐堵は吹き飛ばされた。
その後10分間、不気味な音をたてながらリンチという名の制裁が行われた。
それが終わった時、そこにあったのは真っ赤に腫れ上がり、全く原型を留めていない燐堵の顔だった。
だが、その手にはしっかりと、全く中身がこぼれていない丼と箸が握られていた。