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第弐拾話 夢で


「帰ってきたか。」

龍牙が麗那の寝ている部屋のドアを開けると、すぐに鶯劍に声をかけられた。

「はい。」

「そうか。2人の容態はどうだ?」

龍牙は少し迷ったが、正直に話した。

「ケイミーさんはそこまでではないんですけど、ユウさんが・・・」

「そうか。」

鶯劍は何事もなかったかのごとく平然としているように龍牙は見ていた。だが、その唇は微かに血が滲んでいるのに気付いた。

「そうだ。麗那はどうですか?」

「さっき寝たところだが。」

「ちょっと失礼します。」

龍牙は鶯劍の前を通り、麗那の眠るベッドの脇に立つ。

「麗那。」

やさしく麗那を揺する龍牙。

「んっ。」

眠りが浅いのかすぐに麗那は目を覚ました。

「誰?」

「俺だよ。」

「なんだ、龍くんか。」

軽く落胆したような声を上げる麗那。

「なんだとは失礼だな。」

龍牙は笑いながら腰にあるバックからマーズに渡された秘薬を取り出した。

「麗那、さっきお前の目を治す薬をもらったんだ。飲んでくれないか?」

「治るの?」

不安そうに尋ねる麗那に笑顔で答える龍牙。

「ああ。」

「分かった。」

麗那にしっかりと持たせ、手を離した。

「えっと、いただきます。」

無駄に律儀なところに苦笑しながら龍牙は麗那を見ていた。

麗那は一気に飲み干す。

フゥと一息つくと麗那は目を大きく見開いた。

「もう・・・見えてきた。」

「俺のこと、見えるか?」

龍牙の方へ目を向けると、麗那は目に涙を溜めて頷いた。

「うん・、見えるよ。龍くん、見えるよ・・・。」

嗚咽をもらしながら片言で答える麗那を龍牙はそっと抱きしめた。

「ああ。」


それを目をつむり、耳を傾けていた鶯劍だったが、居心地が悪くなったのか部屋をでた。だが、そのサングラスで隠された瞳は嬉しげな光を宿していた。










その日の夜中、龍牙はまたあの黒い回廊に立っていた。 どこにつながっているのかも解らない回廊でひたすら前に歩を進めていると、そんな龍牙の前に黒い鏡のようなあの『(ゲート)』が出現した。

その中からは、あの黒いフードを被った大柄な男が現れた。

「誰だ!?」

龍牙は背中に担いであるはず双劃を手に取ろうとするが、その手はただ空を切り続けるばかりだった。

「なんで!?」

そんな龍牙にフードの奥から声が発せられた。

「どうやら、まだ『心象世界』での『具現化』はできないようだな。」

若干見下したような言い方にイラつきながら龍牙は返した。

「どういう意味だ?」

男は鼻で笑いながら答えた。

「そう怒るなよ、相棒。」

フードを外すと、そこには龍牙と同じ顔をした男がいた。同じ顔とは言えど、龍牙よりは背は高く、大人びた顔つきをしている。

「なんだ、誰かと思ったら…狼牙か。」

「何だ、とはごあいさつだな。」

 狼牙は腰に手を当て笑みを浮かべた。

「で、今日お前が来たのは、俺たちのことについて聞きだい、だよな?」

 驚いた顔を見せながらも龍牙はうなずいた。



「ああ、教えてやるよ。俺達の存在意義を。」






「昔、それもかなり前の話だ。

ある1つの世界に、1人の英雄がいた。

その男は、勇敢で他に優しく誰からも好かれていた。」

龍牙は同じ顔したその男の話に耳を傾けた。

「そんなあいつが20になった時だ。彼は周りの人に進められ、彼が住む村の長となった。あいつは何をさせても完璧で、すぐに村は繁栄し、いつの間にか周りの村や国を抱える、大帝国が誕生した。

それが完成したのはあいつが24の時だった。

彼の国はさらに栄え、かなり高度な科学が生まれた。

その中でも、時空を渡る技術は革命をおこした。だが、あいつはそれを使用することをよしとしなかった。

なぜか、それは他の世界のパワーバランスが崩れると思ったからだ。

しかし、彼の家臣達はそれを理解出来ず、目先の欲に惑わされ、あいつを消すことにしたんだ。」


「そんな。」

龍牙の反応に頷く狼牙。

「彼の下には弟子が11人いた。それぞれ、ある一つのことにおいては右に出るものはいないと言われるほどの実力者だった。

だが、その中で1人、目先の欲にとらわれた家臣の手先となり、師であるあいつに刃を向けたやつがいた。

それでもまだ足りなかった。

なぜなら、あいつはかなりの力の持ち主だったからだ。それも1人で国を『消す』ことができるほどに、な。

そこで、家臣達は考えた。

あいつを消すのではなく、別の世界に新たに産み直すということを。」


「産み直す・・・」


「家臣の計画は成功した。あいつは寝込みにその強力な術をかけられ、消されたんだ。 だが、・・・」


「あいつは最後の抵抗をした。

あいつは自分自身を6つに分け解き放ったんだ。

生まれ変わるはずの者に自分の力の三分の一を、そして残りを他の5人に自分の記憶と共に感情を1つずつ与えた。

『喜び』、『楽しみ』、『悲しみ』、『怒り』、そして、『無』の5つだ。」

男はこの黒い世界の中どこかからか現れた椅子に腰掛けた。

いつの間にか、龍牙の後ろにも同じ物が出現している。

龍牙も恐る恐る座ると、狼牙はまた話し始めた。

「そして、その6つは様々な世界に飛び散った。 全く同じ顔のやつが、な。」

「じゃあ、俺は!?」

「ああ。そうだ。その生まれ変わりが龍牙、お前だよ。」

突然のことに唖然とする龍牙。


「それじゃあ、改めて、自己紹介を。

俺は、『喜び』の心を与えられたかけら。

名前は、狼牙という。よろしく頼む。」

立ち上がり、胸に手を当て頭を下げる狼牙。

しかし、龍牙は上の空で全く聞いていない。

それも仕方がない。なんせ、自分という存在が、他の者のかけらだと言われたのだから。

それを見ていた狼牙は背もたれに沈みこみながら呟いた。

「ショックを受けるのも仕方がないとは思う。だけどな、そのままじゃ、お前は乗っ取られるぞ。」

龍牙は俯いた顔を少し上げ、上を見上げる狼牙の横顔を見る。

「どういう、意味だ?」

「そのまんまさ。なあ、今は全く別物になっている俺とお前がなんで会えていると思う?」

「質問の意味が分からない。」

「正解は簡単。俺達は繋がってるんだよ。この『無限の(インフィニティ・ゼロ)』でな。」

「何がいいたい?」

「インフィニティ・ゼロっていうのはな。俺達の心象世界なんだよ。これで、どういう意味か分かるだろ?」

「つまり、6つのかけらである俺達はこの世界で繋がっている。だから、どこにいても、逢える、ということか?」

「その通り。そして、それは上手くいけばそいつの体を奪うことも可能なんだよ。」


「そいつの頭に記憶を残さずに、な。」

龍牙はハッとした。ニヤリと笑う狼牙の意図することが分かったのだ。

「お前か!?あの帝国軍を壊滅させたのは!?」

「いや、俺じゃあない。俺はどちらかと言えばそれを阻止しようとした口だからな。」

「じゃあ誰が・・・」

「それは分かってる。恐らくあれは、『怒り』の爪牙だ。だが、気になることがある。」

「気になることって?」

狼牙は言うべきか迷いながらも口を開いた。

「いや、やっぱり止めておくか。確信が持てたら話す。

それよりも・・・」

逸らしていた視線を龍牙にしっかりと向ける。

「お前はこれから、なんで自分なんだ?って思いたくなるようなことが起こり続けるはずだ。だけどな、絶対に自分を見失うなよ。それは即ち、乗っ取られることを意味してるんだからな。」


龍牙は一瞬、唖然としたが、しっかりと頷いた。

「それ言われるの2回目だ。」

「全く、おっと、もう時間だ。

そうだ、後1つだけ。」

「なんだよ?」

龍牙は狼牙を見上げる。

「気をつけろ、お前の親しい人間が敵である場合もあるからな。」

「えっ?」

「それだけだ。じゃあな。」

「どういう意味だよ!!おい!!」

龍牙の叫びも虚しく狼牙は闇に消えた。

「親しい人・・・。誰のことを言っているんだ?ん?」

ぶつぶつ呟いている龍牙の足下からピキピキと何かが割れる音が響いた。

「まさか・・・、うわああぁぁぁぁ!!」

足場は崩れ、龍牙は一瞬浮遊感を感じた後、深い闇の底へと落ちた。











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