第壱拾六話 新たな・・・
またまた遅れてしまいました。すいません。
マーズの言葉に首を傾げながら龍牙はドアを閉め、歩き出した。
「どういうことだろうな?」
「まさか、これにも何か自爆みたいな機能が・・・あるわけないか。」
虚しく自問自答しながら砂利道を突き進む。
「それにしても広い庭だな〜。」
龍牙は辺りを見回す。
辺りは鬱蒼と木が生い茂り、どこか山の中にでもいるような気分になる。
「ケイミーさん達はどこにいるんだ・・・、おっ、いたいた。」 木々の隙間から2つの人影を見つけた龍牙は、足を速める。
「・・・」
「・・・・ら、お前は、・・・」
「あんた・・係ない・・ろ!!」
どうやら何か言い争っているようだ。だが、そこで龍牙は、2人のどちらともユウとケイミーの声ではないことに気付いた。1人は若い、二十代ぐらいの感情的な声、もう1人は諭すような冷静な声だった。おそらく後者の方が年上なのだろう。
(誰だろう。)
龍牙は好奇心に駆られ、ゆっくりと足を忍ばせて近づき始めた。だんだん2人の声が聞こえてくる。
後5メートルくらいのところまでくると龍牙の耳にははっきりと聞き取ることができていた。
「・・・この作戦は俺の担当だ。あんたは関係ないだろ!?」
「悪いがこの作戦における最高責任者は私なのでね。
口出しするくらいの権利は持っているつもりだよ。」
その時、龍牙はその2人の胸に帝国の黄金の紋章がつけられているのに気付いた。
(なんで帝国軍がこんなところに・・・)
「何がいいたい・・・」若い男が呟く。
「いや、そんなちまちまと掃討するよりは街ごと沈めた方が早いと思うのだが。」
生まれつきの物であろう白髪の男が誇らしげにいう。
それを若い男は笑い飛ばした。
「ハッ!!馬鹿だな、あんたは。このドームはな、歴史上、最強最悪兵器とまで云われている『オメガ』の超光速粒子砲でやっとひびが入るかどうかって云われているほどの強度だぞ?どうやるっていうんだ?」
「なら、それ以上の威力をぶつければいい。」
「なん、だと?」
木の陰に潜んでいた龍牙は首を傾げた。
(『オメガ』っていったい・・・)
「悪いが、これ以上は話せないようだ。」
「どういう意味だ。」
「私達の話を盗み聞きしている不届き者がいるようだ。」
白髪の男は目を閉じ、不敵な笑みを浮かべる。
(くそっ!!ばれたか!?)
「出てこないのか?なら、」
白髪の男は、はめていた手袋を外し龍牙のいる方向へと伸ばし、手を広げる。
「引きずり出すだけだ。」
男の手が黒く輝きだす。
「『引力ド・・・」
木の陰から1人、白髪の男の前に飛び出した。
それはあのマーズを襲った男と同じく、目以外全てを黒い布で包んだ男だった。
「やはり、『暗殺者』の者だったか。何のようだ?」
「・・・」
白髪の男は腕を下げ、笑みを作り、黒装束の男に話しかけるが、全く反応を示さない。
「まあいい。どうせお前のことだ、蒼龍に告げ口をするのだろ?」
「・・・」
「ふん、まあいい。とりあえず、この作戦は先送りだ。いいな?レックス。」
白髪の男は、隣に立つ若い男に目を向ける。
「分かりましたよ、ラミレス将軍。」
レックスはふてくされたような顔をしながらその場から跳んだ。
残された2人はお互いに無言でいた。
その沈黙を破ったのは意外にも黒装束の男だった。
「・・・虫は私が殺しておきましょう。」
「そうか、ならお言葉に甘えて。」
刹那、ラミレスはそこから霧散した。
しかし、黒装束の男はただそこに突っ立ったままであった。 龍牙はその姿を視認しようと木の陰から顔を少し出した瞬間、龍牙の首には鈍く光るクナイが突きつけられていた。
「動くな・・・。」
龍牙はすぐ横から聞こえる無機質な声に驚きながらも、ゆっくりと両手を上げる。
「超高速による移動。いったい何者なんですか?」
「答える必要はない。」
「そりゃそうだ。」
はあ、と深くため息をつくと龍牙は目を閉じた。
「・・・。」
それを見て安心したのか、男は握る力を強め、龍牙にクナイを突き立てた。
ドオォン
黒装束の男が針を突き立てるのと同時に、2人がいた場所で砂煙が上がった。
その中から男は飛び出し、獣のように両手まで着くと、地面を滑り、勢いを殺した。
暗殺者は柄しか残っていないクナイを投げ捨て、腰にくくりつけているバッグの中からあの針を取り出し、逆手に握りしめる。
「・・・」
腰を落とし、キッと砂煙を見据えた。
「もらったあ!!」
が、男の予想は見事に外れ、上から龍牙の白銀に煌めく拳が迫る。
暗殺者はそれを反応が遅れながらも、紙一重でかわした。しかし、その拳の衝撃で吹き飛ばされてしまう。
男は空中で体勢を立て直し、龍牙を見た。その瞬間、
ドゴオォン
爆発にも似た音とともに、男は、地面に叩きつけられた。
先まで彼がいたところには、白銀の片翼を生やし、首の鱗の間から血を流す龍牙が浮かんでいた。
「・・・私の拘束を力技で破るか・・・」
男は、あの剛腕に殴られたにも関わらず、事も無げに立ち上がった。
「細いのに意外と頑丈だことで。」
龍牙は龍の腕と化した右手を強く握りこむ。
「・・・なかなかのスピードだ・・・」
その龍牙の首にまたアイスピックのような黒い針が突きつけられる。
「だが、まだ遅い・・・」
龍牙の頬を冷や汗がつたる。龍牙も気付いたのだ、その針に込められた冥力の量は、ちょっと押すだけで、自分の鱗を貫き、首を貫通させるのは容易なほどであることに。
「ここまでの実力、やっぱり『ジャッジメント』ですよね?」
「否」
龍牙の予想は暗殺者に即座に否定された。
「私は陰。それ以上でもそれ以下でもない。」
針に少し触れただけで龍牙の首から血が流れた。
「私はただ主の敵を殺す。その任を真っ当するのみ。」
「『ジャッジメント』の誰かさんの汚れ役か。だけど残念だな、」
龍牙の口端が歪む。
「任務失敗だ。」
宙に浮く暗殺者の首には、剣が当てられていた。
「・・・いつの間に・・・」
それは新たな剛石を握るケイミーだった。
「さっき砂煙がたっている間に思念伝達で呼んだんだよ。」
「・・・しかし、場所は・・・」
「だからこそ、派手な攻撃ばっかりにしたんだよ。できるだけ、砂煙を上げれば、時間稼ぎにものろしのかわりにもなる。まあ、一石二鳥なんだよね。」
先ほどとかわり、暗殺者にも焦りが見え始める。
「・・・だがまだだ。私の今回の目的はこの者の削除。それのために私が死んでも、
構いはしない!!」
暗殺者は珍しく声を大きくしながら針を龍牙の首へと突き立てる。
「!?」
ハズだった。だが、暗殺者の腕は宙に縫い付けられたかのようにピクリとも動かなかった。
「大いなる時の神よ。」
茂みからまた1人地を踏み鳴らしながらやって来た。
「かの罪人に、永久の呪縛を。」
「『時空魔法』か!?」
その術が何かを知り暗殺者はさらに焦る。
『空間呪縛』
その字の通り物体をその周りの空間ごと固定する、特異なものとして知られる時空魔法の中でもかなりの上位魔法である。
「ああ、やっぱりユウさんも魔術師だったんですね。」
龍牙は首をコキコキ鳴らしながら暗殺者の手から逃れ、ゆっくりと地面に足を着ける。
「隠すつもりは全くなかったんだけどね。」
近づいてくる龍牙に笑顔を向けるユウ。
「それより、こいつはどうする?」
黒い剣を暗殺者の首にさらに押し当てながらケイミーが尋ねた。
「とりあえずは拘束しておけばよいかと。色々と情報を持っていそうですし・・・」
「それは困るな。」
茂みの中から声がしたかと思うと、その時にはすでに暗殺者はその方向へと何かに引っ張られるかのように飛んでいっていた。
「『暗殺者』の一員ともあろう者が情けないな。」
「申し訳、ありません。ラミレス将軍。」
茂みの方へ目を向けると、そこでは、先ほどまで暗殺者と話していた白髪の男が暗殺者を片手で持ち上げ、首を締め上げていた。
「あの程度の者どもに負けるようなやつが蒼龍の下に付いていた記憶はないが?」
「すい、ません。今、すぐ奴らを血祭りに・・・」
「もういい。」
「将、軍?何を?」
ラミレスは空いている左手を暗殺者の腹の辺りに広げてかざした。
次の瞬間、大量の血しぶきと共に、暗殺者の腹の部分がごっそり吹き飛ばされた。
「ごふっ!!」
口から血を吹き出し、ビクビクと痙攣を始めた暗殺者をラミレスは投げ捨て、指を鳴らした。
すると、見えない力に、残った暗殺者の体は押さえつけられ、一瞬にして、跡形もなく潰されてしまった。
「全く最近の者は面白くない。」
手袋をはめた手をはたき、軍人が被るような帽子をかぶり直し、龍牙達の方へと顔を向ける。
「で、君達はどれくらい私を楽しませてくれるのかな?」
その顔には、悪魔のような笑みが浮かんでいた。