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第壱拾五話 伝説の鍛冶屋

更新遅れました。すいません。

「ありがとうございました。」

鍛冶屋の入り口で旅人であろう男が打ち直してもらったのであろう剣を腰に下げ、店主である老人に頭を下げていた。

「ああ、道中気をつけてな。」

老人はカウンターに座り、剣を眺めるのを止め、眼鏡を外し顔を向けた。

「はい。それでは。」

ドアを開け、また頭を下げて出て行った。

「ふう。」

特に意味もなく深く息を付いた後、手元にあったカップを手に持ち中のコーヒーをちびちびと飲み始めた。

「最近、礼儀正しい若者が増えたな・・・」

カップに入ったコーヒーに写る自分の顔を見ながら呟いた。

「やはり、この仕事をして正解だったな。」

カップを音を立てないように机の上に置く。

「そんな充実した老後を過ごしている老人になにかようかの?」

老人のその言葉に、どこからか、ため息が聞こえた後、光の届かない奥から男が1人現れた。その男は西国の方にいる隠密機動、『忍』バージョンの戦闘服を身につけ、その鼻から下は黒い布で覆われていた。

「いつからお気づきで?」

「最初からじゃ。

全く、最近の『ジャッジメント』はずぼらなやつが増えたの。昔とは大違いじゃな。」

すぐ横に立てかけて置いた杖を手に取り、椅子から立ち上がる。

その身長は5歳くらいの子供ほどしかないが、その体から放たれる殺気は尋常ではなかった。

「確かにそうかもしれません。」

闇に隠れる男も歩を進める。

「しかし、その秘められた力は先代を裕に超える。」

杖をついた老人はその男の冥力に寒気がした。

「ほう、で、その優秀なジャッジメントさんが、この老いぼれになんのようじゃ?」

男は老人の前にひざまずき、口を開いた。

「『鋼鉄のマーズ』、我らの下へお戻りを。我らが王がお待ちです。」

「断る。」

即座に断る老人に全く驚きを見せず男は立ち上がった。

「仕方がない。」

「説得しても無理ならば力ずくでと言われているので。」

男は腰に手を回し、何かを引き抜いた。

それは、

「針か。その武器、服からして、暗部の者、じゃな。」

「ご名答。」

「そんな『影』の者を送ってくるということは、よほど焦っているんじゃろう。おそらくは誰かが殺られ、メンバーが減ったのじゃろ?」

「またまたご名答。」

黒い布の下で、唇が不適に歪んでいるのが老人には目に見えて分かった。

「これで、あなたは我々の下に戻ってくるしか道はない。どうする?」

「分かっているじゃろ?」

「そうか。なら、仕方がない。」

針の根元に着いている木の持ち手を逆手に握り、男は腰を軽く落とし、構える。

「死なない程度に痛めつける。」

老人は来るべき衝撃を凌ぐために杖の持ち手に手をかけ、構えるが、一向にそれが来ない。

老人は訝しみ、軽く目を細めると、男は構えを解き、針を腰にしまった。

「どういうつもりかの?」

「まだあいつらに見られるわけにはいかない。

今日は退かせてもらう。」

そして、足音一つ立てずに、男はまた闇の中へと消えた。



「こんにちは〜」

男が消えたのと同時に入り口のドアについたベルが鳴った。

しかし、老人は全くその音がした方を見ずに、ただ、店の奥を睨みつけた。

「おじいさん、どうしたんですか?」

龍牙が老人の目の前に手をかざすと、老人はハッとして振り返った。

「なんじゃ、お前らか。」

即座に顔に笑みを作り、カウンターの横にしゃがみこむ。

「ほれ、どうじゃ?お嬢ちゃん。」

老人は仕上がった鉄の棒をカウンターの上に置いた。

ケイミーはそれを手にとろうとはせず、俯いていたが、何か決心したのか、頷き、顔を上げ、老人を見た。

それに訝しげな顔をする老人を気にせずケイミーは思い切って口を開いた。

「あなたは、『鋼鉄のマーズ』様ですよね?」

ケイミーの言葉に後ろの2人は、

ユウは驚きのあまり固まり、

龍牙は、だれそれ?、といいたげな顔をしていた。

「ですよね?」

老人はため息を一つつく。

「今日はどうやら、その名前にとことん縁があるらしいの。」

老人は深く椅子に座り直し、俯きがちに話し始めた。

「ああ、そうじゃ。わしの名はマーズ、昔は『鋼鉄のマーズ』などと呼ばれていたがな。」

その自己紹介の後、マーズはケイミーから目を背け、尋ねた。

「それがどうしたんじゃ?」

「帝国図書館に保存されている記録書に、あなたはあの帝国図書館以上の知識を持っている天才であったと書いてありました。」

「それで?」

「私にイベリス人の秘薬の入手方法を教えていただけないでしょうか?」



「なるほど。」

「どういうことですか?」 納得し、頷くユウに、龍牙が尋ねた。

「麗那ちゃんのあの目は、おそらく、何かの副作用だってことは分かってるよね?」

「はい。」

「イベリス人の薬はそんな副作用によって負った傷を完璧に修復してくれると云われている秘薬中の秘薬なんだすよ。」

「そんなものが・・・」

「だけど、それを手に入れるには樹海のさらに東にあるサラビア洞窟に行かなければならないらしいんだけど・・・」

「らしい?」

「ええ、何せ噂ばかり先立って、物証できる物が全くないからデマの可能性の方が高いと思うんだけどね。」

2人はケイミー達の方へと目をやる。

ケイミー達は何も言わずお互いの内情を探るようにして見つめ合う。

「知らんな、そんな物。」

「いえ、あなたは知っている、いや知っていなくてはおかしいんですよ。」

「お嬢ちゃん、あんたはどこまで知っているんじゃ?」

老人はケイミーの漆黒の目を見やる。

「あなたがイベリス人であり、15歳から、帝国軍最高統轄部隊、通称『ジャッジメント』に20歳という若さで入るまでの5年間の間、あなたの故郷であるイベリスの里で、秘薬を作っていたというところまでです。」

「ジャッジメント!?」

驚きの声を上げる龍牙を無視してケイミーは話を続ける。

「だから、あなたが秘薬の存在を知らない訳がないんですよ!!」

ケイミーの言葉に深くため息をつくマーズ。

「そこまで言われてしまうと反論する気力すらなくなってしまうの。」

「じゃあ、認めるんですね?秘薬の在処を知っていることを。」

「ああ。」

マーズは椅子から降り、杖を手に取る。

「だがの、なにも、そこの青年がいうように、秘薬はその場所にいかないいけないという訳ではない。」

「どういう意味ですか?」

マーズは後ろの棚の中から様々な実験器具を取り出した。

「この場で作れるというけとじゃよ。」

「本当ですか!?」

ケイミーは興奮し、身を乗り出す。

「ああ。」

それをあまり気にせず、様々な薬品を容器の中へと流しこむ。

「30分ほど待ってくれんかの。最低それくらいはかかるのでな。」

容器に入った緑色の液体をガラス棒で混ぜながらマーズは話しかけた。

「なんならお嬢ちゃん。店の裏の空き地でその『剛石(クリスト)』を試してみてはどうじゃ?」

ケイミーはカウンターの上にある黒い棒状の剛石(クリスト)を手に取り、頷いた。

「それじゃあ、お言葉に甘えて。」

龍牙とユウもそれを見物するつもりなのか揃って外へ出ようと裏口へと向かう。

「そこの少年。」

「えっ?俺ですか?」

「そう君だよ。実は君に言っておきたいことがあってな。」

「はあ。あっ、ユウさん先に行ってて下さい。」

「了解。」

ユウはケイミーの後を追って外へと出るのと同時にマーズは話し出した。

「その刀なんだが、」

「『双劃』がどうかしたんですか?」

龍牙は背から鞘ごと刀を外し、机の上に置く。

「この部分なんだが・・・」

マーズは手に持つガラス棒で刀身と柄の付け根の所に開いている丸い穴を指した。

「これがどうかしたんですか?」

「何か仕組まれているみたいなんだが。」

「何かってなんですか?」

「気づいてないところからすると、これは持ち主に何らかの効果を示すものなんじゃろう。」

「何だと思いますか?」

「わしの見た限りでは、この装置はすぐ横にある計測器に繋がっておる。なら、おそらくは、お主の力に関係したことじゃろ。」

「俺の力に・・・この装置は一体?」

「そればかりはわしにも分からんよ。しかし、1つだけ言えることがある。」


「この機械刀にはこのわしでも分からないような強力な機能がある・・・、それもかなりのな。

用心して扱うことじゃな。」

「はあ。」

龍牙は全く思考がついていかず、ただ生返事をした後、裏口から外へ出た。


「あの刀、あれはあの子のために作られたものではないな・・・」

マーズは呟きながらも手は止めない。

「あんな自分と不釣り合いな武器でそれといった故障もせずに戦えるのは、ある意味、才能じゃな。」


「おっと、早く仕上げなくてはな。」


マーズはまた作業に取りかかった。




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