第壱拾弐話 同じ・・・
そんな話し合いが行われているのもいざ知らず、龍牙は暗闇の中で目を覚ました。
「っ、ここは?」
頭を振り、ゆっくりと体を起こし、辺りを見回す。しかし、周りには誰一人としてその問いに答えてくれる者は見当たらなかった。
「先生・・・!?麗那!?」
立ち上がり、道道も分からずに歩き始める。
「ケイミーさん!?ユウさん!?」
誰もその呼びかけに応えず、ただ虚しく辺りに龍牙の声が響いた。 龍牙は立ち止まり俯く。
「みんな、どこに行ったんだよ・・・。」
「どこにも行ってはいないさ。ただ、この世界に存在しないだけだ。」
「!?誰だ!?」
自分以外の存在があることに安心しながらも、聞き慣れぬ声に警戒心を強める龍牙。
「久しぶりだな、相棒。」
そんんな龍牙の前に闇のゲートが開き、その中から現れたのは、黒いフードを着た男だった。
「とは言っても『今の』お前と面向かって会うのは初めてだったな。」 男はフードに手をかける。
その被っていたフードの下から現れた顔は、
「な、なんで・・・」
漆黒の髪に少し切れ長の黒い瞳、それはまさしく龍牙そのものだった。
「誰だ!?お前は!?」
「おいおい、相棒のことすら覚えてないのかよ。
本当に『記憶』の通りなんだな。」
俯き、ため息を1つ零した後、顔をあげた。
「俺の名前は狼牙。お前と同じ、『彼』のかけらの1つだ。」
「『彼』って誰だ!?それより『かけら』って、どういう意味だよ!?」
吠える龍牙にまたため息をつき、狼牙は口を開こうとした。しかし、目を見開き、後ろを振り返る。
すると、そこにはまた黒いゲートが出現し、中から、黒いコートを羽織り、胸に銀色のケルベロスの紋章が光っていた。
「龍牙!!逃げろ!!」
「えっ!?」
足を踏み出す前に龍牙の目の前の空間に何本もの剣が突き立てられた。
「来い!!」
狼牙に襟首を掴まれ、横に引っ張られる。
その後を追うようにしてまた剣が突き立てられる。
走りながら狼牙は口を開く。
「ここからの出方は分かるか?」
「分かるわけないでしょう!?ていうより、あれは誰なんだよ?」
先ほどと同じ所に立ち尽くしたままの男に目を向ける。 そこに見た、フードの奥に輝く男の赤い目に龍牙はなんとも言えない恐怖を感じた。
「俺達と同じかけらの1つだよ。だけど、あいつはヤバい。俺達を殺す気だ。」
目の前に急に現れた剣をかろうじてかわす。
「今からゲートを開くから、自分の帰りたい場所を想像しろ!!」
「あ、ああ。だけど、狼牙さんは?」
「俺は大丈夫だ。後、それと、」
龍牙に笑顔を向ける。
「俺のことは呼び捨てでいいぞ。相棒。」
それにつられ龍牙の顔にも笑みが浮かぶ。
「うん!!」
「じゃあ、行ってこい!!」
狼牙は大きく振りかぶり龍牙を前方に投げ飛ばした。
すると、その方向にゲートが開き、その中へと龍牙は飲み込まれた。
ゲートに入る前に龍牙は聞いた、狼牙の言葉を。
「また、会おうぜ!!相棒!!」
後ろから両手に剣を持った男が迫っているのも気にせず、ただ笑顔を向けていた。
龍牙は叫ぼうとしたが、その表情に、『大丈夫だ』という意味が含まれていると察し、笑い返した。
「うん!!また、どこかで!!」
そして、龍牙の意識は途切れた。