第五話 初めて・・・
龍牙を襲った無数の斬撃、それはその男の刀から放たれたものだった。
龍牙が吹き飛ばされた時には、その斬撃を放った刀にも変化が起こっていた。
急に蛇のように湾曲をはじめ、瞬く間に刀は日本刀ではなく三つ叉の剣へと変わっていた。
それは一部の者にしか使えない特殊な能力『破型』。
この世界の人々にはそれぞれ大小様々ながら様々な力を持っていた。
例えば『冥力』。
この『冥力』とはそれは周りの事象に干渉することができる力である。
手のひらの上に火を出現させようと思ったとしても普通はできない。
しかし、この『冥力』はその不可能を可能にする。
先の龍牙の攻撃や高速移動もその力があの威力、スピードを生み出したのだ。
そしてその力を極めるとできるようになるものの一つが『破型』である。
『破型』とは、『神器』、『覇剣』と呼ばれる精霊自体または意志を宿した武器の力を解放することである。
そして、その武具に特殊な能力を付加できるのだ。
他にも少し違うタイプの武具は存在し、またそれぞれ能力に違いはあるが、共通して言えることが1つだけある。
それは、解放するとその者の戦闘力は何倍にも跳ね上がるということだ。
この男の場合も例に違わずそうだった。
男の冥力の量が破型前と比べると、おおよそ4倍にも跳ね上がっていた。
このような状況で、男は瀕死の龍牙に向けてとどめの一撃を、構えた三つ叉の剣から放った。
その斬撃は、龍牙を切り刻みながらふっ飛ばした。
だが龍牙の顔に笑みが浮かんでいた。
龍牙は空中で体勢を立て直し、自分から燃えている家屋の中へと飛び込んだ。
(やっぱりそういうことか。おかしいと思ったんだよな)
龍牙は気づいたのだ、この男の技の特性に。
先までは予想の段階だったが、今は確信へと変わっていた。
(なら、やつがさっき無傷だったのもおそらくは)
龍牙は、自分の力の半分を回復、もう半分を火の生成に回した。
それは相手の能力の特性に気づいたからこそだった。
龍牙が動けない上に何かを行っているのは明らか。にも関わらず、その男は近づくどころか攻撃すらしなかった。
その様子を見て龍牙は確信を得た。
今、回復させた体を無理やり起こすと、高速移動で男の後ろに回り込んだ。
それに少し反応が遅れた男に、龍牙は自分でも抱えきれないくらいの特大の炎弾を右手から打ち出した。
その大きさから、呆然とそれを見ていた子供達は、大爆発を予想し頭を抱えて地面に伏せた。
しかし、なぜかそれは起こらなかった。
その炎弾は男に当たる直前に形を変え、その男の周りにまとわりついていたのだ、
龍牙の目論見通りに。
龍牙はこの戦いの間、疑問に思うことが2つあった。
龍牙はこの戦いの間、疑問に思うことが2つあった。
1つは確実に当たったはずの拳が効かないどころか、無数の切り傷をその拳につけられたこと。
2つ目は先のトドメの差し方。
なぜ男は確実かつ冥力の消費のない直接的な攻撃をせずに、あえて冥力を大量に使う斬撃を使ったのか。
反撃を恐れたから。否、あの時の龍牙の体は動くことすらままならないことを兵士はわかっていた。
なのに斬撃を使った。
その2つの疑問が龍牙をこの結論へと導いた。
男は風を体中に鎧のように纏っているということに。
案の定その風の鎧に燃え移った炎は、何百度という高温で男の体をオーブンのようにグリルした。
男はそのような火だるま状態になりながらも何も感じないのか、龍牙の方へゾンビのように腕を前につきだしながらゆっくりと歩き出した。
だが、その手は龍牙に届く前に力つき、男はドサりと前のめりに倒れ、絶命した・・・
しばらく、あたりに充満した血なまぐさい臭いが晴れることはなかった。