第八話 神雀
「なんだよ、あれ」
先まで龍牙達がいた場所にある純白の球体をまじまじと見つめる雅光。
そこへ、鶯劍の刀が後ろから迫る。
「ふっ。」
しかし、派手に火花を散らしながら、間に入った雅繰の銃に阻まれてしまう。
その反動で鶯劍が少し体勢を崩したのを雅繰が見逃すはずもなく、鶯劍へと銃口を向け、引き金を絞る。
しかし、その先から銃弾は放たれず、空中に縫い付けられた。
「ちっ。」
「危なかったですね。」
驚く雅繰に下から声がかかる。それは、あの独特な形の杖を掲げたユウだった。その顔に浮かぶのは笑み。
「鬼神とまで呼ばれたあなたとは思えないミスです。」
「ふん。」
体勢を立て直し構える。
「こいつは俺達がやるとするか。」
「俺をのけ者にするな!!」
鶯劍に切りかかる雅光。しかし、後ろから莫大な殺気を感じ動きを止め、振り返ったその瞬間、
白い何かに雅光は地面に叩きつけられた。
「がはっ!!」
そのあまりの質量と威力に雅光の体はギシギシと悲鳴をあげながら地面にめり込んでいく。
雅光は軽くぼやける視界の中、再び振り落とされる白い物体を見て、悲鳴をあげる体にムチをうち、横にかわした。
だがあまりの衝撃に雅光は吹き飛ばされた。
フラフラとよろけながらも立ち上がり、その白い物体の出所を目を向けた雅光は驚愕した。
そこに立っていたのは、
天使のような純白の翼を生やした麗那だった。
「龍くんは殺させない。」
宙に漂わせている右翼を今度は連続で雨のように雅光に振り下ろす。
「龍くんは、」
雅繰はそれを幾度かかわした後、空中へと退避する。
「私が守る!!」
麗那は丸めていた左翼をほどき始める。すると、その中から現れたのは、人1人入れるほどの大きさの繭だった。
それを赤ん坊のように大事そうに地面に降ろす。
「私が守る。」
麗那は一対の翼を縮め、目の前に輪を描くような状態で停止する。すると、その翼の先端と先端の間に奇怪な魔法陣が展開されていく。
「ユウ!!」
「分かってますよ!!」
その魔法陣が何なのか即座に理解した鶯劍は、同じく理解したユウと共に、黎明と治療が終わり、横になっているケイミーの元へと駆ける。
「時間固定」
ユウの杖の先端にある時計の針が回り始め、12時のところで二本の針が止まるのと同時に、麗那の魔法陣の中心から白い光線が雅光に向けて射出された。
それは雅光を飲み込み、街を覆うドーム状の壁の天辺に叩きつけた。
その光が雅光を飲み込み、叩きつけるまでにかかった時間はたったの一秒。それだけを端から見れば、ただ一瞬強力なライトが照らされたようにしか見えなかった。
だが、その攻撃はそれだけで終わらなかった。
壁に当たった光線は、そこで周りに細かく散り、それが2キロ四方はある空き地に、まるで雨のように降ってきたのだ。
その白い雨が地面に触れると、その質量に反した規模の爆発の連鎖が起こった。
雅繰は雨に触れる前に、それが何なのかを理解し、回避しようとするが、後一歩で安全地帯というところで、
雨が左足に触れた。
「ぐおぉぉぉあぁぁっ!!」
その白い雨粒の爆風に安全地帯へと押し出されていく。
地面の上を何回跳ね、転がり、近くの建物の壁に激突する。
「ぐっ!!」
雅繰は打ちつけた他の部分を気にもせず、左足をおさえ呻いた。
「くそっ!!」
そこには、先まであった膝から先がなくなり、だらだらと血が流れ出していた。
そのちぎられた膝から先は、雅繰から10メートルほど離れた塀のそばに転がっていた。
片足を失い、立ち上がることすらできない雅繰は腕で引っ張り、移動しようとする。
しかしそんな雅繰のすぐ横に風で流されたあの破壊の雨が降ってくる。
「があっ!!」
幸か不幸か、その爆発のおかげで雅繰は丁度、左足のあるところへと吹き飛ばされた。
足を拾い上げ、元あった部分に当てる。すると、足を持つ腕に取り付けられた黒いチップが輝き始め、なんと接合し始めた。
「ぐぅっ!!まさかこれを治癒に使う羽目になるとは、予想外だったな。」
ひびの入った眼鏡を押し上げ力のない声で呟く。あまりの出血で意識が朦朧としているのだ。
「まあ、一番の誤算は、」
霞む視界の中、空き地の中央に立つ少女を見る。
「『古代の魔法』の保有者がいたということか。」
そんな雅繰の目の前に今度は白い雨粒ではない、なにかが落ちてきた。
それは焼き爛れ、それがなんなのか端から見れば分からない。だが、兄弟である雅繰はすぐにそれが何なのかすぐに理解した。
「雅光、生きているかい?」
失血のためかけだるそうに尋ねる雅繰。
「ぐっ、ぐふっ。ぐっ。」
喉が裂け、声にならない声とともに血泡が吹き出る。
「相変わらずお前の生命力には驚かされるな。あの『妖精の怒涙』を受けてまだ生きてるなんて、な。」
「ぐっ。」
まだ左足が完治していないのか、苦痛に顔を歪める雅繰。
「一旦引くしかないか。」
「誰がそんなこと許可した?」
雅繰は『門』を開こうと右手を伸ばしたまま固まる。鋭い刃を当てられたような殺気に雅繰の額に冷や汗が吹き出る。
「さすがですね。 もう少し時間がかかると踏んでいたんですが、」
雅繰が顔を横に向けると、そこにはあの黒いコートを着た巨漢の男、ガイスがいた。
「雅壱はどこにいる?」
静かに殺気を含んだ声で尋ねる。
「私が言うとでも?」 しかし、それを雅繰はにこやかに拒絶した。
「お前たち兄弟の絆とやらを甘く見すぎていたようだな。」
ガイスの手に握られた巨大な鎚が雅繰の脳天に打ち落とされた。